セガが2013年3月30日に開催する「ファンタシースターシリーズ25周年記念コンサート シンパシー2013」。本日3月27日にはリハーサルが行われ、「PSO2」プロデューサーの酒井智史氏、サウンドディレクターの小林秀聡氏、そしてコンサートで指揮を担当する天野正道氏に演奏の聴きどころなどを伺うことができた。
「ファンタシースターシリーズ25周年記念コンサート シンパシー2013」は、コンサート名通り「ファンタシースター」シリーズ25周年を記念して行われるもの。コンサート当日は、事前に行われたアンケートを参考に選曲された楽曲のオーケストラやバンド演奏が行われる。
今回、30日の開催を前にリハーサルが行われ、「ファンタシースターオンライン2」プロデューサーの酒井智史氏、サウンドディレクターの小林秀聡氏、指揮者の天野正道氏に開催の経緯や作曲、編曲のこだわりなどについて話を聞くことができたので、その内容をお届けする。
――まず本コンサート開催のきっかけを教えてください。
酒井氏:「ファンタシースター」シリーズ25周年ということで、今までと違うような大きなイベントをやりたいと考えていました。その際、音楽でシリーズを感じてもらいたいと思い、オーケストラとバンド演奏を含めたコンサートを開催できないかと思って進めたのがきっかけです。
――開催に至るまでのエピソードなどはありますか?
酒井氏:小林君とは以前から25周年だから何かやりたいと話をしていて、「やるならオーケストラのコンサートだよね」ということになったんですが、実現するにはいろんな方に協力していただく必要がありました。実際にたくさんの方に相談したり声をかけてみたところ、非常に運がよかったこともあり、無事に開催できることになったのでありがたいと思っています。
――シリーズでは過去にもオーケストラとの取り組みもありましたが、何かこだわりがあるのでしょうか?
小林氏:やっぱり「ファンタシースター」はセガのRPGとして代表的なものですし、宇宙を舞台にしているという面からも、スケールの大きさを感じさせる作品です。そのスケールの大きさを表現するには、オーケストラは欠かせない存在ではないかと思っています。
――これまで天野さんとはどのように関わられていたんでしょうか?
小林氏:天野先生にはセガのタイトルで何度もお仕事をしていただいているのですが、僕が初めてご一緒させていただいたのは「ファンタシースターユニバース」になります。その時に自分が手掛けたテーマ曲などをオーケストレーションしていただいたのが始まりです。
――今回天野さんとやり取りされた中でのエピソードなどはありますか?
小林氏:とてもお忙しい方ですので、打ち合わせの時間をいただくのも難しかったりするときもあって、メールでのやり取りが多かったんです。そのため、なるべく天野先生に分かりやすいよう、お渡しする楽曲の準備をとにかく頑張って、あとは天野先生に好きなようにアレンジしていただきたいと思っていました。
それと天野先生にお渡しする曲などの準備を進めていく中で、内容が上手く説明できないデータや、解釈してもらうのが難しいデータがあったとき、どうしたら伝えられるのかを考えるのが大変だった覚えがあります。やっぱりユーザーの方も「ファンタシースター」の音楽を聞いてくださっているので、なるべく元のフレーズを活かしつつも、オーケストラで表現できるよう、僕がしっかり準備しようと常に思っていました。
天野氏:オーケストラだけで演奏する曲は大変じゃないんですが、実は今回、コンピュータの打ち込みの音とシンクロさせる音があるんですよ。それに対するSEやシンセサイザーの音を小林さんが作ってくれただけでなく、クオリティも高いものになっていました。そのクオリティが良くないと、生で一斉に演奏したときとんでもないことになってしまうのですが、その辺りをしっかりと考えて作ってきてくれていたので、非常に助かりました。
後から「これも欲しいので送ってください」といったこちらのオーダーも聞いてくださって、昔のものでも探してくれて助かりました。ユーザーの方は原曲をオーケストラで聞いているわけではありませんので、耳に馴染まないと困ると思いますし、オリジナルの音色も入れてオーケストラの音と同時に出せるようにしています。
小林氏:今仰っていただいたように、実は今回のコンサートで演奏する曲はオーケストラだけの曲以外にも、原曲で使われたリズムトラックやシンセサイザーのトラックを、オーケストラと一緒に鳴らすという試みをやっています。そうすることで、原曲のイメージを楽しみつつ、さらにオーケストラの演奏でゴージャスになった音を聞いていただけると思っています。この提案をしてくれたのが天野先生だったので、僕もちゃんとしたものを、と思って頑張りました。
――今回の依頼を受けての心境はいかがでしょうか?
天野氏:「ファンタシースター」シリーズとは13年ほど前から何度か関わらせていただいて、今回お話をいただいたときも「ぜひ」という形でやらせていただくことになりました。もう25周年続いているものに参加できたというのは、やっぱり嬉しいことですね。ゲーム用の曲をオーケストラ用に編曲するのは大変なのですが、当時からオーケストラでやった曲もいくつかありますし、データの準備をすごく一生懸命やっていただいたので、だいぶ助かりました。
――ゲーム楽曲をオーケストラ用にアレンジする際、苦労されるのはどのようなところでしょうか?
