2017年7月27日、ポリフォニー・デジタルは複数のゲームメディアを招いてのスタジオツアーを、同社の東京スタジオ開催した。最新作「グランツーリスモ SPORT」のプレイレポートと、代表取締役プレジデントである山内一典氏へのインタビューと合わせて、その模様をお届けする。
目次
ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアが、10月19日に発売を予定しているPS4用ソフト「グランツーリスモSPORT」。第一作が発売された1997年から、ドライビング&カーライフシミュレーターとして、その美しい表現で多数の車ファンを虜にし、現在の世界累計販売本数は7690万本にも達するという「グランツーリスモ」シリーズの最新作だ。
今回、そのシリーズの生みの親である山内一典氏が代表取締役プレジデントを務める、歴代の「グランツーリスモ」シリーズを製作してきたポリフォニー・デジタルの社内を見学できるスタジオツアーに参加することができた。
スタジオツアーでは、「グランツーリスモ SPORT」の製作過程が語られる
ゲームの開発会社というと、PCの前に座ってひたすら作業しているイメージが強いかもしれないが、ポリフォニー・デジタルのスタジオの中には、定期的にパーティが開催されているというホールにDJ用の機材が置かれていたり、さまざまなゲームをプレイできる休憩スペースがあったりと、息抜きのための場所も充実している。
中でも面白かったのが、開発スタッフが休憩するためのスペースの一角にある喫煙室。ここにはゲーム中のBGMを担当する嘉生大樹氏が住み着いて(?)いるそうで、中には音楽用の機材がびっしり。自然と他のスタッフも自前の楽器を持ち寄り、深夜になると演奏会が始まるという、学生たちの部室のような状態になっているのだという。
ツアーの中では、山内氏が普段仕事をしているという執務室の中にもお邪魔することができた。とりわけ我々メディアの目を引いたのは、部屋の中に置かれていた大量のレンズ。撮影の際に使用するレンズや三脚といった機材は、実際に使用してみるまでその使い勝手がわからないため、まず山内氏が自費で購入し、その使用感を確かめてからもっとも適したものを会社用に大量に導入するという手順が行われているという。
ここにあるレンズもその内のほんの一部で、三脚にいたってはどのくらい買ったのか把握しきれないほどだというのだから驚きだ。山内氏が、「グランツーリスモ」シリーズにどれほどの情熱をもって取り組んでいるかを窺い知ることができる一幕だった。
スタジオ内には「グランツーリスモ」シリーズがこれまでに受賞してきた、数々のトロフィーが展示されていたほか、実際の車に搭載されているライトなどのパーツが置かれている一角も。これらは一度分解し、内部構造を知るための用途で使われているが、現在はメーカーからCADデータが提供されることも少なくないという。
車のプラモデルもかなりの数が保管されており、実際にシリーズ初期の頃は資料として用いられていたそうだが、高繊細なモデリングが要求されるようになった現在では参考にするのは難しく、純粋なオブジェとして置かれているのだという。
また、機密のため撮影はできなかったものの、「グランツーリスモ SPORT」のさまざまなデータが作られている開発現場を見学することもでき、山内氏の口から開発工程の一部が明かされることに。
まず「GT」シリーズの代名詞とも言えるハイクオリティな車のモデリングには、実際の車をレーザースキャンした非常に大まかなモデル(実際には点の集合体にすぎない)を土台に、アーティストが手作業で形を整えて一面一面に板を張っていき、内装やライトなどのギミックを付けていくという、まさに気の遠くなるような工程が行われる。
