コーエーテクモゲームスが3月1日に発売するPS4/Xbox One/PC用ソフト「DEAD OR ALIVE 6」のプロデューサー・新堀洋平氏へのインタビューをお届けする。
「DEAD OR ALIVE 6」は、美しいビジュアルと「打撃」と「投げ」と「ホールド」の3すくみで駆け引きが楽しめる3D対戦格闘アクションゲーム最新作。ビジュアルは最新エンジンの搭載により肌や汗の質感、肉体の表現にさらに磨きがかかった。また新システム「ブレイクゲージ(必殺技ゲージ)」を導入したことで分かりやすく、それでいて戦略性も増している。
今回のプロデューサー兼ディレクター・新堀洋平氏へのインタビューでは、前作からの7年間で変化したことを中心に伺った。ビジュアルや新システムはもちろん、表現規制、クロスプラットフォームといった取り巻く環境はどう変わり、どう対応してきたのか、気になる質問をぶつけてきた。
爆発的なユーザー層の拡大、そこから生まれた新システム
――前作から「DEAD OR ALIVE 6」に至るまでの間で、格闘ゲームのシーンも様変わりしたと思います。プロデューサーとして、なにか変化を感じることはありますか?
新堀氏:全体的に盛り上がっているな、とは感じますね。特にカジュアルに楽しむユーザーさんが増え、例えば昨年の東京ゲームショウ2018でも「DEAD OR ALIVE」シリーズを知っている人が劇的に多くなった印象がありました。一番ビックリしたのは美容院に行ったとき、バイマンの画像を見せて「こんな髪型にしてください」と頼んだら、お兄さんが知っていて(笑)。美容師の方と格ゲーの話をするなんて昔では考えられなかったですし、いろんな方に遊んでもらえるゲームになったんだなと感じますね。
――「DEAD OR ALIVE」の裾野が広がったきっかけはなんだったのでしょう?
新堀氏:3つあると思います。ひとつは前作「DEAD OR ALIVE 5」で基本無料版を提供したこと、もうひとつはマリー・ローズの登場、最後にやわらかエンジンの実装ですね。基本無料版は当然ながら多くの人に触ってもらう大きなきっかけでしたが、特に伸びたのは「Ultimate:Arcade」で登場したマリー・ローズがダウンロードコンテンツとして出てきたときです。マリー・ローズの力は本当に絶大で、当時は「『DEAD OR ALIVE』は知らないけど金髪のあの子は知ってる」という人もいたくらいです。売上的には「仁王」とマリーちゃんに引っ張ってもらっている感覚です(笑)。
もちろん「Last Round」も基本無料版の勢いは増しました。その勢いを支えたのが、やわらかエンジン実装によるビジュアルの強化でしたね。この3つが相乗効果を生み出し、こちらとしても大会を始めとしたイベントを開催しやすい状況になりました。そのおかげでトッププレイヤーの実力も上がるという、初心者から上級者まで、全体のピラミッドを大きくできました。
――最近「DEAD OR ALIVE」に入ってきた方は主にどんな遊び方をしているのですか?
新堀氏:ストーリーモードを遊んでおしまいという方もいれば、オンライン対戦に参加してくれる方もいます。あとは撮影モードでひたすら撮りまくるという人もいます。いろんな人がいる中で共通しているのは、着せ替えを楽しんでいる点ですね。
――逆に上級者はいかがですか?e-Sportsの登場によって、より高みを目指す人も増えたかと思います。
新堀氏:まさにその通りで、ストイックに練習を続け、私たちですら気付かない発見をすることもしばしばあります。開発中には話を聞く機会もありましたけど、意見のひとつひとつがまたストイックで(笑)。もちろん大いに参考にさせてもらいましたが、すべてを反映させるとせっかく入ってきた初心者の方々を置いてきぼりにしてしまいます。そのバランスというのも「DEAD OR ALIVE 6」の開発で難しかったところです。
――e-Sportsの存在が、ゲームシステムや仕様に影響を与えた点はありますか?
