6月11~13日の期間、アメリカ・ロサンゼルスで開催中のゲームショウ「E3 2013」。本稿では、「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」「ファイナルファンタジーX/X-2 HD Remaster」の開発を進める北瀬佳範氏、鳥山求氏へのインタビューを紹介しよう。

目次
  1. 「ディシディアファイナルファンタジー」でティーダを初めて知った人にも遊んでもらいたい
  2. 「ファブラ ノヴァ クリスタリス」はこれからも何らかの形で続いていく

最新作「ファイナルファンタジーXV」やPS4版「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」が発表され、大きな脚光を浴びている「ファイナルファンタジー」シリーズ。

スクウェア・エニックスブースでは「ファイナルファンタジーX/X-2 HD Remaster」と「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」の初となるプレイアブル出展もあり、こちらもたくさんのファンから注目を集めていた。

今回は、両作品の開発を進める北瀬佳範氏と鳥山求氏にインタビューを実施し、ここまでの開発状況や、「ファイナルファンタジーXIII」シリーズの背景にある「ファブラ ノヴァ クリスタリス」の展開などを伺ってきたので、その内容をお伝えする。

「ディシディアファイナルファンタジー」でティーダを初めて知った人にも遊んでもらいたい

左から鳥山求氏、北瀬佳範氏
左から鳥山求氏、北瀬佳範氏

――まずは「ファイナルファンタジーX/X-2 HD Remaster」について、開発の進捗状況からお聞かせください。

北瀬氏:今は「ファイナルファンタジーX」が80%、「ファイナルファンタジーX-2」が65%といったところです。先に開発がスタートしたのは「X」なので、多少の差はありますね。

――発売時期は現在のところ2013年を予定となっていますが、具体的な発売日が決定するのはいつ頃になりますか?

北瀬氏:開発の最終段階に差し掛かってはいるのですが、具体的な発売日を決めるまでには至っていないですね。なんとか年内には発売したいと考えています。

――2011年の発表から発売に至るまでかなりの時間がかかりましたが、開発ではどのあたりに苦労したのでしょうか?

北瀬氏:過去に発売されたSD画質のゲームをHD化して終わり、というわけにもいきません。10年前にプレイした人たちの思い出があり、それが膨らんだ中での制作なので、HD化とともに美化された思い出が壊れてしまわないよう、じっくりと時間をかけて開発しました。

キャラクターもポリゴンをひとつひとつ修正していきましたし、もちろんテクスチャーも見直しました。

――ファンの方には、今回のリマスター作品をどのように楽しんでもらいたいと考えていますか?

北瀬氏:10年も前の作品となるとプレイした感覚は当時と違うと思うので、そのあたりを楽しんでもらえたらと思います。例えば10年前はティーダの目線でプレイしていた方も、今プレイすると父親のジェクト目線のほうが感情移入できるといったケースもあると思います。

――表情のモデリングもPS2版とは変わっていますよね。

北瀬氏:すべてではないのですが、イベントシーンでアップになるメインキャラクターの表情は、ポリゴンから手直しを加えています。ですが、ただ単純にポリゴン数を増やすだけだと微妙に印象も変わってしまうので、皆さんが想像するティーダやユウナを壊さないよう、何度もチェックしながら修正していきました。

――サウンド面のクオリティは、グラフィックと同様に上がっているのですか?

北瀬氏:サウンドに関しては検討中の段階ですね。ただ、やれることならサウンド面もより良いものにしたいですね。

――では、メニュー周りなどで遊びやすく調整した箇所はありますか?

北瀬氏:メニューは文字情報が多くなる場所なので、ワイド画面でも見やすく、そして操作しやすいように修正しています。

――発表当初は「ファイナルファンタジーX」のHDリマスターのみでしたが、その後「X-2」も発表となりましたよね。「X-2」をリマスターすることは前々から決まっていたのですか?

北瀬氏:やりたいとは最初から思っていました。ですが、HDリマスター自体が私たちにとって初めてのプロジェクトで、作り始めてみないとできるかどうか分からない、という状態でしたので、できるという確信を得てから改めて発表しました。

――今回のリマスターはどちらもインターナショナル版に日本語音声を収録した内容となっていますが、英語音声を同時に入れる可能性はありますか?

