フリューが展開するインディーズADVシリーズ「カタルヒト」。ゲームコレクター・酒缶さんによる、同シリーズを立ち上げたプロデューサー・大地将氏へのインタビュー第2回と、「WORLD END ECONOMiCA」のインプレッションをお届けする。

目次
  1. 好き嫌いがあるモノを出せるのが嬉しい
  2. 「株式」を知らなくても、青春はやっぱり面白い
  3. プロフィール

フリューがインディーズアドベンチャーの良質な名作を掘り起こしていくレーベル「カタルヒト」。その第1弾として2016年7月27日に配信を開始した3タイトルのインプレッションと「カタルヒト」レーベルのプロデューサー・大地氏へのインタビューを順次掲載していく企画の第2回。今回のインプレッション部分では「WORLD END ECONOMiCA」のインプレッションをお送りします。

好き嫌いがあるモノを出せるのが嬉しい

酒缶:「カタルヒト」のプロジェクトはいつぐらいから始められたのですか?

大地将氏(以下、敬称略):去年の10月くらいに立ち上げました。

酒缶:社内で話を通す前に構想を考える期間があったんじゃないですか?

大地:構想とも言えない憧れみたいなものなんですけど、インディーズタイトルを広く紹介したいなという思いはそれ以前からありました。でもやっぱりインディーズタイトルの移植作は低価格帯でのリリースになるので、そのまま単発単発で移植してもなかなかビジネスにはなりにくいという事情もあり、なかなか実現の糸口が無かったんです。そんな中で、移植するジャンルを絞ってレーベル化することで、複数のタイトルをご紹介すれば可能性があるんじゃないか、そう思いついたのが10月という感じですね(笑)。

酒缶:「カタルヒト」レーベルは3DS限定なんですか?

大地:今は3DSのみですけど、プラットフォームは決めていません。反響次第ですけど、PSハードでも全然問題ないと思いますし、据置機でも、スマホでもアリだと思っています。ただ、最初の話に立ち返るんですけど、アドベンチャーゲームが1タイトルだけスマホでリリースされても、ユーザーはそこにたどり着けないですよね。今はまだ始まったばかりのレーベルですけど、「カタルヒト」というアドベンチャーゲームのレーベルの認知度が上がれば、別のプラットフォームであっても、「カタルヒト」と検索して探してもらえますので。「カタルヒト」がインディーズアドベンチャーゲームにたどり着くためのキーワードとして機能するようになってくれたら理想ですよね。

酒缶:それで、今一番アクセスしやすかったのが、3DSということですか?

大地:そうです。もうひとつの理由として、インディーズアドベンチャーゲームを普段遊んでいる人たちから一番かけ離れたターゲット層がいるハードが3DSだと思いました。

酒缶:確かにそうかもしれません。

大地:すでにそのタイトルのことを知っている人に買ってもらうよりも、知らない人に訴求したかったんです。バーチャルコンソールで個性的なレトロゲームを遊んでる方たちにも、インディーズゲームの作家性は相性良いんじゃないかな、なんて思うんですよねえ。

酒缶:アドベンチャーゲームという切り口ではあるんですけど、フォーマットが固まっているということは、これから出されるラインナップもノベル系に限定しているということになりますか? 分岐があるモノとか、コマンド選択があるモノとか。

大地:これからいくつか作っていくうちに移植のハードルが少しずつ下がることを想定しているので、移植できそうだと判断できたら、ちょっとずつ違ったタイプのモノも加えていきたいですね。まずは反響をいただいて、レーベルが定着してからです。最近のインディーズアドベンチャーはノベル系のタイトルが多いので、ノベル形式をフォローしておけば大丈夫だと思っているのですが、現時点でも移植したいけどハードルが高いな、と思っているタイトルはあります。

酒缶:プロジェクトが決まってから、各サークルさんにお声かけしていった感じですよね?

大地:そうですね。お声かけする際には、とにかく怪しまれないように注意しましたね(笑)。同人サークルに企業がすり寄って、オイシイ思いをしようとする、なんていう話はよくありますから。弊社はこれまで、個人のサークルさんとお付き合いをする取り組みをしていなかったので、不審に思われないように、いろんなサークルさんに同時にお声かけをして……。

酒缶:サークルさん同士、横のつながりもありそうですよね。

大地:なので、サークルごとにズレがないように、清廉潔白さを証明していきました。そのため、横のつながりの中でおかしな噂にはならなかったと思います。それで、いくつか好意的な反応を頂いたんですけど、7月に第一弾をリリースした際には、ここ数年のインディーズシーンを代表する有名作で固めました。

酒缶:第一弾は知名度重視で選ばれた感じなんですね。

大地:あとは、3本ある作品内容のバランスというか。「彼岸花の咲く夜に」は本当に有名な作家さんのタイトルなので、外せないと思って採用しました。「ファタモルガーナの館」も大きなタイトルですが、インディーズのマーケットに入り浸っていないような一般の方にはそんなに知られていなかったので、入れました。「彼岸花の咲く夜に」がオカルト、「ファタモルガーナの館」がミステリー的な内容なので、この2作とは違ったテイストの、元気のある活劇スタイルの話ということで「WORLD END ECONOMiCA」を採用しました。「WORLD END ECONOMiCA」はちょっと変わった切り口ではあるけど、ノリは少年漫画的で元気のいい主人公が活躍する話です。