新堀氏:e-Sportsの盛り上がりは確かに大きな出来事ですけど、それによってゲーム開発が180度変わったわけではないです。その中であえて気にしていることと言えば、ゲームをプレイする人だけでなく、観戦する人もいるということですね。見ていて楽しい、分かりやすくハラハラできることに注力し、どちらの選手が何をしようとしているのか、瞬時に伝わるようにしました。
――情報量を多くしたということですか?
新堀氏:新システムの「ブレイクゲージ」は代表的なものですね。ゲージを溜めることで必殺技を打てるようになるのですが、これのおかげで「一発逆転の可能性がある」と分かりやすくなっているんです。例えば片方の体力ゲージはほとんどないけどブレイクゲージは残っている。もう一方は体力が多く残っているけど、ブレイクゲージは溜まっていない。この場合、体力ゲージの少ないほうが必ずしも不利とは言えないんですよね。
「DEAD OR ALIVE」は元々逆転の余地が常に残されているゲームです。しかしそれを観戦者に伝える方法はあまりありませんでした。「ブレイクゲージ」はその状況を変える存在であり、実況付きで戦況を見守ったら絶対面白いですよ。
――もうひとつ「フェイタルラッシュ」という手軽に連続攻撃できるシステムも導入されていますよね。
新堀氏:初心者の方が増えたことで、格好いい技が簡単に出せる方法はなにかないかと考えていたんです。それに見合う技、そして技を当てたときのいかにも痛そうな表現は本作の大きなテーマで、結果的に生まれたのが「フェイタルラッシュ」でした。ひとつのボタンを押すだけで3連撃、4連撃とつながって、さらに相手をステージギミックに当てることができれば、さらなるダメージに発展します。これであれば初心者の方でも気軽に楽しめると思います。
――どちらかというと初心者向けのシステムに思えるのですが、大会に出るような上級者はどのように利用すると考えていますか?
新堀氏:きっと私が考えている以上の使い方を皆さんが編み出してくれると思いますが、例えばアッパーを相手の攻撃に合わせて繰り出すとクリティカルスタンとなり、一瞬よろめきます。その瞬間ならフェイタルラッシュを確実に当てることができ、それを食らった相手はブレイクゲージを使った返し技「ブレイクブロー」でなければ抜けられません。対戦相手からしたら、ブレイクゲージを消費して立て直すか、甘んじてダメージを受けるかの二択になると。
またフェイタルラッシュを発動するSボタンは、前ボタンを押しながらだとブレイクブロー、後ろボタンと合わせるとブレイクホールド、そしてサイドステップ中だとサイドアタックになります。サイドアタックは直線的な攻撃を避けながら強力な攻撃を出せるので、これも頻繁に使われると思います。
――先日「DEAD OR ALIVE 6 ワールドチャンピオンシップ」の開催も発表されましたが、今後はどのような取り組みを行っていく考えでしょうか。
新堀氏:格闘ゲームの大会といえば、すでに「ストリートファイター」や「鉄拳」が開催し、成功を収めていますよね。そういう意味だと「DEAD OR ALIVE」は後発であり、彼らが王座に座っている状態なんです。まだ検討段階ではありますが、後を追いつつも、ちょっと違った見せ方を考える必要があるとも思っています。「DEAD OR ALIVE 6 ワールドチャンピオンシップ」も決まっていないことが多いですが、総額1,000万円という賞金を用意できたことはあらためてお伝えしておきたいです。
――「ストリートファイター」や「鉄拳」の新作も盛り上がりを見せる中で、どのように独自性を見出そうと考えていますか?
新堀氏:3Dの格ゲーという共通点から「鉄拳」と比較されることも多いですが、「鉄拳」は男らしさというか、格好良さ、たくましさを表現しているゲームだと思います。それに対して「DEAD OR ALIVE」は女性らしさ、色気や美しさで勝負していて、それは今回も変わらないです。
――大会などを通して日本と海外で温度差を感じることはありませんか?
