8月24日からパシフィコ横浜にて開催されている「CEDEC 2016」。ここで行われたセッション「Fate/Grand Orderを支える、“非常識”な企画術」をレポートする。

目次
  1. 「KPIよりTPI」
  2. 「ソーシャルよりパーソナル」
  3. 「継続運営より新規開発」

2016年8月24日から26日にかけて開催中のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC 2016」。その2日目にあたる8月25日に、スマートフォンアプリ「Fate/Grand Order」(以下、FGO)を題材としたセッション「Fate/Grand Orderを支える、“非常識”な企画術」が実施された。

本セッションを担当するのは、かつてはスクウェア・エニックスに在籍し「キングダムハーツ」や「ディシディア ファイナルファンタジー」といったタイトルに関わり、現在はディライトワークスで「FGO PROJECT」のクリエイティブディレクターを務めている塩川洋介氏。

塩川洋介氏

今回のセッションでは、まずリリースから約1年が経過した「FGO」の現状について明かされた。累計ダウンロード数は600万を突破し、現在開催中のイベント「カルデア サマーメモリー」は、過去最高のDAU(デイリーアクティヴユーザー)を記録。さらに中国での事前登録者が110万人を突破し、先日開催されたオフラインイベント「FGO夏祭り2016」では、会場となった秋葉UDX過去最大の来場者数を記録するなど、その人気は勢いを増す一方となっている。

そんな大ヒット作となった「FGO」だが、サービス開始当初は課題も多く、一部のプレイヤーからは手厳しい声もあがっていた。

サービス開始直後にプロジェクトに参加することになった塩川氏は、ゲーム全体の方向性を決定する役割をもつクリエイティブディレクターとして、当初の浮き彫りになっていた問題を改善しながら、その後の新規イベント立案などを担当してきたそうで、さまざまな改善を行ってきた現在の「FGO」が、どのように成り立っていったかをよく知る人物だ。

本セッションではそんな塩川氏によって、「FGO」の開発・運営において重視されているという3つのキーワードを軸に、現在の「FGO」が作られていったかが解説されることになる。

「KPIよりTPI」

まず最初に紹介された第一のキーワードは「KPIよりTPI」。多くのソーシャルゲームでは、ユーザーの課金の動向やプレイのデータをKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)として参考にすることが多い。ところが「FGO」では、KPIは敢えて一切参考にせず、TPI(TYPE-MOON Performance Indicator:型月反応評価指標)と呼ばれる、打ち合わせの際の奈須きのこ氏や武内崇氏をはじめとするTYPE-MOONの面々の反応を、重要な運営の指針としているのだという。

というのも、TYPE-MOONの面々は、「FGO」に制作側として関わりながら、誰よりも「Fate」を愛し、「FGO」をプレイしているコアユーザーでもある。そんなコアユーザーが盛り上がることなら、多くのユーザーも一緒になって喜んでくれるはずという理屈に基づいたものだ。

「FGO」の運営でもっとも優先されるのは、いかに大勢のプレイヤーに盛り上がってもらえるかという部分だ。売上などのデータよりもまず自分たちの感覚を信じるという、通常のソーシャルゲームとは一線を画す独特の方針で運営が行われているからこそ、従来のソーシャルゲーム運営の常識からは考えられないような施策が飛び出す結果になっているのだという。

その例として紹介されたのが、課金用アイテムである「聖晶石」の値下げと、サーヴァントと概念礼装の所持枠に関する課金要素の撤廃(既に使用していた聖晶石は返還)。塩川氏によるとこれらは「通常のソーシャルゲーム運営の常識で考えれば、まずありえない試み」なのだそうだが、一周年の感謝の気持ちを表すため、どういうことをすればユーザーにインパクトを与えつつ、喜ばせることができるかを検討した結果、踏み切ることになったのだという。

そしてもう一つが、「FGO」の中でも屈指の人気キャラクターである「スカサハ」の水着版の配布。最高レアにあたる星5サーヴァントとして実装することももちろんできたのだが、ユーザーに一番喜んでもらえる形にするにはどうすればいいかを念頭におくと、水着イベントの配布サーヴァントを誰にするかの話し合いで、満場一致でスカサハの配布が決定されたのだそうだ。

