セガより2014年3月27日に発売されたPS3/PS Vita用ソフト「初音ミク -Project DIVA- F 2nd」のプロデューサー・林誠司氏へのインタビューを前後編に分けてお届けする。後編では、楽曲の制作話などについて話を聞いた。

目次
  1. PSP版からのリメイク楽曲は今作のために一から制作
  2. 「DECORATOR」のダンスは6人のアクター全員で撮影
  3. マーカーレスAR対応や保存画質の向上など、よりパワーアップした撮影・鑑賞モード

「初音ミク -Project DIVA- F 2nd」は、電子の歌姫「初音ミク」主演のリズムゲーム「初音ミク -Project DIVA-(以下、Project DIVA)」シリーズの最新作。PSP版に収録されていた名曲たちを新たな装いで収録するなど、全40曲をラインナップ。リズムゲームについては、「F」シリーズのコンセプトである「歌うようにボタンを押し、奏でるようにスクラッチ(フリップ)する」をさらに磨き上げ、新たに「リンクスクラッチ(フリップ)」「ダブルスクラッチ(フリップ)」を導入するなど、「これまでのDIVA←→これからのDIVA」をテーマに制作された意欲作だ。

前後編にわたってお届けしているインタビューの後編では、PSP版からリメイクされて収録された楽曲の制作話や、本作のために書き下ろされた「DECORATOR」の魅力について、プロデューサー・林誠司氏に引き続き話を聞いているので、ぜひチェックしてほしい。

PSP版からのリメイク楽曲は今作のために一から制作

――今作では、新規収録楽曲以外に、PSP版の「Project DIVA」シリーズで収録された楽曲をリメイクして収録していますが、制作時の苦労はありましたか?

林氏:リメイクといってもいろいろなタイプがあって、演出はそのまま引き継いでマップやエフェクトなどをより美しくしたもの、演出レベルからガラっと全部変えてしまっているもの、その中間でもともとあるものをベースに大幅なアレンジを加えたもの、それら三種類くらいに分類されると思います。その作業で苦労した点といえば、そのまま使えるものは1曲たりとも存在しないということです。

演出をそのまま踏襲しているものにしても、PSPの頃に撮ったモーションはデータとして精度があまり高くないものも含まれますので、それは、人の手で直さなければいけません。選択肢としては、一生懸命直し続けるか、一から撮り直してしまうかになるのですが、明らかに撮り直したほうが早いんです。ですので、今回、PSPの1作目で作ったもののリメイクについては、ほぼすべてモーションを撮り直しています。

背景に関しても、アーケード版の高精細なデータをベースに作成しているのですが、これはアーケード版に最適化されたものですので、コンシューマ機に持ってくるためにはリダクションやアレンジが必要です。質感や色調、素材感に至るまで、「絵づくり」の方向性が異なるため、PSP版の背景データのデザインラインや方向性をもう一度掘り起こしたりしながら、かつ、それを「F 2nd」の映像になじむよう、調整を繰り返すという作り方をしています。

こういったことを、いわゆる「リメイク」曲のすべてにおいて行なっています。「同じ曲を使って楽してるんじゃないか?」と思われるかもしれませんが、実は担当デザイナーの手間自体は新作と比べてもそんなに変わらないといっても過言ではありません。もちろん、新たにデザインしたりモデリングするプロセスがないぶん、軽減しているところもありますが……。

「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」 「千年の独奏歌」(アーティスト:yanagi)
(アーティスト:ika_mo)

――モーションや背景だけでなく、譜面も新機能の追加などで変わっていますが、どのような意識で作られたのでしょうか?

林氏:譜面についても、シリーズを重ねるごとに作っている人間は代わっていくので、過去作を踏まえた上で、今、この曲で面白い譜面を作るためにはどうしたらいいかを真剣に考えています。リメイク曲にしても、元の譜面をそのまま焼き直したというものはひとつもなく、過去作の良いところ、印象的な部分は意識的に残しつつ、そこに新しい要素を加えて、譜面にまとめあげています。

今回、40曲分の譜面作成が必要でしたので、物量的にすごく大変でしたね。私も含めて、ディレクターの大坪(鉄弥氏)以下、譜面作成チーム、開発スタッフたちが各難易度をプレイしてコメントを出すのですが、うまい人間だけではなく、そうでもない人間も混ぜて、いろいろな視点から意見を出しています。

