オンライン上で9月2日~4日にわたって開催の「CEDEC2020」。ここでは、9月4日に行われたセッション「運営がコンテンツ化する時代~2020年代ポストソーシャルゲーム時代に向けて~」の内容をお届けする。
DeNAより香城卓氏が登壇したこのセッションは、運営5年目にして、アクティブユーザーを2.2倍増を見せた「逆転オセロニア」のコミュニティ施策の実践例を交えつつ、新たなソーシャルゲームの形、「ポストソーシャルゲーム」の姿を論じている。
ソーシャルゲームの運用・開発経験者はもちろんのこと、ファンやソーシャルゲームをプレイする人ならば楽しめる内容となっているので、ぜひ読んでほしい。
「逆転オセロニア」が炎上などの苦境を乗り越えて現在に至るまで
前半は、実際の香城氏によって「逆転オセロニア」の実例を元にソーシャルゲームの運営について語られた。
「逆転オセロニア」は2016年2月にリリースされたスマートフォン向けゲームで、オセロをベースにした対戦がウリだ。2020年9月4日現在で2,800万ダウンロードを達成している。
しかし、そんな「逆転オセロニア」のスタートは厳しいものだった。リリースから11か月もの間、DAU(アクティブユーザー数/日)は低迷。後ろ指を指され続けた期間だったという。この11ヵ月は全国をひたすら回って、ユーザーと交流をし続けた。その地道な努力が実を結び、2017年から業績は急成長した。
香城氏は「今はプロダクトではなく、プロダクトを取り巻く人の集合知が価値を決める時代」に突入した、と語る。
少々わかりにくいので実例と共に挙げると、SNSで「このゲームやったほうがいい?」という発言を見かけたことがあるひとは少なくないのではないだろうか。
ゲームの魅力を自分自身が感じてプレイするのではなく、周りの人たちがそのゲームをどう評価しているかということが、価値を決める時代になってきているということなのだ。
そこで香城氏は「ラーメンを食べに行く」というわかりやすい例を提示。「煮干しラーメン(徒歩3分)」と、「炙り味噌ラーメン(徒歩4分)」どちらが良いか、というただこれだけを提示されたならば、誰しもが自分の好みで選ぶだろう。
だが、そこに「煮干しラーメン(徒歩3分)★3.59」と、「炙り味噌ラーメン(徒歩4分)★3.509」という評価がついていたらどうなるだろうか。
恐らく大半が「味噌」という気持ちだったはずなのに、「煮干しラーメン(徒歩3分)★3.59」を選択するのではないか。
「今、心の中で起きた変化が、時代の本質!」と、香城氏。これこそが「プロダクトの魅力が価値を決める」時代ではなく、「プロダクトの周りの人(コミュニティ)が価値を決める」時代なのだ。
これを「コミュニティマネージメント」と呼び、ゲームを応援してくれるファンたちをどう繋げていくか、そのファンたちのコミュニティをどういう風に作っていき、どうデザインしていくかということが、最も大事なことだという。
今の時代は、いくら「このゲーム、最高なんですよ」とマーケティングを行ってもユーザーには全く響かないのだ。
では、このファンたちのコミュニティをどうつなげていくかということについてだが、オンラインではツイッターなどもあるが、テキストだけでは難しい部分もあり、やはり一番効果的なのはオフラインイベントだという。
「逆転オセロニア」の、実際のオフラインイベントの数々を見てみよう。10月21日の福岡、11月5日の大阪、11月11日の仙台、11月18日の名古屋と続き、11月23日には学生のみ参加可能な学生選手権(東京)、そして12月2日の新潟(ネットカフェで開催)、12月3日の札幌、12月9日の広島、12月17日の東京……と、凄まじい数のオフラインイベントが開催されている。
特に面白いのはネットカフェで行われたという新潟のイベントだろう。オンラインイベントというとたくさんのファンが集まる賑やかなものを想像しがちな反面、参加者が10人未満であっても、自分の街に運営が訪れてくれるのだ(しかも人数が少ないと、その分たくさん会話ができるという利点が!)。
多い時で1週間に2回、大体1~2週間に1回程度の頻度で、オフラインイベントをどこかで行っている。
週末は、ほぼ大抵どこかのオフラインイベントにいるという香城氏。東京に住んでいなくても参加できる、自分のやっているゲームと同じゲームのファンと交流ができる、そして運営は多くのファンから生の意見・感想が聞けるという、双方にとって非常に有意義なイベントだ。
また、こういったイベントを開催していることにより、運営側でもひとりひとりのユーザーに対して非常に深い思い入れを持つという。
DAUで、何万人、何十万人というログを見ても、普通はその数字にどんなユーザーがいるのかわからない。だが、オフラインイベントを重ねることでユーザーの顔が見えてくるため、「運営とユーザー」ではなく「大事な知り合いにゲームを届けている」というような感覚になり、例えばDAUが1万が9999になっただけで、そのいなくなってしまった1人に対しての思いも深くなるという。
だからこそ「引退しました」というような報告にとても傷ついてしまう、ということもあるが、これはやはりオンラインの交流ではなかなかわからない感覚で、オフラインイベントでたくさんのユーザーを直に触れ合って来たことへの副次効果だと語った。
