8月20日、東京・デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主催するトークイベント「黒川塾」の第28回が開催された。「クリエイターのシンギュラリティ(技術的特異点)」をテーマに繰り広げられたトークの内容を紹介する。

目次
  1. 五十嵐氏、イシイ氏の発言から見えるクラウドファンディングの難しさ
  2. “IP”を見つめる三者三様の視点
  3. ソーシャルゲームやクリエイターの未来についても議論を重ねる

3周年を迎えなお、さまざまなテーマで著名人が議論を繰り広げている「黒川塾」。今回は数多くのコンテンツ制作に携わり、現在ではそれぞれに新たなチャレンジに取り組む五十嵐孝司氏、イシイジロウ氏、内田明理氏を迎え、各人が見据えるゲームコンテンツのビジョンについて、熱いトークが展開した。ここではその内容をいくつかのトピックに分けてお届けしていこう。

(左から)黒川文雄氏、五十嵐孝司氏、イシイジロウ氏、内田明理氏

五十嵐氏、イシイ氏の発言から見えるクラウドファンディングの難しさ


五十嵐氏とイシイ氏に共通するのが、独立後にスタートさせた、KickStarterでのクラウドファンディングの成功だ。五十嵐氏はコンシューマ向けゲームソフト「Bloodstained」で550万ドルもの資金を調達、イシイ氏はオリジナルアニメ「UNDER THE DOG」でアニメ作品としては史上最高となる87万8,028ドルを集めた。

五十嵐氏は、前職からの独立に際してGDCなどで出資元を探しつつ、2014年9月16日にArtPlayを共同で立ち上げる。同社でモバイルゲームコンテンツの開発が進められる一方で今年5月に発表したのが、先述の「Bloodstained」だ。当初はプロジェクト成立のためのイニシャルゴールで成功だと考えていたものの、結果的にストレッチゴールを拡張するほどの資金を集めることとなった。

資金が集まればそれだけ開発も順調に進められると思えるかもしれないが、ストレッチゴールによる機能追加など当初想定していたものよりも開発工数が増えていくこととなる。現在は計画の練り直しをしているところで開発を進んでいない状況で、その中でもバッカー(支援者)に情報を出していかなければいけない難しさに直面している五十嵐氏。同氏が作るゲームに期待しているバッカーに対して裏切らないゲーム作りを考えつつ、新しいキャラクターに侍を取り入れたりとチャレンジも行っているようだ。

資金という観点から、イシイ氏がクラウドファンディングの難しさとして話したのはコミュニケーションコストの高さ。先行でお金を支払っているバッカーは、その分意見も厳しいものになってくる。そういった声に対して丁寧にコミュニケーションを取る人材が必要となってくる。そういったコストを踏まえてどれだけの資金をアニメ制作に使えるのかなどの問題を踏まえて、4月にシアトルで行われたサクラコンで新たなリリーススケジュールを発表。来年の春にはアニメーションを見せることができる状況にあるという。

クラウドファンディングのような試みは、クリエイター側としては個人の価値を証明することになり、「Bloodstained」のように成立後、さらなる資金を集めるといったことにも繋がる。その一方でかかる苦労も多く、イシイ氏は「もう一回やるかと言われれば覚悟が必要」と話した。

“IP”を見つめる三者三様の視点

10月からユークスに所属することが決まっている内田氏は、ソーシャルメディア隆盛の中で“キャラクター作り”という自身の持ち味を活かせないかを模索。アニメやゲームのような作品としての枠組みでなく、キャラクターそのものを原作として発表、それをユーザーとともに発展させていくような、クラウドファンディングとパブリッシュメントの中間のような展開を目指しているという。具体的な取り組みはまだ先になるようだが、発表の際には応援してほしいとコメントした。

イシイ氏は、シナリオライターとしての視点から、ソーシャルゲームを通してコンシューマのノウハウを活かせておらず、人の心に住み着くようなIPができていないと話す。その背景にはストーリーやキャラクターが消費財となっていることが挙げられるが、IPを生み出すひとつの答えとなるのが、自身がストーリー・プロジェクト構成を担当するアニメ「モンスターストライク」だ。

元々「モンスターストライク」がゲームと連動するかたちでIPを置けるようになっていないという観点から、イシイ氏が選択したのはゲームに登場するモンスターとは異なる、新たなキャラクターたちを生み出すこと。消費財とは別のキャラクターを外に置くことにより、ストーリーをチューニングしながら作り上げていったのだという。

プログラマーとしてのキャリアを持つ五十嵐氏にとってはシナリオとはゲームの理不尽さを納得させるもので、それが感動を生み出すものであればなおよく、結果的にIPになっていくのだという。同氏がシナリオとプログラムで参加した「ときめきメモリアル」で女の子から告白されなければいけないという目的のために伝説の木を作り出すといった、ゲーム側の要求に応える理屈が必要になると話した。

ソーシャルゲームやクリエイターの未来についても議論を重ねる

昨今のソーシャルゲームについても話題が及び、内田氏はスマートフォンの普及によって利便性が増したことにより、コンテンツ間で時間の奪い合いが発生していると警鐘を鳴らす。それに対してイシイ氏は、7分という短い時間で環境をTVに縛らないアニメ「モンスターストライク」や、ソーシャルゲームのタブーともいえる膨大なストーリーを読ませる構成ながら、ランキング上位に位置する「Fate/Grand Order」のようにコンテンツ側が軸になるようなコンテンツを生み出さなければと考えているという。

また、今回のテーマでもあるクリエイターに関しては、黒川氏の「パブリッシャーがクリエイターを指名する未来は来るのか?」という問題提起に対して、過去の実績を見て投資するパブリッシャー側と未来を向いているクリエイター側との乖離や、企業に所属することから流動化を生み出しづらいゲーム業界の仕組みに対する変化などが語られた。

「Bloodstained」の開発に向けて準備を進める五十嵐氏、先般ストーリーテリングを設立し、年内に大きな作品が発表予定だというイシイ氏、既存の枠組みに囚われない新たなコンテンツのかたちを見据える内田氏と、それぞれに異なる視点からさまざまな議論が展開し、充実の1時間半となった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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