「ソーシャルよりパーソナル」

第2のキーワードは「ソーシャルよりパーソナル」。「Fate」という作品の魅力について、塩川氏は「奈須きのこ氏が描く世界観や物語、キャラクターである」と分析、ゲームの中でそれらの作品世界に没頭できるようにすることが何よりも重要だと考えているようで、実現のためさまざまな施策を行っている。

例えば、「FGO」では最低レアである星1から星5まで、すべてのサーヴァントのグラフィックやバックボーンの設定が平等に作り込まれており、性能面でも低レアのサーヴァントにもスキルの強化などのテコ入れが定期的に行われている。

これはもしお気に入りのサーヴァントが、レアリティが低いためにゲーム内で役に立たなかったり、明らかに手を抜いた作りになってしまった場合、作品自体への思い入れを削ぐ結果につながってしまうことが考えられるため。塩川氏は「今はまだ完璧な状態には至っていない」と前置きをしつつも、いずれは全てのサーヴァントに何かしらの使い道や役割を持たせられるような形を目指しているのだという。

次々と強力なキャラクターを実装してインフレさせるのではなく、全体を底上げしていくような調整を加えているのは、一般的なソーシャルゲームではなかなか見られない傾向だ。

また物語体験の阻害となるようなランキングイベントやPvPといった要素を極力排除していくだけではなく、CMやコラボレーションといった施策に関しても世界観を守るためのこだわりが込められている。

「FGO」ではCMすらも作品世界の一部として考えており、TYPE-MOONファンが喜んでくれるよう、芸能人を活用した実写CMは行わず、アニメーションで作品世界を表現することに留め、コラボレーションも同じTYPE-MOON作品のみに限定している。そうした理由から、「FGO」では過剰な宣伝活動を行わないような方針をとっているのだが、どのようにして新規ユーザーを獲得しているのか。

「継続運営より新規開発」

そこに関わってくるのが、最後のキーワードとなる「継続運営より新規開発」。ソーシャルゲームではサービスが続いていくと、どうしてもイベントがルーチン化し、同じことの繰り返しになってしまいがちだが、「FGO」ではこの1年間に実施された全てのイベントで、何かしらの新しいゲーム性を取り込んでいる。そのため新イベントの度にユーザーの間でどんなイベントが行われるのかの予想も大きな話題となって波及していき、新たな宣伝効果を産むというサイクルが生まれているというわけだ(ただしその分、イベントの度に新作のゲームをリリースするような負担が開発チームに掛かっているのだとか)。

またイベントだけではなく、こちらもソーシャルゲームでは非常に珍しい、すべてのレアリティのサーヴァントを最大のレベル100まで育成可能になる「聖杯転臨」の実装も行われ、大きな話題を呼んだ。塩川氏は、「薬にも毒にもならないような無難なものでは意味がない」と考えており、とにかく「ネタの衝撃度合い」を重視したインパクトのある施策が行えるよう、常に心掛けているのだという。

そんな常識はずれの企画を次々と実行している理由に関して、塩川氏は「FateのIPを使ったソーシャルゲームではなく、TYPE-MOONによる新たなFateのRPGとして開発している」からであると説明。最初から意外性を狙ったわけではなく、あくまで「Fateファンに喜んでもらうにはどうすればいいか」を突き詰めていった結果として、ソーシャルゲームの常識からかけ離れた施策が生まれることになっていったというわけだ。

最後に塩川氏は「FGO」を開発する際のもっとも根っこの部分として「ただ純粋に、Fateとしいて面白いゲームを作ろう」という強い想いがあったことを明かす。「FGO」の場合はたまたま「Fate」となっているが、この部分を他の言葉に変えることで、この考え方そのものは他のゲームにも転用することができるのではと総括する形で、今回のセッションを締めくくっていた。

Fate/Grand Order

アニプレックス

iOSアプリiOS

  • 配信日:2015年8月12日
  • 価格:基本無料

    Fate/Grand Order

    アニプレックス

    AndroidアプリAndroid

    • 配信日:2015年7月30日
    • 価格:基本無料

      ※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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