2019年9月26日に日本ファルコムよりリリースされた「イースIX -Monstrum NOX-」(以下、イースIX)。本作のプロデューサーを務める近藤季洋氏に、「イースIX」の魅力に迫るインタビューを行ってきた。

長いインタビューとなるが、ぜひ最後まで目を通してほしい。なお、このインタビューはゲームのラスト部分まで含めネタバレだらけなので、くれぐれも注意してほしい。

日本ファルコム 代表取締役社長の近藤季洋氏
日本ファルコム 代表取締役社長の近藤季洋氏

バルドゥークの街というシステムを作ってからシナリオを考える――「イースIX」が生まれるまで

――舞台となったバルドゥークは箱庭でありつつオープンワールドを感じさせるような作りになっていたと思うのですが、このゲームシステムについてはどの段階で決まったのでしょうか?

近藤氏:これはシナリオが決まるより前の、かなり最初の段階で決まっていましたね。元々、「イースIX」を始めるという話をスタッフにした時に、みんなが壁を駆け上がったりとか、空を飛んだりとか、今までなかった縦方向のアクションをやりたいという話をしていて、だったら舞台は街だよね、という話が最初に決まってから、怪人などの設定を考えています。

街を舞台に、街の中でも戦闘があって、街の中で様々なアクションをやっていくものを作りたい、という意志はありましたが、実際にそれをやれるかどうかっていうのはやってみないとわからなかったので、最初の段階では「そういう形にできたらいいね」くらいの温度感ですけれども。

――実際、縦軸に伸ばすというのは、すごく大変だったと思うのですが、そこについてはやはりご苦労なされましたか?

近藤氏:大変でしたね。処理速度が思ったように出なかったりとか(笑)。とにかく本当に街を全部丸ごと作らないといけないので、サボって裏側を描かないで終わらせよう、ということも出来ないですし。

そもそもうちのゲームは、色んなところにきちんとキャラクターを配置して会話を楽しんでもらったりというところもあるので、それをいつも通りにやってしまうととんでもない作業の量になってしまうことがわかりまして。さすがにこれはいつも通りにやるのは無理だろうということで、例えば街の人のメッセージもちょっと絞って、喋らないけれど賑やかしのために歩いているキャラクターを増やしたりしました。

――街中で操作キャラクターが人とすれ違った時に声が聞こえる演出とかも、そういう賑やかしの一部ということでしょうか。

近藤氏:そうですね、そのあたりは「アサシン クリード」みたいだなって(笑)。いつも通りにはできないけれど、じゃあ街の賑やかさみたいなものをどうやって出したらいいかというところで、そういう新しいアイテムを入れたりとか、あとは単純に街を丸ごと読み込みなしでやるっていうオープンワールドスタイルのものが初めてだったので、技術的な問題というのもあって、最後までその辺には苦しめられましたね(笑)。

――とんでもない作業量ということですが……「イースVIII -Lacrimosa of DANA-」(以下、イースVIII)と「イースIX」ではシナリオの文章量はどちらが多いのでしょう?

近藤氏:メインシナリオと呼ばれる、プレイヤーみんなが必ず目を通すシナリオの部分については、PS4版の「イースVIII」よりはちょっと少ないくらいで、PS Vita版の「イースVIII」とほぼ同じです。ただ、サブクエストとか、仲間のサブイベントなどのサブシナリオ的なものは、「イースIX」の方が多いので、総量で述べるなら「イースIX」の方が若干多いです。

――実際の開発期間は大体どれぐらいになるのでしょうか?

近藤氏:だいたい2年ぐらいです。とは言っても最初の1年は人数を絞ってコアメンバーだけでやっていて、最後の1年でチームの人を増やして一気に組み上げたので、トータルの期間としては2年ちょっとなんですけど、実際の正味の期間としたらもう少し少ないですね。

――「イースIX」はまずバルドゥークという街から作ったというお話でしたが、普段「イース」シリーズはシナリオとシステムとどちらから作られることが多いのでしょう?

近藤氏:僕は、基本的にシナリオから作ったことは一回もないですね。僕がシナリオをやる前の「イースSEVEN」くらいまではシナリオからやっていたのかもしれないですが。僕は「イース・オリジン」とかも一応担当はしていますが、「イース」のメインシナリオをやり始めたのは「セルセタの樹海」からで今回で三作目なんですけれど、基本的にはゲームとしてどうするかというところから話を始めることが多いです。

――ゲーム性ありきで、シナリオを作られるのですね。

近藤氏:「軌跡」シリーズは「次のお話どうする」っていう話の始め方なんですけれど、「イース」の場合はあくまでアクションゲームなので、アクションゲームとして方針をどうするかというところから始まって、アクションをどう進化させるのか、今回は何があれば面白いゲームになるのか、そういったところからまず始まります。

じゃあそれに合った舞台ってどういう舞台だろうね、という風に話を始めていくので、基本的にはいつもシナリオは最後になりますね。「セルセタの樹海」は元々の設定があったので、またちょっと違うんですけれども。

――そのアクションとシナリオが上手く噛み合って、「イースIX」になったと。

近藤氏:そうですね。「イースIX」を例にとれば、立体感のあるアクションがやりたいっていうところから始まって、ただ今までのアドルの設定だと、そんな自由に壁を走ったり空を飛んだりというのはかなり飛躍がありますし、ユーザーさんもそのままストレートに受け止めることはできないだろうから、じゃあどういう設定があったらあの世界観に落とし込めるかを考えた時に、怪人という設定がなんとなく世界観に合いそうだし、あと新鮮さもあるかなと。

それだったら従来のユーザーの方たちも受け止めやすいし、新規のユーザーへのアピールにもなるだろうと考えて、じゃあ全員怪人にしようというところから始まりました。

――なるほど。ちょっと「イースIX」からは逸れるものの、近藤さんのシナリオ作りの一環としてお伺いしたいのですが、「イースVIII」もそういうスタートだったんですか?

