千葉・幕張メッセにて9月21日より開催中の「東京ゲームショウ2017」。ここでは、22日に行われた「Detroit Become Human」のメディア向けセッションの模様をお届けする。
今回のセッションでは「Detroit Become Human」の開発を手がけるQuantic Dream(クアンティック・ドリーム)の共同COOで、エグゼクティブ・プロデューサーを務めるGuillaume de Fondaumiere氏が実機デモを交えながら本作について紹介を行った。
まずは、「Detroit Become Human」の世界観が改めて紹介された。本作は近未来のアメリカ・デトロイトを舞台にした作品で「ネオ・ノワール・スリラー」と銘打たれている。この世界では人間そっくりの高性能アンドロイドが広範に利用されていて、公共での仕事から家事全般にいたるまで、単純労働の大部分をアンドロイドが担っている。
ただし、アンドロイドは移動の自由が制限されていて、ひと目でアンドロイドと分かる衣服の着用も義務付けられているなど、厳しい管理下に置かれているという。また、アンドロイドの普及により、人間が単純労働から解放される社会が実現する一方で、深刻な失業率の悪化を招くなど、さまざまな問題をはらんだ世界となっている。
そんななか、一部のアンドロイドが失踪してしまったり、感情を持っているかのような挙動を見せたりするなどの異常な兆候を示し始めたところからゲームは始まる。プレイヤーはコナー、カーラ、マーカスという3人のアンドロイドである主人公を操り、3つの異なる視点から、このゲームの物語を体験していくことになるのだ。
コナーは異常な兆候を見せ始めたアンドロイド=変異体を追うハンターで、これらの変異体がなぜ異常な挙動をするようになったのか、調査するために製造されたプロトタイプのアンドロイドだという。カーラは女性型のアンドロイド。現時点で詳細は明かせないが、実は2012年にQuantic Dreamが制作した短編映画「KARA(カーラ)」にも登場しているキャラクターで、この物語の源というべき存在であるという。
そして、3人目の主人公となるのがマーカス。彼は所有者のもとから逃亡したアンドロイドで変異体のグループに加わり、「アンドロイドはモノではない、生命である」というメッセージを人類に対して送ろうとしているのだという。今回のセッションでは、このマーカスのエピソードが紹介された。
本作ではプレイヤーの行動や選択が、ストーリーの行方に大きく影響を及ぼす。すべてのシーンにいくつもの分岐があり、そのときどきの選択によって物語はさまざに変化していく。そして、今回見せるシーンも、そうした数ある選択のひとつにすぎないとGuillaume氏は改めて強調した。
かくして、マーカスのエピソードの実機デモが開始された。エピソードの目的は店で販売されているアンドロイドたちを解放するというもので、プレイヤーの選択によって物語がどれだけ変化するか紹介するため、同じ場面を2回プレイして見せてくれた。
まずはマーカスが仲間の女性アンドロイド・ノースと共に目的のアンドロイドストアを目指すところからスタート。プレイ中にR2ボタンを押すと主人公の内面の情報を表示した画面になり、その時点で主人公がインタラクト(干渉)可能な箇所が黄色で表示される。この機能を使って操作・接触できる場所を探しながら、物語を進めていくというわけだ。また、すでに紹介されているとおり、マーカスは他のアンドロイドを変異体にするという特殊能力を持っており、この能力もミッションをクリアするために重要な要素になっている。
ストアの周辺にいるアンドロイドを変異体にして安全を確保したマーカスは、目標のストアに到着するが、店内には警報システムが設置されていた。このままでは侵入することができないため、R2ボタンを使って周囲のインタラクトできる箇所を探索。配管工事の現場でネットワークケーブルが露出している部分を見つけたマーカスは、ネットワークを切断して警報システムの無効化に成功する。
