フロム・ソフトウェアが2016年3月24日に発売するPS4/Xbox One用ソフト「DARK SOULS III」。本作のディレクターを務める宮崎英高氏にインタビューを行ったので紹介しよう。
目次
フロム・ソフトウェアが贈るアクションRPGシリーズ「DARK SOULS」。2011年に第1作目が発売されると、瞬く間に世界中のRPGファンを魅了し、今や同社を代表する作品にまで成長したタイトルだ。高難易度を誇るアクションはもちろん、探索のたびに新たな発見のあるフィールド、そしてプレイヤーの想像力を掻き立てるストーリーや世界観…その魅力を語り始めたら枚挙にいとまがない。また、昨年にはソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンスタジオとタッグを組んだ「Bloodborne」が発売され、やはり高い評価を得たことも記憶に新しい。
そして、満を持して登場するのが、「DARK SOULS III」だ。これまでのシリーズを踏襲しつつも、バトルの幅を広げる「戦技」の追加、PS4/Xbox Oneの力によって実現できたリアルなステージにより、ダークファンタジーの世界を一層引き立てる作品に仕上がっている。
今回Gamerでは、本作のディレクターを務めたフロム・ソフトウェアの取締役社長・宮崎英高氏にインタビューを実施。ここまでの道のりやアクション、世界観・ストーリーにまつわる話をたっぷりと語ってもらった。その中で宮崎氏は、「DARK SOULS III」を“ひとつの区切り”として捉えていると語っている。その真意についても伺ってきたので、ぜひ読み進めてほしい。
これまで以上の緊張感と、戦略性のある剣戟バトルを味わって頂けるかと思います
――本日はよろしくお願いします。今回は「DARK SOULS III」がまもなく発売を迎えるということで、ここまでの道のりなどをお伺いできればと思います。
宮崎氏:よろしくお願いします。
――まずは作品が完成した現在の気持ちや、これまでを振り返っての感想はありますか?
宮崎氏:昨年リリースした「Bloodborne」と開発を並行していたこともあり、本作の開発期間は非常に忙しいものでした。ですから、マスターアップを終え、まずはホッとしています。ただ振り返ってみると、開発を並行していたことは、決してマイナスではありませんでした。「Bloodborne」と「DARK SOULS III」、それぞれが刺激を与え合う、よい開発環境が築けたと思っています。
――「Bloodborne」は初めてのPS4用タイトルでしたが、その開発で得たノウハウを「DARK SOULS III」に活かす機会もあったのでしょうか。
宮崎氏:それはもちろんです。技術的な知見を中心に、ノウハウのフィードバックは非常に多くありました。 そのことは本作の端々に、例えばスケール感を増した立体探索マップなどに、感じてもらえると思います。
――ハードがコミュニティを強化してくれたことは、開発面でも役に立ったのですか?
宮崎氏:そうですね。「DARK SOULS」のシリーズは、ユーザーさんのコミュニティ、その盛り上がりに支えて頂いている部分があると思いますし、だからこそ、今世代のハードがコミュニティを重視しているのは嬉しく思っています。ですが、ゲームそのものとコミュニティを直接結びつけることは、あまりしていません。ゲームの遊び方の自由度というか、いい意味での「隙」があり、ユーザーさんがそれを見つけて楽しんでくれる、というのが、「DARK SOULS」シリーズらしいと思っています。
――確かに、ユーザー同士が自然に盛り上がったほうが、熱量も上がりやすいですからね。メーカーが介入すると、とたんに冷めてしまうケースもよく聞きます。
宮崎氏:まあ正直に言えば、そのあたりはよく分からないんですよね(笑)。自分自身そうしたことが得意とも思えませんし、だから下手な手出しは考えていません。それに何より、私は現状の「DARK SOULS」のコミュニティが好きなんですよ。
――なるほど。では、アクション面についてもお伺いしたいのですが、操作感覚という点では新しさはあるのですか?
宮崎氏:ゲームを触って頂けると、すぐに感じて頂けると思いますが、「DARK SOULS」シリーズの過去作と比較すると、テンポよくキビキビと動くようになっています。
――プレイ映像を見るだけでも、スピーディーになったことはすぐに分かりますね。このスピード感は、開発当初から意識していたことなのですか?
宮崎氏:そうですね。DARK SOULSシリーズのコンセプトとして「困難に挑み克服する達成感」というものがありますが、本作では、そうした困難に操作性のストレスなく挑んでもらおう、という狙いは開発当初からありました。また逆の見方をすれば、快適な操作性を前提とすることで、難易度における容赦が減った部分もあるかもしれませんね(笑)。
――ある意味では、スピード感そのものがプレイヤーの武器になっているとも言えそうです。
宮崎氏:はい。その通りだと思います。また、本作の操作性を決めるにあたって、主題ではありませんでしたが、「Bloodborne」の影響があったことも事実です。それは、先に「Bloodborne」をプレイしたユーザーさんが本作をプレイしたときに、「ゲーム性云々よりも先に、ゲームスピードや操作性に強いストレスを感じてしまう」ことを避けたかった、ということです。
――少なくとも、これまでの「DARK SOULS」シリーズのイメージとはかなり違いそうですね。
宮崎氏:はい。動きがよくなったのは敵もまた同じなので、これまで以上の緊張感と、戦略性のある剣戟バトルを味わって頂けるかと思います。
――先ほどのお話に「剣戟」というワードも出てきましたが、こちらはなにか新しい要素が加わったのですか?
