2万字超の大ボリュームでお届けする、バイキングが全国稼働予定のアーケードゲーム「マジシャンズデッド(MagciansDEAD)」のロングインタビュー(その1)!本稿では同社の代表取締役兼ディレクターの尾畑心一朗氏へ、開発やパブリッシングにいたるまでの想い、ゲームのコンセプトについて尋ねている。

目次
  1. 僕らのゲーム作りは“LEGO ブロック自体を作ること”
  2. その手に魔法と超能力を実現するために
  3. 続きはロングインタビュー(2)へ!

スクウェア・エニックスの「ガンスリンガー ストラトス」シリーズなどの開発元として、アーケードゲーマーからの認知度が非常に高いデベロッパー、それが株式会社バイキングである。

そんな同社が今年2月のこと、JAEPO 2016にて新作アーケードゲーム「マジシャンズデッド」を発表するとともに、アーケード事業におけるパブリッシャー展開に乗り出すことを明らかにした。稼働に先んじて5月末から6月上旬にかけて行われたロケテストでは、思わず目を奪われてしまう“その斬新なプレイスタイル”に耳目が集中していたものだ。

そんなわけで今回は、6月4日に東京は池袋GIGOのロケテストで実際にプレイをしてみた筆者が「すげえぞ! このゲームは!」と感銘を受けた結果メールを送ればいいもののその場で店舗のスタッフさん経由で営業を試みたところ大変嬉しいことに名刺1枚のツテから開発者インタビューの機会に繋がったことから……はぁはぁ、その様子を記事にして紹介していくことになった。

今後のアーケードシーンの均衡を切り崩さんとするバイキングの一手とはいかなる切り口になるのか? それは読んでからのお楽しみということで(※最初にゲームプレイの雰囲気を知っておきたいという人は、こちらのプレイレポートにも目を通しておこう)。

僕らのゲーム作りは“LEGO ブロック自体を作ること”

尾畑心一朗氏
尾畑心一朗氏

――本日のインタビュー、よろしくお願いいたします。

尾畑氏:はい、よろしくお願いします。

――はじめに、尾畑さんとバイキングの遍歴を教えていただけますか。

尾畑氏:はい、バイキングは2008年にできた会社で、今年で創設8年目となります。僕は元々、プランナーとして大阪のカプコンさんに15年ほど勤めていたのですが、その頃はアーケードゲームを中心に、さまざまなタイトルの制作に携わっていました。

ただ、一時期を境にカプコンさんではコンシューマゲームに注力し、アーケード事業を大幅に縮小することが決定されました。それでも僕は当時からアーケードゲームに対する思い入れが強かったので、「イチかバチか、自分でやってみよう!」と考えたことから、人も仕事も多い東京に来て、バイキングを立ち上げることにしたんです。

――素晴らしい決断力ですが、不安などはありましたか?

尾畑氏:ありましたね。当時はちょうど家内が妊娠していた時期だったので、「僕、会社辞めようと思うねん」と伝えたら、当然ですが少し、いやかなり驚かれました。これから生まれる赤ちゃんもいたので……(笑)。ですが、家内が僕の熱意に納得してくれたことで、1人(奥さん+子供)で会社をスタートさせることができました。

――その当時はどのような事業を想定していたのでしょう。

尾畑氏:僕はそれまでプランナーやディレクターとして活動していましたので、当初は“プランナー専門企業”のような形でした。そこから少しずつ仕事をいただけるようになり、昔なじみの仲間をはじめ、人材も徐々に集まり、仕事の成果を評価してくださったスクウェア・エニックスさんからは弊社の代表作「ガンスリンガー ストラトス(以下、ガンスト)」を開発させていただき、今では80名規模の会社にまで成長させることができました。

――御社は今回初のパブリッシング事業に挑まれますが、その理由とはなんでしょう。

尾畑氏:パブリッシングに挑むことは、僕が独立したときから考えていたことです。社内でも数人ほどいる、会社立ち上げの間もない時期からいるスタッフは今でも覚えてくれていると思いますが、僕はバイキングは最初から「小さな“メーカー”になるから」と伝えてきたんです。

