2017年10月20日に東京・池袋の東京芸術劇場で開催された、「真・女神転生(以下、メガテン)」シリーズ初の単独オーケストラコンサートとなる「GAME SYMPHONY JAPAN 25th CONCERT 『真・女神転生』生誕25周年祭 ‐LAW SIDE‐」の模様をお届けする。
目次
「GAME SYMPHONY JAPAN」の発足者であり、指揮者でもある志村健一氏が、開演前の挨拶にて「メガテンを1からプレイしている人はどれくらいいらっしゃいますか?」と問いかけると、会場のほぼ全員が挙手するのが見られ、今回のコンサートが長年の「メガテン」ファンから強く期待されているのが伺えた。
そして志村氏は「今日は一挙61曲を披露いたします。新曲ばかりで60曲以上とか、我々でもなかなかチャレンジすることはないです」と、強い意欲でもってこのコンサートに取り組んできたことを述べた。
「メガテン」シリーズを彩る、初期楽曲を振り返る!
まずはスーパーファミコン(以下、SFC)で発売された「真・女神転生(以下、「I」」、そして「真・女神転生II(以下、「II」)」「真・女神転生if...(以下、「if」)」の三作をメドレーにしてまとめた組曲を披露した。
「メガテン」らしい不穏な幕開けに相応しい、妖しい音を奏でるパイプオルガンとコーラスによる「Demo(I)」からスタートしたメドレー。「Title(I)」「Dream(I)」と続いたところで、東京に住んでいない人はこのゲームでこの地名を覚えた人も多いのではないかという「吉祥寺(I)」。かくいう筆者も当時は都外におり、「吉祥寺」という地名は「メガテン」で覚えた。低音が効いた「吉祥寺(I)」は、ゲーム中で感じた不安感を良く再現していた。
そこから「敵出現(I)」「戦闘(I)」と、熱く盛り上がるバトル曲が続く。「メガテン」のバトル曲ならではのハードロックは例えオーケストラであろうとも健在で、オーケストラコンサートに組み込まれるのは異例ともいえるエレキギターとドラムスが、激しいリズムを刻んだ。
続くは「Level Up(I)」「銀座(I)」「廃墟(I)」「カテドラル(I)」。「銀座(I)」では金管が主体となるアレンジに、「メガテン」のラストダンジョンで流れる「カテドラル(I)」では合唱にドラムスがあわさってすばらしいハーモニーを奏でた。「I」組曲の最後を再び「Demo(I)」のパイプオルガンと合唱で〆るという構成も、「メガテン」らしい雰囲気作りに合っていた。
そしてステージは「II」のメドレーへと進んでいく。「タイトルデモ(II)」「タイトル(II)」は、ビブラフォンの音から幻想的に始まり、そこに重なる鈴の音が印象的。男性コーラスの唸るような声も、より不穏な空気を醸し出すのに一役買っていた。
「ニュートラル(II)」からの「戦闘(II)」では、ドラムスやティンパニなどの重低音が効いたアレンジに。スピード感あふれるバトル曲を、ほぼそのままのテンポで再現してくれた。
「3D:魔界~貪欲界(II)(if)」は、そもそも原曲の「貪欲界」が「魔界」のアレンジとなっていることもあってひとつの楽曲としてまとめられ、アレンジの移り変わりを楽しめるような変化がつけられていた。
続いては「if」メドレーへ。「タイトルデモ(if)」はハープとフルートで始まり、そこに合唱とチューブラーベルの音が重なる。こうして普通の日常から非日常へと移りゆく不安感が増していくのは、「メガテン」ならでは。
続く曲は「戦闘(アキラ編)(if)」。隠しルートでしか聴けない「戦闘(アキラ編)(if)」をチョイスしたのは、「I」と「II」の戦闘曲とのアレンジの違いを楽しんでもらうためだと思われる。金管楽器からヴァイオリンへと旋律が渡されていく構成で演奏された。「ボス(if)」では、これまたオーケストラコンサートの編成では異例の、ベースがソロを鳴らす場面も。
そしてSFC時代の「メガテン」組曲最後の一曲は、この曲なしには「メガテン」はない、というほど聴くことになる「邪教の館(I)」。パイプオルガンのソロとオーケストラの掛け合いのようなやり取りからお互いの音が重なり、さらに合唱も加わって、非常に雄大な「邪教の館」となった。
ここでステージに「I」~「if」までメインコンポーザーを務めた増子司氏が登壇。増子氏はここまでの感想を聞かれて「ずっと練習を見てきたけれど、今日の演奏が一番いいですね」と感動したように語った。