天野氏:一番大変なのは、ゲーム音楽は生で演奏することを想定しないで作られるところです。例えば人間が演奏する際、管楽器は息を吸わないと吹けませんが、息継ぎを考えていない曲をそのままやってしまうと、息が吸えなくなってしまうじゃないですか(笑)。そのため、コンピュータでやっていた音楽を人間が演奏できるように、いろんなところを少しずつ変えていかなければいけません。13年前の曲はそういったところがあまり考えられていない作りでしたが、最近の小林さんが作った曲は、そのまま生で演奏してもいいと思えるように作ってくれています。
小林氏:昨年、コンサートの企画が立ち上がってきた時は、まだ「ファンタシースターオンライン2」の楽曲をリアルタイムで制作していた段階でした。そのため、後半のステージやボスの曲など、実は「シンパシーでやったらこういう風になるのかな…」と考えながら作曲してたものもあります。そういった曲を今回生演奏で再現していただけるので、僕もすごく嬉しいです。
天野氏:日本では、生の演奏会と打ち込みの音を同時にやることって、実はまだ少ないんですよ。そういう面でも画期的なコンサートですね。
――酒井さんはリハーサルをご覧になったとのことですが、感想はいかがですか?
酒井氏:もう、すごいです。シリーズ作品をやっていた分だけ泣けるものになっていると思います。ゲームをプレイしているとずっと音楽を聞いているじゃないですか。それが体の中に染みついているので、「あの時はこんなことがあったな…」というのが、音を聞いた瞬間に呼び覚まされるんですよ。天野先生が指揮をしている後ろで、ずっと泣きそうになりながら聞いていました。原曲の雰囲気もすごく出ているんですが、オーケストラならではのゴージャスさもあって、すごいと思っていただけるものになっていると思います。
天野氏:あとはファミコン時代の楽曲を全てフルオーケストラでやる、正反対のものもありますね。
酒井氏:オーケストラアレンジされている歌ものもあるんですが、それもまたすごくいいアレンジになっています。
――一部演奏曲が公開されていますが、ほかにはどんな曲があるのか可能な範囲で教えてください。
小林氏:そうですね…「ファンタシースターオンライン」は、全部のエピソードの曲をやるかもしれないです。
酒井氏:あとは「ユニバース」もシリーズとして結構やります。こちらはバンドが多いです。
小林氏:今回のコンサートでは、ユーザーの方に今まで聞いたことのない特別な音楽をお聞かせしたいという部分があります。例えば「ファンタシースターZERO」のエンディング曲に「たいせつなもの」という曲があり、元々はボーカル曲なのですが、それをフルオーケストラバージョンとしてアレンジしています。だいぶ曲のイメージも変わっていますが、すごくいい曲に仕上がっています。
酒井氏:さっきリハーサルで聞いたんですけど、すごく良かったです!僕は全部の曲が好きなんですけど、オーケストラになったことで「やっぱりいい曲だな」と感じました。「PSO」の曲は後半にまとめて演奏する感じですが、興奮しまくると思います。特にラストは、自分が戦った時の熱さを思い起こして泣けると思いますので、注目していただきたいですね。
――「PSO2」のサウンドシステムが「SYMPATHY」で、今回のコンサートも「シンパシー」となっていますが、この名前を付けた理由を教えてください。
酒井氏:シンパシーには共鳴といった意味があり、音楽を通して「ファンタシースター」ファンの皆さんが共鳴することをコンサートのテーマにしたかったため、この名前にしました。よくシンフォニーと間違われるんですが(笑)。
――今回参加できない方もいると思いますが、今後の展開は考えられているのでしょうか?
酒井氏:何かしらお聞かせできる機会は作りたいなと思っていますが、まだ決まってはいないですね。
――小林さんから天野さんに聞いてみたいことは何かありますか?
小林氏:えっ!?いや~恐れ多いんですが…天野先生とはお仕事をご一緒させていただくたびに、バイタリティというか、熱意がすごく伝わってくるんです。「ユニバース」の時も僕の作った原曲のイメージを汲んで、すごいリスペクトしてくださったんです。その熱意はどこから来るんでしょうか?
天野氏:それは曲が良いからですよ!って、予定調和みたいなコメントですけど(笑)。
一同:(笑)。
天野氏:でも実際、それは関係あるんですよ。我々が他人の曲をアレンジする場合、原曲がいいか悪いかでだいぶ変わってきます。元が良ければ磨くことでどんどん良くなりますので、曲が良ければこの老体に鞭を打ってでもやろうと思えるんです。
――天野さんが作曲されるうえでのこだわりを教えてください。
天野氏:ジャンルによって変わりますが、商業音楽の場合は目的あっての音楽になります。若い作曲家の方にお伝えしたいのですが、そこで自分のこだわりばかり追求してしまい、売れ行きに関係ないところまでやってしまうケースがありますが、商業音楽ではユーザーさんや発注の人の意向に沿うようにすることが鉄則です。その代わり、自分の音楽で作品を作る場合はいくらでもそれができるわけですので、こだわりとの使い分けを一番考えています。
――最後にコンサートの見所をお聞かせください。
酒井氏:25周年で夢見ていたコンサートがやっと実現することになり、非常に嬉しく思っています。「ファンタシースター」の音楽が好きな方には、新しい発見をしていただけるようなコンサートになっていると思います。おかげ様でチケットも完売しており、会場に来ていただける方は僕らと共鳴して、「ファンタシースター」というものを楽しんでいただきたいと思っています。当日券はほんの少しだけしか残っていませんので、お越しいただく予定の方は、入場無料で入れる物販も楽しみにしていただければと思います。
小林氏:昨年から企画が立ち上がり、ここまでずっと準備をしてきました。すでに楽曲も完成し、後は演奏するだけというところまで来ています。「ファンタシースター」を愛してくださっている方のために作り上げたコンサートですので、ぜひ楽しんでいただければと思っています。
天野氏:会場では映像も流れますし、ファンタジーな空気を同じホールでシンパシー、共感していただき、お客様ひとりひとりが良かったと思えるコンサートになると思います。2時間ほどの間ですが、日常を忘れて浸っていただけることが願いです。