――小さなメーカー、ですか。

尾畑氏:例えば大きな企業では、開発側が自由にできることは開発内に限定されていて、宣伝やメディアミックスなどは違う部署の管轄になってしまいます。つまり、小さなメーカーとはそれらの風通しを良くしつつ、よりコンパクトにまとめたいという意味なんです。

これまでもバイキングではいくつものゲーム開発を進めてきましたが、デベロッパーである限りはデベロッパーのままでした。僕らが作るゲームは、ゲーム内容に関してはある程度の自由な裁量が与えられていても、作ったゲームをどのように展開していくのかは、相手方の企業であるパブリッシャーに委ねられています。

これは当然の話ですし、当然の権利です。そこで僕らが「どうせならアニメ化しましょう」「せっかくだし映画化しましょう」「うまくいったら海外展開しましょう」などといっても、それはあくまで提案でしかなく、僕らはそれに対する判断も責任も負うことができません。

――つまり、制作物の展開を全て手掛けるためのパブリッシング進出というわけでしょうか。

尾畑氏:そうです、「どうせゲームを作るなら、その後も全て自分たちで判断したい」という思いからの決断です。あと、僕はアーケードが大好きなので、アーケード業界に本腰を入れたいんです。作ったゲームをただ他社さんのもとで提供させてもらうだけでなく、アーケードという場所に根付いて、5年や10年とトータルで見て、業界に貢献していきたいんです。そうなると、もうパブリッシャーになるしかないですよね。

――私が聞いてきた中では、一番分かりやすいパブリッシャーになる理由でした。

尾畑氏:ありがとうございます(笑)。

――では、ゲームのお話に移りたく思いますが、まず「マジシャンズデッド」の略称をお伺いしておいてもよろしいでしょうか?

尾畑氏:社内や公式Twitterでは「マジデ」と言っていますね。

――そのマジデですが、「マ(↑)ジ(↓)デ(↓)」と「マ(→)ジ(→)デ(↑)」のどちらのイントネーションになりますか?

尾畑氏:んー、「マ(→)ジ(→)デ(↑)」ですかね。ただ、僕は関西出身なので自然と「マ(→)ジ(→)デ(↑)」なのですが、関東では「マ(↑)ジ(↓)デ(↓)」と言われる方も多いようなので、好みで呼んでください。

――それでは改めて、マジデの簡単な紹介からお願いします。

尾畑氏:僕はゲームを作る際のコンセプトとして、「自分が“こんな体験”ができたらいいのに」を大元として考えています。例えばガンストの場合は「この世で一番、撃ち合いが楽しいゲームを作りたい」と思い、あのような形式を創ることができました。

今回のマジデの場合は「この手で魔法や超能力を自在に使えたら、どのようになるだろう」からはじまっています。X-MENやハリー・ポッターの世界観のように、敵も味方も超常的な力で戦い合うゲームを作りたいと考えたんです。

――詳しくは後ほどお伺いしますが、筐体の斬新さには誰もが目を剥いていると思います。

尾畑氏:ボタンを押して「火を吐く」「ビームを出す」はよくあります。でも、自身の手でより体感的に操作したいがために、今回の「モーションセンサー」と「グリップコントローラー」を追求してきました。

もう一つ、これはいろいろな場所で言ってきましたが、僕は「スター・ウォーズ」が大好きなんです。ジェダイになりたいとまでは言いづらいのですが、フォースの力は実際に使ってみたかったんです。目の前にあるペンを、フォースの力で手元に引き寄せたかった。それを可能にするためのゲームがマジデというわけです。

今回、プレイレポート担当に初プレイさせてみたが、アーケードゲームに慣れている人ならすんなり遊べる模様。

――「魔法・超能力を使いたい!」からはじまり、実際のゲームデザインについてはどのように詰められていったのでしょう。

尾畑氏:僕は「面白さ」と「楽しさ」を分けてゲームを作っているのですが、マジデでは最初にゲームとしての面白さを作るべく、魔法・超能力を使ったチームプレイにしようと考えました。チームプレイであればユーザー同士の戦術に、互いのチームが対処し合うなど、対戦ゲームとしての自由度が高まりますから。それでいうと、僕らのゲーム作りは“LEGO ブロックで箱庭を作ること”に似ているんですよね。

