ゲーム開発に「心理学」を用いるならば「◯◯バイアス」みたいな分かりやすい概念を鵜呑みにすべきではない?“新たな一歩”を加えるための考え方【CEDEC2025】

CEDEC2025
9コメント 小林白菜

7月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにて開催のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2025」。本稿では23日に行われた講演「ゲーム開発者が知るべき『豆知識』ではない心理学」のレポートをお届けする。

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ふたりの登壇者のうち簗瀬洋平氏は、「ワンダと巨像」や「魔人と失われた王国」をはじめとしたさまざまなゲームの開発に携わり、現在はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンに勤務。並行して心理学の知識とゲームを絡めた研究を行っている人物だ。

もうひとりの高橋英之氏は、人間とロボットの共棲コミュニケーションについての研究者。研究にゲームと心理学の知識を取り入れるべく、簗瀬氏と協力しているということだった。

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すべての研究には適用限界がある。「豆知識」がいつでも当てはまるとは限らない

この講演で簗瀬氏が伝えようとしたのは、「一見して納得感のある概念を鵜呑みにせず、自分の環境でちゃんと検証すべきである」ということだ。

簗瀬氏は講演序盤で、心理学について話すときによく使う“掴み”として、“ウェイソンの選択課題”を挙げた。これは、表にアルファベット、裏に数字が書いてある4枚のカードがあったとき、「表がDのとき、裏は必ず7である」という条件が正しいことを確認する場合、めくるべき必要最低限のカードはどれか? というもの。

この問題は正答率がかなり低いのだが、これを「4人が“20歳未満は飲酒禁止”を守っているか確認するとき、チェックする必要がある最低限の“?”はどれか?」に置き換えると、実は問題の構造は先ほどのものと同じにも関わらず、正答率がかなり高くなるのだという。

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こうした現実に存在する物事への“置き換え”は、ゲームに物語や設定を加えることで、プレイヤーにルールが伝わりやすくなるというメリットのわかりやすい一例と言える……という言葉に納得しかけたところで、簗瀬氏は前言をひっくり返す。こうした“例え”は一見説得力があるが、正しくはないという。

心理学の成果としてよく言われる“◯◯バイアス”、“◯◯効果”みたいなものは、前提条件や文脈が異なれば、同じような効果が出るとは限らない。これまでの研究で出た結果が、開発中のゲームにも当てはまるものかどうかは、検証実験を行ってみないことには分からないのだ。

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一例として簗瀬氏は、ゲーム側にジャンプ軌道を補正するシステムを取り入れ、空中のアイテムを取りやすくした「誰でも神プレイできるジャンプアクションゲーム」の仮説検証を挙げた。検証では、このゲームのプレイ条件を以下の3グループに分類。検証後、各グループに割り当てられたプレイヤーに「思い通りに動かせたか」と「上達したか」をアンケートしたという。

・グループA:ジャンプ軌道の補正を行わない
・グループB:徐々に補正率を上げる
・グループC:最初は補正を行い、あとから補正をオフにする

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結果は、補正が効いたからといって上達感を阻害することは無かったとのこと。加えて、グループAとグループCを比較したことで、補正が実際の上達を阻害することもないことが分かり、これらを踏まえて「プレイヤーに気付かせることなく上達感を与えることは可能である」という結果が導き出せたという。

とくにグループAとグループCで上達感の度合いにほぼ差がなかったことは、この検証をしたことで明らかになったことであるとのこと。改めて、検証を伴わない仮説には限界があることを示した。

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また、この検証結果もまた、あくまで“この環境下における結果”に過ぎず、「すべての研究には適用限界がある」ことを強調。ゲームデザインが変われば結果もまた変化する可能性があるため、また別のゲームではそのゲームの条件下で改めて検証実験を行うべきであるということだ。

これらを踏まえて、後半で高橋氏が語った話題は、ロボット研究に対する心理学やゲーム分野の応用のこれからについて。

高橋氏は、ロボットのコンセプトを心理学理論に基づいてデザインしつつ、実際にロボットを活用できるフィールドでの実地検証を行うことで、理論のみ、実験室のみでは得られない気付きや発見があったことを、さまざまな事例をもって紹介。

こうしたフィードバックを相互に行うことで、心理学と工学は理想の関係を築けるのではないかと考えているという。

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そうした考えの現時点での成果のひとつとして、赤ちゃん用の「視線で画面上のキャラクターを攻撃できるゲーム」に関する実験を紹介。

緑色のキャラクターがオレンジ色のキャラクターをいじめているように見える映像を見せたあとで、赤ちゃんにこのゲームをさせてみると、いじめていたほうのキャラクターに集中攻撃するようになるという結果が出たのだという。これが映像で観るとかなり可笑しみがあり、会場は笑いに包まれた。

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本講演は、「驚くべき事実」みたいな内容を含んだ“おもしろい”講演ではなかったように思う。しかし、その“おもしろい”を重視する態度が、本来重んじるべき地道な検証を、我々から遠ざけているのが昨今の状況であるようにも感じる。

例えば、X(旧Twitter)などで実験結果の詳細を記したURLが流れてきたとしても、SNS用に100文字程度にまとめられた“要約”だけを読んで、前提条件を確かめもせずに、それが真実であるかのように納得しそうになってしまうことは筆者にもある。

おもしろい“豆知識”で分かった気になっていては、よりよい未来は切り拓けない。自分が作り上げようとしているものにしっかりと向き合い、先人たちの実験結果から“仮説”を立てつつも、あくまで地道な検証を繰り返すこと。それが開発や研究に「新たな一歩を加える」ことになるのだというメッセージが、本講演には込められていた。

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記事では触れていない部分にも興味深い話がいくつもあった「ゲーム開発者が知るべき『豆知識』ではない心理学」。8月4日10時までタイムシフト配信が行われているので、気になった人はチェックしてほしい。

CEDEC2025公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2025/

CEDEC2025特集

深淵なるゲームのおもしろさを探求しながら「アイカツ!」シリーズや「プリキュア」シリーズ、「プリティーシリーズ」などの女児アニメの魅力を広める活動にも力を入れている。 X(旧Twitter):https://twitter.com/Kusare_gamer

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