酒缶:あの主人公はかなり口が悪いですね。

大地:口は悪いですね。彼はどんどん成長していくんですよ。今回、クリエイターさんたちがどんな思いでゲームを作ったか表に出したくて、「カタルヒト」の公式サイトでも第1弾タイトルのクリエイターさんへのインタビューをやっているんですけど、「WORLD END ECONOMiCA」の支倉さんが「音の世界の説得力がすごいのがノベルゲームの魅力」だと言っていたのが面白かったです。支倉さんは「狼と香辛料」を著されているので、アニメ化も経験されているんですけど、ディテールをテキストで読ませるノベルゲームの深みはアニメには無い魅力じゃなかな、とおっしゃるんです。

酒缶:アニメは一話当たりの時間が決まっていますし、長編アニメにしても尺がある程度決まっちゃいますし、ノベルゲームはプレイヤーのさじ加減でプレイ時間がいくらでも伸ばせますし、書き手が書きたければ1分が何分にもなりますよね。

大地:そうなんですよ。ただ突っ立って目の前のことに対して何かを思っているというシーンをアニメだと描けないんですけど、ノベルゲームは描けるので、そこがノベルゲームの深みだとおっしゃっていて、そういう見方があるんだと思ってすごく面白かったです。

酒缶:ゲームという表現があいまいなんですけど、デジタルゲームと小説のカテゴリーの間にデジタルで文章を読ませるようなカテゴリーがあって、その中にノベルゲームがあるんですよね。ゲームと小説が、ビジュアルにテキストを乗せてどんどん読ませる方向に進化していきました。

大地:「WORLD END ECONOMiCA」は小説家である支倉さんが自分の世界を表現する方法としてノベルゲームを選んだ、という位置づけなんです。文章だけではない、音の世界を持った小説なんですね。なのでプレイ中に一切選択肢が出てこないんです。「これはあくまでも音の世界を持った“読み物”であり、選択肢を入れるつもりは無かった」と。僕はゲーム畑で育った人間のため、その発想はなかったので、そのお話を伺ったときにはこのプロジェクトをやってよかったと思いましたね。当然、その考え方には賛否両論があるだろうし、好き嫌いも絶対にあるんですけど、そういう、しっかり好き嫌いが分かれるモノを出せるのが嬉しいんです。

酒缶:インディーズタイトルとしてたくさんの人が購入して、遊んで、面白いと言っているのは確かなので、それに対して昔からゲームをやっている人が「これはゲームじゃない」と言ってもあんまり意味がないですよね。

大地:そうなんですよ。面白いかどうかが大事なので、度胸よく「僕が作っているモノは読むものであって、選択肢には興味がありません」とはっきり言ってくれるのはいいな、と思いました。こういうモノを作りたいから作った、という主張がいいですよね。

(インタビューは次回に続きます)

「株式」を知らなくても、青春はやっぱり面白い

正直に言おう。「カタルヒト」レーベルの初期作品3タイトルの中で、このタイトルが一番内容を想像しづらかったことを。

ゲームを始める前にストーリーを調べてみたら、「月面都市を舞台に金融冒険青春活劇」とあり、ハ?と疑問に思ってしまいます。「冒険青春活劇」くらいで止めていただければ何となくイメージが沸くのですが、「金融」と付いた時点でハテ?に疑問の株価が上昇してしまい、「月面都市」まで付いてしまうと疑問がストップ高まで上昇して、ハテナ?が完成してしまいます。

ゲームを始めるとすぐ、月面都市が舞台だとわかります。しかし、月面都市が舞台といっても、説明を受けなければ単なる近未来のイメージが色濃く出ている都市で起こる出来事にしか感じないほど、人が普通に生活をしている世界なのです。

月面都市は、地球から移り住んだ人が生活する世界ですが、その生活も長く続くと、月で生れた人が出てきます。我々の日常生活で想像すると、昭和生まれの人であふれている世界の中で、時代が平成に変われば昭和時代を知らない平成生まれの人が出てくるようなもの。この世代間ギャップみたいなものが地球野郎と月野郎の差。ゲームを始めてすぐに、我々と同じようだけどちょっと違った世界を垣間見ることができます。

パソコンで何か怪し気なことをやっている少年。ネットカフェで店員と繰り広げる会話ではかなり口が悪い少年がこの物語の主人公の川浦ヨシハル。後にハルと呼ばれる少年。プレイヤーからすると感情移入をしようと思うヤツなのですが、とにかく勢いのあるヤツで、おとなしくしていてほしいと思えば思うほど突発的な行動をして、プレイヤーの気持ちをかき乱してくれます。

