「リーグ・オブ・レジェンド」の世界を描くアニメ「Arcane」は、さまざまな有名アーティストが楽曲提供を行ったことでも話題の作品だ。本記事では、「リーグ・オブ・レジェンド」ユニバースをこよなく愛するライターが、日本でも大きな反響を呼んだ楽曲を通じて「Arcane(アーケイン)」の魅力をお届けする。
なお、楽曲の使用タイミングなどに触れる都合上、本作のネタバレが多少含まれる点にはご容赦いただきたい。
「Arcane」はNetflixで配信中の3Dアニメーション作品だ。日本でも展開されているオンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」(以下、「LoL」)の世界を原作としており、2021年に公開されたシーズン1では、その魅力でゲームのファンのみならず、これまで「LoL」を知らなかった層にも高い評価を受けた。
とりわけ注目を集めたのは、世界的に有名なアーティストたちが本作のために書き下ろした楽曲の数々だ。主題歌となっている「Enemy」はイマジン・ドラゴンズとラッパーのJ.I.Dによって手掛けられ、2021年の「LoL」の世界大会で公開された「Arcane」のイメージMVとともに鮮烈な印象を残した。
ちなみにアーティストたちが「Arcane」のキャラクターとして登場するバージョンのMVも制作されている。
さらに余談だが、「Arcane」の主人公であるヴァイとジンクスは、原作ゲームでも専用の楽曲が作られている。とくにジンクスは、筆者の記憶が正しければ、新キャラクターとして追加時に初めて単独でのMVが作られたチャンピオン(「LoL」でのキャラクターの総称)だ。振り返ってみれば、「LoL」の歴史上、確かに2人とも“音楽”との関わりが強いチャンピオンと言えなくもないだろう。彼女たちの生きざまを描く「Arcane」が、魅力的な楽曲に彩られているのも当然なのかもしれない。
「Arcane」で描かれるのは、ゲームで登場する彼女たちの過去の姿だが、実際のところ「Arcane」の世界がそのまま「LoL」に直結するかは少し怪しいと思っている。作中でパラレルワールドが存在することが確定しているし、「Arcane」で登場する人物たちの物語が、「LoL」のユニバースで公開されている同一チャンピオンとのロア(背景設定)と矛盾しているものも多々あるからだ。
ただし「LoL」はチャンピオンのリワークタイミングなどに応じてロアを変更することがよくあるため、今後「Arcane」との整合性を取っていく可能性もある(直近だとビクターのロアが「Arcane」に合わせて変更された)。あくまでも“現状では”接続していない、というのが私個人の考えだ。


さて、大きく話が脱線してしまったが、2024年の11月から配信されたシーズン2でも、素晴らしい楽曲の数々が提供されている。例えば、日本でも大きな反響を呼んだ“Come Play”を手がけたのは、韓国の大人気グループ、Stray Kids。筆者は音楽関係には詳しくないが、彼らの名前は耳にしたことがあるし、渋谷などにいけば大きなポスターを目にすることもある、人気アーティストだ。
こういったグローバルに活躍しているアーティストたちが「Arcane」のために楽曲を提供していると言えば、本作への力の入りようがわかるだろう。
これは主観だが、シーズン2ではシーズン1以上に、本編と楽曲とのリンクが重視されているように感じた。作中で楽曲に合わせてアニメーションが流れるシーンが増えていたのだ。バックグラウンドで流れるものではなく、まさに楽曲主体のMVが劇中に挿入されているような感覚といえばいいだろうか。
シーズン2で使用された楽曲のサウンドトラックはすでに配信されており、さまざまなサービスで聞くことができる。今回はそのなかから特に話題になった数曲をピックアップして、作中でどのような使われ方をしたのかを紹介していこう。

■各楽曲配信サービス
https://virginmusic.lnk.to/Arcane2
1曲目はAshnikko氏の手がけた“Paint The Town Blue”だ。エピソード4“街を青く染めろ”冒頭で流れるパンキッシュな曲で、アナーキーさを備えたジンクスのテーマらしい楽曲となっている。
“Paint The Town Blue”が流れるのは、ピルトーヴァーの執行官がゾウンに侵攻し、地下都市の住民を弾圧を始めたこと。そしてその抵抗運動が始まり、その反抗のシンボルとしてジンクスが持ち上げられていることがわかる。
街や人などがジンクスのカラーである青に染められていき、ジンクスにならって髪を青く染めた集団・ジンクサーが増加。ゾウンの街が闘争と無秩序に支配されていく過程が描かれていく。
ゾウン市民によって英雄視されていくジンクスだが、実際にはジンクス自身は前エピソードでケイトリンとヴァイに敗北を喫しており、表立った活動をしていない。しかし前述の戦いの際に作動してしまったジンクスの仕掛けが、ピルトーヴァーに大きな被害を与えてしまっており、結果的にピルトーヴァーとゾウンの両方から、ジンクスという人物の影響力を大きく捉えられてしまった。

