2012年8月20日~22日の3日間にわたって、パシフィコ横浜にてゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2012」が開催された。今回はソーシャルインタラクションを題材に、4人の識者が討論を行った「ソーシャルインタラクションのこれから」の内容をお届けする。

目次
  1. ソーシャル時代に求められるグラフィック技術と問題点
  2. インタラクティブ技術の研究動向
  3. デジタル化がジャンルの違いをあいまいに
  4. 匿名、実名のどちらが主流になる?
  5. 現実世界のゲーム化、そしてソーシャル世代に求められるもの

SNSやゲームなどの題材として一般的になりつつあるソーシャルインタラクション。近年ではFacebookのようなSNS企業の上場が世界的興味を引き、日本のゲーム業界でもオンラインゲームが一般的になりつつある。そのような状況を踏まえ、最新のデジタルインタラクション技術やゲーム業界への影響、未来のソーシャルコミュニティ像などについてディスカッションが行われた。

討論に先立って、まずは各パネラーがそれぞれの自己紹介と今回のテーマに関する見解などを述べた。

ソーシャル時代に求められるグラフィック技術と問題点

セガ 開発技術部 プログラマの林洋人氏。
セガ 開発技術部 プログラマの林洋人氏。

最初に登壇したのはセガ 開発技術部 プログラマの林洋人氏。林氏はグラフィックスが専門で、これまで「ソニックワールドアドベンチャー」(Wii版)や「リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!」の描画を担当。スマートフォン向けグラフィックスミドルウェア開発や、その関連としてARまわりの研究開発なども担当してきたことから、グラフィックスとインタラクションについて語った。

林氏はまず、プレイヤーの操作のできないデモシーンやムービーを例に挙げ、長い間グラフィックスはゲームのインタラクティブ性を下げる存在とされてきたことを強調。だが、スマートフォンや携帯ゲーム機が高性能化。高品質かつパーソナルな3Dグラフィックスを「AR」で持ち運ぶことが可能になり、それにともなってインタラクティブなこともできるようになりつつあるのだという。

AR自体はまだまだ品質不足で、ゲームとして使用するには課題が多いとのこと。だが、すでに多くのゲーム開発者が、ARを使って現実の映像と融合した3Dグラフィックのモデルに「触れるようにしたい」という欲求を持っていて、今後の主要な研究テーマになるだろうと語った。

ソーシャルとグラフィック技術の関わりについてもコメント。林氏は人と人とのコミュニケーションを促進するグラフィック技術の例として「アバター」を提示。3Dグラフィックスがパーソナルな端末で表示可能になったことにより、アバターの品質も向上しているそうで、今後はアバターを使って会話をするための音声認識や、アバターの顔の画像認識などの技術も求められるようになるだろうと述べた。

ただ、近年はプラットフォームの小型軽量化にともない、リッチな映像を使わない軽量なゲームが主流になりつつある。そういったゲームは開発期間が短く、開発費用も抑えられがちで、最新のインタラクション技術の導入といった新しいことをしにくいのだという。

産業などでは熟練者が新技術を使用するので問題はないが、ゲームは一般のユーザーが直接その技術を使うため、適当に扱っても正しく可動するなど、より高い安定性と汎用性が求められる。当然、新しい技術を安定して運用できるようになるまで時間がかかるので、開発期間や予算が小規模化している現状では、新技術の導入は難しいという問題点があるとのことだ。

特に、ソーシャルなどで利用されるであろう認識系の技術は、一度に多くのものを判定するため「チート」に弱いのだという。チートプレイヤーがごくわずかでも出現すると一般のプレイヤーに迷惑がかかり、ゲーム世界は台無しになる。そのため、入力画像の詐称などの可能性がある限りゲームには使えないとのことで、この問題の克服がこれからの大きな課題になると語った。

一方で、ゲーム開発の小規模化により、多くのプロジェクトが同時に立ち上がるようになったので、新技術が広まると一気に普及するという利点もあるのだという。ARエンジンはその代表的な成功例で、これからは「低価格で広く販売することによって、ビジネスを成立させるスタイルが広がっていくのでは」と今後の展望を述べた。

