連載企画「ゲームの壺」第1回は、良質なアクションゲームに定評のあるトレジャーが、セガサターン初の参入タイトルとして送り出した2Dアクションゲーム「シルエットミラージュ」の紹介をしていく。
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セガが生み出した日本の代表的ハードの一つ「セガサターン」。サターンを通して生まれた傑作タイトルはプレイヤーの数だけ存在する。筆者のプレイした「パンツァードラグーン」と、違う人がプレイした「パンツァードラグーン」は同じタイトルでありながら、誰しもに異なる思い出と経験を与えている。ゲームをプレイし、身に染みた感想というのは、良しも悪しも人それぞれなのだ。
そんな予防線を張りつつスタートしましたのが、編集部スタッフのココロのゲームアーカイブを紹介していく連載企画「ゲームの壺」。記念すべき第1回で紹介していくのは、セガといったらセガサターン、セガサターンといったらトレジャー。そう、ゲーム開発会社「トレジャー」の作品である。
まずはトレジャー作品を振り返ってみよう
トレジャーはデベロッパーとしてセガハードと縁が深く、同社発の第1作目としてリリースされたメガドライブ向けシューティングアクション「ガンスターヒーローズ」を皮切りに、セガサターン、ドリームキャストに至るまでさまざまな作品が展開され、セガファンには馴染み深い存在として認識されている。
そのゲームの特徴は、プレイヤーの心を掴んで離さない小気味よく動くグラフィックス、ついついやりたくなってしまう爽快感抜群のアクション、のめり込まずにはいられないやり込み性の高さと…つまりは殆ど全部になってしまう。
4人同時対戦という当時にしては極めて異例のシステムを取り入れた「幽☆遊☆白書 魔強統一戦」をはじめ、「ガーディアンヒーローズ」で一日中友達と対戦バトルを繰り広げていた人は多いだろう。銀銃こと「レイディアントシルバーガン」でSTGの新機軸と自身の限界を知った人も数多にいるだろう。STGといえば「斑鳩」も「グラディウスV」も語らずにはいられないが…キリがないので、タイトルの羅列は泣く泣く切り上げ。
改めて同社タイトルの魅力をひっくるめてみると、筆者にとっては“優れたプレイフィールを得られる作品”が実に多い。それはストーリーであったり、ギミック満載の操作感であったりと作品毎に多彩であるが、芯の部分については「面白い」という感想しかしっくりこない。
まあ、古今東西のあらゆるゲーム作品に使える褒め言葉であることは否めないので、ここはとりあえず、ファンらしさをもって存分に掘り下げていこうと思う。
今回の目玉は当然「シルエットミラージュ」!
遠回しな前置きも済んだところで、本題となる作品「シルエットミラージュ(以下:シルミラ)」を紹介していこう。本作は1997年、トレジャー初のセガサターン向けタイトルとして発売された2D横スクロールアクションで、プレイヤーは主人公「シャイナ・ネラ・シャイナ」を操作し、崩壊した世界を再生させるための冒険へと出発する。
独自のシステム「2つの異なる属性の攻撃で、2種類(+α)の属性の敵を倒していく」ことを主軸にしたステージクリア型アクションであることから、コンセプトだけでいえば「斑鳩」の先輩作品にあたるといっていい。
手始めに「シルミラ」の魅力を大きく抽出してみると、そのアクション性×ストーリー性の品質の高さが挙げられる。特に物語に関しては世界観の背景もさることながら、アクションゲームで演出されるストーリー(の質と量)を大幅に超え、RPGベースに乗っかっていても不思議でないほど重きが置かれている。
かといってアクション性が疎かにされているわけではない。少し触っただけでも「こんな風にキャラクターが動くのか!」と思わせるほどセンス良く作り込まれているキャラクターたちのモーションは、昨今にあって見劣りするものではなく、ゲームテンポも押しなべて上々。RPGテイストの買い物要素が含まれていることから、シビア指向の純粋なアクションゲームというより、じっくり勤しむプレイで打開策が見出せるのも嬉しいポイントだ。