たとえば、私の場合だとEXTREMEは歯が立たないのですが、EASYやNORMALに関しては多くリクエストを出しました。私くらいのおじさんでも、曲を聴きこんで、がんばればなんとかなる、くらいの難易度が大切だと思っています。

歌うようにプレイする、というのが一作目からの基本コンセプトなのですが、ゲームとしての要素が増えてくると、そこがおざなりになってしまうこともあるので、そういったところは意識するようにしています。譜面に関しては初心者から上級者までひと通り遊べるようにしたつもりです。

「ワールドイズマイン」(アーティスト:ryo) 「ルカルカ★ナイトフィーバー」(アーティスト:samfree)

――幅広いユーザーの方に楽しんでもらうという点は、4段階の難易度設定からも感じられるところですね。

林氏:EASYは「歌うようにプレイする」コンセプトからはちょっと外れている部分があるのですが、体験会などで初めてプレイされる方にはEASYをお勧めしています。というのは、曲を知っていないとNORMAL以上はかなり難しいのです。初めての方がいきなりNORMALでプレイされると、知らない曲だし、○や×がたくさん出てきて訳がわからない!という感じになってしまうので。

「Project DIVA」では1作目から、歌に合わせていれば、どのボタンを押してもなんとなく進めるというのをボトムラインとしています。それは本作でも引き継いで、初めて遊ぶ人にとってもEASYであれば1、2回遊んでもらえば、とりあえず完走できるぐらいの難易度にしています。

――「Project DIVA」は全般的にEASYからNORMALにかかるぐらいの難易度が一番遊びやすい印象です。

林氏:「Project DIVA」のゲーム性はNORMALを遊んでいただければわかる、というところを目標にしていて、それは2種類のアイコンを使うというところにも表れています。どういうことかといえば、それは1種類のアイコンだけでは言葉の切れ目がわからないということです。

たとえば○と×の2種類があれば言葉の切れ目が表現できて、歌詞の大まかな流れが追えるようになります。例えば「あなたが好きよ」という歌詞があれば、「あなたが」「好きよ」というようにフレーズごとにボタン種類をまとめることで、歌っている感覚が出てきます。「Project DIVA」が「歌うように遊ぶゲーム」であるということ感じていただくためにNORMALをぜひ遊んでいただきたいな、と思っています。

――今回はヘルプアイテムがあることでチャレンジしやすくなっているかなと思いますね。

林氏:あるステージイベントで藤田咲さんに挑戦いただいた時も、結構いいところまでいけましたからね(藤田さんがゲームにチャレンジした「Project DIVA Presents MATSURI DA DIVA」のレポートはこちら)。このゲームの場合は、リズムゲームは二の次で、モジュールを集めたい、映像を見たいというニーズもあると思いますので、そういった方はヘルプアイテムもうまく活用していただければと思います。

「桜ノ雨」(アーティスト:halyosy) 「ココロ」(アーティスト:トラボルタ)

「DECORATOR」のダンスは6人のアクター全員で撮影

――新たに収録される楽曲についてもお聞きします。今回は本作のために制作され、オープニングテーマにも起用された「DECORATOR」(アーティスト:livetune)についてお聞かせください。

林氏:kzさん(livetuneの音楽プロデューサー)には1作目からずっとお世話になっておりまして、書き下ろし曲も何曲か提供してもらっています。オープニングテーマとしては今回が初となりますが、期待通りのkz節を聴かせていただけて、すごくよかったと思っています。

楽曲をお願いする時には、細かいことはあまり言わずに簡単なゲームのコンセプトをお伝えしてあとはお任せしています。書き下ろし曲として提供いただいた「DECORATOR」とナノウさんの「Glory 3usi9」についてはほぼ同時進行で、お伝えしている情報も全く同じになっています。 “これまでとこれから”というコンセプトと、オープニングやタイアップ楽曲は露出が多いということもあり、明るい感じの曲で、とお願いしました。実際にできあがってきた曲はそれぞれの個性が表れた曲で、面白いものだと思いました。

タイアップソングとして起用された「Glory 3usi9」(アーティスト:ナノウ)

ゲームのテーマである“これまでとこれから”の中で「これから先ってなんだろう?」という疑問は当然出てくると思います。「DECORATOR」に関して言うと、その象徴として映像に衛星軌道上の巨大スタジアムを登場させています。スタジアムは軌道エレベーターのプラットホームになっていて、それが何かといえば駅であり、港なんですね。構造的には、下から列車が登ってきて、到着したプラットホームの上部には宇宙船が停泊しています。駅も港も、「ここではないどこか」につながる場所としてイメージしています。