近藤氏:「イースVIII」の時は、その直前に出した「セルセタの樹海」で、ヒロインがキャラクターとして弱いと、ユーザーさんにすごく言われたんですよ(笑)。だったらフィーナを超えるヒロインにチャレンジしてみようと思ったんです。でもフィーナを超えるにはどうしたらいいかと言っても、思い出補正の掛かったキャラクターに設定とかキャラクター性で挑んでも、絶対に勝てないんですよ。フィーナは僕の中でも、崇高な本当に美化された存在なので。

じゃあ、ヒロインを操作させればいいじゃないか、と。そうするとそのヒロインの生い立ちであるとか、人生を追体験することで、それはもうフィーナにはなかったヒロインとしての存在感を表現できますし。

――でも、「イース」はアドルの視点で進むお話ですよね。

近藤氏:ですので、じゃあヒロインを操作するっていうプロセスをどうしたら「イース」に落とし込めるかなと考えた時に、アドルの見る夢の中でヒロインを操作すれば、それはアドルが操作してることになるでしょ、みたいな屁理屈を付けて(笑)、ダブル主人公みたいな形にしました。

ダーナのヒロインとしての存在感を追求していく中で、エタニア文明の設定であるとか、無人島を舞台にしようっていうことが決まっていきまして。無人島にアドルたちが漂流してきて漂流村を作って漂流者たちを集めてっていうのが後から追加されていって、その中でアドルがダーナの存在を夢の中で知って、冒険が大きく動いていくっていうところまでは、1ヶ月ぐらいで決まりましたね。

――あのシナリオが1ヶ月で決まったんですか(笑)。

近藤氏:そこは決まるのが早いんですよ。ただ、それは本当に一番の軸の部分なので、その後からが長いですけど(笑)。

――「イースIX」のシナリオも、軸が決まるまでは1ヶ月くらいですか?

近藤氏:怪人と決まるまでは、1~2ヶ月です。実際にシナリオを作るのはもちろんもっと時間がかかっているんですけれど、最初の構想だけならばそれくらいの期間ですね。ちなみに最初に設定を考えた時は、そんなに壮大じゃないんですよ。なのに何故か書き進めていくうちに、どんどん壮大になっていっちゃうんですよね(笑)。

――「イースVIII」が高評価だったこともあって、「イースIX」のシナリオは大変だったのではないでしょうか。

近藤氏:実際、「イースVIII」でかなりお客さんが増えたのもありまして。特に今まで「イース」をやっていなかったお客さんが、「イースVIII」の評判を聞きつけてっていう感じだったので、「イースIX」でコケると絶対怒られるなぁ、と。なので、すごいプレッシャーではあったんですよね。

でもアクションがああいう方向に進化するというのと、怪人という今までのシリーズにない設定と、セミオープンワールド的なゲーム進行とで、この3つが揃っていれば思いっきりコケるってことはないんじゃないかな、と(笑)。

――実際のところ「イースVIII」の時と「イースIX」とで、どちらの方がより手応えを感じていますか?

近藤氏:どちらも同じぐらい手応えはあったと思いますが、「イースVIII」は確かに本当に全部のピースが綺麗にはまったなっていうのはありましたけれど。

「イースIX」は色々やりたいことがありすぎて、最後に選択を迫られてどうしても切るしかなかった部分もあり、心残りもあるんですよ。今の時点としては「イースIX」はあれが完成形ではあるんですけれど、もしもまたいつかどこかで再チャレンジできる機会があるならば、やりたかったことを全部入れたいですね。

――やりたかったことというのは、DLCなどで追加するというのは難しいのでしょうか?。

近藤氏:やりたいことの規模が大きいので、DLCでやるのはちょっと難しいですね。取り敢えずもう制作ラインが次回作(※「軌跡」シリーズの新作)に行っているので、例えば別のプラットフォームで出すような機会があれば、もしかしたらやれるのかな、とは思っているんですけれどね。

――タイミングとしてはそこら辺になってしまいますか。

近藤氏:基本的にいつもうちの会社は「早く次に行きなさい」って言われてしまうので。「イースVIII」の時も、結構怒られたんですよ。また近藤が時間かけて作り直してるって(笑)。その時間で次を作れよって、いつも言われるんですけれど、難しいところですよね。

「イースIX」も本当は実装したかった機能がいっぱいあって、さっきも言ったようにいずれチャンスがあれば復活させたいんですけれど。

――実装したかった機能とは、どのようなものがあるのでしょうか?

近藤氏:アプリリスのプレイアブル化とか。あと本当は、まだ他にも怪人がいたんですよね。

――それは、7人目の仲間キャラですか?

近藤氏:仲間か敵かは解らないですけれどね。時間の都合で実現できませんでした。

あと、囚人編ではもうちょっと推理モードみたいなのが、本当はありまして。最初の牢屋から抜け出す時も、アドベンチャーモード的なミニゲームを用意していたんですよ。牢屋の中を調べて小道具を見つけて鍵を開けるとか、そういう感じのものなんですけれど。

実際システムまでは作ったんですけれど、ゲームのリズムとか、スケジュールとか、色んなところから諦めました。

「イース」シリーズの伝統を守りつつ新しさも取り入れる――意識の奥深くに残っている想いと葛藤

――「イース」シリーズのお約束でもありますが、地図に宝箱が見えているのに取れないというもどかしさが、今回はこれまで以上に凄く楽しかったですね。

近藤氏:見えているのに取れない宝箱は「イースI」の頃からずっとやっていますが、「イースI」とか「イースII」の宝箱の配置やバランスは、今でも僕らにとって教科書みたいなものなんです。そういう昔のゲームのワクワクドキドキ感みたいなものは、「イース」にはなるべく積極的に残したいと思っています。やっぱりもう32年経つシリーズですしね。

――宝箱を取りに行く時に、果たしてこれは正解なルートなんだろうかと思うぐらい結構無茶苦茶な取り方をしにいっているんですけれども、開発の中ではある程度正解のルートというのはあるんでしょうか。

近藤氏:操作テクニックを要求するような宝箱も設定はされていて、スタッフの中でも「ここはこういう風に取るんだよ」っていう、”正解”的なものは確かに一応あるんですけれど、たまにユーザーさんが僕らでは思いつかなかったような取り方をされていることはありますよね(笑)。

敵の倒し方とかもそうですけれど、そこはやっぱりアクションゲームならではの作った側もちょっと楽しませてもらうようなところですよね。そんなやり方があったのって、僕たちも驚くことが多いですよ。

