海外ではゲームがeスポーツとして広く認知されているのに対し、ゲーム大国といわれた日本が大きく後れを取っています。そこで、eスポーツの発展と切っても切れない高額賞金付きのゲーム大会が、日本であまり開催されない理由を法律家の目線から考察してみます。

目次
  1. 賞金目的で勝敗を競うことは賭博に当たらないの?
  2. 参加費無料でも風営法に注意する必要がある
  3. 高額賞金の大会が開催されないのはなぜか?
  4. おわりに
  5. GamesLaw(ゲームズ・ロー)

賞金目的で勝敗を競うことは賭博に当たらないの?

賭博に当たるかどうかは”偶然の要素”と”賞金の出どころ”がポイント

刑法185条では「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する」と定められています。ここでいうところの「賭博」とは、偶然の勝敗に関して財物を賭けてその得喪を争うことをいいます。

「偶然の勝敗」とはそのままの意味で、勝敗に少しでも運が絡んでくる余地があれば、これにあたると思っていただいて構いません。ゲーム大会は、プレイヤーの技量だけでなく、運によって勝敗が左右されますから、「偶然の勝敗」に関するものということになります。

「財物…の得喪を争う」とは、勝者が財産を得る反面、敗者が財産を失う関係にあることをいいます。この関係をもう少し分かりやすくいえば、勝者の獲得する賞金が、敗者の財布から出ているというイメージです。したがって、勝者に賞金が与えられる勝負であっても、敗者に何ら財産を失うリスクがない場合には、「財物…の得喪を争う」ことにはなりません。

参加費をとって賞金として分配したらアウト

上で説明した基準によると賞金付きゲーム大会は賭博に当たるのでしょうか? ケースごとにみてみましょう。

ケース1

A社は、プレイヤー参加費無料の賞金付きゲーム大会を主催し、賞金の大部分をスポンサーのB社に提供してもらうことにし、残りの部分については観客の入場料から工面することにした。

ケース1では、賞金はプレイヤーとは無関係のスポンサーと観客から拠出されており、プレイヤーの財布からは出ていません。つまり、この場合、敗者に財産を失うリスクはないので、賭博には当たらないということになります。主催者が賞金全額を自腹で準備する場合も、これと同じことがいえるので、賭博には当たりません。

ケース2

A社は、プレイヤー参加費ありの賞金付きゲーム大会を主催し、賞金の大部分をスポンサーのB社に提供してもらうことにして、残りの部分については

(1)プレイヤーの参加費から工面することにした。
(2)観客の入場料から工面することにした。なお、プレイヤーの参加費は大会の運営費用に充てることにした。

ケース2の(1)では、賞金はスポンサーから拠出されるとともに、プレイヤーの財布からも出ています。この場合、勝者が賞金を得る反面、敗者が参加費という財産を失うリスクがあるということになるので、賭博に当たってしまいます。

これに対し、ケース2の(2)は、プレイヤーが参加費を支払っていることに違いはありませんが、賞金はスポンサーと観客から拠出されており、プレイヤーの財布からは出ていません。そうするとこの場合、勝者が賞金を得る反面で敗者が参加費を失うという関係性は認められないので、賭博には当たらないということになります。

参加費無料でも風営法に注意する必要がある

ケース3

ゲームセンター経営者Cは、自身が経営するゲームセンターとは別の広いイベント会場を借りて、プレイヤー参加費無料の賞金付きゲーム大会を開催することにした。

ケース3では、プレイヤーの参加費が無料であるため、賭博には当たりません。それでは、Cさんは問題なく大会を開催できるのでしょうか?

賞金付きのゲーム大会を開催するにあたっては、「風営法」(正式名称は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」といいます)の規制にも気をつける必要があります。

風営法は、風俗営業を営む者に対して一定の行為を禁止しており、23条2項では「第二条一項…八号の営業を営む者は、…遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない」と定められています。2条1項8号は実際に読んでみると分かりづらいかもしれませんが、ゲームセンターがその典型例です。

つまりこの規定は、ゲームセンター等を営んでいる者に対して、大会の勝敗など遊戯の結果に応じて賞品を提供することを禁止する規定であるということができます。なお、この規定は、営業者に対する規制を定めたもので、ゲームセンター内での賞品提供に限ったものではないということには注意が必要です。

そうすると、ケース3では、参加費が無料で、大会会場はゲームセンターではありませんが、大会主催者がゲームセンター経営者なので、風営法違反ということになります。

高額賞金の大会が開催されないのはなぜか?