――LEGO ブロックですか? どのような意味なのでしょう。

尾畑氏:はい、僕たちの作るゲームというのは「用意したシステムに沿って決まったとおりに遊んでください」というものではなく、例えば「しっかりと考えられた幾つものLEGO ブロックを使って、プレイヤーが自由に遊んで工夫・想像して楽しんでください」という、ユーザーが遊びを作り出していける開発の仕方なんです。

これが上手くいくとユーザーさんたちは、「じゃあ、これとこれを組み合わせて、こんなのできた!」と自由な発想でゲームを遊んでくれます。それはときには僕らが想像していなかった形にまで発展していくんです。

――御社のタイトルを遊んだことがある人には、共感しやすい発想かもしれませんね。

尾畑氏:こちらがゲームの決まった遊び方を提供してしまっては、ユーザーさんがプレイしてくれるのはそこまでです。自分たちの発見が無くなってしまうんです。だから、ユーザーさんが想定外の事柄を見つけてしまって、それに対して僕らが「そんなこともできちゃうの!?」とビックリするくらいのほうが、飽きずに長く遊んでくれるのだと考えています。

これはマジデにもいえることで、「仲間と協力すれば、こんなことができちゃう」ができますし、相手チームも多彩な戦術をもって向かってくるはずなので、ユーザーさんはさまざまに思考してくれるはずです。対戦ゲームにおける戦術のぶつけ合いは永遠に答えの出ないものですので、僕らはその基本となるものを作り上げたいんです。

――メインターゲットはどのような層を想定しているのでしょう。

尾畑氏:メインとしましては学生から社会人まで、20代から30代と想定しています。マジデは反射神経で遊ぶスポーツ寄りのゲームではありますが、体感速度よりも戦略性を重視していますので、ハイスピードなゲーム以外も遊びたいと思う、“今のアーケード対戦アクション環境で届いていないユーザー層”にリーチできればと考えています。

――今回、ビデオゲーム筐体を選んだ理由はありますか?

尾畑氏:先ほど言ったアーケードで5年10年と活動していくための一環ですが、それにもゲームセンターにできるだけコストをかけさせたくなかったんです。昨今では一つのゲームを購入するのに店舗様が100万円、200万円と支払うのが普通で、僕らが関わってきた過去のタイトルでも数台1セットで数百万円という価格が珍しくない状況です。

もちろん、そういうゲームでもインカム(ゲームセンター内の売上・収入)が上がるのであればいいのですが、これでは僕の好きな“地方の小さなゲームセンター”は筐体自体を導入することができず、話題の新作タイトルも稼働させられずで、ユーザーさんが足を運んでくれる機会が少なくなってしまい、いずれ立ち行かなくなってしまいます。

――ここ10年、ゲームセンターの大型化はさまざまな場所で語られていますよね。

尾畑氏:これからもその流れが加速してしまうと、店舗様も不安になるでしょうし、僕たちだって不安になります。そのため、できるだけ多くのゲームセンターに導入してもらえる可能性を作れるよう、今回は既存のインフラが整備されているタイトーさんの「NESYS(NESiCAカードを利用したネットワークシステム)」を使わせていただいてます。

また、筐体に関してもタイトーさんの「VEWLIX(ビューリックス)」など、いくつかの汎用筐体にも対応させていただき、コンパネ(コントローラーパネル/ボタンやレバーがある手元の部分)周りだけを組み替えるだけで提供できる作りに仕上げました。

――コンパネへの組み込みとは簡単な作業なのでしょうか。

尾畑氏:コンパネは専用に金型も作っているので、出来上がっているものをそっくりそのまま組み込んでもらえるだけで大丈夫です。組み込み方も、ゲームセンターでの日々のオペレーションに慣れているスタッフさんであれば、簡単にできるはずです。

――ROMだけの提供に比べれば、御社にもかなりのコストが予想されるのでは?

尾畑氏:店舗様に余計なコストをかけさせず、それでいてゲームが面白ければユーザーさんが喜び、業界の活性化にも繋がります。その結果が出た後で、僕らは豊かになれる。僕たちの利益は最後でいいんです。一部の大型のゲームセンターだけではなく、日本のアーケード業界全体を盛り上げるための最初の施策が、この「マジシャンズデッド」なんです。

もちろん、今後もガンストのように専用筐体で遊ぶタイトルも別で考えていきたいです。

――御社で展開する新プラットフォーム「BNAS(仮)(ビーナス)」も同様の意味合いでしょうか?

