日本一ソフトウェアが本日10月29日に発売するPS Vita用ソフト「夜廻」。そのシステムや演出にスポットを当てたプレイインプレッションをお届けする。
「流行り神」、「雨格子の館」、「特殊報道部」など、ミステリーやホラーの様式を踏襲しつつも、独自のカラーを前面に打ち出すことで、コアなファンを中心に多くの支持を得てきた日本一ソフトウェアのアドベンチャーゲーム。
今回紹介する「夜廻」(2015年10月29日発売・PS Vita」は、そんな同社が新たに放ったアクション型のホラーゲームだ。暗闇の中を徘徊する不気味なデビュートレイラーに始まり、その全貌は謎に包まれながらも、静かに、しかし確実に注目を集めてきた本作。
本稿では、ネタバレを避けるためにストーリー部分はあえて語らない。しかしシステムや演出から、「夜廻」の味とも言える独特の怖さや不気味さ、そしてノスタルジックな雰囲気は十分に伝わってくるので、「夜廻」のシステムや演出にスポットを当ててインプレッションしていこう。
まずは、「夜廻」の基本的な部分を見ていきたい。ゲームデザインは、見下ろし方のオーソドックスなアクションやアドベンチャーゲームを踏襲している。主人公をアナログスティックで自由に動かしながら、敵を避けたり、気になる箇所を調べていくのだ。
また本作は基本的に夜道を探索するゲームなので、アイテムの懐中電灯が重要な意味を持つ。電灯で照らすことでしか確認のできないものもあったりするからだ。細かなオブジェクトや、敵などがそれだ。この辺りは、後ほど述べていこう。
グラフィックは、日本一ソフトウェアタイトルに多くみられる、極まった感のある2Dを基調としたものだ。2Dで描かれた昭和を感じさせるノスタルジックな町並みは、怖さとともに、郷愁を感じること間違いなし。
実写と見まがうほど美しいグラフィックのAAAタイトルが数多く登場しているゲーム市場ではあるが、本作をプレイすると、2Dの良さを再認識するし、この手のグラフィックのゲームが今後も作られ続けてほしいと切に思う。
「夜廻」のキャラクターは二頭身のミニキャラだし、ボイスもないし、演出も決して派手なものではない。どちらかといえば、控えめな部類に入る。しかし、だからこそギャップを感じて怖い。昔のゲームは、グラフィックの貧弱さが想像力を高める側面を持っていた。ホラーゲームなどは、想像力から生み出される恐怖が、実は一番怖いのではないかと筆者は思っている。
そういう意味でいうと本作は、キャラクターグラフィックや演出に関しては、ややオールドさを感じるが、むしろそれが味となっていると言えるのではないだろうか。加えて、本作にはBGMがほとんどなく、虫の鳴き声や足音など、環境音しか聞こえないシーンが基本となる。ひとっこ一人いない町の中を少女が一人でトコトコと歩いているのは、なんとも言えない気分になってくる。
シンプルなゲームデザインが没入感を高める
本作では、余計な説明を極力省いているというのも面白い。最低限のチュートリアルなど、プレイをフォローする要素はあるものの、「夜廻」には、情報が極端に少ないのだ。もちろん開発者は、これを意図的に行っているはずだ。
まず、先ほど「主人公」と書いたが、名前はなく、公式サイト内での呼称は「少女」。自分で名前を決められるとかではなく、「少女」なのだ。主人公の姉も登場するのだが、具体的な名前は明かされていない。
また本作には、「お化け」が登場する。もちろん、少女に襲い掛かってくる敵なのだが、なぜ少女が住む街にお化けがいるのかなど、その説明がない。その情報のなさが不安を煽る。
加えて、お化けのデザインがいちいち不気味で、非常に気分が悪い(ほめ言葉)。ジーっと立っている人影や、目と口だけが赤く光っている正体不明の霊、たくさんの足を持つ巨大なクモのような敵など、心理的不快感抜群だ。
なお、お化けたちは、少女を見つけるやいなや襲い掛かってくる。捕まったら最後、「ブシュ!」というエグいSEとともに画面が血に染まり、そのままゲームオーバー。体力ゲージはないので、捕まったら最後だ。こちらからの攻撃手段は一切ないので、敵に対しては、逃げるか、草かげや看板の裏などに隠れるといった手段しかない。軽いステルス要素と言えばいいのだろうか、敵から隠れている時はかなりドキドキものだ。心臓音のSEも相まって、その緊張感は半端じゃない。
お化けたちは、暗闇の中に紛れていることも多く、場合によっては、「えっ! そこにいたの!?」と、死んでから気づくこともしばしば。懐中電灯で照らせばお化けの姿を目視できるので、なんか怪しいなと思った場所は、どんどん懐中電灯で調べていったほうがいいだろう。というか、そうしないと死ぬ。
お化けは至るところに出現するため、これを回避しながら進むのは容易ではない。筆者も原稿を書く前に数時間ほどプレイしたのだが、少なくとも数十回はゲームオーバーになっている。お化けの行動には規則性があると思うので、ある程度、敵の行動の予測は立つだろうが、難易度は低くない。昨今のゲームのなかではむしろ骨太なほうだと思う。
また本作は、ストーリーを進めるたびに行動範囲が広がっていく。掲示板には町の噂が書かれているのだが、プールで事故にあった生徒の話や、行方不明になった子供のことなど、オカルト的な内容のみならず、現実世界で日常的に起こっているような事件のことが書かれており、実に生々しい。「そういえば、この前、似たような事件あったよな……」などと、余計なことを考えてしまう。しかしそれが攻略のヒントになったりするので、嫌な気分を押しとどめてチェックしてみるしかないのだ。
郷愁と恐怖の同居した世界観。この手のタイトルが好きな人には自信をもっておすすめしたい
さて、ここまで「夜廻」について語ってきたがいかがだっただろうか。まとめると、本作は贅肉を極限までそぎ落とし、シンプルに「恐怖」を描いているタイトルだと思う。また恐怖を描きつつも、どこか郷愁を感じる。それは、ステージのデザインから見られる、町並みだ。まるで地元を徘徊しているような感覚。その身近さが、他人事に感じられない。
なお、ゲームシステムに関しては、昨今のタイトルの中ではかなりとっつきやすい部類だ。アクションゲームが苦手という人でも、すんなりゲームに入り込めると思う。
もちろん、この原稿で本作の魅力のすべてを伝えきれたとは思っていないが、本稿を読んで、読者の方が少しでも「夜廻」に興味を持ってもらえたらこれ以上嬉しいことはない。では今回はこの辺りで。