25年という長い間愛されてきた「メガテン」シリーズの魅力を問われた増子氏は、どちらかといえば子供向け作品が多かった当時のファミコンソフトの中ではすごくディープな内容だったこと、今だったら出せなかったであろうキャラクターや内容にもチャレンジしてきたことなど、画期的なことに取り組んできた結果ではないだろうかと述べた。
なお、思い入れのある曲は全曲だそうだが、特に「カテドラル」とバトル曲は褒められることも多く、バトル曲はあえてワンパターンを狙っていると語るシーンもあった。
物語は「NOCTURNE」へと続く。
次はハードをPS2へと移し、目黒将司氏をメインとした「真・女神転生III-NOCTURNE(以下「III」)と、「真・女神転生 III-NOCTURNEマニアクス(以下、「III-M」)へ。
「タイトルループII(III)」「啓示(III)」「東京受胎(III)」「大マップ(III)」ではドラムにギター、オーケストラ、ピアノ、パイプオルガンと様々な楽器が調和して、メロディアスな楽曲を演奏。中でもひずんだ音を奏でるヴァイオリンには、背筋にぞくりと鳥肌が立つような感覚を覚えた。
「通常戦闘(III)」「通常戦闘 街(III)」は金管楽器が多めのアレンジとなっていて、初のオーケストラアレンジでありながら「これぞ目黒氏楽曲」と感じる、どこか馴染み深さのある仕上がり。「邪教の館 ~煌天~(III)」では、パイプオルガンがまるで黙示録とも呼べるかのような、終末を匂わせる凄みのある音を奏でた。
「通常戦闘 ~アマラ経絡~(III)」から、「ボス登場(III)」「コトワリボス戦闘(III)」では特にドラムスが際立ち、そこにエレキギターやパイプオルガンが重なり、荘厳なアレンジに。続く「魔人(III-M)」ではグロッケンが小気味よいリズムを刻んでいたが、それが非常に味わいがあり、オーケストラでありながらどこか昔のゲーム音楽を彷彿とさせた。
そして「メタトロン(III-M)」から「スタッフロール(III)」へ。「スタッフロール(III)」は「タイトルループII(III)」のアレンジ楽曲だが、これまでの演奏曲とはがらりと変わってピアノが優しく響く、柔らかなムードで会場が満たされる一曲だった。最後の最後でほっと安心感を与えてくるのも、目黒氏らしい楽曲構成だと言える。
休憩中にはアトラスのサウンドチームによるミニトークコーナーが!
本来ならコンサート中に行う予定だったというトークショーだが、時間が推しているということで急遽休憩中のステージにて、アトラスのサウンドチームのミニトークショーが開催された。登壇したのは、アトラスの目黒将司氏、土屋憲一氏、小塚良太氏、小西利樹氏の4名。
「メガテン」シリーズ25周年を振り返って、小西氏は「僕は、「真・女神転生」を中学生のときにプレイして、「真・女神転生II」の時は高校生で、「真・女神転生III」の時にはアトラスでデバッグの仕事をしていました。それが今この場所にこうして立っていられるのも、女神転生のおかげかな、ととても感謝しています。これからも開発者として、また女神転生の一ファンとして、シリーズに期待しています」と述べた。
土屋氏は2017年10月26日に発売になる「真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY(以下、DSJ)」のお勧めポイントについて尋ねられると、「やはりグラフィックがよくなっています。アニメーションがかなりグレードアップしたところやボイスに注目してほしいです。あと、今回は仲魔にできる悪魔の数が6体増えたのが、個人的なおすすめポイントです。また、メガテンのワープポイントは基本的にどこに飛ばされるのかわからなかったのですが、今回はどこからどこにワープポイントできるのかわかるようになりました!」と「DSJ」の魅力を語りつつ、「今日は悪魔合体ができそうなホールな上に、悪魔会話がうまくいきやすいニュームーンの日というメガテン日和な一日に、わざわざ多くのファンが集まってくれて嬉しいです」と「メガテン」らしいトークを披露。
「真・女神転生IV(以下、IV)」と「真・女神転生IV FINAL(以下、IV-F)」の楽曲を担当した小塚氏は一番印象に残っているエピソードを尋ねられ、「IVは東京の上空が岩盤に覆い尽くされているという設定だったので、主人公のサムライたちの気分を味わうために製作中に煮詰まると会社の周辺をうろうろして、自身がサムライになったような気持ちで散策をしていました。なお、IVでは池袋は毒の沼地になっていましたが、今日来てみて現実の池袋は快適でいいなと思いました。」と、会場のファンを笑わせる。そして「僕はここ25年のうちのほんのここ数年携わらせていただいたのみで、何か言えるような立場ではありませんが、幅広いファンに支えられて感謝しています」と笑顔を見せた。