――「イースIX」はその中でも特に、ユーザーによって色んな風に広く遊べる、本当に素晴らしいゲームでしたよね。

近藤氏:そうですね。街の探索っていう要素がこれまで以上に探索ものとしては考えさせられるところがあって、それと同時に課題もありましたし、やりきれなかったというところもあるので、どこかでやっぱりちゃんと完成をさせたいなっていう気持ちはありますけど。

――「イースIX」では「閃の軌跡」シリーズだったり「東亰ザナドゥ」とかでやってきたことがフィードバックされているのが色々なところで見えるなと思ったのですが、やはり蓄積してきたものが活かされているのでしょうか。

近藤氏:それは勿論ありますし、「イースIX」では特にモーション周りにそれが現れているかと思います。「軌跡」はユーザーさんから「もうちょっとモーションが何とかならないですか」というご意見を頂くことが多いんですよ。というのも、「軌跡」ではいわゆる”汎用モーション”という、何度も使い回すモーションだけでイベントを組むことが多いんですね。

何故そうなるのかというと、イベントの時間だけで20時間ぐらいのイベントを組んでいるからで、20時間分のイベントってアニメなら1クール分以上の量があるんです。それだけの量のイベントを固有のモーションで全部ちゃんとやるのも難しいですし、モーションキャプチャーもそのまま使えるわけじゃないので、結局あまりに時間がかかりすぎてしまうんです。

ただ「イース」であればそんなにイベントの尺は長くないし、ポイントポイントで、イベントの動きとかカメラワークを凝ったものにできるんですよね。なので、そういったあたりに初めてチャレンジしたのが、「イースIX」なんです。だからその辺は「軌跡」で言われてきたこととか、いつかどうにかしたいと思っていたところをちょっとチャレンジして解決を試みた部分で、今回一番大きいところだと思います。

――グラフィックでは光の表現など、「軌跡」よりもさらにもう一段細かい影の付け方を意識されていると感じました。

近藤氏:はい。特に「イース」はダンジョンから出た時に初めて見る景色の光とかを「イースエターナル」ぐらいの時から妙にみんな意識しているんですよ。「イースI」で病院から出てきた時に差し込んでくる光がすごく印象的で、あの辺から「イース」は特に環境音とか光源とかを意識しています。

――「イースIX」は基本的に街中で進んでいくというのもあり、外に出た時に外から見るバルドゥークの景色みたいなのも凄く綺麗で印象に残るものが多かったですよね。

近藤氏:「イース」は昔からそうなんですよ。「イースI」でダームの塔に登って行くときに遠くにミネアの街が見えるじゃないですか。昼間だったら昼の景色で、夜だったら夜景になっているとか、今ではゲームの表現としては当然のことなんですけれど、あの時代にドットでわざわざそういうことをやっていたりとか、当時話題になった「イースIII」の多重スクロールとか、ああいう表現は僕らの意識の奥深くに残っていて、今やるとこういう表現が出来るのでは、というところがありますね。

「イースIX」ではずっと街の中に閉じ込められてたいたので、街を出た時の開放感とかで、そういう昔ながらの伝統を感じられるようにしています。

「イース」には、視覚からプレイヤーの感覚に直接訴えるようなことをやる部分が昔からあるので、なるべくそれは廃れさせたくないと思いますよね。でも“感覚に直接訴える”ためには、あえてゲームデザインとしてプレイヤーへの負荷が必要だったりもします。「今の状態だとちょっと難しいな」とあえて思ってもらうような作りにして、先に他の場所に行ってもらう、とかなんですけれど。

ああいうのを今やるんだとしたら、どういうやり方になるのかなぁ、とは思っています。今の時代みんなアクション苦手ですから、結構大変なんですよね(笑)。

――こんなにアクション流行っているのに、アクション苦手なんですか?

近藤氏:苦手ですよ(笑)。うちの社員でも女子の方なんかだと、こう(※手で大ジャンプを描きながら)大ジャンプができないんですよ。大ジャンプができなくて、小ジャンプになっちゃったり。不慣れな方だと、右スティックを操作しながら移動するということができないようです。

――という中で、今回「イースIX」で仲間を切り替えないでも異能が使えるっていうそういうプレイ性は、やはりそういったユーザー層を意識された部分もあるのですか?

近藤氏:もう面倒くさいですからね(笑)。切り替えさせるのって、言ってしまえば制作側の都合というか、このキャラクターの能力なんだからこうでしょ、っていう部分なんですよね。

もちろん、そういう気持ちは僕らも本当は大事にしたいんですけれど、いわゆるライト層と呼ばれる人たちはどうしても増えてきていますし、あとは結局自分たちも切り替えずに使えたほうが便利だよね、って言ってしまえば、その通りなんですよ(笑)。ならば、もうそこのこだわりは一度捨てようと。

――なるほど。潔い、良いご決断だったと思います。

近藤氏:「イースIX」を作る時に最初にスタッフに聞かれたんですよ。「社長、異能なんですけれど、どうしますか?」って。今までのように切り替えた時に使えるのか、全員共有で使えるのかって選択を迫られた時に、僕は即答で「全員使えてもいいんじゃない」くらいで答えてましたからね(笑)。

「セルセタの樹海」の時にパーソナルスキルというのがあって、そのキャラクターだけが使える固有のスキルだったんですけれども、デュレンのスキルが鍵開けだったんですよね。戦闘ではみんな全然デュレンを使ってくれないのに、鍵を開ける時には彼がいなきゃいけないから、デュレンのあだ名が「鍵」になったっていう話がありまして。何となくその時の釈然としなかった想いが自分の中にこう降り積もっていって、もう限界かなって思ったんでしょうね(笑)。

――ただ、あのキャラクター切り替えがあることによって、普段だったら使わないキャラクターをパーティーに入れておくというのがあったので、必ずしもマイナス要素ばかりだったわけではないですよね。

近藤氏:そうなんです、だから良いところもあるし、悪いところもあって。ただ「イースVIII」以降、新しいユーザーさんが入ってきてくださっていますし、そういうプレイアビリティでストレスがかかるならば、それ以上に「なるほどな」となれる理由なりなんなりがないといけないと思うんです。

だけどそういう何かが明確に提示出来ないんだとしたら、それは制作側のよくわからないこだわり、ということだけになってしまうので、そういうところはバランスを見て、今後も色々判断していかないといけないなと思っています。