新堀氏:格闘ゲームに限らずe-Sports全体で、日本は海外に一旦置いてかれてしまった印象です。日本はプロゲーマーだけでは食べていけないシステム、文化になっているというか…。プロゲーマーとして活躍する日本人ももちろんいますが、戦いの場はやはり海外ですからね。
ただ、将来は日本と海外という構造自体が曖昧になってくるかもしれません。先日の「EVO Japan 2019」では、「鉄拳7」のトーナメントでパキスタンの選手が優勝して話題になりましたよね。そのくらい世界中に強い選手が生まれる環境が整いましたし、「DEAD OR ALIVE」もその流れに乗って、世界のどこかに埋もれている強いプレイヤーを見つけられるよう、大会を運営していきたいですね。
表現規制、クロスプラットフォームとどう向き合うか
――「DEAD OR ALIVE 6」は最初からPS4やXbox One、PCでの制作でしたが、ハードのスペックが向上したことによってゲームの作り方に変化はありましたか?
新堀氏:今回はゲームエンジンを丸ごと取り替えて、それが与える影響はかなりありました。「DEAD OR ALIVE 5」のPS4版は、PS3の時代から使っているエンジンを無理やり対応させたもので、結構無理をしていた部分があります。しかもPS4世代のエンジンも存在せず、当初は苦労もしましたね。そんなときに会社の技術部門から「こんなエンジンありますよ」と持ちかけられて。まだ完成途中のエンジンだったんですけど、セールスマンのように推してくるから使うことになったんです(笑)。
下準備には相当な時間がかかって、最初に「DEAD OR ALIVE 6」を発表したE3 2018の段階でも作りかけだったんです。グラフィックは美しくできたものの、代わりにまったく揺れなくて…。不自然極まりない状態で発表したことで「新作は揺れない」という誤解をされてしまい、誤解を解くために四苦八苦しました…。しましたというより、今もまだ「揺れなくなった」とおっしゃる方がいて、苦労している真っ只中です。
――その点で妥協はしていないと。
新堀氏:理想を語れば、上位機種でプレイしてほしいです。PS4ではなくPS4 pro、Xbox OneではなくXbox OneX、PCなら高スペックのマシンで遊ばないと、本当の違いはわかりません。それこそ、次世代機が来ても大丈夫なくらいのスペックで作っているので。
――キャラクターのビジュアルだと、昨今話題の表現規制に関してはどのようにお考えですか?
新堀氏:「○○が規制している」と噂になりやすいですが、どちらかというともっと大きな、世界的な流れであることは理解していただきたいです。日本の文化と世界全体の文化は思っている以上に違って、少し間違えると本当に痛い目を見ます。炎上するし、そもそもゲームを発売できなくなる可能性だってあります。
しかし「DEAD OR ALIVE」のファンの中にはセクシーな表現が好きな人も大勢います。それをゼロにすることはまったくないですし、なにより私もこだわりたいところと考えています。世界全体の文化と、私たちがこだわりたい表現、どちらかを選ぶのは難しく、今後も戦っていきたいですね。
――日本の文化だと、表現規制というのは「やり過ぎでは」とも思いますが、たくさんのものさしで物事を見なければいけない時代なんですね。
新堀氏:私だって、今でも日本の文化で作ってしまうことがあるんです。でも過剰にすると、お店に置いてもらえなくなる可能性だってあります。「ファンが望むから」と応え続けて、そもそもファンの方々へ届けられなくなることだけは避けたい。世界的な風潮とファンの声の中間に立てるようなものを作れるように頑張っていきたいです。
――「DEAD OR ALIVE」としても多くの苦難があったと思います。その中で、キャラクタービジュアルではどんなこだわりを実現できましたか?
