2011年9月6日~8日にパシフィコ横浜 会議センターで開催された「CEDEC 2011」。最終日の8日に行なわれた「『戦国IXA』と『ファンタジーアース ゼロ』の開発・運営から得た知見についてまとめてみた」と題した講演の模様をお伝えする。

スクウェア・エニックス 渡辺泰仁氏
スクウェア・エニックス 渡辺泰仁氏

現在、ブラウザゲーム「戦国IXA」チームのマネージャー、MMORPG「ファンタジーアース ゼロ」(FEZ)の開発プロデューサーとして活躍中の、スクウェア・エニックス 渡辺泰仁氏が、ブラウザゲームおよびソーシャルゲームの開発や運営について知見を述べたものだ。

第二オンライン企画運営部 ジェネラルマネージャーの渡辺氏は旧エニックス時代に入社し、「バスト・ア・ムーヴ」「せがれいじり」他の家庭用ゲームのプロデューサーを務めた後、クライアントダウンロード型MMORPG「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」を経て、ブラウザゲームのマネージャーとなった。

「戦国IXA」と「FEZ」

最初に、渡辺氏が現在手がけている「戦国IXA」と「FEZ」の概要が説明された。前者はスクウェア・エニックス初の戦国ゲームで、2010年8月にオープンβテストを開始後、2011年4月にはユーザー数50万人を突破。高い定着率、継続率が特徴だ。後者は2006年2月にパッケージ版の月額課金制で発売された「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」を継承して、2006年12月にアイテム課金制に移行。今夏、サービス開始5年目にしてユーザー数100万人突破を果たしたという。

同社の看板タイトル「ドラゴンクエスト」(以下、DQ)シリーズで初めてマルチプレイ要素を持たせた「IX」と比較してみると、こちらは20011年6月末までに540万本(廉価版を含む)を売り上げたが、そのうちの約43%は発売から2日間で販売しており、オンラインゲームである「戦国IXA」や「FEZ」とは明らかに様子が異なる。無料オンラインゲームは成功すれば非常に息の長いビジネスになるが、渡辺氏にもいくつもの失敗例があるそうで、成功は一筋縄ではいかない。ビジネスモデルも収益モデルもまったく異なる両者では、事業化の判断基準を変えていかなければならない、と言う。

顧客は「今まで相手にしたことのないユーザー層」

企画ディスカッションなどでソーシャルゲームやブラウザゲームの話題になったとき「何が面白いのかわからない」「どうしてこれに人気があるのか」といった意見を耳にしたことはないだろうか。だが、無料オンラインゲームを楽しんでいるユーザーは確かに数多く存在している。性質の異なる無料オンラインゲームを、これまで培ってきた家庭用ゲームの企画と同じ視点から判断していては、この差は埋められない。

コアゲーマーにとっても、現状のソーシャルゲームの多くは物足りない内容であると思われよう。だが渡辺氏はこうした傾向について「家庭用ゲーム機メーカーとして、過去に何度か同じような体験をしてきた」と語る。かつて携帯アプリが流行のきざしを見せた時、家庭用ゲームメーカーはインターフェースの使いづらさなどを批判していたが、携帯アプリは結果として非常に大きな市場に成長した。オンラインゲームやソーシャルゲームについても、似た傾向が指摘できよう。

調査によれば、スクウェア・エニックスとハンゲームの公式サイト訪問者はそれぞれ約100万人と約200万人いるが、重複率はわずか4~5%であったという。ひと口に「ゲームに関心を持っている」と言っても、ユーザー層はこれだけ異なる。家庭用ゲーム機業界の人間には(そしておそらくソーシャルゲーム業界の人間についても同様のことが言えるが)、自分たちのコミュニティーの外で起きていることは意外にわからないものなのだ、と渡辺氏。

ある分析によれば「戦国IXA」のユーザーは、「DQ」シリーズや「ファイナルファンタジー」シリーズ」と同じくらい。
携帯アプリ版「怪盗ロワイヤル」も楽しんでいるようだ。そこには、新しいユーザー層との出会いがある。

