パシフィコ横浜で開催された「CEDEC 2015」にて8月27日、「グルーヴコースター(アーケード版)を開発してわかったアーケードのサウンドと音楽ゲームのノウハウ」というタイトルのセッションが行われた。

家庭用ゲーム機とは全く違い、ゲームセンターという場所に置かれることで発生するさまざまな問題や筐体のデザインなど、アーケードゲームならではのゲーム音楽の作り方やそのノウハウについて、タイトー コンテンツビジネス部 サウンド課 「ZUNTATA」所属の小塩広和氏と、課長で「ZUNTATA」ブランドマネージャーの石川勝久氏が登壇し、解説した。

(左から)小塩広和氏、石川勝久氏

アーケードゲームのサウンドを大解剖!

アーケードゲームの音楽の特殊性については、家庭用機しか触れたことのない人にはなかなか馴染みのないものだろう。アーケードの筐体ではゲームごとに異なるスピーカーを使用するため、毎回そのスピーカーに合わせた音の調整が必要になってくる。

そもそもとしてアーケードの筐体の場合は、サウンドを作る時点ではスピーカーが決まっていなく、どういった特色を持つどこのメーカーのスピーカーを筐体のどこに配置するかから検討しなければならないこともある。

この時にサウンドチームと、ハードウェアを担当するチーム、筐体デザイナーなどとのせめぎ合いが発生する。サウンドチームとしてはゲームセンターのような場所で大きな音を出したいということもありできるだけ大きいスピーカーつけたいが、スピーカーの検討を行う段階ではすでに筐体デザインがきまっていることが多く、スピーカーの配置や音にこだわりすぎても筐体のデザインが損なわれてしまう。それだけでなく、スピーカーが筐体部分から飛び出してしまい、安全性の問題なども発生するのだそうだ。これはまさにアーケードならではの問題と言えるだろう。

だが、小塩氏はここで「一般的な良い音が必ずしもアーケードで良い音ではない」と話す。ゲームセンターという場所の特殊性を思うとサウンドはどうしても不利になってしまうが、音楽ゲームを楽しんでもらうためにもプレイヤーの耳に音をきちんと届けるということが最優先であり、よって使われるスピーカー次第では普通の音楽では考えられないような極端な調整も必要になってくるという。

アーケードゲームサウンド、戦いの歴史

タイトーは、長い間アーケードゲームを作り続けてきた。その中で実際の筐体デザインと、そこに搭載していたスピーカーなどを実例と共に紹介。これまでタイトーで開発してきたゲームセンター用のゲームの筐体と、そのサウンドに関するさまざまな特徴に触れていったが、紹介されたものの中で一番古いゲームとなる「ダライアス」は約30年前の例となり、その当時から画期的な工夫を行っていたことがわかる。

実例1:ダライアス
実例2:ミッドナイトランディング
実例3:カプリチオシリーズ
実例4:バトルギア4
実例5:ダライアスバースト アナザークロニクル

「話は飛ぶようで飛ばないのですが」と小塩氏の前置きによって紹介されたのは、タイトーの企業理念。“最高の「物語」を提供することで世界中の人々の幸福に貢献する”といその壮大な企業理念は、タイトーの公式サイトなどにも明記されている。

この企業理念と今回の「グルーヴコースター」作成のコンセプトはまさにシンクロしていて、「グルーヴコースター」の目指すところは“アーケードならではの「物語」を提供すること”だそうだ。これが「グルーヴコースター」の音楽設計に強く影響を与えている、と小塩氏。

では実際に、“アーケードならではの物語”とは何だろうか。それは家庭では体験できないサウンドではないか、と小塩氏は語った。特に大音量、大迫力、包容感については絶対に実現しようと決めていたという。

小塩氏自身、アーケードゲームが好きでゲームセンターには良く通っていたが、「もっと学生さんに来てほしい」と常々思っていたと語り、せっかくこういうゲームを作るのだからそれも意識して最高クラスのサウンドを追求してやろうと決意。その真っ直ぐな挑戦が、「グルーヴコースター」の成功へと繋がったのだろう。

音楽ゲームで最高クラスのサウンドシステムをつくる

音楽ゲームに求められるサウンドとはどういうものか、実際にその具体例が挙げられた。

まずはリズムがきちんと認識できること。極当たり前のことのように思えるが、音楽ゲームとしてはリズムに合わせての入力が必要になるため、ゲームセンターの中でそのゲームの音のみを際立たせるというのはなかなかに難しい。それを強めの低音を使うことで解消した。

また、「グルーヴコースター」の一つの特徴としてボーカルのメロディやリードのメロディにあわせてボタンを押す部分があるため、そのキーとなるパートが聞こえないとゲームがプレイできない。これは、しっかりとした中高音を取り入れることで解消した。

さらにアーケード版ならではの特徴として、ゲームセンターで1時間~2時間続けてプレイするプレイヤーも多いため、そういうプレイをしても疲れないような工夫が必要だった。

疲れないようにする音というのを模索するべく、逆転の発想で”長時間聞いていると疲れる音”を考えた結果、ずっと高音がキンキンしているとどうしても疲れやすいのだという。そのためあまり高音が強くないデザインにしようと考えたとのこと。