目黒氏も印象に残っているエピソードを問われ、「今日の演奏を聴いて、15年前くらいの自分の至らなさや稚拙さを噛みしめながら、演奏している方に申し訳ないなと感じています。容量が足りなくてリフレインのメロディばかりになってしまったんだ、と心の中で言い訳をしながら、これからはファンの皆さんにはもちろん、演奏家の方もモチベーションが上がるような、そんな曲を書いていきたいです。まだまだ若輩者ですし、僕よりも年上な先輩方もいらっしゃいますが、年を取ってもシリーズを続けていきたいです。よろしくお願いいたします」と、ミニトークショーの〆を飾った。
第二部は、DSと3DSハードの「メガテン」楽曲が!
第二部の始まりは、ハードをニンテンドーDSに移した「真・女神転生 STRANGE JOURNEY(以下、SJ)」から始まった。
「永遠の王座(SJ)」は、男声合唱からの力強いスタート。「焼け焦げた国(SJ)」はティンパニの音が重く響き、そしてコーラスのように聴こえる原曲のフレーズも今回は見事に生の肉声で表現されている。
そして「遊びふける国(SJ)」からの「敬虔な恐れ(SJ)」「激しい怒り(SJ)」と2曲バトル曲が続く。歴代シリーズの中でも異色なバトル曲は男性コーラスで、軍歌を彷彿させるボスバトル曲もトランペットの音色をしっかりと響かせることで再現した。
フルートが印象的な「路を管する地(SJ)」から、「SJ」シリーズを象徴する男性合唱による低音コーラスが曲を盛り上げた「主の名において(SJ)」に。そして「その名にふさわしい栄誉(SJ)」では「SJ」シリーズ楽曲に共通する勇壮さを見事に再現した。
続いてのメドレーは、正規ナンバリングとしては10年ぶりとなった、「真・女神転生IV」とその続編となる「真・女神転生IV FINAL」。まずはピアノの不協和音のような叩きつけた音から始まる「メイン・テーマ(IV)」からだ。
「東京(IV)」から、「Battle-a2(IV)」「Battle-f1(通常戦闘)(IV-F)」「Battle-b2(IV)」と三曲続けてのバトル曲メドレー。「IV」の通常バトル曲から「IV-F」の通常バトル曲へと流れる構成には、ついゲームのバトルシーンとも相まって「ニヤリ」としてしまう。
エレキギターがこれだけ鳴るオーケストラコンサートを、筆者はこれまでほとんど見たことがなく、ロックとオーケストラが見事に調和したアレンジには、ただひたすら感服するしかなかった。
「ニュートラル・テーマ(IV)」からイザボーとのバトル時に流れる「Battle-b4(IV)」、そして「ロウ・テーマ(IV)」からメルカバー戦で流れる「Battle-b5(IV)」「Battle-b6(IV)」という繋がりは、どちらもすばらしい。
「Battle-b6(IV)」は「これぞオーケストラで聴きたい」と切実に思っていた一曲だったが、とにかくパイプオルガンとの生音の迫力をリアルに感じるためにここにいるのだと思うほどだった。
「ラージマップ(IV-F)」「Battle-f2 (中ボス戦闘)(IV-F)」「Battle-f4 多神連合(IV-F)」「メイン・テーマ(IV-F)」と「IV-F」から4曲続いたが、中でもオーケストラでの再現は無理なのではないかと思っていた「Battle-f4 多神連合(IV-F)」は、この場にあるすべての楽器が大活躍しているのではないかと思うほどの重なり合いでもって難易度の高い楽曲を再現し、盛り上がりを見せた。
第二部の最後は、10月26日に発売を控えた「真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY(以下、DSJ)」から、「前兆(DSJ)」「封印を解くにふさわしい者(DSJ)」「嘆きの胎(DSJ)」「大いなるしるし(DSJ)」と新曲を披露。力強い男性コーラスは「DSJ」でも健在で、新曲なのにとても「SJ」らしさがある。コントラバスの弦を弾く音が印象的な曲などもあり、「DSJ」がより一層楽しみになる選曲だった。
アンコールは、まさかの選曲が並んだ!
