千葉・幕張メッセにて9月25日~28日にかけて開催の「東京ゲームショウ2025」。ここではKONAMIから発売予定の「桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~」のクリエイターインタビューをお届けする。
2025年11月13日に発売予定のNintendo Switch 2/Nintendo Switch用ソフト「桃太郎電鉄2 ~あなたの町も きっとある~」。本稿ではプロデューサーである岡村憲明氏、アシスタントディレクターの斉藤有希氏、そして副監督の桝田省治氏へのインタビューをお届けする。

さくまあきらさんの旅の思い出が詰まった「桃鉄」
――まずは自己紹介をお願いします。
岡村:制作プロデューサーの岡村です。
桝田:僕は副監督か。副監督といっても企画とかにはまったく絡んでなくて、やばくなったところを「そこはこうしよう」と伝えたりする役割でしたね。
斉藤:現場の方のディレクションを担当しておりますアシスタントディレクターの斉藤です。さくまさんや桝田さんが、「こういう風に作りたい」と提示してくださるものを、現場でどういう風に実現していくのかというところを担当しております。
――本作で東日本と西日本のWマップを採用した理由についてお聞かせください。ステージイベントによると、物件をたくさん登場させたいというさくまさんの思いがあったようですが、実際に発売に向けてどう動いていったのかお聞かせください。
桝田:表向きはステージでも言ったように自分の町を入れて欲しいという要望が大きかったというところなんですけど、実際はさくまさんが紹介したい物件が山のようにあったからですね。このまま寝かせたまま引退したくない、物件の食べ物をみんなに食べさせたいというところがいちばん動機としては大きいと思います。
――さくまさんが本作にどれぐらい関わっていらっしゃるのか気になってはいましたが、ガッツリと関わっていらっしゃるんですね。
桝田:「桃鉄」はぜんぶそうですよ。今の「桃鉄」は教育版もあるのだからそんなに日本を歪めちゃだめでしょうというぐらい、さくまさんが自分で入れたいところの部分が肥大化しています。その肥大化しているところを見ればさくまさんがよく取材に行ったお気に入りの場所がバレバレです。
東西に分けて物件をたくさん入れるような作品は開発がとても大変なので、さくまさんも開発の現場も2度とやらないと思いますよ。見つけたら買っといたほうが良いかなと。

――ユーザーさんのなかには東西で2分割しているだけと思っている人もいるかもしれませんが、実際にはすごく大変ですよね。
桝田:そうですよ。マップの大きさも微妙に違ったりするから、カードが出る確率とかヘリポートの場所とか、かなり慎重にチューニングしてますね。最初にスタッフが仕様を見て、「これ、普通の人は100年で物件全部買えないですよ」と言われました。
――そこは気になっていました。今回、東西のマップがあり、以前よりも物件数がすごいことになっていますが、最長100年というプレイ期間は変わっていないので完全物件制覇できるのか気になっていました。
桝田:製品版のバランスだとできます。そのために開発がなにをやったかというと、目的地のそばに行きやすいカードを増やしたり、いつもの「桃鉄」より一部の進行系カードでふれるサイコロの数を増やすなど、移動の機動力を増したことで広いマップを攻略しやすくしています。もうひとつ、物件を買うのに協力してくれる歴史ヒーローもいます。物件を買っていくペースは上がっていくので、多分60年とか70年ぐらい、早い人はいつも通り買えると思います。
――マップに関しては最新のものが反映されているのでしょうか。
桝田:そうですね。ただ、さくまさんが5年前とか10年前、15年前とかに取材したデータも入っていると思います。コロナ禍で廃業してしまった飲食店も多いですが、そういったところは追いきれてないですね。ただ、「桃鉄」はさくまさんが頭のなかに描いている彼の好きな日本なんですよね。実際のお店は閉じていたとしても、さくまさんの楽しかった思い出があったなら、もういいかなって。どうせマップも歪んでいるし(笑)。
――さくまさんが実現したいというのは何パーセントぐらい完成しているのでしょうか?
桝田:それはちょっと分からないな。あのひとの仕事場にはいくつもテレビがついていておもしろそうなことがあったらすぐにメモをするから日々更新されているんですよね。

