2013年8月21日~23日の3日間にわたり、パシフィコ横浜にてゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2013」が開催された。ここでは、株式会社マトリックスの髙﨑奈美氏、株式会社ウインズの大戸さやか氏による講演「変化するゲーム開発現場と女性クリエイターの実状」の内容をお届けする。
本講演は、女性クリエイターの髙﨑氏と大戸氏が、現在の女性の労働環境の実状や女性の本音、また、「結婚」「出産」といったライフイベントを迎えてもなお働き続けるためにはどうしたらいいのかを、自身の経験や独自の調査結果に基いて語られた。
会場には女性の姿が多く見受けられ、この講演に対する女性クリエイターの関心の高さがうかがえた。
髙﨑奈美氏について
株式会社マトリックスのコンテンツ事業部 デザイン開発課 主任として働いている髙﨑氏は、ゲーム業界に入って約20年というベテラン。1993年に漫画家という経歴を経て、グラフィックデザイナーとしてゲームデベロッパー会社に就職した。
電子玩具からさまざまな家庭用ゲーム、アーケード、PCゲームのなど開発を経験し、現在はスマートフォンアプリ開発の管理、ディレクションに携わっている。また、プロジェクトマネージャ資格も取得。
大戸さやか氏について
大戸さやか氏は、株式会社ウインズにて、8年ほど主に背景の3DCGアーティストとしてさまざまなゲームタイトルに関わってきた。
現在はゲームのアート全般に携わりつつ、社内の開発環境整備や効率化を目指したり、他社出向にてプログラマとの橋渡しをするテクニカルアーティストとして活動している。2012年8月に長男を出産し、時短勤務をしているワーキングマザーである。
独自の調査でわかった「働く女性の本音」
働く女性の比率
講演は髙﨑氏の話から始まった。まず、注目してもらいたいのは下記の「働く女性の比率」のデータである。日本では、男性に比べて女性の働く割合は2009年時点で12.8%とある。
2012年労働省のデータでは、2012年時点の比率は42.6%までに増加した。2009年と比べれば女性にとって働きやすい環境になったのかもしれないが、それでもまだ割合としては少ない。しかも、「5年以上働き続けている女性」に限定すると、その割合はなんと5%未満だったという。
この「5年の壁」というのは何なのだろうか?
これが、髙崎氏が独自で調査を始めたきっかけであったという。髙崎氏自身、男性ばかりの職場で当たり前のように働き、自身の子どもを育てながら勤めあげてきたため、どうしてもその結果に納得がいかなかったと語った。
周囲に聞き取り調査を開始した髙崎氏は、自身のネットワークに加え、大戸氏が開催した「ゲーム開発女史飲み会」イベントに参加したり、アンケートを実施するなどして合計180人を超える女性開発者を対象とするデータを取ることに成功した。
集計結果は下記の通り。女性の比率は30.8%とのことだが、髙崎氏は聞き取りを実施した会社の偏りなどを考慮し、実際はもう少し低いのではないかという予想している。
また、アンケートの質問に対する回答にも注目したい。「この仕事のやりがいは?」という質問は男女ともに回答に変わりがなかったのに対し、「この仕事を生涯続けるか?」という質問には男女の回答に大きな差があったという。
「この仕事を生涯続けるか?」という質問に対し、男性は、「はい」と答えた人が80%だったのに対し、女性は「20%」。一番多くの割合を占めた回答は「続けたいけど不安」というものだった。
女性が感じる働き続けることに対する「不安」とは
女性の感じる「不安」の例として、以下のようなものが挙げられた。
- 健康が保てないし、子供を産んで育てられそうにない
- タフな女性しか残れないと思う
- 男性開発者の“仲間”になれていないのではないか
- 変化があっても女性の上司がいないので、相談できない
これを受けて髙崎氏は、一様に女性は「漠然とした不安」を抱えているのだと感じたという。
「育児休暇」「生理休暇」など女性特有の制度について