そこに筐体のデザインやコストなどさまざまな要素を加味し、理想と現実が錯誤した結果、最適なサウンドシステムを設計することができたという。

デザイン上の制約とは

実際に「グルーヴコースター」を作るにあたって、手持ちのデバイス候補がいくつかあげられた。

ではこれらを実際に使用して、どういったスピーカーの配置にしていくかを考えていくという。

筐体のイメージと、スピーカー配置案。

この案を元に作られた試作機はスタジオの中でも検証をしているが、タイトーステーションにも試作機を持ち込んで、他のゲーム機を全て稼働させた状態で試作筐体で音を鳴らしてみているそうだ。

実地検証の結果、ウーファーは少し設計を見直すことになり、細かい仕様を設計担当に指示。
最終的に、実機はこのようなスピーカーの配置になった。

サウンドシステムを作るにあたって必要なのは、「ゲームに必要な音を確認すること」「筐体デザインやパーツを把握すること」「ゲームセンターの音環境を想定すること」「後はハード面やコスト面、デザインなどさまざまな現実との戦い」と、小塩氏はまとめた。

ここまでやる!?サウンドの調整

先にも述べたがアーケードゲームの現実問題として、周りがうるさくて音楽が聴こえないというのが挙げられる。これは音楽ゲームとしては致命的だ。だがそこで諦めていてはいけない、と小塩氏は力説。なんとかそういった状況でも音を届かせようという、その想いこそがサウンド調整の肝になるという。

では何故音が小さくなるのか。まず、充分な音量自体を確保できていない場合は、適切な最大音量設定にすることが必要になる。また、充分な音は出せていても回りのゲーム機の邪魔になるからという理由で小さくされてしまっていることもあるが、それについては小さな音でもプレイできるシステムや周囲に影響を与えない音調整をすることで解消できるのではないか、と考えたそう。

適切な最大音量設定とはどうすればいいのかを調べるため、小塩氏は実際にゲームセンターで周囲の音を測定してきたという。大体の数値はパネルの通りとなったが、音楽ゲームがたくさん設置されているゲームセンターでは周囲ノイズが96dBAにもなる場所もあったそうだ。

そういったことも考慮した上で、「グルーヴコースター」では100dBAほどを基準にサウンドシステムを作成している。なお、これより上げてしまうと電圧などの問題で事故が起こる可能性もあり、安全性の面からもこの数値に辿り着いたのだという。

また、小さな音でもプレイできるシステムとしてヘッドフォン端子が導入されている。これは比較的低コストで実現できる上に効果が高いが、ヘッドフォンの設置や持ち込み等でユーザやお店に若干の負担がかかること、アーケードならではの音体験が得られにくい、という欠点も挙げた。

周囲に影響を与えないシステムが必要

周囲に影響するほど大きい音でないとゲームが成立しない、というのはそもそも調整が上手くいっていない。よって周囲に影響のない音量でも必要な音をしっかりと届ける、出力音のチューニングがアーケードサウンドとして必要になる。

そこで出力音のチューニングのために、DSPアンプを導入したという。普通のゲームではソフト側から出した音を増幅してスピーカーから出すのだが、DSPアンプにはそれ以外のさまざまな機能を追加しているという。

実際にDSPアンプの実演デモが行われたが、これを使用することで周囲から極端に大きい音などがはいってきても筐体のほうでコントロールでき、適切な音量にすることができるのだそう。

DPSアンプについて、「AMP側でEQやゲインコントロールが可能で、ソフト側はより細かい調整に注力できること」「設定をオンラインでアップデート可能」「音をデジタルで転送することができることで、筐体内のノイズの影響をカットできる」と、そのメリットを述べた。

調整のポイントは、中高域を強調することで、ボーカルやリズムを聞き取りやすくすること、低域を強調することでリズムを感じやすくすること、聞こえにくい中低域をカットし上記をさらに強調することだという。音響測定器、音圧レベルと周波数の確認、EQやコンプで調整した音を筐体に伝送するシステム、DAW、これらを使用して楽曲ごとに更に調整を加えているという。

以上を踏まえ、アーケード版の音楽ゲームに必要なのは「周囲のノイズ+3~6dBAを出力すること」、「調整で必要な音をきちんと届けること」「小さな音でゲームが成立する工夫」と、その経験からきた結論を語った。

「グルーヴコースター」の目指すもの

「聞く」だけでは終わらない「感じる」筐体へ。最高の音楽体感アトラクションを作りたい、と思い描き、小塩氏は「グルーヴステージ」というデバイスまでも作成した。

「グルーヴステージ」とはソフトから振動のタイミングや強さを任意にコントロール可能で、楽曲毎に最適な振動パターンを職人が手作りで構築できる。また、どっしりした振動で特に重低音の迫力を大きく増強することができ、リズムを感じやすくなりプレイアビリティが向上するというメリットがある。

これは実際にゲームセンターで体感しなければわからないこともあり、「グルーヴコースター」をプレイしたことがない人はぜひゲームセンターに足を運んで、足下から感じるサウンドを楽しんでみてほしい。

最後に、「アーケードゲームのサウンドには、家庭用ゲームにはない独特の設計思想がある」、「サウンドシステムは理想と現実の戦いであり、さまざまな制約の上で最高を目指すこと」、「ゲームセンターは音の戦場なので、ユーザに必要な音をしっかりと届けること」、「アーケードゲームならではこそできることが色々あるので、音の使い方を考えてみよう」とまとめた上で、「ゲームセンターに新しい音を響かせましょう!」と、講演を締めくくった。

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※画面は開発中のものです。

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