――今回、東日本、西日本ともにガッチリ作っていることを理解したうえでお聞きしたいのですが、技術的に1本のマップにすることは可能なのでしょうか?
桝田:可能ですが、「桃鉄」は1年に2回ぐらいは目的地に着かないと盛り上がりづらいんです。2つをくっつけたときに四国あたりから北海道に行くことになったとき、1年じゃ着かないですよね。それが楽しいかというと、やはり楽しくないかなと。
岡村:技術的な問題ではなくゲーム性の問題でやるべきではないなとは思います。もし仮に東日本と西日本を繋げるとしても、マップを繋げるのではなく、ふたつで連携できる遊びのほうがいいんじゃないですかね。
このあと50年続く「桃鉄」を作るために
桝田:事前にいただいた想定質問にはないけど、ちょっと自分がしゃべりたいことをしゃべってもいいですか?
――もちろんです。
桝田:もしいつの日かさくまさんが引退したら、そのあとの「桃鉄」をどうするのか、ということを考えています。これまでのシステムやチューニングをなんとか数値化して継続していこうという取り組みで、そのなかで変えていい部分はどこなのか、変えてはいけない部分はどこなのか、結局「桃鉄」とはいったいなんなのか考えることになります。
たとえば年末に親戚が集まったり、学生のときの友だちが集まったとき、「桃鉄ならできるよ」とみんな言うと思うんです。ただ、その「桃鉄」というのは20年前の「桃鉄」だったり10年前の「桃鉄」だったり、あるいは3年前の「桃鉄」だったりするんです。この「俺も桃鉄ならできるよ」というところが変えてはいけないところだと気付きました。これこそが「桃鉄」の最大の財産であることに今さらのように気付き、この観点で、ここは変えても大丈夫、ここは変えてはダメだという分類をしています。
――なるほど。
桝田:一時期「桃鉄」を1年に1回発売していたときは続けて買ってくれている人がちょっとだけ得をするという仕組みを新要素として入れました。あまり変えると「桃鉄」ではないと思われて買ってもらえなくなってしまうので、房総半島に行けばカードがもらえるといった要素などを少しずつ足したり引いたりしていきました。そういったものをさくまさんが20年以上やり続けていたから「桃鉄ならできるよ」という言葉が生まれたんです。こんなことはほかのゲームでは絶対にありえないですよ。
――確かに。
桝田:今は一生懸命そういったものを分けているのですが、いちばん問題になっているのはさくまさんが書いたテキストです。これをどうやってコピーするんだと。
――独特のギャグやニュアンスは難しそうですね。
桝田:セリフに関して、金太郎のもの、浦島のもの、夜叉姫のもの、あるいは地の文のものといったように分類していった結果、どこにも属していないセリフが何個かあるんです。例えばミニボンビーから普通のボンビーに戻ったときに「戻らなきゃいいのに」といったニュアンスの言葉が出てきます。これはいったい誰のセリフなんだ? さくまさんなんじゃないか? と。そういった20年、30年とニュアンスで続いてきていたものを一生懸命、分類しているところですね。
――そこまでいくと学問ですね。
桝田:そうですね。それはさくまさんがすごいということももちろんあるのですが、つまらない部分はしっかり淘汰されているんですよね。
――さくまあきらという職人芸を後世に伝える作業をしているというお話は「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」のときにもされていましたが、その話はどれぐらいまで進んでいるのでしょうか。
桝田:いや、まだぜんぜんです(笑)。
岡村:準備は進めているんですけどね。30年前からのソースコードは秘伝のタレのようなもので、なかなかのソースコードが積み上がっているんです(笑)。ソースコードの言語もCからC++になっていたりもしますし、この機会にしっかり整理をして、この先の50年も続けることができるものにしようとしています。

桝田:その作業自体はおもしろいですけどね。さくまさんを読んでいるようで。あきらかにおかしいデータもありますからね。インフレ気味になって上がっているかと思ったら、途中でガクッと落ちてもういちど上がるようなところがあって、なんだろうと思ったら過去に継ぎ足した部分で、その継ぎ足し方が雑だったんですよね。かと思えば、大きなイベントがあって価格帯が変わり、ピンチに陥る人がいるから救済処置として上げているときのようなものもあり、しっかり意味がある場合も存在しますし。
――そこは言語化させていないんですね。
桝田:さくまさんが「なんだっけ?」と忘れちゃっているんですよね。自分も忘れちゃうんだけど。「次の桃鉄のモデルは俺が作る」というある意味傲慢な人が出てくれればいいんですが、なかなかそんな人もいないです。
「桃鉄」を変えることができるのはさくまさんだけ
――現在は配信文化になっており、ほかの人のプレイを観るのが当たり前の時代になってきていると思うのですが、みなさんは配信をご覧になって、ゲーム制作に活かしたりはしているのでしょうか?
桝田:さくまさんはたくさん観ていますが、僕みたいに言語化はせずに「ここがウケるんだ」ぐらいの参考にしていますね。逆に自分はこういうイベントのときにこういう溜めがあると、このタイミングでウケやすいのかといったところをしっかりデータ化しています。僕とさくまさんが引退したあとのために、そのレベルでシステムを組んでいます。
――岡村さんや斉藤さんは今後おふたりから「桃鉄」を引き継いでいくことになると思うのですが、心境はいかがですか?
岡村:僕の年齢はさくまさんや桝田さんのほうに近いですし、あまり変わらないですけどね(笑)。ただ、やっぱり30年前から脈々と受け継がれているコードとさくまさんの仕様書は財産です。最初のほうにお話があったとおり、「桃鉄」はさくまさんが100%仕様書を書かれています。特別だった「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」はちょっと違うのですが、「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」もさくまさんの仕様書によるものです。
このさくまさんが作り続けている「桃鉄」を残していかなければいけない、若い子たちがちゃんと作り続けられるようにしていかなければいけないと思っています。もちろん今は、さくまさんに作っていただくことが大前提として、それと並行してこの先50年間「桃鉄」を発表し続けていく準備も進めていきたいです。
斉藤:岡村さんや桝田さんが次の50年と仰るたびに胃が痛くなりますが、「桃鉄」は本当に偉大なIPです。私を含めて「桃鉄」のほうが年上というスタッフも増えてきているなか、簡単に「ここを変えればいいんじゃないですか?」と言えるようなものではないので、まだまだ勉強させていただきたいと思っています。