――そういえば私はずっと注目しているんですけれど、あまり誰も触れてくれないボタンのカスタマイズ機能なんですが、ボタンが二つ割り当てられてるというあの機能はもっと注目されても良いと思うのですが。

近藤氏:あれも、過去にユーザーの皆さんから来たご意見のフィードバックの集大成みたいなものなんですよ。ちょっと前まではあんなに自由にカスタマイズできなくて、せいぜいプリセットを切り替えるぐらいだったので。でもどうしても、昔からずっとプレイしてきたお客さんと、例えば「モンスターハンター」のような作品をプレイしてきたお客さんとでは、求めるものが全然違っちゃうんですよね(笑)。

――攻撃は△ボタンじゃないと、みたいな(笑)。

近藤氏:アクションゲームをプレイされる方だと、そうなっちゃいますよね。コマンドRPGであればそういうことを言われることはほとんどないんですけれど、アクションだと筋金入りのアクション好きの方たちはプレイヤーの皆さんがそれぞれ積み上げてきたものがありますし、それでも「イース」はこういう形できたから、という部分も勿論あるんですが、それも結局はプレイアビリティの部分ですよね。何が大事なのかを考えた時に、色んなお客さんが「イースIX」を手に取って、楽しんでもらえる形にしたい。

……とは言っても、あのボタンカスタマイズは間違いなくバグの原因になるから、最初はなかなかみんな渋っていたんですよね(笑)。でもこれまでに色々積み重ねた経験もあって、今のような形で皆さんの前に出せるようになりました。もちろん、どうしてもバッティングしてしまうような機能とかはどうにもならないですけど、そうでない範囲で好きなように組み替えていただきたいです。

筆者のボタンカスタマイズは、魔改造済み。どうしても直前まで遊んでいたアクションゲームに操作が引きずられがちになるので、この機能は今でも積極的に推していきたい。
筆者のボタンカスタマイズは、魔改造済み。どうしても直前まで遊んでいたアクションゲームに操作が引きずられがちになるので、この機能は今でも積極的に推していきたい。

魅力的なキャラクターたちは、街という箱庭が舞台だったからこそ生まれた――各キャラクターのコンセプトに迫る!

――「イースIX」はキャラクターもとても魅力的でしたが、あまり「イース」らしくないとも思いました。ここまでキャラクターにこだわった理由は何かあるのでしょうか。

近藤氏:今、質問を受けるまで正直あまり深く考えていなかったんですが……、今回はストーリーがずっと街の中じゃないですか。未知の場所を開拓して、その土地の謎を解いていく、っていう今までの「イース」のスタイルが使えず、今回は自分たちが謎そのもの、という点が、これまでのシリーズと一番違うところです。だから、よりキャラクターの方に焦点を当てようとしたのかなと。

パーティーメンバーについては、これまでのシリーズ以上に生い立ちであるとか家族構成であるとか、性格、主義主張みたいなものを掘り下げて描いているのかもしれないですね。舞台がこういう場所な以上、自然とそうなったんですけれども。

――バルドゥークという箱庭の中で物語を活かすためのキャラクターだったんですね。

近藤氏:怪人たちを描くことがバルドゥークを描くということに直結していましたし、それが歴史をたどるきっかけにもなるので、物語のプロットを組んだ時に各キャラクターのストーリーが第2章から始まり、最初は白猫で、鷹、人形、……と、自然とそういう形になったんですよね。キャラクターがいつもより掘り下げられていると感じられるとしたら、そういうことにも起因していそうです。

――では実際に各キャラクターのコンセプトについてお伺いしていきたいと思います。まず今回、赤の王とアドルの2人に分けた理由についてお伺いしてよろしいでしょうか?

近藤氏:これは「イースVIII」がヒントになっていて、あの時もアドルとダーナを切り替えて二つの物語を見せられたましたし、「イース」として新しい見せ方ができたという手応えがあったんですが、二度使える技じゃないですよね(笑)。二度使えないからどうしようかなと思った時に、じゃあなぜかアドルが二人いて別々の場所からスタートして冒険を進めていくとしたらどういう事が考えられるだろう、というところから思いついたんです。

あとはバルドゥークの街と錬金術的なものを合わせて、同じアドルなんだけれど片方は怪人として片方は囚人としてそれぞれに大きな謎を持たせ、それを軸にプレイヤーたちは謎を解いていってもらうというやり方ができたら、ダーナの時とは違う見せ方で怪人たちの物語が見せられるんじゃないかな、ということでああいう形にしました。

――最初に赤の王から囚人アドルに切り替わる時に、多分ホムンクルスかもしくは違う時間軸かのほぼどちらかを想像するのではないかと思いますが、それは想定内ですか?

近藤氏:ユーザーさんが想像されるのはどっちかだろうなとは、思っていました。ただ、いきなりホムンクルスと確信を持たれるのは嫌だったので、徹底的に解らないようにはしたんですよ。だから、そのあたりは一切ノーヒントのはずです。「軌跡」とかだとちょっと匂わせながら進めるんですけど、少なくとも「イースIX」ではあの時点で錬金術というキーワードは全く出してないですし。

「イース」シリーズは元々アドル=プレイヤーの物語なので、アドルの気分になってノーヒントでやってほしい、というところもありました。試しに第1章の冒頭部分を社内でテストプレイした時に、結構社内で「これどういうことなの?」とみんなが引っかかってくれたので、「ああ、この反応ならいけるな」と確信しましたね。

――近藤さんとしては、赤の王とアドルはそれぞれ別の個体だと思っていますか? それともあくまでひとりの人間だと思いますか?

近藤氏:これはまた難しいですねぇ(笑)。基本は同じですよね。元は全く同じなんですけれど、途中でたどった経緯がわずかな期間だけれど違うわけで、最終的には僕は別々の人物なんだろうとは思っています。

第8章の冒頭で赤の王とアドルのふたりが対話するシーンがありますが、最初はあのシーンは全く予定していなかったんですよね。もう、いきなり融合して一人になって、アドルが目覚めるところから始まっていたんですけれど、そのシナリオを書いた時に、辿った経緯がそれぞれ違って赤の王には赤の王の人生があったのに、まんま吸収されちゃって可哀想って思って。しかもずっと戦ってきたのは赤の王なのに(笑)。

今回プレイヤーが育ててきたのはあくまで赤の王なので、プレイヤーが納得できるような形が必要なんじゃないかなと思って、後からあのシーンを追加したんです。そういう意味では同一人物ではあるんですけれど、あの時点では二人いたんだな、という風には思っています。

――では、白猫についてお願いします。

近藤氏:白猫は結構オーソドックスに出来たキャラクターです。商人の娘だったりという特異な背景はあるんですけれど、一番真っ当……というか、普通の少女で。そんな普通の女の子がある日ヒーローのような力を身に付けてしまった時に何が起こるかっていうのをスタンダードに描かないといけない部分も必要だと思ったので、一番初めに出てくる怪人の仲間として設定したのが白猫になります。

――一番人気になるという予想はありましたか?