中でも「グランツーリスモ」シリーズらしいこだわりを感じることができたのが、車のメーターの表示に関するもので、実際の車から撮影した写真を元に画像処理をほどこす形で1つ1つをすべて手作業で製作している。
当然、似たフォントを探してそれらしく作ることはでき、見栄えも綺麗になるそうなのだが、実際の車には一台一台でそれぞれのフォントに微妙な違いがあるため、偽物っぽくなってしまうのだという。フォントだけではなくメーターの針の動きからリフレクターやレンズの再現まで、あらゆる要素が本物の車に近い形として再現されており、徹底的なリアルさが追求されている。
「グランツーリスモ」シリーズは、現在でもゲームエンジンを含め、内製だけでほぼゲーム内のすべてを賄っているという世界でも珍しいタイトル。全世界で広告展開されるビジュアルなどもすべてポリフォニー・デジタルが手がけており、ブランドイメージの統一に役立っているという。 |
ゲーム内へと落とし込む前の、もっとも高品質なモデルの時点で作られる頂点は数十万にも及ぶ。現在は曲面として表現されるため、以前のように厳密なポリゴン数を算出することはできなくなったそうだが、ざっくりと表すなら約50万ポリゴンという数値になっているという。(初代「グランツーリスモ」は一台あたり300ポリゴン)。
そうした作業のため参考にする写真は車一台あたり約5000枚を超え、完成するまでに約6ヶ月もの時間を必要とするという。こうしたモデリング作業はアーティストのセンスによって依存した部分が大半を占めるため、これ以上の効率化を図るのも難しいのだそうだ。
そのこだわりは車だけではなく、コースにも及ぶ。コースの作成には、まずGPSと連動した特殊なカメラを用いて、ヘリコプターから撮影した情報獲得し、そのデータと画像を元に周囲のマップを製作していく。
ただ、これだけでは非常に繊細なデータが必要となる路面の情報までは得ることはできないため、レーザースキャナを搭載した車でコース上を何度も走行させるなど、より精度の高い方法で情報が収集される。実際のゲーム内のコースでも、ある程度の省略こそされているものの、こうした作業によって得られた僅か3ミリまでの凹凸までが再現されているという。
さらにコースの近くに群生している植物に関しては、きちんと現地に存在しているものと同じ植物のモデルが製作されており、現地のロケハンではサーキットの一角を借りて暗室を作り、葉っぱに太陽光を当てた際の反射率や透過率までをチェックする。
遠目には同じように見える木の幹にも、よくよく見ると木の種別ごとにいくつものパターンが存在している。良い枝ぶりのモデルを作るには、アーティスト自身のセンスはもちろん、植物学の知識も必要になってくるそうだ。
そのほかにも、コースからはほぼ遠目に見えるだけの鈴鹿の観覧車に、ボルトの一本一本にまで作り込まれたモデルが用意されていたり、ショールームなど一部のシーンで使われているもっとも高繊細な車のモデル(レース中は60fpsを維持する問題もあり、状況に応じて最適なモデルに変換されるようになっている)では、タイヤのホイール部分を拡大すると、塗料に含まれるフレークが確認できるほどのクオリティのものが製作されていた。
今回我々が知ることができたのはほんのごく一部の過程だが、「グランツーリスモ」シリーズのもつ徹底的なリアルへのこだわりは、凄まじいまでの根気と才能、何より作品への情熱をもったスタッフ達が集まっているからこそ実現できている要素だということを窺い知ることができた。何気なく目にしている背景にしろ、細かい部分に注目してみれば、並々ならぬ開発陣のこだわりを知ることができるかもしれない。
またここからは、今回のツアーの中で体験することができた、「グランツーリスモ SPORT」のプレイインプレッションをお届けしていく。
「グランツーリスモ SPORT」には、カジュアルなプレイヤーが楽しめる要素も満載!