ところが、今度は周囲を巡回していたドローンが出現。ドローンの通報を受けたパトカーがやってくる。ここで逃げるか、隠れるか、一般人のふりをするか、といった選択肢が出現。同時にカウントダウンがスタートし、時間内に自分の行動を決定しなければならない。結局、Guillaume氏は逃げることを選択。マーカスは生き延びることができたが、アンドロイドたちを解放するというミッションは失敗に終わった。次の物語はこの結果を踏まえたものに変化するというわけだ。
かくして、2回目のプレイはミッション失敗の原因となったドローンが出現したところからやり直しとなった。まず、未来をシミュレートするというマーカス独自の能力を使って、ドローンの航跡を分析。ビルに組まれている足場からドローンに飛びかかれれば撃墜の可能性があることを割り出し、その予測に従ってドローンを破壊することができた。
次の目的は使えそうなトラックを探すこと。ノースと協力して建設現場に置かれていたトラックに乗り込んだマーカスは、そのまま店のガラスを破ってアンドロイドストアに突入する。ただ、警報システムはすでに切ってあるので、警察などはすぐにはやって来ない。その間に、マーカスはゆうゆうと展示されているアンドロイドたちを変異体にすることができた。ちなみに、こうしたセキュリティを解除しないままトラックで突っ込むことも可能になっているとのことで、そちらもなかなか楽しそうだ。
ストアのアンドロイド全員を解放したマーカスは彼らに向かって演説を開始。アンドロイドたちの信頼を勝ち取るが、ここで人類に対して平和的、暴力的どちらのメッセージを出すかの選択を迫られる。仲間のアンドロイドはマーカスの行動を模倣するので、マーカスが平和的な行動を選ぶと他のアンドロイドも平和的に、暴力的な行動を選ぶと他のアンドロイドも暴力的になる。
今回、Guillaume氏は「アンドロイドに同等の権利を」という自分たちの主張を書き残し、広場の中央に革命のシンボルとなる旗を掲げるなど、かなり平和的なアプローチを選択。、このパートのデモプレイはこれまでに何度も行っているが、ここまで平和主義的プレイは今回が初めてとのことだ。もちろん、ガラスを割ったり、火炎瓶で火をつけたりするなどの暴力的な行動も選択可能だが、そうした選択ばかりしていると仲間もどんどん過激になっていって、やがてマーカスがコントロールできないような事態になる可能性もありうるそうだ。
もっとも、この平和的選択も完全な正解というわけではなく、マーカスと行動を共にするノースは暴力的なメッセージを出すことを望んでいて、彼に対して失望を示す。ただ、ここから暴力的な方向に軌道修正することも可能になっているそうで、プレイヤーはさまざまな局面で難しい選択を迫られることになりそうだ。
プレイの方だが、広場から移動しようとするマーカスとノースは倒れている仲間のアンドロイドを発見。どうやら何者かに殺されたようである。ふと目を向けると前方にアンドロイドの集団と警察とおぼしき者が。マーカスが前方に向かって銃をかまえたところで今回のデモは終了となった。
このパートにおけるマーカス=プレイヤーの行動は非常に重要で、ここでの選択がコナーやカーラというふたりのプレイアブルキャラクター、さらにデトロイト市全体の運命も大きく左右するものになるという。この3人の主人公の物語が絡み合いながらゲームは進行。行動次第で彼らが合いまみえる場合もあれば、まったく出会わないまま終わる可能性もあるそうだ。
さらに、ゲーム中には250人以上のキャラクターが登場するが、1回のプレイで全員と会うのは非常に困難で、存在すら知らないまま終わることも十分ありうるという。もちろん、個々のキャラクターの生死も大きく変化。それは3人の主人公も例外ではなく、すべてのキャラクターの運命はプレイヤーの手にゆだねられているとのことだ。
かくして、プレゼンテーションは終了。最後に簡単な質疑応答も行われたので、それぞれの内容を簡単に紹介しておこう。
――なぜ、デトロイトを舞台に選ばれたのでしょうか。
