2017年6月17日に配信1周年を迎えた「シャドウバース」。国内のデジタルTCGシーンを引っ張ってきたタイトルは、2年目の目標をどこに据えるのか。ゲームデザインを担う宮下尚之氏に訊いた。
※インタビュー実施日:6月5日
――「シャドウバース」1周年おめでとうございます。宮下さんにとって、Cygamesで携われた第1作目になりますが、1周年を迎えた心境をお聞かせください。
宮下氏:「シャドウバース」はPvPかつカードゲームという、市場で受けていたジャンルのゲームではなかったので、配信前はまずコアなカードゲームファンに遊んでいただき、1年ほどかけて徐々に知名度を上げ、浸透したら施策を打っていこうと考えていました。
それが良い意味で予想外に、リリース直後からたくさんのユーザーさんに遊んでいただきました。非常にありがたかった反面、ユーザーさんの数や遊ぶスピードに追いつくようにコンテンツを提供するため、必死になった1年でしたね。
――想定よりは早い展開だったのでしょうか?
宮下氏:早いですね。プロデューサーの木村(唯人氏)も同じようなことを言っていました。
――1年運営を続けて、うれしかったことは何かありますか?
宮下氏:「シャドウバース」で初めてカードゲームを触ったというユーザーさんが予想以上に多く、そういった方が手に取って楽しんでくださっているのはとてもありがたいですし、うれしいですね。
カードゲームファンに遊んでいただくのも大事なことなのですが、e-Sportsでの展開を考えた際に、裾野の広がりは本当に必要なことなんです。競技プレイヤーだけでなく、見る人や応援する人もいないと狭い市場になってしまいます。そういった意味でも、たくさんの方に遊んでいただいているのは、サービス全体にとって非常に良いことだと思っています。
――その「裾野の広がり」を感じさせるデータなどはありますか?
宮下氏:昨年の秋に、DAU(Daily Active Users=1日にサービスを利用したアクティブユーザー数)が100万人になりました。その100万人という数字が、この6月までコンスタントに維持できています。
また、ゴールデンウィークに「シャドバフェス」というリアルイベントを開催しました。「シャドウバース」初の単独イベントだったのですが、Cygamesとしても一つのタイトルでああいったイベントを行うのは初めての試みでした。2日間で1万人を超える方が来てくださったのですが、本当に若い世代の方が多かったですね。そういったところでも、裾野の広がりを感じることができました。
――アナログのカードゲームだとカードを集めないといけないこともありますが、デジタルなら気軽に始められるという要因もあるのかもしれませんね。
宮下氏:若い学生の方がたくさん足を運んでくださいましたね。プレイヤーさんの顔を拝見することもなかなかないので、うれしかったです。
――実際にプレイして楽しんでくださる姿を見られるのは本当にうれしいですよね。
宮下氏:そうですね。「シャドバフェス」では3人1チームで参加するチーム大会を行ったのですが、そこに約500チームが参加してくださいました。これまでもRAGEなどの大型イベントはありましたが、1,500人が一斉に幕張メッセのホールで「シャドウバース」をプレイするというのは壮観でしたね。
――そうして裾野の広がりが感じられる中で、今後初心者がゲームに入りやすいようにする施策などは考えていますか? 構築済みデッキはその一つだと思いますが……。
宮下氏:そういった課題があるのは開発の段階から認識しています。ただ、例えばアナログのカードゲームで新規参入がしづらいのは、過去に出た強力なカードが絶版になって物理的に手に入らなかったり、中古価格で1枚数千円になっていたりすることに起因していると思います。
一方「シャドウバース」ですと、今始めても第1弾のカードパックも最新カードパックも購入できますし、レッドエーテルを使えばレアリティごとに一定の値で生成することも可能です。
「シャドウバース」を始めた人は、ネットなどでデッキを調べて、デッキコードなどを使ってデッキを作ると思うんですね。その際に足りないカードをレッドエーテルで生成できる機能も搭載しています。そういったものを使えば、カードの手に入りづらさを感じることは少ないのではないでしょうか。
――確かに、レッドエーテルで何でも生成できると初めて知った時は、驚くとともにありがたく思いました。
宮下氏:加えて、0から始める方が最初に手にとっていただけるお買い得な商品として、構築済みデッキをご用意しています。こちらもご好評いただいているので、今後も定期的にリリースしていくつもりです。そういったデジタルならではの良さを活かしてどんどんフォローしていきたいですね。
――構築済みデッキは第2弾、第3弾とリリースされるんですね。
宮下氏:はい、定期的に追加していく予定です。
――これまで行われたカード修正についてお聞きします。まずは2月27日に行われた「ルーンの貫き」「ミニゴブリンメイジ」の修正の結果はいかがでしたか?