新堀氏:どちらかというとデザイナーの苦労が多かった箇所ですが、あくまで私が実現したかったこだわりとしては美しい、かわいい、格好いいといった“クール”な側面はもちろん、格好悪い部分もしっかり描きたいと考えていました。前作までは、どの方向から光が当たってもかわいく、凛々しく見えたんですけど、本作では光の加減によって見える印象がだいぶ違います。明るさや角度で印象が変わらないと、それは嘘をついていることになります。それは私たちが目指した「生の激闘」とは違うコンセプトだったんです。今回は暗い場所で戦えば表情だって暗く見えるし、攻撃を受ければ苦しそうな表情を見せます。
――前作と比べると、登場していないキャラクターも何人かいますよね。このあたりの選考基準はなんだったのでしょう。
新堀氏:真面目に答えると、ゲームって売上の予測から予算がはじき出されて、私たちはその予算内でゲームを作るわけです。そして予算の中で、発売時に実装できるであろうキャラクター数が大体20人でした。しかしストーリーを考えていくと20人では足りなくて、無理やり25人まで増やした経緯があります。
前作とはエンジンが違うので、素材の再利用すらできないじゃないですか。だから25人というのも相当な苦労があっての判断で、女天狗の実装をやめるという判断になりました。そういった話と同時に、DLCならば「敵として出てくるフェーズ4をプレイアブルキャラクターにできる」ということもあって、25人目が固まっていった形です。
実はコレクターズ・エディションの缶バッジやデラックスコスチュームセットには、フェーズ4がいて女天狗がいなくて、それは制作過程の紆余曲折があった影響なんです。とはいえ女天狗も予約特典という形で登場させることが実現しましたし、できることはやれたと思います。
――DLCでは「THE KING OF FIGHTERS XIV」から不知火舞が登場することも発表されていますが、こちらの経緯についても教えてもらえますか。
新堀氏:前作に続いての登場となるんですけど、これが本当に人気が高くて(笑)。「DEAD OR ALIVE5」での実装は運営が始まってからだいぶ経っていたにもかかわらずの人気でしたから、今回はもっと早いタイミングで登場できるよう動いていました。ただ、発表しておいてなんなんですけど、モデルはまだできてないんです。不知火舞も他のキャラクターと同様に一から作っているので、ひいひい言いながら頑張って良いキャラクターに仕上げたいです。
――もうひとつ最近のトピックとして、ハードの垣根を超えたクロスプラットフォームの話題も盛んに飛び交っていますが、こちらについてはどんな考えをお持ちですか?
新堀氏:対戦ゲームを作る人間は、誰もが世界中のいろんなプレイヤー同士で戦ってほしいと思って作っているんですよ。これが普通で、考えてない人のほうが珍しいと思います。「フォートナイト」は成功例のひとつで、憧れの対象ですらあります。
当然私もクロスプラットフォームはいつかやりたいとは考えています。まだまだ道程は長く、今後の課題、夢としか言えませんけど。全部のプラットフォームをいきなりつなげるのは難しいので、特定のハードだけでもできれば嬉しいですね。
――そういえば、「DEAD OR ALIVE 6」でも基本無料版の配信を予定しているというお話でしたが、配信の目処は立ちましたか?
新堀氏:今まさに作っていますけど、まだ具体的な配信時期を決めるには至ってないです。ファンの方々からすると「一部分を切り取るだけでしょ」と思うかもしれませんが、無料版に必要な機能を新たに取り揃えなければいけないんです。配信時期、そして仕様についてもまだまだ検討している段階ですね。
――最後に、発売を心待ちにしていたファンへのメッセージをお願いします。
新堀氏:いろいろな人に楽しんでほしい思いから作ったゲームです。普段から対戦する人、格闘ゲームにほとんど触れたことのない人、お色気要素に興味がある人、あらゆる人におすすめできます。今でも充分に楽しいと確信してますし、アップデートでどんどん進化します。今(2月28日時点)でもダウンロード版を予約すれば、女天狗が使用可能になりますので、ぜひお願いします。
――ありがとうございました。