歌詞の内容としては、ヴィランとして君臨するジンクスの強さやリーダシップが歌われているが、実際のジンクスは隠遁中だ。原作のジンクスはともかく、「Arcane」のジンクス……とくにシーズン2での彼女は比較的理性的な面も持ち合わせており、どちらかといえば単独行動を好むように見える。
筆者の感想だが、“Paint The Town Blue”で歌われているような、ジンクサーを扇動するようなことはしなさそうであること。そして曲が流れている最中のメインは、ジンクスをシンボル化している市民であることから、この曲はジンクス(の影響)に同調した者たちが見ている、象徴としてのジンクスの姿なのではとも感じている。
真実はどうあれ、このエピソードに関しては、ジンクスの影響が勝手に独り歩きして街を混乱に陥れている、という状況がなんともジンクスらしいと思ってしまった。
続いて紹介する楽曲は“Remember Me”。手がけたのは実力派の新進気鋭のアーディスト、d4vd氏だ。タイトルの通り、私を忘れないでと祈るように何度も繰り返す歌詞が印象的な楽曲となっている。
この曲はエピソード6“パターンに潜むメッセージ”にて、ビクターがワーウィックの心の奥底で垣間見た、かつてヴァンダーと呼ばれていた男の記憶に触れた際に流される。
ヴァンダーがかつてシルコやフェリシア(ヴァイとジンクスの母親)と手を取り合って生きていた時代。ヴァイとジンクスの成長をずっと見守り続けてきた、“もう一人の親”としてのヴァンダーの記憶から始まり、記憶はやがてヴァイのものへと切り替わっていく。最後にはガレキに昔のおもかげを垣間見る現在のヴァイへと移り変わっていくという演出だ。

「Arcane」の登場人物のほとんどは心に大きな傷を負っており、それが物語を動かす原動力ともなっている。この“Remember Me”という楽曲は、とりわけ理性を失った怪物と化してしまったヴァンダーが、ビクターの治療を受けてわずかながら記憶が蘇りつつあるがゆえの切なさを歌っているようにも思えるし、そのヴァンダーを見たヴァイが、自分が抱えていた寂しさを吐露しているようにも感じられる。
そもそも「Arcane」自体が、親愛なる者との別離をテーマとして描いている部分もあるため、さまざまなキャラクターに刺さる曲となっていると感じた。
次はベルギーのミュージシャン、Stromae氏と、フランスのミュージシャン、Pomme氏による“Ma Meilleure Ennemie”という楽曲を紹介しよう。グローバルのSpotifyにチャートインしている人気曲で、本編ではエピソード7“初めてのふりをして”で使用された。
パラレルワールドへと飛ばされたエコーが、成長したパウダーとダンスを踊るシーンで流れている。日本人にはなじみがないが、北米などの学校で卒業間際に行われるダンスパーティー、いわゆるプロムのようなシチュエーションだ。
自分がいた世界とは異なる世界……ヘクステックが生まれなかったことで、ヴァンダーたちの活動が実を結び、ピルトーヴァーとゾウンの垣根がなくなった幸せな世界。そこに迷い込んだエコーにとってそれは理想的な世界であり、まさに夢のような居心地でもあった。

“Ma Meilleure Ennemie”では、私の最大の敵はあなた、というような意味が歌われており、まさしく理想の世界であるこの世界、そしてその象徴である真っ直ぐに成長したパウダーが見せる夢こそが、エコーにとって最大の障害であることがわかる。
この夢に浸っていたいと自覚しつつも、自らのやるべきことを思い出したエコーが、自分の世界への帰還を決意する重要なシーンでもあり、「Arcane」のなかでも屈指の名シーンといえるだろう。
エピソード8“殺しのサイクル”で流れる“The Line”を手がけるのは、アメリカのロックバンド、トゥエンティ・ワン・パイロッツだ。
終盤のエピソードだけに物語的にも佳境を迎え、ビクターが新生する重要な局面で再生される。ワーウィックから再生力に秀でた血液を輸血され、それと入れ替えにビクターの血液(と言っていいかわわからないが……)が抜き取られるシーンであり、彼の残っていた人間性のようなものが消えていく。
ビクターの感情に加え、生命力の源であった血を失うことになるワーウィックもまた命を落とす場面であり、彼の記憶……ヴァンダーとしての幸せな思い出も消失していくという、非常に切なさに満ちたシーンだ。
歌詞も物語に合わせるように、ビクターの肉体が限界に近いということや、自らの理想を成すために一線を越える(=アーケインの力で新生する)ことになっても、自らを受け入れてくれるのだろうかという葛藤が書かれている。
アーケインと一体化したことで世界の見え方が変わり、やるべきことや自らの使命を感じたビクターだったが、その奥底には自分の行いが本当に正しいのかを不安に思っていたり、それを後押ししてくれるヤングの陰を見ていることがわかって、とても良い歌詞だと思う。
なお、シーン的にはビクターとヤングを指しているように見えるが、MVを見るとビクターとジェイスの関係にも当てはめていることがうかがえる。
最後に紹介するのは、エピソード9“ずっと離れない”で流れる“Come Play”。手がけるのは韓国のアイドルグループStray Kids。そしてプエルトリコ出身のラッパー、Young Mikoとアメリカのギタリスト、Tom Morelloだ。
ピルトーヴァー軍対ビクター&ノクサス連合軍との戦いが始まり、ピルトーヴァーの面々が窮地に立たされた際、ジンクスとゾウンの人々が援軍として登場する際に再生された。最終決戦の一番盛り上がるところであり、劣勢が覆される転換のタイミングということもあって、アップテンポの曲調が心地いい。
エピソード4の段階では、まだ市民の気持ちだけが先行していた部分が、最終局面になってジンクスとゾウンの民が共に攻勢に出ることで、ついに“ゾウンのジンクス”として結実したという展開に胸が熱くなる。
メロディーもジンクスらしいパンキッシュな雰囲気で、自らの強さを誇示するような歌詞と、自信を取り戻してゾウンのシンボルとして完成したジンクスとのマッチ加減が絶妙で、何度も聴き返したくなる曲だ。
今回紹介した楽曲以外にも、数々のアーティストが「Arcane」に曲を提供しており、いずれも素晴らしいものばかりだ。「LoL」を知らずとも、アニメ単体としても非常におもしろい作品なので、まだ視聴していない人はぜひこの機会に観てみることをおすすめしたい。
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