2012年8月20日から22日までパシフィコ横浜にて開催されているゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2012」。ここでは、8月21日に行われたDropWave代表取締役の本城嘉太郎氏による講演「オンラインゲーム時代における、ゲーム内コミュニケーション設計の基礎知識」についてお届けする。

目次
  1. オンラインゲームのコミュニティは「大人の部活動」
  2. ゲーム開始時からコミュニティが形成されている「ファンタジーアース ゼロ」
  3. 感謝の気持ちがコミュニティの発展につながる「伝説のまもりびと」

本講演では、本城氏がオンラインゲームにおけるコミュニケーションとはどういったものであるかを説明した上で、2つの成功例を参考にコミュニケーション設計の方法について解説した。

オンラインゲームのコミュニティは「大人の部活動」

本城嘉太郎氏
本城嘉太郎氏

本城氏自身もコンシューマのゲームプログラマから独立して会社を立ち上げ、オンラインゲームエンジンの設計などに携わってきており、自社開発のソーシャルゲームではコミュニケーションの構築に失敗したケースがあるという。

そういった経験を含めた上で、長時間遊ぶことが前提にあるオンラインゲームに必要なものとして本城氏が挙げたのが下記の3点だ。

1.ゲーム内容が定期的に更新されているかどうか
2.ゲーム内に友達と呼べる存在がいるかどうか
3.ゲーム内に資産と呼べる物を形成できるかどうか

本講演のテーマであるゲーム内コミュニケーションは、この中では2を成立させるものであるという。その設計において本城氏が形成する必要があると述べたのが、「大人の部活動」だ。

ゲームを遊ぶ際、ただ単にプレイを楽しむだけでなく、互いに競ったり、おしゃべりをするといったかたちで他のプレイヤーと交流を持ちたいと思わせるゲームを作れているかどうか、それがゲームを持続させる上で重要であるという。

そういった交流は現実に「部活」というかたちで行われているものではないかと本城氏は指摘。そして、部活動としての楽しさをゲーム内に組み込んで、学校を卒業した後もずっと続けられる「大人の部活動」とすることが、プレイヤーがゲームを遊んでくれる必要条件であり、コミュニケーション設計における目標であると語った。

ゲーム開始時からコミュニティが形成されている「ファンタジーアース ゼロ」

実際にそういったゲームは商業的にも成功しやすいことを念頭においた上で、どうすれば「大人の部活動」化できるかを説明するため、本城氏は2本のタイトルを例に紹介していった。

まず最初に紹介したのは、「ファンタジーアース ゼロ(以下、FEZ)」。本タイトルは50人対50人の対人戦が楽しめるMOアクションRPG。ゲーム開始時に5つの国家のいずれかに所属し、各国家間での戦争に勝利するのが目的だ。

本城氏が「FEZ」の成功を語る上で大前提として述べたのは、ゲームが面白いということ。コミュニケーション設計だけを完璧にしたところでゲームそのものが面白くなければプレイヤーが集まらないというのは、当然だろう。

その上で、「FEZ」のコミュニティ設計を分析した本城氏がポイントとして挙げたのが、ゲーム内コミュニティのひとつであるギルドが、国家選択という段階から成立していることだ。これにより、ゲーム開始当初からプレイヤー同士の交流が生まれ、コミュニティの活性化につながっていく。

加えて、国家間の戦争に勝利するというゲームの目的が、ギルドの目的そのものであることで、国家という枠組みの中でプレイヤー同士が協力するための土壌がすでに存在しているのも大きな要素といえそうだ。

また、ゲームがリアルタイムでの協力プレイが必要であることで、戦争に勝利するため、プレイヤー間の会話や連携が確実に行われるのもオンラインゲームでは大きな要素を占める。ともに協力し、ひとつの目標を目指すことでプレイヤー同士の連帯感が生まれていくのだ。

そして、ゲームの目的を達成する手段のひとつとして、初心者をサポートするための動機が形成されているのも本作ならではで、実際に、ゲーム内では難しいアクションを教えるために講習会を行ったり、上級者が初心者に使わなくなった装備品をプレゼントするといったアクションもあるという。そういったことが初心者がゲームを続けるためのモチベーションにつながっていくと本城氏は述べた。

なお、ソーシャルゲームでも「怪盗ロワイヤル」のように自分よりレベルの低いプレイヤーにプレゼントを送ると「あしながおじさん」の称号をもらえるといったメリットを用意するといったケースもある。

ギルドとして「どうやったら戦争に勝てるか」という共通の話題が常に提供されていることも大きい。これにより、掲示板でいろいろなレベルのプレイヤーによる意見交換が活発になり、シンプルなひとつの目標に向け、ゲームを楽しむことができる。