北瀬氏:どうしても容量の問題が出てきてしまうので、今回は見送っています。

――インターナショナル版ですと「X」には「永遠のナギ節」が、「X-2」には「ラストミッション」が収録されていましたが、こちらはHDリマスター版にも入るのでしょうか?

北瀬氏:その2つに関してはまだ検討中の段階ですね。もうしばらくしたら、改めてお知らせしたいと考えています。

――E3の会場ではプレイアブル出展されていますが、そちらの反響はいかがですか?

北瀬氏:まだ具体的な意見は拾いきれていない状態ですね。僕自身、大画面の液晶で実機デモが動いているのを見るのは初めてのことで、HD化の恩恵は改めて感じましたね。

――今回はPS3とPS Vita、2種類にハードで発売されますが、2機種で同時に開発することに苦労はありませんでしたか?

北瀬氏:まずはPS3のバージョンを作って、その後PS Vitaに対応していく形で開発しました。PS3版という骨組みさえしっかりしていたので、PS Vita版は比較的スムーズに開発出来ましたね。それぞれのハードで別々にガッツリ作り込む必要がないのは大きかったです。

――北瀬さんはPS Vitaでのゲーム開発は初だと思いますが、PS Vitaというハードに対してどんな印象がありますか?

北瀬氏:純粋に画面が綺麗なので、HDリマスターとの相性は良いと感じましたね。さらに、それを小さなマシンとして実現したのは魅力だと思います。

――PS Vitaにはタッチパネルなど特徴的な機能が多数ありますが、HDリマスターで使用する機会はありますか?

北瀬氏:そのあたりの仕様もいずれ詳しくお伝えできればと思っていますが、やはりせっかくの機能ですから、ぜひ使っていきたいですね。

――PS3版は「X」と「X-2」がセットになって発売されますが、PS Vita版はそれぞれ別売りになりますよね。そうなると価格設定が気になるところですが…。

北瀬氏:まだはっきりとした発表はできませんが、PS Vita版を2本同時に買うとPS3版より高くなるですとか、ハードによる損得が発生しない価格設定にするつもりです。

「ファブラ ノヴァ クリスタリス」はこれからも何らかの形で続いていく

――続いて「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」についてですが、こちらの開発はほぼ完了したのでしょうか?

鳥山氏:今は、ゲーム全体の調整が終わったところです。今回は新しいゲームシステムになっているので、これからユーザーテストをしながらゲームバランスを直していきます。

――今回はゲームシステムが大きく変わっていますが、どういったコンセプトが開発が進んだのでしょうか?

鳥山氏:「ファイナルファンタジーXIII」は「ストーリードリブン」という、物語がゲームを引っ張っていく形式で開発しました。そして「ファイナルファンタジーXIII-2」では、ストーリーの中に自由度も盛り込む形で開発しました。

自由度を高める方向性は「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」でも変わらず、「ワールドドリブン」というコンセプトを掲げています。これは、ライトニングを取り巻く世界や環境、NPCが、ライトニングの行動に関わらず常に変化してくというものです。

そして、その変化する世界に対してライトニングがどうアクセスするかで、プレイヤーの体験も変わっていき、より自由に物語を楽しめるようになっています。

――最新のPVではスノウやノエルといった過去の作品のキャラクターが出てきますが、そういったキャラクターとライトニングが対立している内容に見受けられました。前作までとのつながりなどは、本作ですべて語られるのでしょうか?

鳥山氏:「ファイナルファンタジーXIII」シリーズの完結編になりますので、前作で残された謎やキャラクターたちの物語がすべて本作で決着をつけます。

――PVには出てこないしなかった、過去作品のキャラクターも登場するのですか?

鳥山氏:シリーズのフィナーレになるので、メインキャラクターの多くが登場しますよ。ライトニングち行動を共にするキャラクターもいますし、スノウやノエルのように対立するキャラクターもいます。

――しっかり仲間になるキャラクターもいるんですね。

鳥山氏:はい。ですがバトルシステム自体はライトニング単体のバトルなので、あくまで補助的な役割で入ってきます。

――過去のシリーズ作品では召喚獣や、モンスターを仲間にするといったシステムがありましたが、今回はそのようなシステムもないのですか?