ただしその一方で、セオリーを培っていない人は武器購入や体力回復のため、後半に進むにつれ、地道にコツコツとマネー(ゲーム内通貨)を稼がなければならない場面も出てくる。これにより、買い物に関してだけはテンポを阻害されてしまうのが手痛いところ。たくさんある武器種の中から好みを選んで試して攻略していく…といえば聞こえはいいが、スムーズにプレイしたい時はその都合上、マネー運用の最適解を導き出さねば、出稼ぎに迫られてしまう。
概要をまとめると、トレジャーならではのアクション性が盛り盛りであり、描きたかったのであろうストーリーがそのまま乗っけられたゲームである。クリアまでの3~6時間のバランスも加味すると、プレイヤーは“ハンバーグの上にハンバーグを重ねたようなインパクトたっぷりの満足感を味わえる”ことだろう。ということで、まずはストーリーのあらすじから本作を紐解いていく。
望みを託された過去の遺産は、世界をシアワセにしかできない
2XXX年。ある日突然、地球に“別れの日”が訪れた。「エド」とよばれるシステムの暴走がひき起こした惨事は、全世界の生物を“シルエット”と“ミラージュ”という、異なる属性を持つ、異形の種族へと変貌させてしまった。
特異な能力を身につけた両種族は、ともに頂点に支配者をおき、秩序をもたらす社会を形成しながら、毎日を好き勝手に謳歌していた。が、シルエットとミラージュは仲がよくない。同じ世界に住む厄介者同士、利害をかけた小競り合いをワイワイと続けていたのだ。
そんな時、ある施設の中で1人の少女が目覚めた。彼女の名は「シャイナ・ネラ・シャイナ」。彼女は崩壊した世界を再生させるために作られていた、過去世界の大いなる遺産であった。目覚めた彼女の心に響いた言葉は「破滅を招いたエドをさがし、世界をもとへもどせ」、この1つだけ。
時を同じくして、2つの種族の支配者より指令が下る。「我らの世界を変える者が現れた。全力でこれを阻止せよ」と。過去からの命運を託されて生まれたシャイナ。しかし、そのたった1つの使命はそうたやすく実現できそうにない―。
あらすじだけ見ると重たい気配が漂ってくる……のだが、ゲームをスタートした途端、殆どのプレイヤーはシリアスの断片すらも感じ取れなくなってしまう。まず、この世界の住人は本当に“毎日好き勝手に暮らしていた”ようで、色々と抜けている。まるで優しいファンタジー世界のワルモノとでもいうか、コミカルさが第1印象にくるような、児童書の登場キャラクターたちのようである。
荒廃した大地とボロボロの建物が終末期を匂わせているのに、シャイナの目の前に現れる敵キャラクターたちは、クレヨンの落書きで出来上がったかのような個性たち。物騒な銃器や鈍器でのっぴきならぬ抗争をおっぱじめているのに、やられたら涙目で一目散に敗走する。子供の公園の遊び場か。
さらに、“世界を再生する最終兵器!”の鳴り物入りで登場する主人公・シャイナも、前向きでポジティブでどこか抜けた、底抜けに明るい女の子だ。彼女はシルエットとミラージュの両属性を備えたハーフ種で、目的地たるエドに向かうため、使命と能天気さを武器に「アタシはシャイナ!世界をすくう正義の使者だよ!」と世界をふれてまわる。
ウィットに富んだブラックジョークを軽快に言い放ち、危険な目にあったら「どっひゃー!」とぶっ飛び、そんでもって立ち塞がる奴らはバシバシしばいて突き進む、豪快爽快なヒロイズムの持ち主。そしてユニークな敵たち、体内のサポートプログラム「ゲヘナ」、ピエロ姿のミラージュ「モーセ」たちと進む道中は、実に賑々しい。
これらバラエティ豊かなキャラクターたちによる掛け合いは、ゲームの随所にふんだんに散りばめられており、面白おかしいステージギミックと相まって「私が正義の使者だ!」「ロックンロール!」「お花買ってー」と一同てんやわんやな始末。
深刻に尖った物語のテーマは、こうしたワイワイガヤガヤの狂騒の渦中に紛れ込んでしまい、開始早々にそのトゲトゲを抜き取られてしまうのであった。
2つの属性で敵を撃つ、右と左の相克関係
ゲーム上に存在するキャラクターたちは「(赤い)シルエット」と「(青い)ミラージュ」で区別されており、シルエットにシルエット属性の攻撃を当てると精神力(スピリット)が減少し、シルエットにミラージュ属性の攻撃を当てると体力(フィジカル)が減少する。逆のパターンもまた然り。