渡辺氏は「我々家庭用ゲーム機メーカーはモノカルチャーな世界で動いている」と指摘する。社員から経営層まで、一定のクオリティラインを共有しているメーカーは、それゆえ進むべき方向性が合っている限りは素早く意思決定し、開発を進めていける。だが、逆に言えば家庭用ゲーム機市場に特化しすぎた状態にあるので、そこからズレた方向には目が向きにくくなり、判断も鈍ってしまう。「普段接していないタイプのお客さま『も』意識しながら議論を行うべき」と渡辺氏は主張する。自分がこれまで培ってきた感覚を捨てる必要はないが、それ以外の感覚を備えた、新しいユーザーもいるのだということも、常に念頭に置いておくべきだろう。

こうした状況の改善に向けて、渡辺氏は「ダイバーシティ・マネジメント」という言葉を引き合いに、多様な社員を揃えて、多様な事態、新しい価値創造への対応力をつけるべきだと説いた(ちなみに同社のとあるオンライン企画運営部には、ゲーム制作の経験者が非常に少ない反面、元コックや元メイド、はては観賞用エビのブリーダーなど、非常にユニークな経歴のメンバーがいるそうだ!)。

プロモーション戦略の転換を

家庭用ゲームとオンラインの無料ゲームでは、そもそも購入(課金)に至るまでの経緯から大きく異なっている。前者のユーザーは購入以前から継続的な興味を保ち続けて発売を待ち、プレイ開始までに数千円の出費も行う。

一方、無料オンラインゲームでは事前に情報を調べるようなことはあまりせず、目についたものを何となく遊びながら詳細に触れていくことが多い。こうしたモチベーションの違いを考慮すると、家庭用ゲームと無料オンラインゲームではプロモーションのあり方も異なってくるわけだ。

家庭用ゲームの事前プロモーションでは、どのようなゲームなのかについてを知ってもらうことが中心になっていたが、無料オンラインゲームの場合は実際にプレイしてもらったほうが早い。そこで「戦国IXA」では、バナーを主とするプロモーションで、同社初の戦国ゲームだという点と、登場キャラのビジュアルを伝える程度に絞ったそうだ。また、フジテレビ系列の地方局とタイアップし、タレントがプレイしている様子を見てもらうことによって、認知度を高めてしていった。

無料オンラインゲームでは、そもそもゲーム内容ではなく、友達がやっているとか、流行っているから、といった理由でアクションを起こすユーザーが圧倒的に多い。また、海外のバナー広告(ゲームの内容とは関係なく、露出度の高い女性のビジュアルを全面に押し出したもの)などを例に挙げるまでもなく、コンテンツの内容と集客力はあまり関係ないものと考えられる。したがって、受注・予約を第一目標として行うような、従来の意識を改革していくことが求められるだろう。

無料オンラインゲームの企画が目指すべき目標は

家庭用ゲームのクリエイターは、自分の想像するよい体験を、いかにコンピュータ上で再現するかという意識で開発に臨んできた。だが無料オンラインゲームの場合、こと売上という要素のみに注目すると、ゲームを作ることより、とにかく定着・継続してもらうことが大きなポイントになってくるのも大きな違いだ。

また、家庭用ゲームと無料オンラインゲームの大きな違いに、マルチプレイヤーだという点も挙げられる。1人でテストプレイしても、本当のおもしろさがわからないが、多人数型であれば、それだけ多くのテストプレイヤーが必要になる。これが数千、数万の規模になると、想定外の事態が起こるのも無理からぬことだろう。

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「FEZ」では約半年をかけて3回のクローズドβテストを行なったが
いざ運営してみるとユーザーの要望に対応することが非常に困難なことから、想定していた機能を大幅に削減した。
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「戦国IXA」でも、メインとなる合戦がわかりにくい、との声に対応したインターフェースの改善を加えていった。
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こうした改善の結果、「戦国IXA」で合戦を経験したユーザーの離脱率を大きく抑えることに成功。

オンラインゲームの定着率、継続率向上のためには、細かな対応、改善が欠かせないが、あまり大規模な改善を何度も行うことはできない。したがって、コンテンツは「DQ9」のように豊富に盛り込む方向性ではなく、できるだけシンプルに保つことも重要になってくる。

イノベーションは本当に必要か?

