原作にあたるPC版が発売されてから20年が経ち、リメイク版の「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」が2017年3月16日についに発売されますので、インプレッションをお届けします。
21世紀に並列世界、再び
ボクが「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」に初めて触れたのはセガサターン版でした。家庭用ゲーム機ばかりで遊んでいるとなかなか手に触れることのないPCのゲーム、とりわけ重厚なストーリーや新規性のあるシステムを採用した剣乃ゆきひろ氏関連の作品が次々とセガサターンに移植される流れがあったため、当時かなりの期待を込めて「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」を手に取りました。その発売時期が1997年の12月ということで、すでに19年以上の月日が経っていることにただただ衝撃を受けています。
そして、約20年という月日は、ボクの頭の中から当時プレイした記憶を若干奪いつつあるため、あの楽しかった体験を再び味わいたくて、新たな気持ちでPS4版「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」をプレイさせていただきました。
メニュー画面を見た瞬間に、この世界に帰ってきたことを思い出しました。現代が舞台なのになんでこんなにファンタジーっぽいメニュー画面なんだろう、と当時初めてプレイしたときに思ったことを記憶しています。「NEW GAME」を選んでゲームを始めましょう。
画面が薄暗い中で赤ちゃんの泣き声が聞こえてきます。続いて、裸の女性が子どもを抱いているシーンが映し出されます。これは何だろう? と疑問に思っていると、父と母のやり取りと赤ちゃんの泣き声、そのすべてがボイス付で展開されていきます。
実はこれ、主人公・有馬たくやが見ている夢。学校の屋上で寝ている主人公は、起きると今度は校医の武田絵里子先生とのやりとり。
このあたりの流れはコマンド選択式のアドベンチャーゲーム的な流れで、「見る・調べる」「移動する」「話す」といったコマンドを選んでゲームを進めていきます。基本的なゲーム進行は「話す」が握っていて、時々「見る・調べる」を活用しながら進行していくのですが、当然ながら「さわる」を選びたくなるのが人間の本能というモノ。本能部分でプレイヤーの主人公への共感力が高まり、自然とゲームに没入していきます。「移動する」に関しては、一通り会話が終わって会話の相手が去った後に次の展開に進むコマンドといった位置付けでしょうか。
主人公の有馬たくやは、境町学園三年生。幼少期に母親を亡くし、半年前に教え子と再婚した歴史学者の父が二か月前に落石事故で亡くなるという境遇。荒れに荒れた生活をする中で担任が2人変わる原因を作り、ついには校医の先生が担任になるという状況に陥っています。そういうバックボーンがあるからか、はたまた元々の主人公の性格からか、いきなり会話がかなりぶっ飛んでいます。一つ一つのコマンドに対する会話にはある程度の長さがあり、登場人物の個性や関係性がしっかりと伝わってくるようなつくりになっています。
実はこのあたりの流れは東京ゲームショウ2016の時に、セガゲームスブースに出展されていたPS4版とPC版を比較プレイしているのですが、再現性がかなり高くて感動していました。登場人物の中には原作とかなりビジュアルイメージが変わっているキャラクターもいますけど、会話を進める内に自然と馴染んでいきます。ちなみに、ローアングルから見た絵里子先生のパンツは再現というレベルを超えて、かなり面白かったです。
ストーリー部分については極力ネタバレしないように端折りますけど、コマンドの数が限られていて、移動する範囲も少ないため、ストーリーを進める意志さえあれば、正しいコマンドを選んでサクサクとストーリーが進んでいきます。
この序盤のプレイはストーリーを裏読みする必要はありません。大事なのは、主人公たちが体感する時間の流れ。いつ頃どこで何をしていたか、そして何が起こったかを何となく覚えておきましょう。
そして、クライマックスに突入。
さらに唐突に突き付けられる一つの結末へと落ち着きます。
しかし、ここで……オープニング?