シャイナも敵も体力がなくなると戦闘不能、精神力がなくなると攻撃力/攻撃パターンが貧弱になり、大抵のキャラクターは攻撃自体がションボリしたものになってしまう。このルールに基づくことで、「体力を減らして早々に倒す」か「精神力を削って強力な攻撃を出させなくする」かを判断する醍醐味が生まれている。
なお、操作上はそれぞれの属性をボタンで切り替える/使い分けるといった機能はない。その答えはシャイナの姿を見てもらえば分かるだろうが、彼女は左半身がシルエット属性、右半身がミラージュ属性のハーフ種なので、画面上では「画面右向き時にミラージュ属性で攻撃/被撃」「画面左向き時にシルエット属性で攻撃/被撃」という、2D描画を活かした斬新な制限がかかる。
これにより、画面上で左右のどちらを向いているかで、敵味方共にダメージ対象がコロコロと移り変わるのだ(体の色を反転するシステムも有り)。
異属性の攻撃でなければ敵味方共にやられないという仕様上、「同属性の向きで陣取られたら絶対倒せないじゃん!」「同属性の向きに合わせれば絶対倒されないじゃん!」ということも当然起きる。がしかし、この制限が絶妙なゲームバランスに落とし込まれ、それでいて上述したような欠点が安易に頻出しないからこそ、プレイヤーは頭から尻尾の先まで知的なアクションを体感できるわけだ。
さらに、1ステージにつき個性的なボスたちが3体ほど現れるので、プレイヤーはステージ毎のメリハリに飽きる暇もない。例え戦闘不能になってしまっても、本作ではその場コンティニュー×9回を利用できるので、ある程度はゴリ押しでも問題なしだ。……まあ、ノーコンティニューを目指そうとなると、途端に凶悪なりますけどね。
シャイナの武器「パラサイトセブン」
ここではシャイナが扱える全7種の武器を紹介。各種武器や回復アイテムは、ステージ道中に存在する謎の組織「アルファ商会」のウサギの店員から購入できる。武器はボタン入力時に自動的に敵に向けて撃ってくれるほか、十字キーを使って8方向360度、自由に撃つことが可能。常時3つまでセットでき、1ボタンで自由に切り替えることができる。
武器には直線上に強いもの、接近戦に強いもの、放物線で攻撃できたり、攻撃判定が留まるものなど、さまざまなバリエーションがある。ステージを進めるにつれ、より強化された武器がラインナップするので、進行に合わせて買い揃えていくのがベストな攻略法だ。
なお、先に少し触れていたが、ゲームをスムーズに進めているだけでは、武器を買い揃えるためのマネーが溜まらない場面も多いため、装備一式を整えるのに多少の稼ぎプレイが要求される。しかし、いずれも特徴的な武器ばかりなので、使わなくてもついつい揃えてしまいたくなる。雑魚的でチマチマ貯めたり、大物ボスを殴って貯めたりが大事です。
傲慢:プライディー
ブーメランのように行って帰ってくる飛び道具。貫通&多段ヒットでダメージを稼げる。
嫉妬:エンビア
シャイナの前面に羽型のフィールドを展開。十字キーで2枚の羽根の開く/閉じるを調整可能。癖の強い武器だが、防御面で冴える。
暴食:グラットニィ
レーザー状の射撃。時間当たりの攻撃力は低めだが、見た目どおり汎用性はバッチリ。ボタン押しっぱなしでプレイできる最有力候補。しかし、PS Vitaだとちょっと辛い。
色欲:ラスティ
一定時間その場に留まるガスで攻撃。相手の動きを読めば、攻撃時間を節約しつつ、回避行動に専念できる。
怠惰:スローサ
連射性の高い、直線状の射撃。基本中の基本であるため扱いやすく、最大レベルの精神力を維持できれば強い。一番高価な6才(レベル)のスローサは最強の一角。
貪欲:カビタス
シャイナの前方にロックオンサイトが出現し、捉えた敵にホーミングレーザーを打ち込む。コンセプトよりは扱い辛い。
憤怒:アンガラ
放物線を描いて飛ぶ爆弾射撃。攻撃力が高いので、射線の性質をしっかりと把握すれば良き友に。足元に設置することもできる。
※ステージ序盤に最強武器が購入できる裏技も存在する。気になる人は調べてみよう。
スピーディかつ豊富なアクションがカギを握る!