尾畑氏:その通りです。BNAS(仮)に関しても前述したパブリッシングだったり、店舗へのスムーズなゲームの提供を考えての施策となります。

※「BNAS(仮)」とは:バイキングがサービスする業務用ゲームダウンロードサービス。対応ビデオゲーム筺体に、バイキング提供のゲームタイトルをダウンロードできるシステムで、現状はすべてバイキングによる新規開発ゲームの提供が予定されている。

――先に名前が上がりましたが、御社はタイトーさんとは長い付き合いになるのでしょうか。

尾畑氏:タイトーさんとはガンストを通じて、約5年ほどの付き合いになります。そのため、今回はタイトーさんのNESYSでやらせていただくことになりました。もちろん、ビデオゲーム筐体のネットワークシステムだけを見れば、NESYS以外にも同じようなシステムを構築されている他社さんのシステムはあります。ですが、やはりこの5年間の付き合いが重要なんです。

――といいますと?

尾畑氏:僕らのこだわりとか、ゲームとして絶対に譲らない部分とか、すごく分かってくれているんですよ。会社としての駆け引きもなく、ゲームのことだけを考えられるおかげで、話が進むのもとても早い。タイトーさんには本当に感謝しています。

――バイキングさんの心強いパートナーなんですね、タイトーさんは。

その手に魔法と超能力を実現するために

――ここからゲーム面についてお伺いしていきます。はじめに、マジデのストーリーのコンセプトからお教えください。

尾畑氏:企画当初から魔法使いと超能力者が戦うという構図は決めていました。しかし、これまでの対戦ゲームでは対等な2つの組織や集団が対立する構図が多く見られましたので、そのオーソドックスになりがちな部分をすこしだけ捻りたかったんですよね。

――意味はなんとなく分かります。物語のイントロダクションを見ていると。

尾畑氏:あくまでイメージですが、まず魔法使いと超能力者を「古風」と「未来」、「ファンタジー」と「SF」みたいに捉えています。そのうえで両者が戦う理由とちゃんと作りたかったのですが、イメージからいって未来感がある科学的な超能力者と、古典的で文化的な魔法使いであれば、後から生まれた存在であろう超能力者側に、戦う理由を作りやすいと思いました。

――その結果、魔法使いたちは“魔女狩り”で迫害されてしまうことになるのですね。

尾畑氏:マジデの戦いは、対等な組織同士が火花の中心点で争うのではなく、“超能力者に追われ、戦わざるを得なくなった魔法使い”という構図に持っていっています。もちろん、超能力者にも戦わなければいけない理由があるので、構図で見られるほど単純ではありません。それぞれの正義を作るために、このように仕立てたんです。

――ストーリーの真相はゲーム内で明かされていくのでしょうか?

尾畑氏:プロットは既に用意していますが、ゲーム内で明かされるというものではありません。マジデでは今のところ、ストーリーモードの導入を予定していないんです。そのため、対戦中のキャラクター同士の掛け合いや、公式サイトなどでのテキスト資料で、バックストーリーを徐々に明かしていこうかと考えているところです。

――つまり、ユーザー側がフレーバーテキストから物語の布石などを読み取り、そこから物語を想像して補完していく、そういう形式になるのでしょうか。

尾畑氏:そうなります。興味を持っていただけるとありがたいのですが。

――同様に、対戦ではゲーム性とストーリー性が切り離されていると言っていいのでしょうか? 例えば、「超能力が大嫌いな魔法使い」と「魔法が大嫌いな超能力者」でもチームを組めるなど。

尾畑氏:最初は悩みましたが、マジデはどうしても対戦ツールとしての色が濃くなります。そこを分けずにいると、対戦時の公平さを保つために両陣営のキャラクターの性能を同等にせねばならず、“キャラクターはいっぱいいるのに中身がほとんど同じ”という、非常にもったいない作りにしなくてはならないんです。

僕は登場キャラクターの数だけ個性を出して、その組み合わせの分だけ戦術の掛け算ができる、その方が断然面白いと思うので、対戦ではゲーム性とストーリー性を切り離しました。「遊びは遊びで割り切ろう」というスタンスですね。

――ロケテスト時には、登場キャラクターは魔法側が4名、超能力側が4名の計8名でしたが、今後はどれくらい増えていくのでしょうか。

尾畑氏:キャラクターは今後控えているイベントだったりで、徐々に明かしていく予定です。稼働開始時には10名以上になるよう作業を進めています。

――キャラクターが扱う力は「火」「水」「風」「雷」とありますが、こちらも今後は増えていきますか?