シリーズファンにとっては言うまでもないことであろうが、まずプレイを開始して大きな衝撃を受けたのが、そのグラフィックの美しさだ。筆者はPS3で発売された「グランツーリスモ5」の映像を見たとき、車のモデリングをこれ以上実写に近づけることは不可能なのではないかとも感じたほどだったが、本作ではそこからさらに一段階上のステージへと到達している。
とくにその進化を確認できるのはレース中で、最高品質のモデルがそのまま動いているのではと思えるほどに美しい。とくにドライバー視点やVRでプレイした際には、光の加減によって美しく照らされる車のフォルムや、細部にまで拘られたコースの作り込みなど、徹底したリアルさを存分に感じることができるはずだ。
プレイステーションで発売された最初の「グランツーリスモ」こそプレイしていたもの、ほぼ初心者同然のスキルしかない筆者にとってありがたかったのが、ブレーキ&ステアリングのアシスト機能。これはレースゲーム初心者が悩まされがちな、コーナーリングの際にある程度自動で減速や車体の向きを調整してくれるという機能だ。
「グランツーリスモ」のようなリアル系のドライビングシュミレーターでは、車の制御の難しさがハードルとなってくることが多いのだが、これをオンにしておくだけで、初心者の筆者でもほぼコーナーにぶつかることなく、すぐにレースを楽しむことができるようになっていた。
アシストは完全にオフにしたり、ブレーキアシストのみという形式に変更することもできる。例えば最初はすべてのアシストをオンにしてレースの楽しさと基礎を学びつつ、慣れてきたらブレーキアシストのみにしてステアリングの練習をする……といったように、ゲームに慣れるまでの自転車の補助輪のような役割を果たしてくれるのではないかと感じられた。
加えて、プレイヤーが取るべき走行ラインをある程度提示してくれる、ドライビングマーカーやドライビングラインを表示する機能も用意されており、自動車レースのテクニックの一つである「アウトインアウト」(コーナーの外側から内側へと侵入し、再び外側に出ることで、コーナーを直線に近い形で抜ける)の概念などを、ゲームをプレイしながら自然と学ぶことができるようになっている。
同じく初心者にとってありがたいのが、レースの基礎を学ぶことができる「ドライビングスクール」と、さまざまなシチュエーションレースのワンシーンを楽しめる「ミッションチャレンジ」のモード。どちらモードも通常のレースより、車を運転する楽しさを短時間かつ手軽に楽しめる内容となっており、最高のランクを獲得するためにあれこれ試行錯誤していくのが楽しい。
すべてのミッションにお手本となるプレイ映像が用意されているので、初心者もライン取りからブレーキを踏むタイミングまでさまざまなヒントを得ながらプレイすることができ、その上達を少しずつ実感できるような作りになっているので、失敗してもつい何度もプレイしてしまう中毒性をもっている。
また「グランツーリスモ SPORT」では、レース以外の楽しみも非常に充実しているのが特徴だ。
従来までのカーディラーが進化した「ブランドセントラル」では、国ごとに分けられたさまざまなブランドの車を購入できるのだが、このブランドセントラル内のそれぞれの車のショウルームに表示される映像は、ゲーム内のモデルと現実にあるさまざまな場所の写真を組み合わせたという驚きの技術によって作られたもの。
これは後に紹介する、光と空間の情報をもつ新たな写真のフォーマット「スケープス」の技術が応用されており、あたかも写真の中をゲーム内の車が走っているように見えるような仕組みとなっている。ハイクオリティな本作のカーモデルと相まって、何も知らない人間に見せた場合、10人中10人がただ実写の車が走っている映像だと勘違いするのではないかと思えたほどだ。
山内氏がかなり力を入れたと明かしてくれたのが、ブランドセントラル内で見ることができる「ミュージアム」。メルセデス・ベンツなど、その車のブランドがどのように生まれてきたのかといった歴史を、同時期に起こった出来事と合わせて振り返ったり、それぞれのメーカーが公開している特別な映像を楽しむことができる。車好きならこれらを眺めているだけでも一日が潰せそうなほど充実した内容となっている。
一通りコンテンツを体験し、筆者がとくに楽しいと感じたのが写真の撮影だ。
先ほども触れた、光と空間情報をもった写真である「スケープス」は、ゲーム内の一モードとしてもプレイヤーが体験できるようになっており、さまざまなロケーションと車を組み合わせた写真を撮影することができる。
用意されたロケーションの中には、本来なら車で行くことが難しい場所もあり、現実ではまず無理だろうユニークな一枚を撮ることができる。また走行中の雰囲気を出す「流し撮り」をはじめ、撮影のための機能が充実している。