また、初心者でも貢献できる仕組みとして、「クリスタル掘り」と呼ばれるものがある。これは、クリスタルを掘って、ときどき人に渡すだけでコミュニティに貢献できるというもので、同時にクリスタルが溜まると呼び出せる召喚獣は、強力にも関わらず操作が簡単であることから、初心者でも簡単に使うことができる。

以上の観点から本城氏がポイントとして挙げたのは下記の通り。これらを満たしていることで、「FEZ」はプレイヤーにとってのゲームを「大人の部活動」化しており、ゲームの面白さと相まって、サービスから6年以上が経過した今なお、人気を保っていると述べていた。

  • ゲームの最初からギルドののようなコミュニティにプレイヤーを加入させることはできないか?
  • ギルドを作るのは良いが、とってつけたようになっていないか?
  • ギルドの目標と、ゲームの目標がちゃんと一致しているか?
  • ゲームのメイン部分が、仲間たちとの協力プレイが前提になっているか?
  • 一人だけで目標達成できてしまうゲームになっていないか?
  • 初心者を助けることに対するインセンティブが用意されているか?
  • ギルドの目標がシンプルに定義されているか?
  • 上級者と初心者で教えあえるゲーム性になっているか?
  • 初心者救済の仕組みが組み込まれているか?

感謝の気持ちがコミュニティの発展につながる「伝説のまもりびと」

もう一つの例として本城氏が紹介したのが、REGXEがMobageにてサービスをしているタワーディフェンス系RPG「伝説のまもりびと」だ。こちらは「FEZ」とは異なり、ユーザー間の繋がりは緩いものならも、強固なコミュニティを生み出すゲームシステムの構築に成功しており、ソーシャルゲームの中で最高レベルの長期継続率を叩き出していると予想されるゲームだ。

このゲームは、自分のキャラ1人に加え、仲間を3人集めて計4人で敵の侵入を阻止することが目的。フレンド登録した仲間がいない場合は3人のNPCを連れてはいけるものの、強力ではない。

そこでフレンド登録した仲間を連れていくことへのメリットが大きくなり、ここに他のプレイヤーとの協力要素が生まれるとともに、連れて行った相手に感謝を伝える「アリガト」コマンドを使うことで、コミュニティの盛り上がりが生まれてくるのだ。

加えて、他のプレイヤーを仲間として自分のクエストに連れて行くためには、そのプレイヤーが一定時間以内にログインを行なっていなければいけないというシステムになっていることにより、相手がログインしているかどうかをチェックするようになり、互いがログインして協力しあうことで感謝を覚える仕組みになっている。

ログインするだけで自分のキャラをクエストに連れて行ってくれたり、自分のキャラと修行をしたりできるため、ちょっとした時間でもログインすることで他のプレイヤーに協力ができ、「アリガト」をもらうことができる。

そうしてアリガトされた回数は1日ごとに集計され、翌日のログインボーナスで、回数に応じたアイテムが貰えるようになっている。自分だけではログインボーナスを稼ぐことのできない仕組みを構築することで、相手を助けることへのインセンティブが発生すると本城氏は分析する。

そして、ゲームのメインとなるクエスト以外にも、先述の通り、経験値を稼ぐことのできる「修行」や、マイページでのアバターと一言コメントなどで他人との交流を促す導線が入っているのもポイントとなる。

そうした点を踏まえ、本城氏がゲームに活かせるのではないかと考えるチェックポイントは下記の通りだ。ゲームのメインサイクルに友達との協力要素を組み込み、友達を助けることを目的化するまでコミュニティを昇華させるというゲームシステムを評価していた。

  • 他のプレイヤーのキャラクターを借りるなど、他人のリソースを借りて、協力して遊べる要素が入っているか?
  • リソースを借りた相手に、感謝の言葉をしっかり伝えられる仕組みが入っているか?
  • 仲間のログイン時間によってゲーム進行が影響される遊びは入れられないか?
  • お手軽な手段で、人の役に立つことができる仕組みを入れられないか?
  • 他人から援護要請があった場合、プレイヤーに負担を感じさせてないか?
  • 人の役に立つことによってポイントを稼ぐ仕組みが実装されているか?
  • 交流の報酬を、翌日のログインボーナスに転用して、継続率を稼げないか?
  • ゲームのメインサイクルとして、他人と交流する仕組みが入っているか?
  • 交流する際に、交流された相手にもメリットがあるようになっているか?

以上の点を踏まえた上で、今回のまとめとしてゲームシステムとコミュニティを同時に設計してこそオンラインゲームであり、ゲームを上手に「大人の部活動」化し、一生遊び続けたいと思えるゲームを作ってほしいと受講者にエールを送っていた。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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