鳥山氏:今回はライトニングで徹底的にプレイしてもらう形になっています。本作では新しく、ライトニングの衣装を変えるスタイルチェンジというシステムを取り入れています。衣装に対してアビリティをセットできたりと、前作までにあった「ロール」などに通じるカスタマイズの面白さがありますよ。

――フィールドに関しては、過去作品のものがでてくるのでしょうか?

鳥山氏:今回フィールドは一新しており、まったく新しいグラフィックになっています。ですが、シンボルになるような建物として、過去作品のフィールドの一部が登場することはあります。

――今回、巨大なオープンワールドのようになっていますが、苦労した点は?

鳥山氏:ベースになるエンジンとしてクリスタルツールスを使ったのですが、これは正直、開発当初はオープンワールドには向いていなかったんです。なのでこの機会にバージョンアップして、今のトレンドであるオープンワールドが作れるように改良を加えました。

――バージョンアップをしてでもオープンワールドを作りたかったということですか?

鳥山氏:自由度を上げる表現の方法として、オープンワールドは必要だと思っていました。また、本作では時間の概念も導入しているので、さらに奥深い世界が楽しめます。

――例えば昼から夜に変わる際に、景色なども変わってくるのですか?

鳥山氏:景色もそうですが、そこに生活する人々の1日のスケジュールを組み上げて、それをAIで表現することによって、より生活感を出しています。

――NPCのAIにも力が入っているんですね。

鳥山氏:そうですね。町の人が自分が興味のあることに対して、何かのアクションを勝手にしたりだとか、さまざまことをしています。

――眺めるだけでも楽しそうですね

鳥山氏:はい、気に入った景色の中で時間を過ごす遊びもできますが、世界は終わりに向かっているので、あんまりのんびりやってると世界を救えなくなってしまいますね(笑)。

――PVでドラゴンのようなモンスターの尻尾を切っているシーンがあったんですが、素材集めに関わるのでしょうか?

鳥山氏:部位破壊ですね。素材集めにも関わるんですが、部位破壊はボスモンスタークラスに用意されていて、例えば尻尾攻撃を防ぐために尻尾を切るというような、バトルの攻略のための要素が強いです。

――そういったことを見つけていくことも攻略のポイントになるんですね。

鳥山氏:「ファイナルファンタジーXIII」のスタイルチェンジもそうですが、役割を変えながら敵の苦手な属性をついていく作戦の部分と、タイミング系の相手のモンスターの攻撃をあるタイミングでガードすると相手を崩したりといったアクション性の両方でバトルを攻略できます。

――3部作全体を通して、どのような進化ができたと考えていますか?

北瀬氏:シリーズの一作目がリリースされてから、2年おきのペースで発売されているので、4年の間に3作を世に送り出したことになります。1作目からユーザーさんのフィードバックを受けながら、それを冷めないうちに返していけたという意味では、良い進化ができたと思います。

ひとつ例を挙げると、バトルに関しては1作目からずっと、スピード感を持ちながらも戦略性がある「スピード&タクティクス」の完成を目標としていました。

ただタイミングよくボタンを押すだけのゲームではなく、しっかりと敵の弱点を突いたりとか、状況を見ながら作戦を変える、考える楽しさも残しておくことが狙いだったのです。そして、2作目を経て完成形に持っていけたのが、今回の「ライトニングリターンズ」です。

そういう意味では、本作はプレイヤーキャラクターが1人になって、アクションライクにもしながらも戦略性を高まっているので、究極的にブラッシュアップされていると思います。

それは「FF」全体の歴史から見ても同じことだと思います。ターンベースのコマンドバトルからはじまり、ハードの世代交代につれてグラフィックがリアルになっていきました。リアルになってからは、いかにしてリアルさに付いていけるゲームシステムを作れるのかが、大きなテーマだったんです。

――開発チームとして、短期間で3作つくるのはタイトなスケジュールだったと思います。そういった中で、どういった経験が積めましたか?