加えてガレージの機能の一つである「リバリーエディター」を用いれば、車のカラーリングやホイールのデザインを細かく変更し、さまざまなステッカー(自分で用意した画像を使用することも可能)を貼り付けた、自分だけのオリジナル・カーを作成可能。スケープスによって世界に一台の自分の愛車の写真を、さまざまなロケーションで撮ることができる。
もちろん、レース中のリプレイからお気に入りのシーンを自由な角度で撮影することもできる。自分が華麗に抜いたシーンをリプレイで見返しながら、かっこいい写真を撮影しニヤニヤと見返すだけでも非常に楽しい。
こうして撮影した写真は、PS4の基本機能であるシェア機能とは別に、ゲーム内の機能としてのシェアも可能となっており、フレンドや見知らぬプレイヤーと写真の腕を競い合ってみるのも盛り上がりそうだ。
グラフィックから車の挙動、さまざまな新モードまで、あらゆる面で新たな世代への到達を感じることができた「グランツーリスモ SPORT」。ナンバリングの冠がつかないということで、外伝的な内容を想像した読者もいるかもしれないが、従来のナンバリングから大きく内容を一新し、新たに生まれ変わった「グランツーリスモ」を象徴するような意欲的な作品となっている。
新たなオンラインモードである、現実とバーチャルが融合した「スポーツモード」など、今回紹介しきれていない要素もまだまだ残っており、全体のゲームボリュームは決してナンバリングに引けを取らないほどの規模になっていると予想できる。
車好き、レーシングゲーム好きのゲーマーであれば、絶対にプレイしておくべき作品であることは今更語るまでもないだろうが、ゲームファン全体にとっても、これだけの規模と時間、情熱をかけて作られた大作を体験できる機会というのは、そうそうあることではない。今回、ナンバリングの冠がついていないのも、シリーズ未体験のプレイヤーにとっては敷居が下がっているとも言えるので、ぜひともその圧倒的なクオリティを、一度体験してみて欲しい。
最後に複数メディア合同で行われた、本作をはじめとした「グランツーリスモ」シリーズのプロデューサーを務める山内一典氏へのインタビューを掲載する。
「グランツーリスモ」シリーズプロデューサー・山内一典氏インタビュー
――まず、「グランツーリスモSPORT」にかける意気込みを教えてください。
山内一典氏(以下、山内氏):今日初めて「グランツーリスモSPORT」の全容をお見せすることができましたが、「グランツーリスモSPORT」は、今までのシリーズのいいところをすべて取り入れつつ、スポーツモードやARへの取り組みなどの新しい技術も取り込んだ、新世代の基本形が整ったタイトルだと考えています。
感覚としては最初の「グランツーリスモ」を作っている時に近く、「グランツーリスモ」シリーズのこれからの20年先を考えてデザインし直したものが、「グランツーリスモSPORT」という位置づけになります。
――本作では過去作と比べて発表から発売までが比較的スムーズだったと感じたのですが、制作体制の変化はあったのでしょうか?
山内氏:ビデオゲームの進化というのは凄まじいものがあり、それぞれのハードの世代ごとにガラリと変わっているんです。だから制作体制や手法が同じというのはまずありえなくて、その都度制作体制を見直して作っています。
その上で「グランツーリスモ」というのは「ここまでで十分」という境界がなく、それぞれのピースが常にやりすぎているというのが特徴のタイトルだと思っていて、なかなか事前の計算通りにはいかないんです。やることを絞ってしまえば、ある程度予想を立てることは可能なのですが、「グランツーリスモ」シリーズは結果としてそれが支持されている背景もあるので、僕らとしても手を抜くことができないんですね。
――スタジオツアーの中で、一台あたりの製作期間は約6ヶ月ほどというお話がありましたが、過去のシリーズと比べると作業時間の変化はあるのでしょうか?
山内氏:これについてはほぼ変わっていなくて、「グランツーリスモ5」や「グランツーリスモ6」の時も同じくらいの時間が掛かりました。製作プロセスやツールの進化も含めて効率自体は上がっているのですが、要求される水準が上がっているのもあり、なかなかこれ以上短くするのは難しいと思いますね。
――今後、技術やハード面の進化でより短縮される可能性というのは?
山内氏:車に関して言うのであれば、かなり難しいと思っています。というのも、現状でも自動化できるところはすべて行っているんですね。残っているのは人間にしかできない部分で、既に開発スタッフは超人的な仕事をやっているわけですから、それ以上の効率化となると厳しいと思います。
「グランツーリスモ」は、おそらく現在のレースゲームの中ではかなり珍しい、車モデルをすべて内部で製作しているタイトルで、それがクオリティを支えている側面もあるので、シリーズとして守らなくてはいけない部分だと思っています。
――やはり「グランツーリスモ」ほどのタイトルにもなると、BDの物理メディア的な容量限界との戦いにもなってくるのでしょうか?