こうした開発の難しさもあり、現在は先行ゲームを例に研究・開発が進むことも多いが、結果として新しいシステムにはチャレンジしにくくなってくる弊害がある。国内ソーシャルゲーム市場を見ても、似たようなタイトルはいくらでも挙げられる。

渡部氏はZyngaのコンセプトと対比しながら、イノベーションはいらないから、とにかくまず「パクる」、つまりクローンをつくり、それを改善していくのが生きる道だという考え方が広がっていると指摘する。一方、渡辺氏が入社した当時のエニックス社長 福嶋康博氏は「新しいゲームを作るんだ、初めてのものを作らないとヒットはない」というのが持論だったとも言う。

社長のモットーにしたがい、渡辺氏のチームもさまざまな新機軸ゲームに取り組んでみたが、その打率は低かったそうだ。

どうも現在は、パクるか、オリジナルのスタンスで挑むかという、両極端な話が多いようであると渡辺氏。そこで折衷案的な提案として「二流の詩人は模倣する。一流の詩人は盗む」というエリオットの言葉を引き合いに、やるならなるべく異なるフィールド、遠くのフィールドを参照してみては、とアドバイス。さらに、ただパクるのではなく、ひと手間をかけて何か違うエッセンスを加えることで、イノベーションを生み出せるのだとも述べる。ただし、開発スピードが大切なので、再検討に時間をかけて結局元に戻る、いわゆる「車輪の再発明」は避けるべきとの注意もあった。

「戦国IXA」は、同じ開発チームが手がけた「ブラウザ三国志」に
グラフィックの補強、合戦のスケジュール制、デッキ枚数調整などの改善を加えた。
「FEZ」では、MMORPG+シューティングゲームでリアルタイムストラテジーの要素を実現しようとしたが、開発は難航したそうだ。

最近のイノベーションの好例として挙げられたのが、KONAMIの「ドラゴンコレクション」(以下、ドラコレ)。クエストをこなしながらアイテムを集めていくタイプの従来のゲームに対して、「ドラコレ」はガチャ(アイテム取得)をゲーム性の中心に据え、ガチャを引くことでゲームが進行していくようにした。渡辺氏はこの設計を「大きな発明」と評価する。また、非常に強力なプロモーションをしかけたGREEの「探検ドリランド」の成功にも、「ドラコレ」を分析した結果が見られると指摘した。

「戦国IXA」にも「戦国くじ」というシステムがあり、売上の比率も大きいが、ゲームのメインはあくまでも合戦である。

チャンスは誰にでもあるはず。だからとにかくがんばろう!

こうしてみると、現在のゲーム製作は、コンテンツ作りというよりも、いわゆるビジネスの戦いになってきていると渡辺氏。かつて緑茶飲料ペットボトルがシェアを争った結果、市場が拡大し、その中でも伊藤園の「お~いお茶」がブランド力を高め続けたように、自分たちもある確信を持った領域に、確信を持ったタイトルを投入していくことで、必然的に市場拡大と自分たちの成長を図れるのでは、と意見を述べた。

家庭用ゲーム機市場が侵食されつつある一方、スマートフォンなどの汎用端末で遊ぶ無料ゲームが伸びていっている現在は、緑茶飲料の普及期と、ある意味似た状況だと言える。

今まで「ゲーム業界」と言えば、それはほぼ「家庭用ゲーム機業界」だった。巨大なプラットフォーマー企業が作り上げたビジネスモデル上で、サードパーティはコンテンツ制作能力だけに特化してきたのが時代の流れだった。だが、自分たちの活動領域を狭めることなく、ビジネスモデルも含めて自分たちの仕事を再定義すれば、まだまだ広がる世界はあるのではないか、広い意味でのゲーム業界にチャレンジしていこう、と渡辺氏はエールを贈る。

現在儲かるのはFacebookアプリであるという分析もあれば、モバゲーのタイトルであるという分析もある。「視点は多様、だからチャンスも多様なはず」と渡辺氏。先述のような、自分たちの顧客以外のことはよくわからない、という現状から視点を広げれば、誰にでもチャンスはあると説く。

そのために必要なのは、自分たちの強みと弱みを知り、顧客について向きあい、そして努力し続けることであろう。ただ、「ひと月も経つと事情がガラリと変わっているような状況なので、1ヶ月後も同じ意見ではないかもしれない」とも。経験豊富な渡辺氏にとっても、確かな答えや、確固たる成功法則はよくわからず、まだまだ未知の状況にあるというわけだろう。「とにかくがんばろう」という前向きなメッセージで、本講演は締めくくられた。

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