鳥山氏:タイトなスケジュールでしたね(笑)。まず、1作目が時間がかかってしまったことを反省して、「ファイナルファンタジーXIII-2」の時に開発の工程自体も変えました。例えば、あるゲームのパートをそれぞれのセクションが単体で作って、最後に結合するというのが従来の形でしたが、それを少しずつでもいいから結合版を作っていくことにしたんです。そのおかげもあって、早い段階でゲーム全体の設計を先に決めることができました。

「ライトニングリターンズ ファイナルファンタジーXIII」でも同じ作業方法を導入したおかげで、短期間で新しいゲームシステムを実現できました。

――3部作になるのはいつ頃決まったんですか?

北瀬氏:1作目を作った時には、3部作と明確には決まっていなかったんですが、1作目が完成して、ライトニングなどのキャラクターとあの世界、さらに 「ファブラ ノヴァ クリスタリス」という大きなバックボーンがあったので、まだまだ少し語れる部分があるのではと考え、続編の企画がはじまりました。

また、「ファイナルファンタジーXIII-2」のときに、世界観を表現するために拡張していこうと、ゲーム単体だけでなく、DLCによってエピソードを拡張したり、ウェブや小説等でストーリーが広ていくことにも挑戦しました。

――「ファブラ ノヴァ クリスタリス」の構想は、今回の「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」でひとまず完結するのでしょうか?

北瀬氏:クリスタル神話自体は、ライトニングシリーズでも全部を描こうとはもともと思っていません。神話という大きなバックボーンのどこををチョイスするのかは、それぞれの作品がそれぞれの切り口でやるというコンセプトで始まっています。

例えば、「ファイナルファンタジー零式」にはファルシなどのキーワードが登場しましたし、「ファイナルファンタジーXV」についても、多くは言えませんがこのコンセプトは変わっていません。なので、本作で神話は終わりということはなくて、何らかの形で語られることになると思います。

――3部作となると前作・前々作の話を忘れてしまうプレイヤーもいると思うのですが、そういう人へのフォローは考えていますか?

鳥山氏:忘れていただいて大丈夫です(笑)。一応繋がってはいるんですが、今回は、クリスタルに眠っていたライトニングが滅亡に向かっている世界で目覚めて、どうして滅亡してしまうのか分からない状態でゲームが始まります。その世界を救うための行動をはじめるときに、彼女自身もその世界に関する知識を持っていないので、そういう意味ではプレイヤーと同じ状態と言えます。

――2013年は「ファイナルファンタジー XIV:新生エオルゼア」もあり、「FF」尽くしな1年になりますね。

北瀬氏:特に狙っていたわけでもないんですけどね(笑)。去年が25周年だったんですが、図らずとも今年のほうが充実してしまいました。

昨日はE3の会場でライブ配信されていた「ファイナルファンタジー XIV:新生エオルゼア」の中継におじゃまして、「ライトニングリターンズ」とのコラボ衣装を発表しました。せっかく発売が近いので、いろいろな形で「FF」同士のタイトルを盛り上げていきたいと思います。

――最後に、それぞれの作品を期待しているファンの方へのメッセージがあればお聞かせください。まずは「ファイナルファンタジーX/X-2 HD Remaster」からお願いします。

北瀬氏:PS2版をプレイした人には当時を懐かしみながら遊んでもらえたらと思います。また、PSPで発売した「ディシディアファイナルファンタジー」シリーズでティーダやユウナを知ったという、新しいユーザーさんもいるかと思います。そういった方たちにとって、「ファイナルファンタジーX」のストーリーを深く知るいい機会ですし、今でも充分通用するストーリーとゲーム性を持った作品なので、ぜひ手にとってもらいたいですね。

――では「ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII」についても、ファンへのメッセージをお願いします。

鳥山氏:今回が、ライトニングの最後の物語になります。これまでもかっこいいライトニングをさらにかっこ良く見せるのはもちろん、今まで以上に磨きをかけた「冷たさ」も描かれています。さまざまな形でライトニングを好きになれる作品ですので、よろしくお願いします。

――ありがとうございました。

※画面は開発中のものです。

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