宮崎氏:剣戟バトルで言えば、やはり一番大きな要素は、新しく追加された「戦技」ですね。本作では武器毎に固有の「戦技」が設定されており、例えばロングソードであれば「構える」ことができ、そこから特殊な攻撃を繰り出すことができますし、例えばメイスであれば「我慢する」ことができ、敵の強力な一撃にもよろめかずに持ちこたえることができたりします。
――武器ごとでまったく変わった戦い方になりそうですね。
宮崎氏:「戦技」採用の狙いは主に2つあります。それは、各武器の持つ戦術性、戦い方の幅を深めることと、各武器の持つロールプレイ性、それぞれの武器らしい戦い方を可能にすることです。「戦技」については、我々もとても楽しみながら開発できたところなので、ユーザーさんにも、戦術性とロールプレイ性、両面で「戦技」を楽しんでもらえればと思います。
――今まで以上に、好きな武器は人によって変わってくるかもしれません。
宮崎氏:そうですね。そうなってくれたら嬉しいです。また、本作にはマルチプレイの要素もありますから、そこでのロールプレイや、戦術の発見などもあって欲しいと思っています。
――オンラインの部分では、新しい要素はなにかありますか?
宮崎氏:過去作との比較で言えば、オンラインの最大人数が6人になったのは大きいと思います。とはいえ、基本は4人で考えています。今までと同じ、ホスト1、霊体2、闇霊1というバランスですね。この基本バランスを、「干からびた指」というアイテムを使うことで、敢えて破ることができるんです。
――マッチングに関しては、前作までと比べて変化はありますか?
宮崎氏:マッチングについては、「DARK SOULS II」と比較して何点か変わっています。マッチングのベースは総取得ソウル量ではなく、レベルになっていますし、マルチプレイにおける時間制限もありません。また、「Bloodborne」でも採用された合言葉マッチングが本作でも採用されています。
――合言葉マッチングは確かに便利でしたね。
宮崎氏:はい。合言葉マッチングでは、マッチングにおいてレベルを考慮せず、代わりに、レベル差が大きく開いていたときの能力調整を実装しています。
「DARK SOULS」というゲームは、いろいろなモノを探索なり発見なり理解なりの対象としています
――敵との戦いの他に、広大なマップを探索することも本作の魅力だと思います。毎回立体的で複雑なマップを搭載していますが、宮崎さんなりのこだわり、あるいは苦労はあるのですか?
宮崎氏:「DARK SOULS」シリーズのマップは、ビジュアルとレベルを並行してデザインすることが多く、ディレクションの難易度が高いのは事実なのですが、ごく個人的にはとても楽しい部分で、あまり苦労は感じません。特に今作では、PS4/Xbox One世代のパワーにより、今までにないマップのスケール感が可能になりましたから、とても楽しかったですね。また拘りということでは、探索の結果ユーザーさんの中で地図が描かれるというか、マップの構造や繋がりが理解されることを、その気持ちよさを重視しています。
――確かにプレイしていると、最初は複雑に感じるマップも、いつの間にか構造を覚えられているんですよね。
宮崎氏:だとしたら嬉しいですね。「DARK SOULS」というゲームは、いろいろなモノを探索なり発見なり理解なりの対象とし、その気持ちよさを感じてもらえるようデザインされていますが、マップについても、その大きな対象の1つなんです。
――マップ構造には、宮崎さんにあるコンセプトも隠れているのですね…。では、「DARK SOULS III」のマップもこれまでと同じく、立体的な構造をイメージしていいのですか?
宮崎氏:はい。私の過去のディレクションタイトルと同じく、癖のある立体マップになっていると思います。
――これも関連作との比較になりますが、マップ全体のボリュームはどのくらいになりますか?
宮崎氏:そうですね。正確に測ったわけではありませんが、初代「DARK SOULS」や「Bloodborne」よりは大きく、「DARK SOULS II」よりは小さい、というくらいかと思います。
――作り方という意味では、ストーリーや世界観も気になるところです。本作のPVからも「薪の王」など、シリーズとのつながりが見られるワードもありました。こういったストーリーの着想はどこから来ているのでしょうか。
宮崎氏:本作のストーリーについて言えば、本作を「DARK SOULS」シリーズの大きな区切りとして位置づけたときに、自然と出てきたイメージですね。初代「DARK SOULS」、そして「DARK SOULS II」と積み重ねられてきた、火継ぎと死の先にある世界、そして物語です。続編を作る機会があまりないので、折角というのも変ですが、そうした続編らしいアプローチもありかなあと。もちろん、前作や前々作をプレイ済みでないと分からない、という風にはしていませんので、ご安心ください。
――ちなみに、そのルーツを教えてもらうことはできますか?