「女性特有の制度はありますか?」という質問に対し「ある」の回答は8割を超えたが、「その制度を使いますか?」という回答は「使わない・使いたくない」が9割以上にものぼった。自身もこの回答に同意している髙崎氏は、女性だからといって「特に優遇を望んでいるわけではなかった」と語っている。
「ライフイベント」にともなう休暇・それに対する不安
前述した結果を見ても分かる通り、女性も男性と同じようにやりがいを持ち、同じように「つくりたい」と思っている。それでも、なぜ女性にばかり「漠然とした不安」がつきまとってしまうのか。それは、男性と女性とでは現実問題として「影響の大きさが違う」からという理由が大きい。
特に、この不安は「ライフイベント」を迎える時に発生する。ライフイベントとは、例えば「結婚・出産」「病気・怪我」「親・家族の介護」「家庭の都合」などのことを指す。そのライフイベントを迎えるにあたり、休暇を取ることに対して感じる「不安」には例えば以下のようなものがある。
- 休むこと・時短で勤めることの負い目
- 技術的に取り残されないかという焦り
- 金銭的な不安
- 場合によっては辞めなければいけないのか
不安は人によりさまざまだが、かといって大切な「ライフイベント」を無視するわけにはいかない。漠然とした不安が多いのは、自分より先にライフイベントを迎えた女性の先輩という「ロールモデル」がいないからではないのか?と髙崎氏は考えた。
ここで、「結婚・出産」というライフイベントを経験したばかりの大戸氏の話に移る。
「ライフイベント」ときちんと向き合うために
大戸氏は1児の母として時間短縮勤務で働いている。大戸氏自身も、仕事を続けながら「結婚・出産」というライフイベントを迎えた先輩がおらず、以前は漠然とした不安に悩まされていたようだ。
けれども、「いくら考えていても事態は好転しない」と、迫りつつあるライフイベントときちんと向き合うために具体的な行動に移すことを決意。
大戸氏がまず実行したことは以下の通り。
- 信頼関係の構築:
チームをまとめる「リーダー」に志願し、周囲との信頼関係を作る - ライフプランの相談:
「責任のある仕事をしていきたい」という意思を上司にきちんと伝える - 仲間づくり:
Twitterなどのツールを使い、女性クリエイターの仲間を作る
「漠然とした不安」から「具体的な不安」へ変化―その対処法とは
ライフイベントを体験をする前は「漠然とした不安」だけがあったが、ライフイベントを迎えてからはその不安が「具体的な不安」となったという。
大戸氏の具体的な不安とは以下のようなことだ。
- お金のこと:
こどもを育てるにあたり、仕事を休んでやっていけるのだろうか - 待機児童問題:
こどもを保育園に入れられず、復帰ができなかったらどうしようか - 技術や知識の低下:
産休で休んでいる間にに日々進歩する技術に取り残されてしまうのではないか - 世間の目:
「こどもを保育園に預けてまで働かないといけないの?」と周囲に思われるのが怖い
「お金の不安」―国の制度を利用しよう
大戸氏は、お金に関する不安を国の制度を利用することで解消した。具体的な制度としては、以下のようなものがある。
- 出産育児一時金:
こども一人につき42万円が支給される - 出産手当金:
産休中の生活を支えるために、勤め先の健康保険から支給される - 育児休業給付金:
育児休業中に支払われる手当。給料の30%が雇用保険から支給される。 - 医療費控除:
家族全員の一年間の医療費が10万円を超えている場合、前年度の収入により、いくらか戻ってくる制度
そのほかにも以下のようなものもあり、こうした制度を利用すると出産にかかる費用の負担を軽減できることがわかる。
- 高額医療費:
帝王切開など保険診療の自己負担額が高い場合に保険組合から払い戻しがある - 出産費融資制度:
「出産育児一時金」の前借りのようなシステム
「待機児童問題」―子育てサポートをしてくれる施設はたくさんある
「待機児童問題」については、現在はさまざまな子育てのサポートをしてくれる施設があるという。