近藤氏:していましたね。自分の中では人気が出やすいキャラクターのテンプレート的に作った子ではありますし。本当はもっとクセのあるキャラクターに人気が出てほしいなと思うんですけれども。あとデザイン的に、白猫の姿もキリシャの姿も、純粋に可愛かったですよね。

想定外だったのは「僕っ子のままのほうが良かった」と散々言われたことで、凹みました(笑)。あの口調は第2章の中盤までなので、僕自身も声優さんの収録の時にようやく「あれ、思っていたより僕っ子の期間、短いな」と思ってたんですけれど、「まぁ、いっか」くらいの感じで進めてしまいました。でも、白猫の僕っ子エピソードをもっと見たいという意見もありますからね。アドルが来るもっと前の白猫の様子は、追加したいです。それと、白猫はPVとかも結構悩んだんですよね。殆どのシーンが可愛い声で喋っちゃってるんで、ユーザーにはそちらを見せないといけないですし。

――では、鷹のキャラクターコンセプトについてお願いします。

近藤氏:怪人という設定があって、それが6人いる訳ですから、なかにはとんでもないやつがひとりぐらいはいるだろう、という、”とんでもない枠”っていうのを用意していたんですよね。そこにたまたまはまったのが鷹というキャラクターだったんです。ベルセルクだの何だのっていう設定はキャラクターを深堀りする過程で生まれたもので、最初はまったく考えていませんでした。

とにかく横暴で、怪人の力を手にしたことでやりたい放題やるっていう人間が中にいた方が話としては幅が持てるので、そういう人物をひとり設定したと。新選組の初代局長で芹沢鴨っていうひとがいるんですけれど、大阪のど真ん中で大砲撃って吹き飛ばすとか、道を塞いでいた力士を刀で切り倒すとかとんでもない人で、その芹沢鴨が鷹のモデルになっています(笑)。

――言われてみれば確かに(笑)。ちなみにCVに石川界人さんを選んだきっかけみたいなものはありました?

近藤氏:キャスティング会社さんに相談したら、石川界人さんを勧めてくださったんです。僕は最初、別の方を想定してシナリオを書いていたんですけれど、でも自分がそんなに声優に詳しい訳じゃないからプロの人たちに選んでもらって、その中から決まればいいかなと思っていたんです。実際に収録に行った後は、完全に石川界人さんの声で鷹のセリフを書いていましたね(笑)。

石川界人さんは凄くプロ意識が高くて、ミステイクがほとんどないですし、物凄く収録が早い。セリフを間違わないのはもちろんですけれど、多分相当台本を読み込んできているんじゃないでしょうか。演技も間違いがなくて、本当にこっちが思っていた以上というか、「鷹ってこういう人だよね」というところに、さらに鷹らしさをプラスしてくれたっていう感じがありました。

石川さんには「英雄伝説 暁の軌跡」で主人公を演じていただいてるので、僕はもっとヒーローっぽい人なのかなと思って、本当に鷹ができるのかと思っていたんですけれど、最初に声を聞いた瞬間、そんな不安は一気に吹き飛びました。

――では、人形についてお願いします。

近藤氏:怪人の中に、“人間じゃない枠”があったんですよね。怪人が一列にバッと並んだ時に、みんな普通の人間だったら多分つまらない。例えばさっき言ったように荒くれ者で乱暴者の鷹がいて、人間じゃないようなキャラクターもいて、せっかく怪人という設定を使うならば、それぐらいキャラクターの振り幅があってもいいんじゃないかと思ったんです。

最初は魔物という案もあったんですけれど、魔物の仲間が欲しいというのはみんながいつも言うから、みんなの意見に従うのはなんとなく嫌だなと(笑)。魔物からもうちょっとひとひねりして、じゃあ人形はどうだろうかという流れです。

怪人化する魔弾があったとしても人形があんな風に動くなんてあり得ない訳で、その存在自体が一つの謎になりますし、後々物語の中核に深く関わってくるような存在が一人いてくれるといいな、というのもありました。

――ロスヴィータの持ち物だったという設定も後付けですか?

近藤氏:後からですね。取り敢えず、まず人形でした。当時はなんとなく僕の頭の中にシルエットとしてもやもやと浮かぶくらいの状態でしたが、アドルが真ん中にいて、なんか猫みたいなのがいて、芹沢鴨がいて、人間じゃないらしい何かがいて、そういう凄いぼんやりとした中からイメージを掘り出していくみたいな感じで肉付けしていったら、ああいうメンバーになったんですけれど。

――では、猛牛についてお伺いしてもよろしいですか?

近藤氏:猛牛も、アプローチは白猫に近いですね。あの街でかつて起こった悲劇と関わりがあって、なおかつ自分の日常を守りたいと思っている強い女性、というのが最初にありました。そこから猛牛は家族構成が決まって、――そしてこれは凄く不評だったんですけれど(笑)、彼氏がいるというのも最初から決まっていました。

彼氏を含めてその全部が彼女の守るべき対象なんですよ。「イース」は基本的にあまりお姫様タイプのパーティメンバーって今まで作らなくて、前向きで自分をしっかり持った芯の強い女性が多いですけれど、何となくそういうところに寄せていったら猛牛になったというところです。

ユファを描いていく時に、兄弟だけじゃなくてもっともっと広く彼女が守ろうとしているものがあるっていう何かを見せる時に、彼氏の存在というのがあってこそ、ユファという人物になるのかなって思ったので、フェリクスも彼女の一部なんですよね。フェリクスを抜いてユファを描くとかも考えたんですけれど、やっぱりちょっと物足りなさがあって、そのままにしました。