宮下氏:詳しい数字は言えないのですが、「ルーンの貫き」「ミニゴブリンメイジ」の修正は的確だったと振り返っています。修正後はウィッチのドロシーデッキ、エルフのリノセウスを使ったデッキの勝率が適正なバランスに落ち着いて、2月末から3月までの1ヶ月、かなり多様なデッキがバランス良く活躍するような環境になりました。
――5月23日に行われた「風読みの少年・ゼル」「ライトニングブラスト」「骨の貴公子」の修正後はいかがですか?
宮下氏:まだ修正してから間もないのですが、変更後はランプドラゴンデッキとミッドレンジネクロマンサーデッキの使用率が低下傾向にあります。今後もしっかり動向を注目していきたいと思います。
――間もなく新カードが配信されます(編注:インタビュー実施日は6月5日)が、カードパックは最初から3ヶ月スパンで出していこうという計画だったのでしょうか?
宮下氏:そうです。デジタル・アナログ問わず他の製品と同様に、3ヶ月に一度は何らかのカードセットが出て、ゲーム環境が変化するのが必要だとプロデューサーとも話していました。
ただ、どれくらいのカードパックのサイズ、つまり1弾につき何枚のカードを追加するのが良いのかは、開発中も色々と考えました。多少の増減を想定したりもしたのですが、カードのラインナップを考えると今の100枚少々で良いのではと結論づけ、第4弾・第5弾とそのサイズで配信しています。
――3ヶ月ごとに新たなテキストのカードを約100枚投入するのはすごいことだと思うのですが、新カードは配信からどれくらい前に完成するのでしょうか?
宮下氏:例えば6月末に第5弾が配信されますが、これくらいのタイミングには次の第6弾の内容がほぼほぼできています。第5弾リリース後、どういったデッキがたくさん支持されたのか、どのカードが人気なのかというゲーム環境のデータを見て、第6弾の最終調整をします。
――あらかじめ用意されたものがそのまま出てくるのではなく、最新の環境を鑑みるのですね。
宮下氏:そうですね、環境を見て微調整したものが最終版になります。
――微調整する前は「大体こうなるだろう」という予想はついているのですか?
宮下氏:もちろん、そういった予想のもと作っています。ただ100万DAUということもあって、1日に何百万回も対戦が行われるんですね。そうすると攻略されるスピードも攻略情報が広がるのもかなり早いので、その速度に合わせてどんどん新しい環境を提示できるようにしています。
――やっぱりユーザーさんの解析の速度は早いのですね。
宮下氏:早いですね。これまでも大会の結果やランクマッチのデータを見て、ゲーム環境を整えたり、カードの変更をしてきましたが、そういったゲーム環境の健全化をよりスピーディかつ柔軟にやらなくてはいけないなと考えています。
――マスターランクのプレイヤーさんも増えてきましたよね。
宮下氏:そこも想定外でしたね。なかなかマスターになるのは大変だと思うんですけど(笑)。こちらとしてはかなり長い道のりを設定したつもりだったんですが、皆さんに熱心にプレイしていただきましたね。
――第4弾パックの追加とともに、2Pickで提示されるカードが変更されましたが、これは新たなカードが増えてきたことが関係しているのでしょうか?
宮下氏:2Pickを構築戦と並ぶくらいおもしろいものにするために、段階的にゲーム環境を整えているところです。第4弾が出るまで、2Pickでは後攻が有利というデータが出ており、これを是正しようと提示カードの変更を行いました。
また、構築戦の場合はデッキに使われるカードがある程度決まっており、広いカードプールでも覚えるカードが少なくて済みます。一方、2Pickで全部のカードが出てくると、ピックの段階で知らないカードと出会うことが多くなってしまうので、提示されるカードを制限しました。その2つの目的があって、スタンダードカードパックと一部のカードを制限しています。
――変更後の環境はどうなりましたか?