アンコールでまず「軽子坂高校校歌(if)」が流れると、想定外の展開に会場からはくすくすと笑い声が。
ファンの手拍子と共に「軽子坂高校校歌(if)」が合唱隊により歌い上げられると、「ロウのテーマ(SJ)」「Battle-c5(IV)」と続き、とにかく限界の限界まで詰めこんだというようなオーケストラコンサートは幕を閉じた。
最後には編曲者の方たちも登壇して、、ステージ上からファンへの大きな声援に手を振って応えている場面も。
約2時間のコンサートであったが、25年という「メガテン」の歴史を振り返るに相応しい、濃密な時間だった。
筆者もオートバトルによる物理反射の洗礼や、ハマムドによる即死魔法で涙を流したことも数知れず、まさかのキャラクターに突然目の前で死なれ、なんとなく予想はついていたものの目の前で起こったあまりのショッキングな出来事にうちのめされ、しばらくぼんやりと(ゲーム内の)東京のあちこちをふらふらと彷徨ったこともある。それでもまたやり直したくなるし、新作を期待するのが「メガテン」シリーズに憑りつかれたファンの宿命なのだろう。
この日会場にいたファンは、本当にみんな昔から「メガテン」シリーズが大好きだった、という人が多かったように見えた。そんな中で筆者はメガテニストとしては明らかに新参者の部類なのだが、会場のファンと音楽を通じてきっと同じものを観ているのであろう一体感に、すばらしい居心地の良さを覚える、そんなコンサートだった。
セットリスト
第一部
Demo(I)
Title(I)
Dream(I)
吉祥寺(I)
敵出現(I)
戦闘(I)
Level Up(I)
銀座(I)
廃墟(I)
カテドラル(I)タイトルデモ(II)
タイトル(II)
ニュートラル(II)
戦闘(II)
3D:魔界~貪欲界(II)(if)
タイトルデモ(if)
戦闘(アキラ編)(if)
ボス(if)
邪教の館(I)タイトルループII(III)
啓示(III)
東京受胎(III)
大マップ(III)
通常戦闘(III)
通常戦闘 街(III)
邪教の館 ~煌天~(III)
通常戦闘 ~アマラ経絡~(III)
ボス登場(III)
コトワリボス戦闘(III)
魔人(III-M)
メタトロン(III-M)
スタッフロール(III)第二部
永遠の王座(SJ)
焼け焦げた国(SJ)
遊びふける国(SJ)
敬虔な恐れ(SJ)
激しい怒り(SJ)
路を管する地(SJ)
主の名において(SJ)
その名にふさわしい栄誉(SJ)メイン・テーマ(IV)
東京(IV)
Battle-a2(IV)
Battle-f1 (通常戦闘)(IV-F)
Battle-b2(IV)
ニュートラル・テーマ(IV)
Battle-b4(IV)
ロウ・テーマ(IV)
Battle-b5(IV)
Battle-b6(IV)
ラージマップ(IV-F)
Battle-f2 (中ボス戦闘)(IV-F)
Battle-f4 多神連合(IV-F)
メイン・テーマ(IV-F)前兆(DSJ)
封印を解くにふさわしい者(DSJ)
嘆きの胎(DSJ)
大いなるしるし(DSJ)アンコール
軽子坂高校校歌(if)
ロウのテーマ(SJ)
Battle-c5(IV)
公演概要
GAME SYMPHONY JAPAN 25th CONCERT 『真・女神転生』生誕25周年祭 ‐LAW SIDE‐
2017年10月20日(金)
18:00 開場 / 19:00 開演
会場
東京芸術劇場
指揮
志村健一
演奏
管弦楽・東京室内管弦楽団
合唱
東京混声合唱団
主催
株式会社アイムビレッジ
共催
公益財団法人としま未来文化財団・豊島区
協力
株式会社アトラス