山内氏:完全にその戦いです。今回ご覧にいただいたスケープスの写真となると、一枚で数100メガバイトくらいの容量を使うんです。発売日の時点で1000ロケーションくらいを用意しようとしているのですが、全部はディスクには入り切らず、必要に応じてダウンロードをしていただくという形式にせざるを得ませんでした。
――「グランツーリスモ」シリーズは、さまざまな実車メーカーとの協力関係を築かれていますが、そのやりとりの中で印象的なエピソードはありましたか?
山内氏:自動車メーカーの皆さんとのやりとりは、常に刺激に満ちているのは間違いないですね。自動車業界というのは競争の激しい業界なのもあり、面白い方がたくさんいるので、どれか一つというのは難しいのですが……。
例えば本作からポルシェが収録されることになりましたが、その経緯として去年のル・マン24時間レースでメーカーの方とお会いした時、「グランツーリスモSPORT」のコンセプトを説明したら「これは本物だから、ポルシェとして関わらなければならない」とその場でおっしゃられて。今回実現した「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」に関しても、長年レースをやってきた方々の共感というか、押さえるべきツボを抑えていたということなのではないかと思います。
――ウィンカーが動いたりパッシングができるようになったりと、ユーザーができることが従来作よりも増えているように感じました。本先では、ユーザーに体験して欲しいものの比重が従来から変化してきたのでしょうか?
山内氏:ウィンカーにしろハザードにしろ、以前からやりたいと思っていたことで、それが今回ようやくできるようになったという方が大きいですね。もともと「グランツーリスモ」はとてもシンプルな作りで、車自身の美しさ、運転の楽しさ、車にあたる光の美しさという、おおむね三つくらいの要素で成り立っているんです。その中での最大限の自由度をユーザーの方に体験して欲しいと思っていて、その内の全部ではないにしろ、これで大部分が実現したことになります。
――鈴鹿の観覧車など、ユーザーにとってはほぼ見えない部分のモデルもかなり作りこんでおられましたが、そうした細かい部分までこだわっている理由を教えてください。
山内氏:実際には見えないわけではなく、「見える時もある」というのがポイントなんです。観覧車は結構遠くにあるので、確かにそこにあるボルト一つまでは見えそうにないのですが、ああした凹凸は、ゲーム内では立体情報を含んだテクスチャとして変換されていて、そのボルトの頭に太陽の光が差す瞬間というのが確実にあるんです。そういった立体的なテクスチャを作るには、元となるきちんとしたモデルが必要となってきます。
――今日体験したバージョンでは、ドライビングスクールで見られる映像の音声が英語になっていたのですが、製品版では日本語へのローカライズはされるのでしょうか?
山内氏:もちろん対応します。これまでの「グランツーリスモ」にも、模範リプレイのようなものは入っていたのですが、漫然とリプレイも見てもどこがポイントなのか分からないことが多く、レースゲームを初めて遊ぶ方にとっては大きな障壁になっていたんです。今回は、そうした部分を理解できるような内容となっています。
――PS VRへの対応について、従来のゲームと違った苦労などがありましたら教えてください。
山内氏:ステレオでの描画やフレームレートの問題など、VRへの対応でもっとも課題となるのは負荷対策なんですね。実際にそこはかなり大変だったのですが、結果として今PS VRでできるVR体験としては最高レベルのものが作れたと自負しています。内装をあそこまで本格的に作りこんだのもVRを見据えたからなので、VRでこそ生きる体験ができると思っています。
――「VR酔い」についてはいかがでしょうか?
山内氏:できることはもちろんすべてやっていて、もともとVRでの車というのは酔いにくいものではあるんです。座って操作するので自分のポジションを見失うことはないですし、操作系も限られていますから、ドライビングゲームとVRの相性はすごく良いんですね。
人間というのは歩く時でも常に未来予測をしていながら動いている生き物なので、普段運転しているのと同じ車の挙動を取るようになっていれば、次はこう動くだろうという未来予測ができるんです。酔いというのはその未来予想がズレた瞬間に一瞬で来るようになっているので、それを徹底的に無くすという努力をしています。
――現在、世の中では車の自動運転化の方向に進みつつあると思いますが、こちらについてはどのようなお考えを持たれているでしょうか?