こうしてオフラインイベントを通じて氷河期を抜け出し、順調に業績をあげていった「逆転オセロニア」だが、残念ながらそこに突如暗雲が立ち込めてしまう。2018年1月の正月ガチャで、環境から突出した性能のキャラクターが登場してしまったのだ。
ソーシャルゲームをプレイしてきた人ならば、一度は同じような経験があるのではないだろうか。そう、「このキャラさえいれば勝てる」というような突如突出した性能を持ったキャラクターが登場してしまい、そのキャラを持っていなければ人権がない、というようないわゆる「人権キャラ」と呼ばれているものだ。
しかも問題なのは、「逆転オセロニア」は対戦ゲームであるということ。つまりオセロの実力からかけ離れ、そのキャラの所持未所持だけで勝敗が決まってしまってはいけないのだ。
1年間なんとか対策が出来ないかと足掻くが、結局解決には至らないまま、翌年の2019年2月に3周年を迎え、一時的に盛り上がりはしたものの、DAUは激減。このまま「逆転オセロニア」は終わるのではないかというムードすら立ち込めた。
そこで2019年2月の3周年イベントで発表した、今後のスケジュールなども一度全てストップするという決断に至ったのだ。
そして夏に開催されたファンミーティングの中で、前代未聞の「運営方針説明会」を開催。これはリアルイベントだけではなくYoutubeでのライブ配信も行い、全てのファンが見れるようにした。
言うなればこれはファンイベントというよりも株主総会のようなイメージで、ファンという株主を相手に、4ヶ月後の1月1日に現在の問題を解決すると宣言したのだ。
しかも、その放送内では問題となったキャラクターの対戦データなど、運営としてはあまり公開したくないデータも公開。問題のキャラクターが先攻4ターン以内に先置きできた場合の勝率が82.3%と、明らかにゲームとして破綻していることなども、全てユーザーに向けて発信した。
こういった見せたくないデータまで見せることや、4ヶ月後に必ず解決するということで、ユーザーの信頼を取り戻し、SNS上でも運営への期待のコメントが溢れたかのように見えたのだが……。
なんとその翌日に、「逆転オセロニア」は過去最大級の炎上を起こしてしまった。
というのも、翌日に公開された新キャラクターのPVで、先程の一部の駒性能のところで比較的高い勝率のところにあるキャラクターがパワーアップするかのような見え方になってしまっていたのだという。
これに関しては完全にチェック漏れもあり、また実際のところそのキャラクターが強化されるわけではなかったのだが、見せ方の問題でそういった誤解を招いてしまい、「前日の話と違う」と、大炎上につながってしまったのだ。
それでもめげずに、すべてのコメントに答えるような心づもりでライブ配信を続け、人によっては目を覆いたくなるような質問だったり、心ないコメントにも全てに目を通してきたという、香城氏。
そして運命の12月31日、大みそかの夜に、社内の香城氏の自席から配信を行ったのだ(もちろん会社の許可はきちんと得たそう)。
全国のファンが見守る中、「逆転オセロニア」への施策について発表を行った香城氏。どの点を改善したのかもあらかた発表をし、問題だったデッキタイプ別の勝率もなんとかおおよそ50%近くにまで近づけることが出来た。
この努力が報われ、今年の2月に行われた4周年イベントでは「オセロニアンでよかった」という声が溢れ、DAUも2倍にまで回復。これまでログインキャンペーンや無料ガチャなど様々な施策を行っても戻ってきてくれなかったユーザーたちも、続けてきてくれたコミュニティの人たちによる「(以前よりも良くなったから)プレイするといいよ」という声に動かされ、多くの人が戻ってきてくれたという。
むやみやたらに無料ガチャなどの施策を行うのではなく、ファンの口コミこそが最も効果的だというのが、よくわかるエピソードだ。
5年目にして過去最大の効果を出すことに成功した、「逆転オセロニア」。なお、ここまでで香城氏は、実は一度も逆転オセロニアの実際のゲーム画面を一度も公開していない。だが、ここまで読んだだけでも「逆転オセロニア」をやってみようかな、という気持ちになった人もいるのではないだろうか。
香城氏は、それこそがまさに今の”評価軸”なのだという。運営がどんなスタンスでプレイヤーや課題に立ち向かっているかが、大きな評価軸になっていくのだ。
と、2月までは順調だった「逆転オセロニア」だが、次に襲ったのは言うまでもない、“コロナ禍”。
これまでオフラインイベントを重要視してきた「逆転オセロニア」にとって、一切のオフラインイベントが開催できなくなってしまったのだ。
特にこれまで運営側としても、オンラインではなくオフラインでユーザーの顔を見ることによって、ファンの大事さを噛み締めてきただけに、オフラインイベントはできないのは運営にとっても痛手だ。
だが実際のところオフラインイベントを開催していなくても、DAUやライブ配信の視聴者数には、ほぼ影響は起こっていないという。
だが、そんな中でもなんとかイベントを開催したい、と、オンラインで2VS2によるダブルス公式大会を企画。Zoomの画面共有を使用してのイベントになるという。
次世代のソーシャルゲームに必要な五大要素とは?