上記の武器を扱いながら、ルールに沿って敵を倒していくためには、多彩なアクションを使いこなしていくことが肝要だ。シャイナの挙動はスイスイと軽やかなもので、その特徴的な帽子やツインテールを自在に変化させながら、ダッシュ、3段ジャンプ、スライディング、壁走り、ふせダッシュと、画面上をスピーディに動き回れる。
また、髪の毛で相手を拘束する「つかみ」は、もう一方の髪の房で相手をボコボコ殴ったり、左右・空中・地面に向けて殴り飛ばしたり、体の向きを変えながら敵の反対側へと回り込んだりと派生技も多彩。そのほか、精神力を消費する全体攻撃「パラサイトボム」、同属性の飛び道具を反射して、相手にお返しする「リフレクター」などが備わっている。
選択肢は多いものの、直観的に撃って飛んでのシンプルなアクションゲームとして操作するだけでも十分攻略できるようになっているので、難しく考える必要はない。豊富なアクションを使えば当然スタイリッシュに動けるが、どちらかというと「一目散に倒す!」以外の行動の方が難易度が上がる。なので、操作を楽しみつつ、コミカルで可愛らしいモーションに注目すべきだろう。
特につかみは“相手を掴んで殴って投げる”という、字面だけなら非道な暴力行為以外のなにものでもないが、双方の挙動も相まってこれまた微笑ましい。雑魚敵は掴んで殴ると一定量のマネーを落とすため、最初の内は出てくる敵、出てくる敵、反撃を許さないよう精神力を削り、精神力不足で攻撃させなくした後、片っ端からダメージ無しのパンチでカツアゲしていくのだ。
これは誰もが通るマネー獲得のための基本プレイとなるので、本作を「殴ってぶん投げるゲーム」と記憶している人も少なからずいるのでは?
リフレクターも基本アクションではあるが、ようは受け身のカウンター攻撃なので、常態的に使いこなすのは意外と難しい。対応していない方の属性で攻撃を受けてしまうと、その攻撃はリフレクターを素通りしてダメージとなるので、咄嗟に色合いを判断できずに頭がこんがらがってしまうことも。
まあ、このギミックを使って攻略するボスもしっかりと盛り込まれているので、ステージ道中で無理に使おうとしなくても、使うべき場面で使っていくのがいいだろう。加えると、使用中は徐々に高度が下がるものの空中に浮いていられるので、回避手段としても期待できる。
個性的な敵キャラクターたちがお目見え!