――女性プレイヤーとして少し不思議なのは、アドルはプレイヤーの投影だからアドルに惹かれるのはよくても、他に彼氏がいるとだめなのかな、という、ちょっと女性の立場からするとわかりにくい部分ではあるのですが。

近藤氏:僕も不思議なんですけれど、一斉に反対されたんですよね。スタッフがみんな酷い事を言うんですよ、フェリクスが死ぬルートを作ろうとか。あのラストのほうの監獄で、「助ける」「助けない」みたいな選択肢を出そうとかね。どこまで別れさせたいんだと思いましたよ(笑)。

――もし移植とかする時には、そのルートが搭載でしょうか(笑)。

近藤氏:ユファが悲しんでるところにアドルが後ろからぽんと肩をたたいて、ユファが涙を溜めながら「アドルさん……(うる)」みたいなね。ユファの心はフェリクスから動かないけれどプレイヤーの心は動きます、とか言われましたよ(笑)。

――では、背教者についてお願いします。

近藤氏:ジュールは病人というのが最初に決まっていて、怪人の力を得たことで何か救済があるキャラクターにしようと。怪人の力に対する考え方っていうのは、パーティの中でも意見が割れるだろうと思ったんですね。前向きに捉える人もいれば、こんなことはやりたくないと思っている人もいて、その中で単純に受け入れる側と受け入れたくない側に分かれるんじゃなくて、もうちょっと複雑なキャラクターがいてもいいですね、というところから生まれたのがジュールです。

彼の場合はもう治らない病気を抱えていて、怪人の力によって一時的に救われて何とか体を保っているので、そういう人間が怪人の力に対して何を思って、どうあの流れに身を投じていくのかっていうところは一つのドラマになると思ったのと、あとはパーティメンバーにあの年代の男の子が参加するというのが、最近ずっとなかったんですよね。だから男の子がいいなって思ったんですよ。でも蓋をあげてみたら、なんかすごい中性的な背教者のデザインが出てきて、最初はアレって思ったんですけど、まあでもアリかなと(笑)。

――そうですね、確かに最初怪人のデザインを見た時は男女どちらなのか解らなかったです。

近藤氏:キャストを見て初めて「あっ、背教者って男性なんだ」と思った方も多いようです。ジュールに関しては本当にもう今回しか描けないキャラクターにしようっていうことで、ちょっと複雑な設定にはなったんですけれどね。

――でも最後には無事に病気が治って、アドルを追いかけていこうみたいな感じですよね。シリーズのどこかで再び出てきてもおかしくないと感じましたが。

近藤氏:今回「イースIX」を始める前に、スタッフに「社長、今回はハッピーエンドにしてください」、「もうなんか切ない終わりになるのは一回やめませんか」って言われたんですよ。ヒロインが消えたりとか、悲しい別れがあるのが「イース」の終わり方なので。別れるのは変えられないけれど、でも別れ方を変えることはできるのかなということで、ジュールのエンディングもああなりました。

――鷹のエンディングとかもそうですね。

近藤氏:爽やかな気持ちのいいエンディングにしようというのは、決めていて。なんとなく自分の頭の中に、「イースIII」のエンディングがあったんですよね。「イースIII」のエンディングは重要な人物が亡くなってしまうし、ヒロインもふさぎ込んでいて出てこない中、アドルが立ち去っていくんですけれど、それなのにどことなく終わった爽やかさみたいなものがあるんです。あれをもっともっと突き詰めていけば、今までとは違う読後感のあるエンディングになるんじゃないかなと思いました。そこから鷹のエンディングはこうだとか、ジュールはこうだとか、アプリリスはこうなるとか、決まっていきましたね。

――次はアプリリスについて伺ってよろしいですか?

近藤氏:作中での案内役が必要だと思ったんです。怪人たちが突然それぞれ力に目覚めて、状況が全く分からないというところから話をスタートさせていくと、話の尺があまりに長くなりすぎてしまうので。ストーリー展開を構成していった結果、最初からアプリリスに登場してもらい、怪人たちに対して指令を与える謎の人物という形にしました。

――聖女であることは決まっていたんですか?

近藤氏:決まっていました。彼女はもっとハキハキしていた方がいいのかなとか、結構キャラクター性に悩みました。本来であればアプリリスは聖女であり、完全にヒロインのポジションなんですよ。ただ今回は怪人たちが主役として大きく幅を取っているので、あんまりアプリリスのキャラクター性を強調してしまうと、焦点がぼやけてしまう気がしたんですね。なので、わりと奥ゆかしめというか、おとなしいキャラクターにした……はずだったんですけれど。

いざゲーム内に入れてみたら、街中で色々アピールしているし、グリムワルドの夜でも「魔を討て」とか謎のポーズをとっていたり、気が付いたらダンデリオンに勝手にランタンを置いていったり、あんな風になるとは自分でも思っていなかったですね(笑)。

――確かに奥ゆかしい感じはなくなっているかなと思いますが(笑)。

近藤氏:「イースIX」を考えていく中でなんとなく念頭にあったのがMARVEL系みたいなヒーローもののテイストだったので、その中で「出撃!」と号令を出す司令官がいないとだめかな、とか、そういう部分も自分の中にもしかしたらあったのかもしれないですね(笑)。

――スケジュール的なものもあったのだろうと思いますが、アトラやゾラのお話などはもう少し見たかったですね。

近藤氏:過去をもっと描いてほしかったって話は、よくユーザさんから頂きます。一番要望が多いのは、アプリリスを操作できるようにしてほしいというものなんですけれど。

気になるあの謎の真相は?Gamerだけの独占真相も!

――ゲームをやっていて気になった点をいくつかお伺いできればと思うんですけど、第4章のタイトルの「人形の探し物」は、英訳だと「A doll looking for」っていうタイトルですけれど……わかりやすくカタカナに直すと「ア ドール ルッキングフォー」……「アドルの探し物」とも取れますよね?