宮下氏:第4弾の環境では後攻有利が是正されて、かなり先攻・後攻のバランスが取れてきました。第5弾、第6弾のカードパックは、2Pickのゲーム環境を考えたラインナップにしています。すぐに完ぺきな環境になるかというと難しいのですが、第5弾、第6弾、第7弾と続けていく中でゲーム環境を整え、ゆくゆくは競技性のある大会をどんどん開きたいと考えています。
――今アリーナは2Pickだけですが、こちらをもっと充実させようというお考えはありますか?
宮下氏:増やす予定ではいますが、まずは2Pickにしっかり力を入れたいと考えています。半年~1年ほどかけて2Pickのゲーム環境をさらに整え、カジュアルな遊び方はもちろん、競技志向の方にもしっかり遊んでいただけるようにして、競技シーンを成立させたいですね。
遊び方が散らばってしまうのは、あまり良くありません。今は2Pickを一つの柱にしたいと考えています。「シャドバフェス」では一日限りの2Pick大会を行いましたが、さらに規模を拡大させ、2Pickをフォーマットにした単独の大会を成立させられるように育ててから、次を考えます。
――かなり2Pickに力を入れようとしていらっしゃるのですね。
宮下氏:構築戦と2Pickが両輪となって存在することで、「シャドウバース」は多様な遊び方ができるようになると思っています。今はやはり構築戦の注目度が高いのですが、2Pickも同じくらい注目してもらえるようにしたいですね。
――「シャドウバース」は海外版も配信されていますが、海外ユーザーからの反響はいかがですか?
宮下氏:5月11日に繁体字版を配信しましたが、台湾のセールスランキングでもかなり好調です。台湾はゲームやアニメといった日本のカルチャーに親和性の高い地域で、ユーザーさんも盛り上がっていますので、プロモーションにも力を入れています。
また、5月21日に日韓戦を開催しました。韓国にも熱心なユーザーさんがいらっしゃると、プロデューサーの木村も感じたようです。韓国でも、そういったインフルエンサーの方から徐々に広めていけたらと思っています。アジア圏で非常に盛り上がっているので、この勢いをこのまま続けていきたいですね。日韓戦のような国別対抗戦も今後増やしたいと思っています。
――アジア圏でもTCGは人気なのですね。
宮下氏:やっぱり遊びのカルチャーは日本と似ていると思います。台湾には、繁体字版が出る前に日本語版や英語版で遊んでいたという方もいらっしゃいました。
――日本語版を遊んでくれるってすごいですね! うれしいですよね。
宮下氏:そうなんですよ。繁体字版が配信される前に、台湾のコミックマーケットのようなイベントに出展したのですが、既に日本語で遊んでいる方がいらっしゃいましたね。すごいですよね。
――欧米ではいかがでしょう?
宮下氏:欧米でも、大きなゲームコンベンションなどに出展しています。先日はアメリカで「MomoCon」というアニメ・ゲームを主に扱うコンベンションに出展したりと、徐々に認知度を高めていますよ。
――「高校生シャドバ選手権」など、だんだんCygamesさんが主催される多彩な大会が増えてきましたね。
宮下氏:RAGEやファミ通カップといった賞金制のイベントは、18歳以上の方しか出場できない決まりになっています。ただ一方で、高校生やもっと若い世代の方にも「シャドウバース」を楽しんでいただきたいし、目標となる大会も設定したいので、「高校生シャドバ選手権」を主催することにしました。
――先ほどの「シャドバフェス」もそうですが、裾野を広げるという点でも意味のある大会になりそうですね。
宮下氏:その通りです。若い世代の方にモチベーションを持って「シャドウバース」に取り組んでいただき、一つの大会を目標にし、そこで活躍した人が将来のスタープレイヤーになってくれたらと思っています。「シャドウバース」を遊んでいても、大会に出られないと寂しくなっちゃいますよね。若い方が出場できる大会をしっかり開催しつつ、さらにその先にプロシーンがあるようにしていきたいと考えています。
――イベントなどで木村さんが「スタープレイヤーが生まれてうれしい」とよくお話されていらっしゃいますが、そういった方が活躍するシーンを形成していくのですね。
宮下氏:憧れになるような選手は何人も出てきましたが、彼らが定期的に活躍できる場がないといけません。単発で大会を行ってもシーンにはならないんですね。規模の大きな大会が定期的に開催されるのはもちろん、中規模・小規模の大会やイベント、活躍した選手が露出するメディアといったものが複合的に揃っていけば、プロシーンが徐々にできあがっていくと思います。これまで培ったものをさらに広げて、プロシーン、競技シーンを定着させていくのが2年目の「シャドウバース」の大目標です。