5pb.は、2016年7月3日にベルサール秋葉原にて開催されていたアドベンチャーゲームの祭典「5pb.祭り2016」にて、ADV座談会【アドベンチャーサミット G7】を実施した。
まず5pb.からは、他のステージ同様、ツイキャスでの中継出演となる代表の志倉千代丸氏をはじめ、「メモリーズオフ」シリーズを筆頭に「日本で1番多くアドベンチャーゲームを作ってきた」と称されるほど数多くの作品を世に送り出してきた市川和弘氏、「CHAOS;CHILD」「STEINS;GATE」などの「科学アドベンチャー」シリーズで知られる松原達也氏が登壇。
この3人に加え、「動物的ポストモダン」など美少女ゲームの評論でも広く知られる現代思想家の東浩紀氏、元GAMEST編集長で、ライターとして「シュタインズ・ゲート公式資料集」「科学アドベンチャーシリーズマニアックス」といった書籍の執筆も担当した石井ぜんじ氏、電ファミニコゲーマー編集長の平信一氏、元ファミ通Xbox 360編集長の松井ムネタツ氏らという、アドベンチャーゲーム事情に詳しい錚々たる面々が集結。「アドベンチャーゲームの0(過去)と1(未来)」というテーマの元、激論を交わすこととなった。
アドベンチャーゲームの歴史から、過去と近年の傾向の変化までを振り返る
まず「アドベンチャーゲームの過去」をテーマとしてトークの前半では、これまでのアドベンチャーゲームの歴史を振り返りつつ、それぞれが印象に残ったアドベンチャーゲームを挙げていく流れに。「AIR」(東さん)、「STEINS;GATE」(石井さん)、「かまいたちの夜」(平さん)、「ポートピア連続殺人事件」(松井さん)、「スナッチャー」(松原さん)など、後のアドベンチャーゲーム業界に多大な影響を与えた傑作たちの名前が挙げられていく。
そのほかにも「EVER17」に2016年11月17日にはリメイクが発売される「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」、アドベンチャーゲームに初めて画像を導入した「ミステリーハウス」、美少女ゲーム業界の大きな転換期を作った「To Heart」といった作品の名前が次々と上がり、それぞれの思い出話に花を咲かせていた。
なお、市川氏はかなりの数のアドベンチャーゲームをプレイしているものの、どうしても仕事の一貫となってしまうことが多く、ユーザー視点でプレイしたことがないため1つを選ぶのが難しいと、アドベンチャーゲームの制作側ならではの“職業病”も明かし、客席の笑いを誘っていた。
そして美少女ゲーム業界を語る上で絶対に外せないのが、Keyの「AIR」の大ヒットとともに確立された「泣きゲー」という一大ジャンル。この「泣きゲー」が数多く生み出されることになった原因を尋ねられた東氏は、「雫」や「痕」から始まった、特殊なプログラムを必要としないシナリオに特化したタイトルが歓迎されたことで、作り手の側としての敷居が下がったからではないかと推測。
選択肢すらも存在しない「ひぐらしのなく頃に」の大ヒットに代表されるように、「ゲーム性」といった要素を次第に捨てていったのが美少女ゲームの歴史であり、「ゲームでありながら、ゲームではないものを目指していった」という、数あるゲームジャンルの中でもかなり特異な進化を遂げていったのが、アドベンチャーゲームなのだという。
ただしその流れに逆らう形で、ゲーム性を残そうと試みた作品も作られており、「STEINS;GATE」もその1つ。「STEINS;GATE」では、従来のアドベンチャーゲームのような主人公の行動の選択肢が出現せず、プレイヤーが自らの操作で携帯を開き、届いたメールに返信することで、ストーリーが分岐するという特殊なシステムが採用されている。
このシステムについて松原氏によると、アニメやマンガと比較した時のアドベンチャーゲームの強みである「主人公とプレイヤーの一体感」が、ゲームシステム的な選択肢が唐突に表示されることで損なわれてしまうことを避けるという狙いがあったのだという。
事実、この選択肢を表示せずプレイヤー自らの行動によってストーリーを分岐させていくという特徴は、同じく松原氏がプロデュースする他の「科学アドベンチャー」シリーズにも受け継がれていくことになる。
また長年アドベンチャーゲームを作り続けてきた市川氏がもっとも大きな過去と現在の時代の変化として挙げたのが、主人公の人格面。かつてはプレイヤーの感情移入を阻害しないよう、その分身となる主人公に人格を持たせるのはタブーともされていたそうなのだが、近年ではその傾向はすっかりなくなったそうで、事実個性的な主人公が配置されていることも少なくない。
この変化に関して東さんは、かつては「選択肢を選ぶ主人公」だけがプレイヤーにとっての感情移入の対象だったが、「YU-NO」に代表される、選択肢やルート分岐そのものが見えること前提としたメタ的構造を含んだ作品が生まれていったことで、プレイヤーにとっての感情移入先が、「主人公の行動を眺めるプレイヤー自身」へと自然に変化していったことが大きいのではないかと、その理由を推測していた。