インタラクティブ技術の研究動向

愛知工業大学 情報科学部 准教授 水野慎士氏
愛知工業大学 情報科学部 准教授 水野慎士氏

続いて愛知工業大学 情報科学部 准教授の水野慎士氏が登壇。水野氏はインタラクティブモデリングやノンフォトリアリスティックレンダリング、それらを利用したデジタルミュージアム、デジタルコンテンツを用いた地域振興などを主な研究テーマとしており、自身の研究をはじめとする、さまざまなデジタルインタラクション技術を紹介していった。

まず、仮想彫刻・仮想版画・仮想沈金を紹介。これらは木彫りのクマや浮世絵などのバーチャル像を彫刻のような感覚でモデリングしていくというもので、CGで描かれた画面上の板にペン状のものでタッチして、彫刻刀で彫っているかのように表面を削ったり、実際の版画のように色を付けていく過程が動画で上映された。

バーチャルな縄と粘土を使った、縄文式土器の文様の生成シミュレーションも紹介された。縄文時代を研究している考古学者からの依頼で始めたもので、縄の転がす角度などを計算して、どのような文様ができるか細かくシミュレートできるのだという。

近年では地元からCG技術やデジタルコンテンツを町おこしに使いたいという要望もあるとのこと。そこで、手描きスケッチがカメラごしに見ると動いて見える技術を用いて、お祭りで子どもたちが描いた絵を動かして盛り上げるなど、地域振興におけるCGデジタル技術の使い方も研究しているという。

その一環として「GAYAIT(ガヤイット)」というメディアアートをお祭りに使用した事例が紹介された。これは「TRICK」などで知られる映画監督の堤幸彦氏と共同で開発したシステムで、多数の人物がしゃべっている映像がひとつの画面に同時再生され、身振りでその中のひとりを選択すると、その人だけが浮き上がって何を言っているか聞き取れるようになるというものだ。

お祭りではこのシステムを使って参加者ひとりひとりにその場で歌を吹き込んでもらい、最後に全員がひとつの画面で合唱するというイベントを実施。インタクラクション性はないが、分身たちが疑似的に参加するソーシャルネットワーク的なものになったのではと水野氏は語った。

世界最大のコンピューターグラフィックスの展覧会「SIGGRAPH 2012」で発表された技術もいくつか紹介された。今年は3D映像に対するインタラクションのデモ展示が目立っていたとのことで、特に立体オブジェクトの映像を身振り手振りなどで操作するシステムは、かなりリアルだったという。

そのほか、椅子に座っているだけで疑似的に車の操作が体験できる「Canon MR System」や、ペンを使って3次元のオブジェクトを操作する「zSpace」といったシステムも同様の事例として紹介。今後はこういったCGやネットワークを使った3D操作によるインタラクションも方向性のひとつになるではと語った。

デジタル化がジャンルの違いをあいまいに

デジタルハリウッド大学 デジタルコンテンツ学部<br />准教授 高橋光輝氏
デジタルハリウッド大学 デジタルコンテンツ学部
准教授 高橋光輝氏

最後にデジタルハリウッド大学 デジタルコンテンツ学部 准教授の高橋光輝氏が登壇。まず、高橋氏はどこまでがゲームで、どこからがコミュニケーションかという線引きはもう必要なくなっているのではとコメント。マンガを含めた電子書籍も同様で、デジタル化されるとマンガでも動きが表現できて、キャラクターのセリフやマンガ特有の擬音に音を付けることもできるので、マンガ、アニメ、映像の境目はなくなってしまうのだという。

同様に、ゲームとソーシャルの境目もなくなりつつあり、デジタルコミュニケーションという社会の中で、デジタルコンテンツやネットワークがどのようなものになっていくかが今後の課題になっていくのではと語った。そして、ネットワーク自体は空気のようなものであって、コンテンツももっと敷居が低いものになっていくのだろうと予測した。

その一例として、デジタルハリウッド大学の新コース「初音ミク映像専攻」に言及。すでに多数の申し込みがあって大盛況になっていると語り、敷居の低さを改めて強調。その敷居の低さがゲームにとってはよいことなのか、そもそもこれからのゲームはどう定義されるものなのか、と問題を提起した。

匿名、実名のどちらが主流になる?