ここからは、香城氏が予想する、今後3~5年ほどで変わるであろうソーシャルゲームに必要な5つの要素について紹介しよう。
ファンという言葉の定義が変わる
香城氏は、今後ファンというのは作品のファンというよりも、その作品を遊んでいる他のプレイヤーたちや運営までを含めて好きな人たちが「ファン」という立場になっていくのではと語った。
運営の存在が可視化されてきて、スタッフのパーソナルな部分が好きだったり、という人たちが、そのゲームのファンになってくるという風に考えている。
例えば、今ではSNSなどで「〇〇公式」というアカウントが多いが、今後はそれが「〇〇運営」に変わっていくのでは、という予想も挙げた。
コミュニティがオープンから「クローズド」へ
「逆転オセロニア」に限らず、最近は各ゲームでコミュニティが作られていく傾向にあるという。例えばツイッターなどでオープンなコミュニティが形成されているのもある反面、そのコミュニティを語る時にネガティブな意見は見たくないというファンもいる。現在問題となっている誹謗中傷といった事柄を含め、オープンな場では見たくないものがどうしても目に入ってしまうこともあるだろう。
だからこそ、対戦好きな人たち同士だけで集まったり、二次創作が好きな人だけで集まったり、そしてそういう人たちがLINEのグループチャットのような、自分にとって居心地のいい場に集まる傾向にあるという。このようにコミュニティはどんどん細分化されていくのではないか、と香城氏は述べた。
会社でも個人でもなく「チーム」が業界の単位になる
これまではゲームメーカーの名前や、有名クリエイターの名前でゲームが買われていたが、いまやそれは非常にゲームに詳しい人たちの判断基準であり、ソーシャルゲームを遊ぶ層にとっては会社名もクリエイター名もあまり有効ではなく、それよりも「あのゲームを作ったチームの新作」という形のほうが受け入れられるようになるのではないか、という。
またそれにより、これまでは個人単位で他の会社に引き抜かれたりしていたが、チーム丸ごとの引き抜きなども発生するようになるのではないか、と香城氏は語った。なお実際に海外では、チーム単位での買収というようなことはよくあるそうだ。
「お金の使い方」が最大のマーケティング手法になる
香城氏は「kickstarter」などを例に挙げ、自分が応援したい人にお金を使い、そしてそれを運営がどう還元していくかが、今後のキーになっていくのではという。
今はこの状況下でコンサートを開けないアーティストにお金を支援することで、コンサートには行けないけれどアーティストに応援の気持ちを示し、そしていつかコンサートを開く時の資金にしてほしい、というような気持ちと同じで、ソーシャルゲームにも今後こういったものが生まれてくるのでは、と語った香城氏。
例えば1億円を売り上げたとして、そのうちの8千万はサーバーの増強費用やイベントなどでユーザーに還元するといったような、ユーザーが「こういうお金の使い方をしてくれるなら遊んでみよう」と思えるような金銭の使い方が必要になってくるのではないかという。
「運営」というストーリーの面白さでゲームが遊ばれる
香城氏は、ここで改めてこのセッション内で一度も「逆転オセロニア」のゲームについて触れていないこと、そして「逆転オセロニア」でどういう運営を行っているかしか話していない点を強調。そして、これで共感をしてくれた人や「逆転オセロニア」に心が動いた人がいたのではないか、と語った。
炎上したりしても「炎上したのは聞いたけれど、でも今調子いいらしい」という口コミで、人はやってくるようになるという。ゲームの面白さはもちろんのこと、運営の面白さという二つの軸が、これからのソーシャルゲームに重要な時代になっていくであろうと確信している。そう語って、セッションの最後を締めくくった。
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