星のかけらをそれぞれのメンバーがいろいろなところに行って探してきて、みんなでひとつに合わせると星になる、というのがオープニングムービーで語られている内容になります。最初は上手くいかないけれど周りのみんなのアシストもあり、星が蘇ってすごく楽しいライブの時間が訪れて、最後にまた旅に出るという流れです。ゲームで言うと、シリーズのさまざまなエッセンスを持ちよって、「F 2nd」のステージに集まって楽しい時間を過ごしていただき、これからに繋がっていくという構成になっています。

「DECORATOR」を採用したオープニングムービー。

この楽曲の歌詞についてはいろいろな解釈が可能かと思いますが、「今までの道はいろいろな先人の方たちが作ったもので、これからの人間はそれを飾り付けて将来に繋げていくんだよ」というメッセージ性のある曲だと思いますので、ゲームコンセプトにつながる部分があるのかなと思っています。

――ミクが最初に踊っているところから徐々にキャラクターが集まっていき、最終的に6人全員で踊るリズムゲームの映像も衝撃的でした。

林氏:前作の「千本桜」の映像でも全員が登場するのですが、6人全員で踊るカットはやはり限定されていましたので、今回のように6人が相互に絡み合い、全体でひとつのダンスになるというのは初めてになります。

演出担当が、曲がまだ来ていない段階から「シンボリックな曲になるはずなので印象的なことをやりたい」という希望を持っていました。「DECORATOR」では、今できるすべてを盛りこんだ集大成的な映像になっています。

――本当にライブを見ているかのような感覚でした。

林氏:それはまさに狙い通りですね。今までのシリーズでもそうですが、遊んでいただいて成立している世界なので、これはある意味「遊んでくれてありがとう」という気持ちを伝えるライブのつもりなんですよ。

――細かい動きも含めて、キャラクターごとに個性があるのが面白いですね。

林氏:モーションキャプチャースタジオで最大6人のアクターさんに一度に踊ってもらっているので、すごく臨場感があると思います。ミスがあると撮り直しになってしまうので、収録には時間がかかりましたし、アクターさんへの負担も大きかったのですが、結果としてすごくいいものに仕上がりましたね。

――アクターさんとしても過去類を見ないほどの大変さだったかもしれないですね。

林氏:大変だったと思いますよ。演出上、上ったり飛び降りたり、アップダウンがあるので、それはカット割りして撮ったのですが、最後に通しでやりましょう、ということになったら、そこからが長かったですね。ただ、アクターさん側も最後までやり遂げたいという気持ちがあって、頑張っていただいて全部通しで撮ることができました。そのモーションはゲームには使われていないのですが、何かで使えるといいなと思い、現在に至ると(笑)。

――では、いつか見れるかもしれないということですね(笑)。

林氏:そうですね、私も見たいです(笑)。モーションキャプチャーのスーツを着ている状態で踊っているのを見ているだけでもライブ会場で楽しんでいるような気分になりましたし、一糸乱れぬかたちで踊りきったテイクは圧巻でした。

マーカーレスAR対応や保存画質の向上など、よりパワーアップした撮影・鑑賞モード

――PS VitaのARライブとARポートレート、PS3のライブスタジオとフォトスタジオの新要素についてもお聞かせいただけますでしょうか?

林氏:ARライブとライブスタジオは、コンテンツとしては「『初音ミク「マジカルミライ2013」(以下、マジカルミライ)』のライブで演奏された曲の中から、8曲選ばせていただきました。マジカルミライの時の臨場感たっぷりの音源は使わせていただき、モーションもライブの時のものをゲーム用にリファインしているのですが、遊び方としてはVita版、PS3版、それぞれで持ち味があります。

PS Vita版のARライブは、現実の場所にキャラクターが出現したかのような雰囲気を味わえるのですが、前作からの違いとしては、マーカーレスのARにも対応しています。このモードではARマーカーがなくても、周囲の映像を認識して、キャラクターの出現位置を決定することができます。例えば、屋外で、ARマーカーを置いたら風で飛ばされてしまうという状況下でも、条件さえ揃えば屋外ライブが楽しめます。もちろん、ARマーカーを使って位置決めすることもできますので、状況に応じて使い分けていただければと思います。