- 認可・認証保育園:
(後述) - ベビーホテル:
「認可外保育施設」となっており、24時間体制での保育が可能な施設 - 家庭福祉員:
保護者が仕事や病気等の理由によって、日中家庭で保育できないとき、保護者に代わって家庭福祉員の自宅で児童を保育する制度 - ファミリーサポート:
時間短縮勤務が導入されていない会社では、延長保育を利用したり保育園の送迎から親の帰宅時間までサポートしてもられる
子どもを預けるにあたり、まず最初に思いつくのが「保育園」だが、保育園は「認可保育園」「認証保育園」の二種類に分けられるという。
「認可保育園」は国が定めた設置基準をクリアして都道府県知事に認可された施設であり、料金は比較的安価で入ることができる。
対して「認証保育園」は、大都市では国が定めた設置基準をクリアするのが困難であり、また0歳児保育を行わない保育所があるなど都民のニーズに必ずしも応えられていなかったため、東京都が新たに設けた独自の制度だ。この認証保育園の利点は認可保育園と比べて「休日保育」「駅から近い」「最終時間が長い」など保護者に対するサービスが充実していることだという。
この認証保育園は先着順での入園となるため、周囲には「妊娠していた時から約していた」という人もいたという。「認可保育園とくらべて費用は高いですが、この業界で働く人には最適かもしれません」と大戸氏は語った。
これらの「待機児童問題」に関する情報は、東京都福祉保険局にて確認できる。
東京都福祉保健局
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/
「技術や知識の低下・世間の目」―大戸氏が経験を語る
ここで、技術職ならば誰もが恐れる、休んでいる間の知識の低下の問題に移る。しかし、「こちらは体感になるんですが、覚えたことは早々忘れないようで、一週間ほどでカンを取り戻せたのではないかと思います」と大戸氏は意外にもあっさりと語った。
また、産前にチームをまとめるリーダーを任されていたため、復帰後も信頼して仕事を任せてもらえたという。また、「新たな技術や、産休中の間にわからないことができてしまったなら、それをどんどん周りに聞くことが大切」だと語った。
また、世間の目に関しては、「自分の意思をハッキリと示す」ことが必要と感じたという。価値観は人それぞれなので、近しい人に懸念されたら「業界が好き」「ゲーム作りが好き」「ずっとこの仕事を続けていきたい」という自分の意思をもって説得することが重要だ。さらに大戸氏は「そのためには、配偶者や周囲のサポートしてくれるであろう人たちと話し合い、価値観を理解してもらうことが必要だと感じました」と語った。
「出産の予定を立てている女性は自由に時間を使って働ける期間が短いです。その限られた時間の中でほかの人に引け目を感じずに堂々と働くためには努力・忍耐力・信頼関係・許容力が必要と感じました。体力も精神力も削られますが、相変わらず仕事は楽しいし、やりがいも達成感もあります。
これからもたくさん悩みや困難にぶつかると思いますが、とりあえず目下の具体的な悩みは解決して、それなりに働けていると思います。できないことはありません。まずはあがいてみませんか?」
大戸氏は自分の体験や今の現状を述べ、その場にいるすべての働く女性クリエイターに向けたメッセージとともに締めくくった。
女性クリエイターが仕事を続けていくためにできること
“好き”を仕事にするということ
再び、登壇者は髙﨑氏へと移る。
「“好き”を仕事にするってどういうことなんだろうって、改めて自分の人生を振り返りました」と切り出す髙﨑氏。周りの人や、CEDECのアンケート調査を見ていても、女性の既婚率が低かったという。「結婚したら辞めちゃうのかな…と、そんな感じでした」と述べた。
「なんで私達はそこまでして長時間労働で働くのかなと思うと、やっぱり“好き”を仕事にするので、そのために“生活”をおいて行ったり、“健康”をおいていったり、“ほかの時間”をおいていったり…“そうしてでもやりたい”んです。そういう人たちが集まっているんだと思います」