いきなり引き起こされる大ピンチ。なんだかよくわからないまま、逃亡に次ぐ逃亡。序盤の状況を見る限り、パソコンを使って株で儲けているだけです。そこに未成年で家出人という設定が加わることで、ハルにとってはどうしても逃げないといけない状況ということは伝わってきます。

ちょっとしたすったもんだがあった上で、ハルは理沙とハガナの住む家にしばらく一緒に住むことになります。家出人がかくまってもらうような感じです。ハルが相当個性の強い人間なのは既に分かっているのですが、実際のところ理沙とハガナもちょっと変です。

理沙は年齢的にもお姉さん的な立場で、ハルやハガナを包み込むような存在ですが、クリスチャンだったり、紙の本にこだわりを持っていたりと、地球の文化に対する何らかのこだわりを見せる存在。

一方、ハガナは何かとてつもない不幸な出来事によって何かを欠落している存在。数学が得意で、近所の子どもたちに数学を教えています。理沙に対してとても懐いている反面、ハルに対しては何かと反発してきます。

ハル、理沙、ハガナの共同生活から何が起こっていくのか、これがこのゲームで起こるすべてといっても問題ありません。3人が抱えている問題や才能が絡み合い、勢いのあるストーリーが展開されていきます。

設定だけを見ると、我々の現実世界とは違った特殊な状況に感じるかもしれませんが、理沙の家を学校に見立てて、何らかの部活が全国大会の優勝を目指して戦っているような状況を想像すると、とても身近な問題として受け入れることができます。

どうしても目指さないといけないことが起こり、どうにかしてチームを成立させて、それぞれの力を発揮して協力していく。そのための葛藤、そのための努力、そしてそのためのチームワーク。そう考えると心に響くのです。

「金融」とか「株式」という言葉が出てくるので小難しい内容なんじゃないかと思ってしまう人もいるかもしれませんが、実は株については何も知らなくても大丈夫です。株について詳しければ、より内容を理解できるとは思いますが、株をもうちょっともやっとした状態にして、とにかく大会で勝つために頑張っている姿を見ているだけで、ぐっと引き込まれていくのです。

この姿には本当に青春を感じることができ、「月面都市を舞台に金融冒険青春活劇」という言葉に感じていたハテナ?が見事吹き飛んでくれました。

正直言うと、この記事はインプレッションなので途中までプレイした上で記事を作成するつもりだったのですが、止め時が分からなくて、3作の中で最初に最後までゲームを進めてしまいました。ゲーム内に分岐や選択肢は一切ないのですが、読書をしていてどこでしおりを挟むか悩むような状況の中、ついつい最後まで読み切ってしまいました。

「彼岸花の咲く夜に第一夜」は1話ごとの区切りがあるため、勢いよく読んでも区切りにたどり着いたらタイトル画面に戻りますし、「ファタモルガーナの館」は明確に場面転換があって、これ以上読んでしまうと次の区切りがいつ来るかわからないため、自然と中断できるのですが、「WORLD END ECONOMiCA」は明確な区切りがないため、自制心がないと中断するのが難しいんですよ。

ストーリー的には3部作の第1部の終わりで、まだまだ先の展開があります。ストーリーの終盤でいろいろなことが起こってしまうため、先が気になってしまっています。でも、大丈夫。心置きなく一気に読み切ってしまいましょう。なぜなら、すでに「WORLD END ECONOMiCA Episode.2」の配信が始まっていますから。

[カタルヒト]彼岸花の咲く夜に第一夜(07th Expansion)

フリュー

3DSダウンロード

  • 発売日:2016年7月27日
  • 17歳以上対象

[カタルヒト]ファタモルガーナの館(Novectacle)

フリュー

3DSダウンロード

  • 発売日:2016年7月27日
  • 17歳以上対象

[カタルヒト]WORLD END ECONOMiCA Episode.1(Spicy Tails)

フリュー

3DSダウンロード

  • 発売日:2016年7月27日
  • 17歳以上対象

[カタルヒト]WORLD END ECONOMiCA Episode.2(Spicy Tails)

フリュー

3DSダウンロード

  • 発売日:2016年9月28日
  • 12歳以上対象

「カタルヒト」ポータルサイト
http://www.cs.furyu.jp/kataruhito/

プロフィール

酒缶(さけかん)/ゲームコレクター

1万本以上のゲームソフトを所有するゲームコレクターをしつつ、フリーの立場でゲームの開発やライターなど、いろいろやりながらゲーム業界内にこっそり生息中。ゲーム関係者へのインタビューをまとめた電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション」を展開中。関わったゲームソフトは3DSダウンロードソフトウェア「ダンジョンRPG ピクダン2」「謎解きメイズからの脱出」など多数。価格コムでは、ゲームソフトとAndroidアプリのプロフェッショナルレビュアーを担当している。

■公式サイト「酒缶のゲーム通信」
http://www.sakekan.com/
■twitterアカウント
http://twitter.com/sakekangame
■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション1」
http://www.amazon.co.jp/dp/B008GYU7B4/
■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション2」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00CJ320S6/
■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション3」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00DI3T160/
■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション4」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00IXLHLVE/
■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション5」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00KA6CZWU/

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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