近藤氏:その通りの、ダブルミーニングでした。

――やはりダブルミーニングだったんですね。

近藤氏:多分、それ誰も気づいていないですよ。指摘してくださったGamerさん、すごいって思いました(笑)。うちのスタッフもみんな気づいてないと思いますよ。

――やった!(笑)

近藤氏:例えば「CROSSING A/A」という曲があるんですけど、ちょうどアドルと赤の王がすれ違う場所でかかる曲だったんで、こういう意味深な曲名にしたりとか、そこかしこに色々仕込んであるんです。

――あと、赤の王はいつから自分がホムンクルスと気が付いていたのか、というのは、プレイヤーの判断に委ねるところでしょうか。

近藤氏:設定は特にしていないですが、プレイヤー=アドルなので、プレイヤーが気づいた瞬間が、赤の王が気づいた瞬間なんじゃないですかね。

――つまりプレイヤーが最初から気付いていれば、最初からだと。

近藤氏:そうですね、シナリオもそういう風に読めるようにしているはずです。

――最初にドギが首を稼げる時点で、もしかしたらもう赤の王も気が付いているのかな、と。

近藤氏:そう、ドキががなんとなく察するっていうのは、やるかやらないかすごく悩んだんですけれど、あれでヒントを与えてしまうのも早すぎるし、2周目をプレイした時に「あっ、ドギ実はここで気が付いてるんじゃん」くらいの塩梅にしました。あれくらいの台詞回しであれば多分なかなか気付きはしないだろうということで、最後の最後まで悩みましたが入れることにしたシーンです。

――実際、一周目では気が付かなかったですね。どちらかと言えば怪人の魔弾を撃たれた後だったので、そちらのほうに気が付いたような反応に見えました。

近藤氏:あとは髪の色が変わっているから、あるとしたらそっちだよねと思いましたね。また、髪についてドギが指摘するとあそこらへんのシナリオがめちゃくちゃになっちゃうので、そこも結構悩みましたね(笑)。変装に至るまでの話を再度繰り返すのは、ストーリーとして無いですし。なので髪については突っ込まず、別のところを突っ込んだシーンにしました。

――あとは看守のグレッグの口調がクレドに似ているのが気になったんですけれど、ホムンクルスというのがわかった時点でもしかしたらスペアだったのかっていう可能性も考えました。

近藤氏:それはまたすごい発想ですね(笑)。グレッグは普通に不良看守っていう設定で、口調が似てるところはあるかもしれないけど、別人物です。でもそういう風に深読みしていただけるっていうのは、冥利につきますよね。ある意味ミステリー感漂う感じで。

――あと、パッチでセリフの一部が変わっていますよね?

近藤氏:よく気づかれましたね。メインシナリオの内容はほとんど変わっていなくて、一部のプレゼントイベントとか内容がちょっと設定と違っていたというところを直したりとか、あとはテキストのバグを直す時に少し手を入れている部分はありますね。

――エンディングで、看守の3人と話せるのは最初からありましたか? 古いバージョンで遊ぶことができないので、確認のしようがないのですが……。

近藤氏:なかったと思います。追加するって言っていましたので。結構細かいところはサービスで追加したり、修正したりはしていますね。

――そういった細かい修正点を、公式的に発表される予定はないですか。

近藤氏:そうですね。細かいところを拾っていくと、下手すると修正箇所は3桁とかになるので、そこを細かく説明していくとそれだけでとんでもないことになっちゃいますね……。

――3桁! そんなにですか(笑)。

近藤氏:基本的には誤字脱字しか直しちゃダメって言ってるんですけどね(笑)。単純にバグで配置されるべきものがされていなかった、というものもあったりして、アップデートの時に追加したりしてるっていうのもあります。

――「イースVIII」から結構新規のファンがいらっしゃるっていうことですけれど、やはりファン層は昔とだいぶ変わっているという感じはありますか?

近藤氏:変わっているというよりかは、若い人たちが手に取ってくれるようになってファン層が新たに追加されている感じがします。

「イースVIII」の時に「久しぶりにファルコムらしいタイトルだった」みたいな感想もあったので、多分そういう方たちは昔から「イース」を遊んでくださっている方たちですよね。「イースVIII」のシナリオが「英雄伝説III 白き魔女」のシナリオと通じるところがある、みたいな考察をされてる方もいまして。僕は全く意識してなかったんですが、そう言われてみるとそうだな、というところもあったりして、そういう昔からのファンの方たちの意見がまず最初に届きました。

その後しばらく経ってから、「イース」を全くやったことないですけれど大丈夫でしょうか、みたいな方たちが増えてきて、後半は「なんで今までプレイしなかったんだろう」みたいなご意見をいただくことが多かったですね。

あとは実況者の方の実況を見ていて面白そうだから買ってみました、みたいな方たちが増えましたね。そういう方たちは、大体が10代後半から20代前半でした。「イースIX」では発売日から既に実況してくださってる方がいらっしゃいましたが、多分そこで興味を持った方たちが後から「イースVIII」を手に取ってくれたんでしょうね。ちなみに、アンケートの結果ではありますけど、今の「イース」のプレイヤーの3割近くは「イースVIII」から始めました、という層です。

ライブやオケコン、グッズなど今後の展開は?

――「イースIX」の音楽は、石の街+監獄、という設定と、普段のファルコムらしいロックが合わさって「重み」を感じる音楽でしたね。

近藤氏:本当に、舞台が監獄だったというところが、うちの音楽の伝統と上手くかみ合ったと思います。

――キャラクターが監獄に入っているイメージイラストとかが、エルビス・プレスリーの「監獄ロック」を思い出すなぁと(笑)。

近藤氏:あのイメージイラストは、アルバムのジャケットみたいですよね。言われたら確かに「監獄ロック」みたいですね(笑)。楽曲の担当者やデザイナーは、もしかしたら意識しているかもしれないですね。

近藤氏:例えば「エヴァン・マハ」みたいな、ああいう重苦しい遺跡の中の曲だったりとか、あと外に出た時のフィールドの曲は「イース」っぽさを意識しないと、みたいなところは作曲陣の中にもあったみたいですね。逆に街の中の探索は今回時間がかかるのでワルツっぽい曲を入れてみたりとか、新しくチャレンジしてみたところですね。

――30周年の時に期待していたんですけれど、「イース」シリーズオンリーのライブはないですか?