過大な景品類の提供を禁止する法律のせい?

大会参加者からお金をとらず、ゲームセンター等を営む者以外の者を大会主催者とすることによって賞金付きのゲーム大会が開催できることが分かりました。

それでは、日本で、海外のような高額賞金がかけられたゲーム大会がなかなか開催されないのはなぜでしょうか?

景品類の最高額等を制限する法律として、景品表示法(正式名称は、不当景品類及び不当表示防止法といいます)というものがありますが、これが原因なのでしょうか?

制限の対象とされる景品類とは、顧客を誘引するための手段として、取引に付随して提供する経済上の利益を指します(景品表示法2条3項)。少し分かりづらいですが、お客さんの購買意欲を高めるため、商品におまけをつけたり、入店した際に抽選券等を配布するといった場面を思い浮かべてみてください。

ケース4

ゲーム制作会社Dは、参加資格をD社制作のゲーム購入者に限定した賞金付きゲーム大会を開催することにし、賞金はスポンサー会社から全額提供してもらうことにした。

ケース4では、賭博罪と風営法はクリアしているので、賞金付き大会を開催すること自体に問題はありません。ただし、参加資格を商品購入者に限定しているため、参加資格目当ての購入を誘引することにつながるもので、取引に付随して経済上の利益を提供しているということになります。したがって、この場合は、景品表示法によって提供できる最高額等が制限されることになります。

他方で、ケース4と異なり、参加資格を限定しない場合には、最高額の制限は問題になりませんし、実際、開催されているほとんどの大会で、参加資格は限定されていません。そうすると、賞金が高額にならない理由は法律のせいではなさそうです。

法律のせいでないとすればなぜか?

結論からいってしまうと、高額賞金を提供してくれるスポンサーが少ないということだと思います。

これは、日本でも高額賞金がかけられているゴルフ大会と比較してみれば分かりやすいかもしれません。ゴルフが、多くの人に楽しまれ、テレビ中継もされ、スポンサー企業において広告効果が期待できるのに対し、海外のようにゲームがeスポーツとして認知されているとはいえない状況で、ゲーム大会の動画中継も限られた人間にしか視聴されておらず、広告効果が期待できないということです。

蛇足ですが、海外のゲーム大会についてみてみると、多くのユーザーから継続的に得ることが見込まれるゲーム内課金を利用して賞金として積み上げて増やしていったという例もあります。

この課金システムを利用した賞金額積上げ方式は大変面白い方法ではありますが、プレイヤーの出したお金が賞金として分配されているととられかねないため、賭博罪に当たるおそれがあります。そのため、この方式を日本でとることには慎重でなければなりません。

おわりに

以上のように、ゲームセンター等を営んでいない者が主催者となって、参加費をとらず、参加資格も限定しなければ、賞金に限度額のないゲーム大会を開催することに法律上の障害はありません。あとは法律の話からはそれてしまいますが、スポンサーを獲得していくためには、ゲーム・eスポーツのファンを増やすということに尽きるのではないかと思います。

そのためには、ゲーム大会の露出を増やしたり、見ているだけで楽しめるようなゲームを題材にする、実況を分かりやすくすることによって、ゲームプレイやゲーム視聴に対するハードルを下げるといった普及活動がポイントになってきます。

最近では、アニメ・声優の専門学校でプロゲーマーやゲーム実況者等eスポーツ関連人材の育成を目的にした専攻が新設されたり、秋葉原にeスポーツ専用施設が誕生したりとその下地は整いつつあるので、今後の展開に注目していきたいと思います。

GamesLaw(ゲームズ・ロー)

「ゲーム」を軸に集まった法律家の集団。多様な領域と交流しながら、ゲームやスポーツに携わる方々の支援を行っています。

http://games-law.com/

執筆

恵比寿南法律事務所
弁護士 服部 匡史

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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