和歌山大学 システム工学部<br />デザイン情報学科 教授の宗森純氏
和歌山大学 システム工学部
デザイン情報学科 教授の宗森純氏

ここからは和歌山大学 システム工学部デザイン情報学科 教授の宗森純氏の司会進行のもと、来場者も交えたディスカッションが行われた。まず、宗森氏はソーシャルにおける実名と匿名の使い分けをテーマにあげ、各人の意見を聞いてみたいと語った。

まず林氏は「ソーシャルゲームでは人間としてやり取りをするのはまれ」で、ゲームとしての関係しか持たないのが普通だとコメント。ネットワークRPGなどもリアルな会話をして仲良くなることはあるが、通常は戦闘の目的のためだけに集まった傭兵集団的なもので、その匿名性ゆえにゲームの世界に没頭できる。アバターも同じで、ゲームの世界をより楽しむという部分において効果的なものであると認識しているという。

ただ、逆の流れとしてLINEやカカオトークといった友だち同士などのリアルな関係でつながるものもあり、どちらが主流になっていくかは分からないとのこと。その上で「同じネットワークでつながるものでも使われ方は違うなあ」と感想を述べた。

水野氏は実世界で知っている人たちとのコミュニケーションツールとして使っていることから、自分には基本実名のFacebookが性に合っているとのこと。ただ、学生たちが「モンスターハンター」や「ネット麻雀」などを匿名で楽しんでいることも踏まえ、ソーシャルネットワークには実名、匿名に適したいろいろな分野があって、それらを使い分けている人、どちらかに集中している人など、うまく住み分けがされているのではと分析した。

高橋氏はふたりの意見に賛同しつつ、海外ではまた違うと語り、その実例として中国ではソーシャルネットワークはあってもFacebookが使えないこと、Youtubeも見られないことを紹介。そういった、国家が情報を統制している環境では匿名が主流になりがちで、実名・匿名の使われ方は各国さまざまだと述べた。ただ、今後はFacebook的な使われ方が主流になっていくだろうとのことだ。

現実世界のゲーム化、そしてソーシャル世代に求められるもの

次に来場者より、最近は3Dやモーションキャプチャーなどを使った、その場所にいるような没入感を体感できるものがあるが、そういったバーチャルな体験をほかの人と共有できるソーシャル的なものはありうるかとの質問が出た。

水野氏はまだ現実的ではないが、最近はキネクトなどで簡単にモーションキャプチャーが撮れるなど、技術が大幅に進歩しているので、近い将来家庭レベルで触覚も含めた五感をゆさぶるコミュニケーションも可能になるのではと回答。ただ、Facebookなどのソーシャルに参加している人が、そういったものを望んでいるのかは疑問とのことで、コミュニケーションの道具として使うのであればそこまで高度でなくてもよいのではと語った。

林氏は3D映像や大モニターなどデバイスの進化により、現在でも十分な没入感を得られるとしつつ、「世界を作ってその中で遊ぶというのは古典的」とコメント。むしろ、これからはARなどを使った「現実世界のゲーム化」のほうが有力とのことで、例えばみんなに同じボスが見えていて一緒に倒すといったものを作っていきたいと語った。

水野氏も映画の宣伝の一環として、ARやGPSを使ってロケ地を双六のように巡っていき、すべて回ると特典映像が見られるといったコンテンツを作れないかという話があったことを披露。林氏と同じく、ネットワークでつながりながら現実世界で遊ぶようなものが求められていくのではと述べた。

最後の質問は現代のネットの広がりや技術の発展などを受け、ネットワークやソーシャルが生活のオプションではなくインフラになっている世代が主流になったとき、世界はどうなっていくのかというもの。宗森氏はネットで知り合って結婚する人が増えつつあるなど、ネットワークを介して仲良くなることが若い人にとっては当たり前になっていると述べる一方、そういった人たちもソーシャルの友人と最後は実際に会いたがることが多いことから、すべてがデジタルやバーチャルな世界で完結するとは思わないとのこと。

高橋氏は「リテラシー」が一番大事になると強調。ありとあらゆる情報が当たり前に転がっている中で、それをどう取捨選択し、どう使っていくか。ソーシャルネイティブ、デジタルネイティブは考えていかなければならない。ゆえに、これからの人たちには今までと違った教育が必要で、そういった情報に触れることのメリット、デメリットがあることを教えておかなければならないと語った。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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