宮崎氏:うーん、すみませんが、それはやめておきましょう。単純に恥ずかしいですし(笑)、ユーザーさんの想像する余地を、変な角度から奪ってしまうかもしれませんから。
――いえいえ、問題ないです。ところで、今お話にあった「想像する余地を残す」という部分について、どこまでをゲーム内で語り、どこからユーザー側の想像に任せるか、この線引きで気をつけている点はありますか?
宮崎氏:これは、マップの話と基本的に同じですね。「DARK SOULS」というゲームでは、世界観や物語もまた、ユーザーさんの探索、発見、理解の対象であり、であるからこそ、それらが特別な価値を持ち、ユーザーさん自身のものになっていくと思っています。ただ、だからといって完全に丸投げでよいはずもなく、そのさじ加減はとても難しいものです。私自身、まだまだの部分が多く、試行錯誤の繰り返しですね。
――ストーリーについても、ユーザー本位で考えていると。
宮崎氏:ストーリーが、ユーザーさん自身のものになって欲しい、と思っています。あ、あとその為に、もうひとつ気を付けていることがありました。特にゲームの発売後がそうですが、こういったインタビューで、余計なことを言わないことです(笑)。
――ははは(笑)。いやでも、耳の痛い話でもあります。
宮崎氏:いえ、これは単純に私の問題で、私自身の口で語ることがあまり得意ではないんですよ。
――宮崎さんのそういった考えのおかげもあってか、「DARK SOULS」シリーズは多くのファンがストーリーを考察したり、議論する作品になりましたよね。
宮崎氏:はい。それはとても嬉しいことです。私自身、時にそういった議論をこっそりと覗き、楽しんでいますね。
――「DARK SOULS III」に関しても、ユーザーが議論できるストーリーになっているのですか?
宮崎氏:それはそうだと思います。ただ、先ほどもちらっと出た話ですが、本作の世界なり物語なりを、過去作の積み重ねの先にある続編として描くために、過去作であった幾つかの不確定な事項を、どうしても確定的に語る必要はありました。
――前作で議論や考察を楽しんだ人も大勢いますし、難しいところですね。
宮崎氏:はい。悩んだところではあります。ただ、そうして確定的に語られた事項は、必ずしも過去作における正解であるとは考えていません。元々がマルチエンディングのゲームですから、確定的に語られる事項もあり得た可能性の1つであるにすぎませんし、それ以外の解釈を否定するものではないつもりです。繰り返しになりますが、過去作における物語は、それをプレイしたユーザーさんのものですから。
「DARK SOULS III」は“大きな区切り”
――宮崎さんといえば、2014年からはフロム・ソフトウェアの取締役社長という立場でもありますよね。社長として、現在のゲーム市場をどのように捉えていますか?
宮崎氏:うーん、確かに肩書は社長なんですが、それは単に責任の話であって、私がゲーム市場なりを語るべき立場にあるとは思っていません。自分の本質はディレクターであると思っていますし、その点でも、そうした語り口には不向きだと思います。
――肩書が変わっても、ディレクターとしてゲームを作り続けるスタンスに変わりはないと。
宮崎氏:そうですね。それが実際のところですし、仮に何かしらのメッセージがあれば、ゲームで表現すると思います。なので、社長という肩書が付いた後も、ディレクターとしてはあまり変化はありません。周囲もサポートしてくれるというか、甘やかしてくれるので(笑)、ゲーム制作に集中できていると思います。本当に感謝しています。
――では、プロモーションなどを考えることも…。
宮崎氏:最近では、そういったところに関わることはほぼありませんね。元より得意なところでもありませんし、プロモーションチームにできるだけ任せ、私はディレクターとして、ゲームそのものの制作に集中するようにしています。現状私がプロモーション関連でディレクションしているのは、弊社が作る何本かのPVと、同じく弊社から提供するスクリーンショット素材くらいですね。他は本当に手を離れており、下手をすると世の中に出てはじめて知るものなどもありますね(笑)。
――なるほど…。それと、先ほどさらっと「一区切り」という言葉が出てきて驚いているのですが、こちらの真意というか、決断することになった理由を教えてもらえますか?
宮崎氏:それは単純に、私ないし我々が、新しい刺激が必要な時期にきていると感じたからですね。特に私は、「DARK SOULS」というシリーズに強い思い入れと愛着がありますが、それでも、あるいはそれ故に、一旦そこから離れることが必要であると思いました。それは何より、我々らしいゲーム作りをこれからも続けていくために、です。
――新しいチャレンジに踏み出すための決断なんですね。
宮崎氏:はい。そうです。また、そうした決断は、本作にも非常によい影響を与えたと思います。これがシリーズの大きな区切りであることには、やはり特別な感慨があり、それによりチームの士気も特別なものになりましたから。
――その言葉を聞いて、ますます期待が高まりました。
宮崎氏:ありがとうございます。もうすぐ発売日ですが、実際にその期待に応えられれば嬉しいですね。
――「DARK SOULS III」はもちろん、新しいチャレンジにも期待しています。本日はありがとうございました。