野蛮で乱暴な「シルエット」は、血の気の多い好戦的な種族。仲間意識が薄く、互いに出し抜いたり、争いながら、バットやパイプを片手に襲い掛かってくる。もう一方の高い知能を持つ「ミラージュ」は、知識階級の秩序を構築した種族。相手を見下す高慢さと、強いものにはすぐさま手の平返しをする小物感があるものの、過去世界の兵器や機械を操るため油断はできない。
紳士と暴君の二面性を持つシルエットの支配者「メギド・バースクロッド」は、世界を元に戻して面白おかしくしてやろうと画策している。はたまた傲慢な性格のミラージュの支配者「ハール・バースクロッド」は、世界を元に戻させまいとシャイナの使命の阻止に総力を上げてくる。
赤色の存在は青色の存在を認めず、同様に青色も赤色を認めない。自分で選んだわけではなくとも、色を別ってしまえば敵同士だ。
ほかにも、この世界にはシャイナを目の仇とするライバル的存在「ゾファル」や、人工生命体「ガーディアン・エンジェル(G・A)」が存在している。G・Aはシルエットでもミラージュでもないノーマルな存在で、少女の顔×魚の身体×機械の腕を組み合わせた「G・A デュナミス06」などがおり、持ち前の能力やビジュアルでプレイヤーに強烈なパンチを浴びせてくる。
インパクトでいえば、このデュナミス06(CV.こおろぎさとみ)は一等抜けている。子供の落書きをそのままロボットにしてしまったような造形から流れ出るこおろぎさんのボイスは、対面しているだけで思わずIQが下がってしまいそうな絶妙さを醸している。正にシルミラを象徴する顔役だ。
バラエティ豊かなアクションを備えたボスキャラクターたちが、ステージ毎にワンサカ襲い掛かってくるボスラッシュと見れば、「エイリアンソルジャー」の血統が伺えるだろう。
……なお、これまで本作は愉快なコミカルストーリーであると語ってきたのだが、大変申し訳ない、あれは嘘だ。「シルエットミラージュ」の物語は佳境に進むにつれ、さまざまな登場人物たちの、どうしようもない葛藤や羨望が入り混じり、彼ら彼女らの生存本能がぶつかり合っていく。
シャイナはあくまで“過去の遺産”である。その使命も、どのような思惑で携えられたものなのかは、プレイヤーには判別できない。結局、シャイナは誰とも知らぬ者たちの計算をもって現在を修正する存在であり、言ってしまえば“死人が口出しに来た”ようなものなのだ。
そんな世界の爆弾たる彼女によって導かれる世界は当然、今を生きる生命たちが納得できる結末ではない。シャイナもメギドもハールも、求める未来の姿は皆違うのだから。
それゆえ、シルエットとミラージュは各々の考えをもって立ち上がり、シャイナを倒そうと奮起する。手段や演出や掛け合いはこれまで記してきたとおりバラエティ表現に富んだものではあるが、その時、その瞬間、彼らは自身の未来を否定される只中にいる。彼らの闘う理由は、その言動だけで推し量れるものではない。
プレイヤーはここが残酷な世界であると最初から知っているのに、無邪気さに紛れてしまっていた現実に最後まで気付けない。戦いの先で明るみになる世界のカラクリと、緩急と濃密さが生み出すストーリーの急行下落は、決して軽いものではない。
そしてシャイナ(プレイヤー)は選択する…
ストーリー ネタバレ注意
※ここから先、エンディングに関するネタバレがあります。「今からプレイするつもり!」という人や、できればまだ見たくないという人は、目を閉じて丁度いいところまでスクロールをしてださい!
正義の使者であるシャイナは、その使命に疑問を持たない。ゲーム中にシャイナの秘密が明かされると、プレイヤーはその後の選択で、【世界を元に戻さなかった結末】か【世界を元に戻した結末】のいずれかのエンディングを自らの手で選んでいく。
世界を元に戻さなかった場合、この世界はシルエットとミラージュが生きる、これまで通りの社会が続いていく。しかし、両種族の生存が約束されたその場所は大事件の反動からか、一転して朗らかで牧歌的な様子に。両種族が楽しそうにはしゃいでいる姿は、まるで絵本のような光景だ。
敵対する存在はもういない……のかは、このシルエットとミラージュのことだから分からないが、シャイナに付き従うパラサイトセブンたちも賑々しく、彼女の楽しそうな一幕が見られる結末だ。
一方、世界を元に戻した場合、シルエットとミラージュは彼女一人を置き去りにして世界からいなくなり、私たちの住む現代社会のように、人間による文明・社会が形成されていく。冷たいビルが立ち並び、忙しなく人々が行き交い、街灯だけが街を照らす、まるで現実のような光景だ。
ただし、元に戻った世界では、シャイナは存在しながらも誰にも知られず、どこにも居場所がない。彼女の役目はもう終わり、そこから先は何もプログラムされてはいない。過去の遺産は世界を救っても、自身を救えないのだ。
一人ぼっちで取り残された彼女はエンディング中、気ままそうに、寂しそうに街を練り歩いている。ひとときの笑顔をくれた野良猫も、気がつけばどこかに消えている。彼女に訪れた結末はとても孤独で、人間だけに当たり前な世界だけが広がっている。
なんてシリアスになるかは故知らず! プレイヤーは安易なアンハッピーを悲観することはない。これから先に何が待ち受けていようとも、そこから先が何も語られなくとも、シャイナが悲劇のヒロインを気取るには、その明るく前向きでポジティブな性根があまりにお邪魔すぎるのだ。
彼女がどんな気持ちを抱いているのか、その後どのような日常を紡いでいくのか、そんなものは当然のことながら一切描かれてはいない。それでも、最後の最後に聞けるたった一言のツッコミだけで、彼女のハッピーエンド&ハッピーライフを信じていられる。
やっぱり、コレが正義の使者ってモンじゃない?