この言葉に、ゲーム業界の多忙さがうかがい知れる。しかし、髙崎氏は「何を天秤にかけて、何をおいていくかは人それぞれなので、それを人に押し付けてはいけない。私は今はそう思います」と続けた。
「『~べき!』という考えは、マイノリティを生んでしまう」と髙崎氏は語る。「『この仕事は長時間働いて、CEDECに行って、GameJamに行って、積極的にやっていかないとクリエイターなんかじゃない』なんていう空気が、言いたいことを言いにくい世界を作ってしまうのかなと思います」
この業界は、仕事やクリエイティブに多くの時間を使っている人もいれば、そのほかの時間もそれと同じくらい大事にしている人もいる。どの時間をどのバランスで使うかは人それぞれなのだから、それをもっと意識して欲しいと髙崎氏は語った。
ここで、髙崎氏は自分のタイムマネジメントの一例を見せた。タイムマネジメントの方法が、年月を追うごとに変化していっているのが見て取れる。
髙崎氏はこれから「結婚・出産」などのライフイベントを迎えるすべての女性クリエイターに「みなさんには自分なりの時間管理を身につけてほしい」と述べた。たとえば以下のようなことだという。
- 時間の質を上げる
- 「できる」「できない」を見極め、周りにも伝える
- 知識とアイディアで「効率」をあげる
- 視野を広げる(CEECのような技術系のイベントにも積極的に参加するなど)
男性と女性の歩み寄り
髙崎氏は、男性について「『現実的に無理な問題があっても、性差を認めた上で男女関係なく働きたい。どんなことを思っているのか、実際にイベントなどがあるなら行って聞いてみたい』と言ってくれている方もいます。私たちが思っている以上に男性は寛容なのだと思っています」と述べている。
また、育児休暇などの会社の制度についても、「本当は『とりあえず用意しとけ』という所かもしれません。だけど、それを卑屈にとらえてブツブツ言うのではなく『具体的に自分はどうしてほしいのか』のほうが大切だと思います」と語った。
さらに、男性に向けてのお願いとして、髙崎氏はこう続ける。
「そもそもゲームを作る楽しさをちゃんと教育してください」
「末端のデータだけお願いして『保育園あるの?帰っていいよ。あとオレやっとくから』…そうじゃないです。一緒に作ってほしいんです。“作る楽しさ”を覚えれば、保育園に行こうが、病気になろうが、復帰しようって思います。私はここを知っているので、今も続いているんです」
髙崎氏の訴えは、男性にとってはもしかしたら目からウロコなのではないだろうか。仕事のフォローとは、「女性の仕事を男性がただ肩代わりすること」なのではなく、「一緒に作る楽しさを教えること」だという。髙崎氏は続けて「でも、それはちょっと時間がかかるので、お互い我慢が必要です」とも語った。
いまだからできる経験をデザインに活かす
「iTunesなどにも今は子ども向けのアプリがすごく増えています」と、髙崎氏はさまざまな子ども向けアプリや製品の例を挙げた。これは、妊娠・出産を経験した女性が一番よくわかる分野かもしれない。さらに髙崎氏は「女性がそもそも少ない、そんな業界でいいのかなって思います」と語った。「色んな人が色んなコンテンツを出すから色んなユーザーが増えるんだと思います。そうすることで産業がもっともっと発展すると思います」
「みなさんに一度考えてみてほしいです。自分の周りに辞めていった女性、いないですか?もったいないと思いませんか?その能力をこれから入ってくる人に活かすために考えてみてください」
最後に、髙崎氏はその場のすべての男性・女性クリエイターに向けて問いかけた。
また、髙崎氏はFacebookにて「女性開発者コミュニティ」を設立している。こちらもぜひチェックしてみてはいかがだろうか。
GAMEdevJo
https://www.facebook.com/groups/GameDevjo/
※画面は開発中のものです。
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