桝田:いちばんバーンと変えてしまうのはさくまさんですからね。いまだに「本当にそれを変えていいの!?」ということを平気で変えるからね。
岡村:前作「桃鉄ワールド」のときに「飛行機にしちゃえばいいじゃない」と仰られていましたね。さすがにスタッフ全員で「いやいやいやいや!」「桃太郎電鉄なんで!」とお伝えしました(笑)。電車をやめてしまうというアイデアはさくまさんだからですし、僕らからは絶対に出てこないですね。
桝田:ちなみに、さくまさんの仕様をそのまま使っていると、今回のように「そのままだと100年で物件ぜんぶ買えないよ? この手とこの手とこの手があるけど、どうする?」と相談することはあります。それに今回はマップが大きくなっているので最初のバランスは明らかに崩れていましたね。
斉藤:559駅ある東日本は本当に圧巻です。お金は足りているけど年数を考えるとぜんぶに止まれないという状況も出てきます。
――東日本版と西日本版、それぞれの魅力を教えてください。
斉藤:東と西のそれぞれだけでも「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」よりも駅が多いので、やりごたえはかなりあるんじゃないかなと思います。自分の町があるとすごく盛り上がりますし、土地勘があったりすると、「これはこっちから行った方がじつは近いんだよ」みたいな会話も弾むので、基本的にはやっぱりルーツが多い方の地域で遊んでいただくのがいいのかなと思います。地域のイベントもしっかりさくまさんがひとつひとつ作っていらっしゃるので注目して欲しいです。
桝田:よく餃子対決とか探してくるよね(笑)。

斉藤:ほかにも、観光地の川下りのイベントだったり、この公園がいい、ここの桜がいい、といったさくまさんが観てきたであろう景色のイベントがいろいろな駅で楽しめるようになっているので、地元の人ほど楽しめるんじゃないかと思います。
桝田:全国編だと入れるほどではないイベントがいっぱい入っています(笑)。
岡村:プレイ感覚の違いとしてはこれまでの作品が新幹線で日本全国を旅しているイメージであれば、今回はローカル鉄道で旅情を楽しんでいるようなイメージだと思います。親戚の家で遊んでいるときなどに「ここは旅行に行ったね」「楽しかったね」と話し合えることが「桃鉄」の楽しみのひとつだと思いますが、今回はそういった話をするツールとしてのネタが膨大になっているのでそこを楽しんでいただきたいですね。
――東西で2本に分かれていることも珍しいと思うのですが、価格設定も不思議だなと思いました。この価格だとセットで購入する人が多そうですよね。
岡村:東日本と西日本のふたつのゲームを作ることは最初から決まっていたのですが、西日本の調整だけで1年以上かかって、そのあとに東日本の制作に取り掛かったんです。遊び方やプレイ感覚も違いますし、ナンバリングをふたつ作っているような感覚でした。
――本作はNintendo Switch 2 Editionも発売されますが、最初からNintendo Switch 2で制作する想定で動いてたのでしょうか。
岡村:はい。これはメイキング話になるのですが、もともとはNintendo Switch 2で想定していました。「桃鉄ワールド」は別として日本地図の「桃鉄」はひとつのハードにひとつでいいかなと考えていたので、Nintendo Switch 2にしました。開発中はNintendo Switch 2の詳しい仕様は知らないので、きっとスペックが上がるだろうということを想定してマップをリッチにしていきました。
山に起伏があったりするのもそうですし、絵のアニメーションもすごく綺麗にしましたし、貧乏神に縁線を付けたりもしました。Nintendo Switchでは出来ない絵作りをやってみようということで開発を進めていたのですが、結果として制作チームがすごくがんばったのでぜんぶNintendo Switchでもできるようになったんです。
――なんと。
岡村:Nintendo Switch版とNintendo Switch 2 Editionでは遊び方の本質はまったく変わっていないので、安心してNintendo Switch版で遊んでみて欲しいですね。プラス1,000円(税込)でアップグレートすることもできるので、もしもNintendo Switch 2本体が手に入って、Nintendo Switch 2の機能が試してみたくなったらお楽しみください。
――最後にひとことよろしくお願いします。
斉藤:今回は本当にすごいボリュームで、東と西のそれぞれだけでも「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」を越える内容になっています。自分も何度も遊んでいるのですが、やればやるほど「これははじめて出た」というイベントや展開が目白押しになっています。ファンの方々にプレイしていただいた感想が私も楽しみです。
桝田:冒頭で話したとおり、大変だからもう2度と東日本と西日本は作らない(笑)。自分の町が出ている人は買ったほうがいいですよ。
岡村:本当に自信を持って提示できる作品になりました。100%、さくまあきらさんのゲームなので安心して遊んでいただければと思います。
(C)さくまあきら (C)Konami Digital Entertainment
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