さあここからが本番だ
実は、ここまでの流れがこのゲームのプロローグ。今回はなるべく先まで進めるべく、ボイスの途中で文字送りをするようなプレイをしたところ、2時間程度で本編にたどり着きました。オートプレイを使用してボイスをしっかりと聴いた上でゲームを進行すると、4時間程度のボリュームはあるのではないでしょうか。
さて、本編。ここからが並列世界の始まりです。プロローグでは約2日間を体験しましたけど、ここからはその2日間と同じ時間を、さまざまなルートを通して体験していきます。主人公は繰り返される時の中で起こった記憶を積み重ねていきますが、他の登場人物は基本的にはその都度その世界で起きていることしか知らないという関連性。そして、ゲームを進行するためのシステムも、プロローグからだいぶ変化しています。
いわゆる選択すべきコマンドがテキストとして表示されなくなり、その代わりに画面内にいろいろなアイコンが表示されています。
PC版やSS版では、マウスカーソルを反応するところに合わせるとマウスカーソルの形が変化して、何らかの関与ができるようになっていましたけど、今作では常に画面内のどこで何ができるか表示されるようになっています。そのため、どこをチェックすればいいかやみくもに探さなくてもよくなり、直感的に行いたい行動に移れます。
選んでも前回と同じ反応になる場所のアイコンはグレー表示になります。また、別の場所に移動して戻ってきた際には過去と同じ反応になるアイコンがホワイト表示に戻りますが、既読スキップをONにしておくと一瞬でやり取りを飛ばすことができるので、このあたりの操作は快適にできます。
本編で一番重要なのはA.D.M.Sと宝玉セーブの活用です。本編を進めていくと、A.D.M.Sによってマップが作られていきます。A.D.M.S.とはオート分岐マッピング・システムのことで、シナリオの進行に合わせてマップが描かれていきます。
また、プロローグで入手したリフレクター・デバイスと宝玉を使うと、いろんな時間に移動することができるようになります。
実際にはどの時間にでも行けるわけではなく、現在経験している時間に宝玉セーブをすることで、後程、宝玉があるところに戻ってくることができるようになっています。マップの赤いルートが現在進行しているストーリーのルートで、赤い丸が現在の時間を示しています。
宝玉を使うと宝玉セーブをすることができ、使った宝玉が画面から消え、マップの現在位置に水色の丸が埋め込まれます。
宝玉セーブをした場所には瞬時に移動できます。そのため、分岐ポイントやアイテム入手場所などに埋め込んでおくと、後々うまく活用できます。
但し、宝玉は数に限りがあり、宝玉への移動は一方通行のため、便利に使うためにはテクニックが必要です。例えば2点間を行ったり来たりしたい場合は、他の宝玉の場所に移動する前にその場で宝玉セーブをしておきましょう。また、宝玉は埋め込まれた場所に移動すると回収してしまうため、改めてその場に戻ってくる必要がある場合は、移動したときすぐに再び宝玉セーブをしましょう。
その他、マップにはいろいろなモノがあるので、そのモノがあるところにルートがつながるようにするなど、攻略の糸口として使ってみるとよろしいかと思います。宝玉を早めに増やしておくと、より攻略が楽になります。その周辺で宝玉セーブをしておくのもいいですよね。
遊びやすいシステムでグラフィックにも期待
今回はPS4版を6時間程度プレイさせていただきました。そのあと、原稿を書きながら、改めてSS版をほぼ同じくらいのところまで進めてみたところ、テキスト周りのテイストは当時のまんまでした。スマホのない時代なのは当然なのですが、ワイドテレビを調べた時の反応などを見ていると、まさに90年代を感じることができます。
今回プレイした内容の内、本編部分に関しては画面写真が撮影できなかったため、テキストだけで紹介しますが、校医の絵里子先生のお尻のドアップや亜由美さんのバスタオル姿などのイベント絵はSS版よりも際どく攻めていて、色味の問題もあって、今作の方がかなり艶っぽく感じました。このあたりは、当時PCやSSでプレイした人でも、改めてプレイする楽しみになるのではないかと思います。
過去にPC版をプレイした人は宝玉が2つの状態で本編が始まったと思いますが、今作はSS版と同様、宝玉が4つの状態から本編が始まります。そのため、PC版でプレイした人は、序盤から宝玉セーブを試しやすくて、遊びやすく感じるはずです。
かつてボクがセガサターンでプレイした「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」は、用意されている並列世界のストーリーをすべて見なければ真相がわからず、表面的には厳しい条件のゲームではあるモノの、遊んでみるとシステムがしっかりしていて、すべてを埋めていくのが楽しいゲームでしたけど、PS4版も今回プレイしていて同じ感覚を味わえました。さらにPS4版ではシステム面が改良されているため、プロローグも本編も直観的にコマンドを選べて、さらに快適に遊べることを実感できました。
初回版にはPS4でプレイできるオリジナルNEC PC-980シリーズ版のDLCカードが付くため、20年の時の流れを感じながら、PS4版とPC版の並列世界を同時並行でプレイするのも楽しそうですね。
プロフィール
酒缶(さけかん)/ゲームコレクター
15000種類以上のゲームソフトを所有するゲームコレクターをしつつ、フリーの立場でゲームの開発やライターなど、いろいろやりながらゲーム業界内にこっそり生息中。「東京エンカウント弐」「ゲームラボ×仮面女子 ゲーム実況」にゲームアドバイザーとして協力。関わったゲームソフトは3DSダウンロードソフトウェア「ダンジョンRPG ピクダン2」「謎解きメイズからの脱出」など多数。価格コムでは、ゲームソフトとAndroidアプリのプロフェッショナルレビュアーを担当している。
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