尾畑氏:僕らはそれらを属性と呼んでいますが、仮に「スター・ウォーズ」のフォースのように本当に不可視にしてしまうと、視覚的に分かりづらいので属性を付けました。属性は今後増やしていく予定ですが、ある程度以上は増やさない予定です。

マジデでは水+雷の組み合わせで辺りを感電させたりと、属性ごとの相関関係が生む連携効果が発生するようになっているので、あまり増えすぎるとややこしくなってしまうんです。

――キャラクターデザインにはあきまんさん、コヤマシゲトさん、浅井真紀さん、島崎麻里さん、ワダアルコさんとかなりの顔ぶれを揃えていますね。

尾畑氏:パブリッシングの第1作目ということで、「すごい方ばかりに頼もう!」のスタンスでお願いさせてもらいました。コヤマさん、島崎さん、ワダさんは初代ガンストからお世話になっていますし、あきまんさんは当時の僕の先輩で、ガンスト2でもお世話になりましたので、絶対に外せないなと。もちろん浅井さんも凄腕で、みなさん忙しい方々でしたのでかなり無理を言ってしまいました。

――デザインに関してのオーダーなどはされましたか?

尾畑氏:いえ、僕らからは「キャラクターコンセプト」と「どんな能力を使うのか」を提示しただけで、実際のデザインに関しては各々が考え抜いてくれたものになります。まだお見せできていないキャラクターも含めて、すごい仕上がりになっていますよ。

――5人もキャラクターデザイン担当がいると、一体どうなるのでしょう?

尾畑氏:ミーティングとかすごかったですよ、5人も大御所がいましたので。うちからもアートディレクターが負けじと発言していましたが、そこは相手が百戦錬磨の方々でしたので、最終的にタジタジになりながらでしたね(笑)。

超能力者:シヴァン 超能力者:ドス
超能力者:ロック 超能力者:アイス
魔法使い:クラリス 魔法使い:リプル
魔法使い:アクシリア 魔法使い:ロキ

――サウンドにも甲田雅人さん、下村陽子さんと豪勢なクリエイターが参加していますが、こちらへのディレクションはいかがでしたか。

尾畑氏:サウンドは、カプコン在職時に私の同期であった甲田さんと、現在はさまざまな場所でご活躍されている下村さんにお願いしています。また、マジデの楽曲は「魔法使い」と「超能力者」、それぞれの曲を両者にお願いしています。お二人それぞれの個性が出た「魔法使い」「超能力者」の曲になっています。

こちらからオーダーしたのは、魔法使いならクラシカルでオーケストラを使うような重厚なもの、超能力者ならロックとは言わないにしても近代的で電子的なもの、あとは両者に「インパクト重視で、曲の鳴り始めから20秒間に全てを注ぎ込んでください!」とお願いしています。

――“鳴り始めの20秒”に、なにか意味があるのですか?

尾畑氏:やはり対戦ゲームですので、対戦時にユーザーさんが音楽に耳を傾けられるのって、最初の5秒くらいなんですよね。対戦がはじまると音楽どころじゃなくなってくるので(笑)。

――確かに、ああいうのって不思議なくらい耳に入らなくなりますよね。効果音とかの対戦情報は耳を立てて聞き取るのに。

尾畑氏:ですが、こちらが最初の20秒というオーダーを出しても、甲田さんも下村さんも3分、4分とBGMの全てに全力を注いできますので、出来上がった音源を聴いてみると「うわっ! すっごい作りこんでる!?」となります。本当にすごいです。そして2人の作ってくれた音楽に関しては、僕らとしてはものすごく満足しています。

――それでは、筐体の一番の特徴である「モーションセンサー」と「グリップコントローラー」が生まれた経緯もお聞かせ願えますか。

尾畑氏:魔法と超能力をどのように表現し、体験させるかには難儀しました……。最初の案はタッチパネルでした。しかし、既存の筐体を使う以上、モニターをタッチパネルに貼り直すことはできないので、コンパネの上にタブレット型の端末を取り付けて、それで操作しようと試みたんです。

――結果は存じていますが、いかがでしたか?