近藤氏:「イース」と「軌跡」、どちらも聞きたいというお客さんがやはりたくさんいらっしゃいますから。でもやりたい気持ちはありますよ、「イース」35周年ぐらいになるかなと思いますけど(笑)。

――あと3年もあるじゃないですか(笑)。

近藤氏:ファルコムの40周年だったら来年ですけれど、なんだかできそうなイメージはありますよね。ツーデイズとかで、片方は「イース」で、片方は「軌跡」で、みたいに次のタイトルが出るタイミングでやるとか、いいですよね。2020年の4月に新宿でFalcom jdk BANDのライブを予定しているんですが、「イースIX」の曲聞きたいというお客さんも沢山いらっしゃいますし、そこは様子を見て色々考えたいね、というところです。

――なるほど、やはりファンの声は大事ですね。音楽といえば、「イースIX」発売直後頃に音楽フリー宣言のお話を再びツイッター出されたら、凄い話題になりましたよね。あのフリー宣言、もう10年前くらいですよね。

近藤氏:最初にフリー宣言を出したあの頃から比べると、数百曲増えています。今はもう対象楽曲が5000曲を超えていますが、5000曲以上フリーで使用できて、しかも他のフリーの音楽素材に比べれば全然うちの音楽のほうがクオリティが高いはずですよ。

音楽フリー宣言の経緯って、元々あの当時ニコニコ動画とかYoutubeで無断で使ってるから取り締まった方がいいだろうかという会議から始まったんですよ。「でも取り締まるのは無理だよね、だったら使って貰った方がいいじゃない」って。

僕らは自分たちの楽曲を全曲自分たちで管理しているので、その辺で柔軟に対応できるっていうのがあったんですよね。話が出てから決まるまで多分2~3週間くらいしかかかっていなくて、その間に規約を決めて、発表して……、動きが早かったですね。

――それが今になってあんなに話題になったというのは、やはり驚かれました?

近藤氏:僕ら、アピール足りてなかったのかな、と(笑)。自分たちが思っている以上に面白いことだと思うので、もうちょっと色んなところで定期的にアピールしてもいいのかな、と思うきっかけにはなりました。個人の方からのお問い合わせもあるんですけれど、学校の方や、自営業の方が自分のお店の中で流したいんですけれど、というお問合せも多かったんですよね。

残念ながら実現はしませんでしたが、官公庁からのお問合せもありました。あと航空会社からゲーム音楽を流すラジオチャンネルで流したい、みたいな問い合わせで、実際に飛行機の機内で流したこともありましたね。

――では……例えばアニメ化ですとか、そういった方面への展開はいかがでしょう?

近藤氏:僕らは常にやりたいと思っていますが、僕らにアニメは作れないから、協力していただけるところがやっぱり必要ですよね(笑)。

――お話があればよろこんで、というところですか。

近藤氏:「イース」をアニメ化したいというお話をいただいていることはあるんですけれどもね。実現できるかどうかは、これから次第ですね(笑)。今アニメ業界はすごく忙しくて、実現まで時間がかかりますね。でも「イース」も「イースVIII」あたりをきっかけに色んなご提案をいただくことが増えたので、決して実現不可能じゃないなと思っています。

――グッズとかも凄い増えたなと思います。

近藤氏:そうですね、グッズはここ1~2年、すごく頂く件数が増えてますね。ほぼ毎日なんらかのグッズの監修作業をしています(笑)。

――いつの間にか「イース」ってこんなにたくさんグッズが出ていたんだ、というぐらいに出ていますよね。

近藤氏:最近そういう動きも早いですよね。ゲームの発売などに連動して動いてくださるので、僕らもそういう動きと合わせて幅広く展開できれば、と思っています。「イース・オリジン」の女神フィーナのフィギュアを、来年の夏あたりに出すことになっていまして、それがすごいクオリティなんですよね。台座があって黒い真珠があって、その上にフィーナが乗っているみたいな感じで。原形だけでも、すごい迫力でしたよ。

――その流れで、もしかしたらアドルのフィギュア化も有り得ますか。

近藤氏:そうですね、フィーナの売れ行きによっては十分考えられると思いますよ。「軌跡」シリーズの人気キャラだとか、そういう話もあるかもしれないですしね。むしろなんでそっちじゃなくて「イース・オリジン」なんだろうとは思いましたよね(笑)。

――キャラクター商売としては「イースVIII」や「イースIX」のキャラクターのフィギュアか、普通にアドルのフィギュアの方がウケそう、みたいな気がするんですけれど。

近藤氏:ダーナとかね。でもフィギュアメーカーさんのほうから、フィーナでということだったんで(笑)。担当者の方がフィーナを好きだったんでしょうか。

――ちなみに……続き物ではないと言っても「イースIX」からは入りにくい、みたいなイメージを持つ方も多いですし、そろそろ「イースV」や「ナピシュテム(※イースVI)」あたりをリメイクする予定はありませんか?

近藤氏:やりたいですけれどね。ナピシュテムは当時の社長に「この期間で出してくれ」って言われて、プロローグ全部カットした内容で製品化されているので、本当はそういうところもちゃんと補完して新しく出せたらなと思います。

本当は冒頭にエルンストが出て来て後から島で再会するのに、冒頭をばさっと切られたからいきなりエルンストが登場してしまって、プレイヤーも普通に「誰これ」となってしまうので、カットしたプロローグ部分を全部絵本にして田上さん(※田上俊介氏)に絵を書いてもらってマニュアルに載せて、ということを当時やりましたね(笑)。

――話も尽きないところではありますが、最後に「イースIX」のファンに向けてひとこと頂ければと思います。

近藤氏:本当に「イースIX」を手に取ってくださって、ありがとうございました。「イースVIII」が大変多くの皆さんに支持して頂けたので、「イースIX」はプレッシャーの中で制作して、なんとかゴールにたどり着いたタイトルなんですが、「イースVIII」と同じように楽しめたよ、と言って下さる皆さんの声が一番嬉しかったです。

アクションは「イースVIII」よりもずっと進化させることが出来ましたし、アクションゲームであるからには、ゲーム体験の部分については今後も追求していきたいと思います。そしてそこに持ってくるシナリオも、すごく期待していただいてるなということが「イースVIII」を経て「イースIX」でもよくわかったので、それを踏まえて、アクションRPGとしても、ストーリーとしても、より期待してもらえるようなタイトルとして進化させていきますので、引き続き遊んで頂ければ嬉しいです。

――ありがとうございました。

イースIX -Monstrum NOX-

日本ファルコム

PS4パッケージ

  • 発売日:2019年9月26日
  • 12歳以上対象
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