キャラクターを等身大で出せるというのが前作からのこだわりで、今回もちゃんと等身大サイズのミクさんのライブを楽しんでいただけますよ。

また、キャラクターのポーズや表情を選んで、写真に一緒に写しこめるARポートレートでは、あらかじめポーズや表情をお気に入りに設定しておいて、写真を撮る際、簡単に呼び出せるようにしました。

――立ち止まっていろいろ操作をしなければならないのは、人の目を意識してしまいますからね。

林氏:あるイベントで、「f」ユーザーの方が、ARポートレートでミクさんの写真を撮ろうとしているシーンに行き会ったことがあるのですが、やはり撮影準備に手間がかかっていて、タイミングの悪いことに、そのすぐそばをミクさんコスプレの女の子とその彼氏が手をつないで通り過ぎて行ったんですよ。その光景に胸が痛みまして、もっと手軽に思い出を作ってもらえるようにしたいなと思いました。PS Vitaにはインカメラもあるのでツーショットも撮れますし、いろいろなシチュエーションで使っていただけると嬉しいです。

PS3版の方は、同様のコンテンツをライブスタジオとして収録しています。入っている楽曲は一緒なのですが、こちらではマジカルミライの再現をコンセプトにしています。ステージも同じようなデザインにして、モニターに出ていた映像も実際にライブで使用したものを使わせてもらっています。

あと右スティックを動かすことでサイリウムを振ることもでき、ライブの一体感を味わってもらうこともできます。カメラに関してはオートで切り替わっていく設定もできますし、好きなアングルで見たり、ズームで見ることもできたりと、自分がスイッチャーになったかのような楽しみ方ができます。

前作との違いとしては、ARライブも同様なのですが、モジュールの変更ができるようになりました。これによってライブで使われた衣装を使うこともできますし、特定のキャラが好きな方はそのキャラにすることもできます。自分の好きな衣装でマジカルミライを追体験できるというのが大きいと思います。

また、既存の写真データにキャラクターを合成できるフォトスタジオでは、今回は2キャラクターを扱えるようになりました。選べるポーズも増えていまして、話題になったお姫様抱っこなどもできるようになっています。また、全体の画面の色調を変えて画面効果をつける機能もつきましたので、よりいろいろなシチュエーションで遊べると思います。

あと今回は、画像の劣化を抑えたかたちで保存できるようにもなっています。使い込まれる方も結構いらっしゃる機能ですので、いろいろ楽しく遊んでもらえればと思います。

※写真はPS Vita版のARポートレートを使用したもの。

――DLCの展開についても、現状でお話できる限りでお聞かせください。

林氏:発売日からエクストラデータの第1弾が配信されています。今後もエクストラデータの配信は継続していきまして、モジュール、スキン、過去PSP版で好評を博したPVのリメイクなどの配信を予定しています。本編が終わった直後から制作を進めていますので、少しお時間をいただいてしまうのですが、今後の情報にご期待ください。

追加モジュール
「亞北ネル オリジナル」(デザイン:スミス・ヒオカ)
追加モジュール
「弱音ハク オリジナル」(デザイン:CAFFEIN)
追加モジュール
「重音テト オリジナル」(デザイン:線)
スキン
「RIN&LEN&NEKO」(デザイン:CHAN×CO)

――発売を心待ちにしていたユーザーの方々にメッセージをお願いします。

林氏:今回発売日が遅れてしまい、余計にお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。いただいた時間を使って出来る限りクオリティを高めてお届けしたつもりです。

楽曲、モジュールに限らず、このゲームはクリエイターの方々のご協力をいただいて成立しているものですので、我々はゲームとしてどのように盛り上げていけるのか、ゲーム屋としてのプライドを賭けて制作しましたので、それを楽しんでもらえればと思います。

毎回思っていることではあるのですが、これをきっかけに初音ミクさんたちをより好きになっていただいて、楽曲を聴いたり作ったりと、いろいろな活動が盛り上がればいいなと心から願っております。どうかこのゲームをきっかけにミクさんとその仲間たちを好きになってもらえればと思います。

――ありがとうございました。

初音ミク -Project DIVA- F 2nd

セガ

PS3パッケージ

  • 発売日:2014年3月27日
  • 15歳以上対象
初音ミク -Project DIVA- F 2nd

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PS3ダウンロード

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  • 15歳以上対象
  • PS Store ダウンロード版

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※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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