尾畑氏:研究を進めはしたものの、どうも操作が直観的ではない。モニターに直接タッチしているならまだしも、脇にあるタブレットのモニターから操作するというのは体感的でもなく、「なんか違う」と感じてしまって、振り出しに戻りました。

そして約1年半ほど前です。スタッフが「非接触のモーションセンサーって知ってますか?」と聞いてきました。これは立体的な操作を可能としたコンピュータデバイスで、簡単にいえば指や手の動きで画面を操作できるものでした。すぐさまみんなで「これにしよう!」と決め、研究のために早速購入しましたよ。タブレット案はその時点で破棄でしたね(笑)。

――XboxでいうKinectなど、高感度センサーの機器類ですね。そのモーションセンサーから先はどのような流れでしたか?

尾畑氏:はい、デバイスとしては素晴らしかったのですが、この技術を応用してモニターやプログラムに対応させるとなると、どうしても時間がかかることが判明しました。そして、僕は開発者であると同時に会社の経営者でもありますので、2ヶ月、3ヶ月と、結果が出るか分からないものに漠然とリソースをつぎ込むのは怖いと感じてしまったんです。

ただ、僕はアーケードゲームというものはプレイするのが楽しいと同時に、“見ているだけの人でも「おっ? これは?」と感じられること”が大切だとみています。ガンストの筐体もまさにそれです。そこで「このシステムでゲームを操作しているのを見た人は、どのような反応をしてくれるのか? 実験してみたい」と思いました。

――実験ですか?

尾畑氏:当時、元々タッチパネルで操作していたときの名残として、マウスでカーソルを動かして、クリックしたら魔法/超能力で車が持ち上がるなど、ゲームとしてのシステムはできていたんです。なので、右手のマウスを操作する手をタオルで隠して、台の上にモーションセンサーを設置して、「ちょっとみんな見て、システムできた」と開発チームを20人ほどその場に集めたんです。

――それで、みなさんの反応はいかがでしたか。

尾畑氏:隠したマウスをクリックしつつ、もう一方の手で直観的に画面を操作しているように見せたところ、まるで僕の手の動きに合わせたかのように車がフワッと浮いたんです。そしたら周囲の20人が「うわあーー!?」「すごーーい!?」って滅茶苦茶ビックリしてくれたんですよ。

その時に、これはイケるなと。こんなにビックリしてくれたということは、これをしっかりと作りこんでいけば、アーケードでもしっかりアピールできるなと確信したんです。

――そこでのネタばらしも怖いものですが……?

尾畑氏:「ごめん、ウソやねん」と言ってから手の上のタオルを取ったら、「○○○ぞー!!」って言われました。(一同笑)

――御社の社風が垣間見えるエピソードですが、マジデの開発チームにはどのような人材が集まっているのでしょう。

尾畑氏:そうですね、まずバイキングの中でも“0からゲームを立ち上げられるスタッフ”を選りすぐっています。中には他社さんで重要な役割を果たしていた人もいますし、初代ガンストの要所を支えてくれていたスタッフなどもいます。

――社内の人材でいうと、どれくらいの割合をマジデに割いているのでしょうか。

尾畑氏:開発の初期・中期・後期で人員が徐々に増えていきますが、社内では他社さんからの出向の方も含めて、約50人ほどですね。外部へのアウトソージングで携わってくれている方々だと、約70人規模で進めてくれています。

――完全新規のゲームで新規事業に乗り出すということで、社内の士気も高そうですね。

尾畑氏:もちろん、みな気合が入っていますよ。

続きはロングインタビュー(2)へ!

来週7月15日公開予定の「マジシャンズデッド」ロングインタビュー(2)では、詳しいゲームの内容をはじめ、ロケテストで受けた意見やそのフィードバック、筆者が感じたあんなことからこんなこと、さらに実装予定のゲームモードなどについて触れていく。気になる人は引き続きチェックしていただければ幸いです。

■ロングインタビュー(2)の記事はコチラからチェック(来週7月15日公開予定)
■プレイレポートの記事はコチラからチェック

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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