いつでもどんとこい それくらいの気持ちで
さて、ゲームにとある“テーマ性”が隠されていることも、実は全然語っていない重要なファクターことも、今でも口ずさめる中司雅美さんの歌うEDテーマ「泣けるうちは元気」のことも、見識が薄かったために某国民的幼稚園児の声の印象しか持っていなかった矢島晶子さんが元気で可愛らしい少女(シャイナ)のボイスをやっていたことに「声優さんってすげー!」と思ったことも、語りたいことは山積みだが、そろそろお開きとしよう。
今回はエンディングに関するネタバレを一部してしまったものの、それらに繋がっていく魅力については一切語れなかったのが残念である。同時に、未プレイヤーに対しては「まだまだ楽しみ盛りだくさんだよ!」という言い訳になるので、これはこれでよしなに。
また、本稿よりも深くテーマ性に斬り込んでいる考察は、発売当初から長らくファンによって語られているので、気になる人は調べてみるのもアリだ。加えて、古き良き裏ワザの類もてんこ盛りのゲームなので、あわせて確認しておくと、新たな楽しみも見つかることだろう。
ちなみに本作はSS版のほかに、セーブ機能+新規ボスなどが追加されたPS版「シルエットミラージュ ~リプログラムドホープ~」が1998年に発売されており、2010年にはハムスターよりPSゲームアーカイブス版がPS Storeにて配信されている(PS3/PS Vita/PSP対応)。隠しボスの収録や、エンディング分岐も増えているのが特徴だ(エンディングムービーはSS版と同じ)。
両ハードにおける違いを忌憚なく評価してしまうと、PS版は頻繁にロードが発生するためプレイ中のレスポンスがイマイチ。しかし、“やるとなったら電源つけてクリア1週!”をしなければならないSS版に比べると、追加要素もしゃぶれるPS版がプレイ環境によってはいい味を出す。機能性に優れたPS版、アクション性に優れたSS版と評するのが妥当か。
魅力的なキャラクターと奥深いストーリー、それを本格アクションとガッチリ練り混ぜてしまった「シルエットミラージュ」は、当時のゲームジャンルにおいて実験的な作品であったことは否めない。しかし、最初に言っておいた通り、好きなものは好きなのだ。SS作品の中でも5指、いや3指、いや4指に入るほど、心の片隅に残り続けていてくれたことに感謝を贈りたいこのゲーム。
思い出が花開いてしまった人には申し訳ない。ここで興味を持ってしまった人にも申し訳ない。その気持ちはプレイしないことには解消できないのだから。
話を冒頭に戻すと、こういった自分たちの好きなタイトルを細々と紹介していけたら、というのが本連載企画の趣旨となっている。紹介するタイトルは、ジャンルも年代も角度もさまざまに想定している。今後とも不定期気味に更新していく予定なので、ふとした時にお目通しください。
Gamer連載企画「ゲームの壺」とは?
古い? 知らない子だ…
名作? 聞いたことがない…
面白い? それなんですよ!面白いという感動を与えてくれたゲームタイトルを、ざっくばらんに紹介していく不定期連載企画「ゲームの壺」。ここでは新旧問わず、編集部スタッフがさまざまなタイトルを、さまざまな角度で斬り込んでいきます。“ちょっとした箸休めのつもりがガッツリしたものに出会ってしまった”。そんな読了の経験を味わいたいという人は、どうぞ一度目を通してみてください。
第1回:SS「シルエットミラージュ」を紹介!
第2回:AC「アイドルマスター(前編)」を紹介!
第3回:AC「アイドルマスター(後編)」を紹介!
第4回:DC「カルドセプト セカンド」を紹介!
「ゲームの壺」はこちらからチェック!