山内氏:自動運転についてはいろいろな見方があると思いますが、スポーツカーとの関連性で言うなら、例えばフェラーリのような車にこそ自動運転機能が欲しいと思っています。スポーツカーであればあるほど、普段乗りの快適性が落ちていくので、サーキットまで運転するのが大変なんですね。そこを自動運転で解決してくれるなら、スポーツカーとの相性は良いのではないかなと。
――そうした研究は、ゲーム業界にも影響を?
山内氏:実は既に「グランツーリスモ」を使って自動運転の開発をされている企業がいくつもあるんです。というのも、自動運転というのは一度事故が起きてしまうとおしまいですから、シミュレーションベースでの実験をせざるを得ないんです。だから僕たちが望む・望まないに関わらず、「グランツーリスモSPORT」についてもリリースされたあとはさまざまな自動運転技術の実験に使われるのではないかと思っています。
また「グランツーリスモ」シリーズには過去に、セッティングとストラテジーをプレイヤーが担当し、運転はAIに任せるというBスペックモードというものが存在していました。本作では実装されていないのですが、いつかは復活させたいとも思っています。
――今回製作されているものは、次世代に向けたモデルというお話もありましたが、開発スタッフの皆さんはその膨大な作業へのモチベーションをどこから得ているのでしょうか?
山内氏:「グランツーリスモ」というのはすごく日本的なタイトルで、「やりすぎることでユーザーをもてなしたい」という、日本的な感性の元で作られています。あとはやはり、何よりもユーザーに驚いて欲しいということですね。
現行のモデルは少なくとも向こう10年くらいは通用するという想定で作りはじめましたので、1000・2000台という規模までは作ることになると思います。そして10年が経った時、そのクオリティが十分でないと判断したなら、また一から作り直すのではないでしょうか(笑)。
――「グランツーリスモ」は実在の自動車メーカーとの関わりが深いタイトルですが、メーカーのデジタルカタログなどにモデルを使わせて欲しいという依頼が来ることもあるのでしょうか?
山内氏:そういうお話は頻繁にいただいていて、いつかはいわゆる業務用の「グランツーリスモ」を開発しないといけないなと思っています。
先ほどの自動運転の話につながるのですが、現在は市販されている「グランツーリスモ」がそのまま使われていて、車速を図る際にも、ゲーム画面に表示されている数字を画像認識するという形で出しているんです。そうした情報はこちらがあらかじめ用意していれば外部に出すことは難しくないので、エンタープライズ向けの「グランツーリスモ」は「グランツーリスモSPORT」が完成次第取り組むつもりです。
――昨年、発売日が延期になった原因とは何だったのでしょうか?
山内氏:さきほどもお話しした通り、「グランツーリスモ」というのは、すべてをやりすぎの状態でユーザーに届けたいという想いがあるのですが、いつもそれが叶うわけではないんですね。
例えば「グランツーリスモ6」の時は、既にPS4の発売が迫っていたこともあり、いろいろと妥協せざるを得なかった。「グランツーリスモSPORT」に関しても、去年のあの段階でも出せなくはなかったのですが、同時にこれで出してしまったら後悔するだろうなと思ったんです。だからちょっとワガママを言わせていただいて、発売日を遅らせてもらいました。
――その段階では、まだ満足のいくクオリティのものではなかったと。
山内氏:ゲーム開発というのは基本的に終わりがなくて、仮に1年で作れと言われればそれなりのものは作れます。ただ、最初の「グランツーリスモ」には5年掛けましたし、今回の「グランツーリスモSPORT」に関しても、本当に真面目に作って、やりきれるところまでやったところで勝負したいという気持ちが強かったんです。
――発売時点の収録車種はスポーツカーが中心となっていますが、今後車のラインナップは追加されていくのでしょうか?
山内氏:今回スポーツカー、とりわけレーシングカーを中心にしたのは、「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」のためにすべてのカテゴリのレースカーを一通り用意する必要があったからです。確かに一見すると比重が偏っているように見えるかもしれませんが、ちょっと古い車やファミリーカー、クラシックカーも「グランツーリスモ」にとって大事な車であることは間違いないので、順次追加していこうと思っています。
――ありがとうございました。