アドベンチャーゲームの新たな可能性について白熱した議論が交わされることに
一方の「アドベンチャーゲーム」の未来をテーマとした後半からは、ハードウェアの進歩による新しいアドベンチャーゲームの可能性について言及。
現場の視点からは、ハードウェアの進歩によってほぼ人間が認識できない領域での作業量が増えていくことはアドベンチャーゲームにとってあまり歓迎できることではないものの、性能面のアップはプログラム的に作業を楽にしてくれる側面もあり、悪いことばかりではないという。
そんな中で新たな可能性として志倉氏が注目しているのが「人工知能」や「VR」といった現在研究が進んでいる最先端のコンテンツだ。氏は、究極的にはVR空間の中で人工知能を搭載したヒロインと音声入力でのコミュニケーションをとることで自動的に物語が生まれていく、設定や舞台のみで決まったシナリオが一切存在しないようなゲームが出現するかもしれないという、未来のアドベンチャーゲームの可能性を感じさせる展望を述べていた。
3Dモデリングとそのモーションなどの表現、演出やシステム、テキストを読むそれぞれのプレイバランスにはまだまだ進化の余地は残されていると語るのは石井ぜんじ氏。ただし、少しでもゲーム性が入ってくるのを嫌がるユーザーの声も強いようで、テキストと演出・ゲームシステムのバランスは非常にデリケートで難しい問題でもあるのだとか。
またトーク中、現状のアドベンチャーゲームから解決するべき問題としてもっとも多くあげられていたのが、プレイ時間が膨大になりがちなこと。TVアニメであれば数時間も見ればある程度その作品に関して語れるようになるが、トゥルーエンドのために50時間前後のプレイを要求され、そこまでクリアすることでようやく一人前に語れるようになるアドベンチャーゲームの構造は、特に高齢のプレイヤーにとってはかなりの負担となっていることを東氏は指摘。5、6時間遊べばエンディングを迎えることができ、よりコアなユーザーはやりこみで100時間と遊べるような、さまざまなプレイスタイルに対応した作品を作れないかと訴えかけた。
この増大するプレイ時間の問題に関しては、開発側も認識しているようで、松原氏はプレイヤーがボタンを押すことで一人ずつしか会話を表示することができないという現状のメッセージ表示のシステムが、テンポの悪さにつながりプレイ時間を増大させていると分析。キャラクター同士の会話をそれぞれに被せたりする演出を挟むことで、プレイ時間の短縮を測れないかという検討もしているそうだ。
ただし、市川氏からは、アニメに寄せた演出を目指すと作業的な負担が増す上、「それならアニメでいいのでは」という結論にも繋がるため、ゲームとしての強みを追及する方がいいのではという意見も上がっていた。
そこからの流れでは、一部の熱心なファンこそついているものの、まだ海外のマーケットに受け入れられてない日本のアドベンチャーゲームが、どうすれば広がっていくかという今後の課題を、志倉氏が出演陣に質問する一幕も。
これに関しては「プレイ時間の短縮」「メディアミックスの充実」「ソーシャルメディアとの連携」「積極的なコラボレーション」などの改善策が提示されるも、やはりそういったことは既に現場でいろいろと検討されているとのこと。志倉氏によると、特に東氏が先ほどあげていた「5、6時間でも楽しめる作品」というのは常に目指している部分でもあるらしく、並列に用意された短編シナリオのどの部分から遊んでもいいという形式にできないか検討することも少なくないという。
ただ、1本の面白い膨大な物語を用意するのと比べると、複数の短く面白い物語を考えるのはかなり難易度が高いようで、実現は難しいがソーシャルゲーム全盛の現在、短時間でも楽しめるようなシナリオ構築は絶対に避けられない問題として認識しているそうだ。
一方でアドベンチャーゲームはこれまで進化をしてこなかったジャンルだけに、その分進化の余地を残しているとも考えているようで、海外などの新規ユーザーを開拓するための新たな可能性について、まだまだ諦めてはいない様子だった。
トーク中には、「暗闇に向かって50時間は費やせない」と語り、真っ先にトゥルーエンドを見て、面白そうならゲームをすべてプレイするというスタイルだという東氏から、「いつでも好きなシーンを見れる状態にしたセーブデータを有料コンテンツとして販売してほしい」という驚愕の提案も飛び出し、会場は大爆笑。もしかすると将来的には、東氏のような需要に合わせてコンプリート済みのセーブデータが販売されるような日が来るのかもしれない。
そんな終始白熱した議論が展開された座談会だったが、時間の都合もありここでお開きになるも、アドベンチャーゲームに対するこだわりが強い“濃い”出演陣にとってはまだまだ語り足りなさそうな様子。そんな中、最後には志倉氏から「全然時間が足りなかったので、ぜひ続きは居酒屋で語り合いながら、それもニコ生で配信したい」と、第2回のサミット開催に向けた意欲的な発言も飛び出しつつ、ステージは締めくくられた。