Guillaume氏:アメリカを舞台にしたいということは決めていて、このような大規模な製造業が成立する都市を探す過程でデトロイト市の歴史に興味を引かれました。過去に製造業で栄光ある時代を経験した都市で、ご存知のとおり自動車産業が大変発展し、モーターシティと呼ばれていました。その後に大きな没落を迎えますが、このような場所でアンドロイド産業が誕生するというのは非常に面白い可能性だと思えました。
熟練労働者がいますし、市自身も再生しようと努力しています。例えば、これから数カ月、あるいは数年のうちに小さなスタートアップ企業がデトロイトで誕生して、そこからアンドロイド産業が興隆していく可能性は十分にあると思います。20年後にその都市がどのような姿になっているのか想像するというのも非常に面白い仕事で、他にもいくつか理由がありますが、それらを総合してデトロイトを舞台に選びました。
――コナーは「状況を再現する能力」があり、マーカスは「未来をシミュレートする能力」があるわけですが、ということはカーラも何か別の特殊な能力があるのでしょうか。
Guillaume氏:その通りでカーラにも特別な能力があります。この主人公となる3体のアンドロイドは、それぞれ違った目的のために作られており、現在のアンドロイドが置かれた状況をそれぞれ代表するものになっています。ですので、詳しい能力はまだ明かせませんが、ぜひ続報をお待ちいただければと思います。
――なぜ主人公は1人でも2人でも4人でもなく「3人」になったのでしょうか。
Guillaume氏:主人公を複数にした理由ですが、いろいろな面からストーリーを描きたいというのがまずありました。さらに、キャラクターが死んでもゲームは続くので、あまり主人公の人数が少ないとゲームが非常に短いものになってしまう可能性があります。この2点から複数の主人公、それも2人ではなく、もう少し多くしようとなりました。
また、これはクリエイティブディレクターであるDavid Cageの制作の仕方でもあるのですが、最初は5人、6人を主人公にして物語を書き始めました。そして、制作が進むにつれて、より特徴的な立場を持つアンドロイドという方向で主人公の数を絞っていき、最終的に3人という数に落ち着きました。
最終的な製品の姿をご覧になってもあまり気づかないと思いますが、実際にはゲームになっていない多くのシーンも作成していて、そこからを15~20%ほどを削っています。開発の初期段階で、だいたいの道筋は見えていますが、実際に脚本や開発を進めていく過程において試行錯誤する中で、さらに制作ボリュームを絞っていって最終的にベストと思える数・量になるわけです。
――プレーヤーの選択によって物語が変化していくということですが、無限に変わるわけではないと思います。大筋としてはだいたい何パターンくらいになるのでしょうか。
Guillaume氏:だいたい70……いや、そんなことはないですね(笑)。まず、すべての分岐が確実に機能することを確かめるために特別なシステムを作られなければなりませんでした。それくらいには分岐が多いとお考えいただいていいと思います。エンディングだけでなく途中の分岐もあるので、詳しくは言えないのですが、目安としてテキストの分量は「BEYOND: Two Souls」の2倍以上あります。
もちろん、エンディングもかなりの数があります。ただ、エンディングが違うというだけでなく、その途中で誰と出会い、誰と会わなかったか。あるいは、それぞれのキャラクターとどんな経験をして、どんな関係を持ったか。かなりの分岐があるので、実際の分岐のパターンよりも多くのストーリー体験があると思っています。
今回出展している試遊バージョンでも、人質の少女を救って非常に誇らしい気持ちになるという結末がありますが、ラストは同じでも、ある種の罪悪感を抱くような過程を経て、その少女を救うパターンもあります。なぜ、そのような違いが生まれるかというと、それぞれのシーンにおけるプレイヤーの決断や他のキャラクターとの関わり方が異なっているからです。同様に、同じエンディングを迎えたとしても、気持ちはまったく違うということがありえます。ですから、エンディングの数以上の体験の種類があると思っています。