2013年7月23日に開催された「Game Tools & Middleware Forum(GTMF)」。本イベントのゲストセッションとして行われた講演「Making of SOUL SACRIFICE(メイキング オブ ソウル・サクリファイス)」の模様をお伝えする。
本講演は、マーベラスAQLデジタルコンシューマー事業部 開発本部アートリード岸隆造氏によって、「アートチーム制作指針」「チーム体制」「ソウル・サクリファイスの目指したグラフィック」「各デザインパートメイキング」の4項目に分けて話が行われた。
まず、アートチームの制作指針に関しては、ゲームコンセプトを常に意識すること、開発速度を向上させることの2点が重視されている。ディレクターやクライアントの意見をすぐに反映してブラッシュアップできるよう、最初にこれを指針にして進めようとチーム内で考えたという。
開発スピードを上げるためには、少人数で大ボリュームのリソースを実装しなければいけない。そのため、ゲームの指針と実装目標を明確にすることと、チーム体制にcabal(カバル)という手法が取られている。このcabalは、本作の場合エネミーやバトル、プレイヤーなど、制作チームの中に小さな開発チームがたくさんあるという体制だ。各チームにプログラマーから企画担当、デザイナーも参加し、ひとつのチームとなってタスクを消化していくというスタイルになっている。
実際の開発では、各マイルストーンで承認が得られなければ次のフェーズに進めないようになっており、これをクリアするために月報、つまり毎月ビルドを作成し、自分たちの現状を全員で把握するようにしたという。岸氏は、月報のビルドを作成するにあたって「各cabalがチーム内のトピックを生み出したり、何をどう実装すれば目標を達成できるのかを明確にタスク化することで、迷うことなく進み、スピード感を上げて開発できたのでは」と述べた。
ワークフローとしては、各cabalでブレストを行い、ディレクターから与えられた課題に対してプログラマーやデザイナーも含めてアイディアを出していく。そこで出た内容を仕様化して仮実装するのだが、仮実装を素早く行うことで見えてくる問題の解決や、本来進むべきものとイメージが違う場合の立て直しが行えたという。
月報ビルドには、ディレクターやクライアントからの要望だけでなく、SCEが実施するユーザーテストで一般ユーザーからの意見も寄せられる。そこで制作陣とユーザーの意見が一致する部分を最重要課題と捉え、真っ先に修正するスタイルにすることで、可能な限り取りこぼしが無いようにクオリティアップを目指したとのこと。また、情報伝達の方式を一方通行にするのではなく、チームのメンバーでしっかりと情報共有をすることで、全員が現状を把握することができていたようだ。
続いては「ソウル・サクリファイス」が目指したグラフィックについて。まず、本作ならではの魔法バトルが4人のマルチプレイで気持ちよく遊べることが大前提としてあったという。さらに、コンセプトである“欲望と代償”をダイナミックに表現することや、ポストエフェクトや外部ツールを使って、クオリティアップだけでなくコスト削減も行っていくなどの目標が掲げられている。
作業を進めるにあたっては、「ゴールのビジュアルはこれぐらい」といった感じで大よそのルックを確定させたり、プロト期間中に見えてきた問題点やワークフローの見直しを行い、本制作に入ってから全体がスムーズに稼働するように環境を整備していったという。
ビジュアルの方向性は、例えばエネミーであれば金属の装備は金属らしくといった質感表現よりも、アーティストが描いたイメージに近いテイストを採用する形で進められている。背景に関しては、「タルタロスの街」「オリンピア平原」をベースにスタイルの統一を図り、後々つくるものがぶれないよう考えられている。
各パートのメイキングも紹介された。キャラクターについては、ディレクターから渡された設定に対して「このキャラクターはこう生活していた」「こういう代償を持ってこうなった」といったアイディアをぶつけ合い、ひとつの形にしていったという。cabalのメンバーたちが出したアイディアは、ディレクターに提出して確認を取りながらブラッシュアップされていき、ひとつひとつモデルやモーションが作られている。
データ的にエネミーは、負荷問題やコストとの兼ね合いによって比較的オーソドックスに作られている。これはボスキャラクターやコスチューム、NPCは3人のメンバーで開発されていたため、制作だけでなく修正に関しても工数を抑えたいという思惑があったからだ。とはいえ、コストを抑えつつ効率を上げるため、Maya上に実機と同じシェーダを実装し、アーティストがMayaで調整してそのまま実機出力を行うなど、手法にはこだわっており、問題ない仕上がりにできたという。
プレイヤーのカスタマイズ部分も、メモリを圧迫することや作業コストが膨らむため、マスクマップと呼ばれるものを利用してカラーチェンジを行う工夫が取り入れられている。このマスクマップでは、RとGチャンネルにはコスチューム用のマスクを、Bチャンネルには肌用のマスク、アルファチャンネルには文様のグローを格納することで、1枚のテクスチャでそれぞれのコントロールができるようになっている。
キャラクターのモーションは、魔法アクションが一体どんな風に行われるのかイメージできないものがあったため、全て手付で行われている。アクションも修正しながら作っていくボトムアップ方式が採用されたため、すぐにプレイスタイルやゲームスピードを変えることができ、レスポンスよくブラッシュアップできたという。
キャラクターと同様にバックグラウンドが設定されている背景については、ゲームの中でどう起こしていくかが課題に。これに対しては、疑似ラジオシティノーマルマップを使ってディティールを表現したり、ラジオシティノーマルマップはSIベースの内製ツールを使って作るなどの工夫がされている。
ほかにもエクセルからレンダリングを管理するツールを作り、シーンや天球モデルといったアセットを登録することで、使いたいセットを全てセルから指定するとバッチレンダリングが走るようにするなど、シーン構築の手間を省けるよう自動化されている。背景はデータが非常に多かったり持ちまわすこともあるため、メンバー間で上手く共有できるよう、内製ツールで作業の効率化も行われている。
本作で難解だったという部分が魔法のエフェクト。キャラクターや背景だけでなく、魔法のコンセプトアートも用意されていたため、アートをいかにゲーム内に持ち込むかが課題だったという。ここでも活躍したのが内製ツールで、「MediaStudio」と呼ばれるものではキャラクターのモデルやモーションを一括して読み込み、パーティクルなどを付け加えることができるようになっている。
また、プログラマーが組み上げたデータだけではゲームとして成立しないため、ゲームとしての魔法を仕上げるための「魔法エディタ」というツールも存在する。このツールではエネミーやプレイヤーがどういったリアクションを返すか設定できるため、cabalメンバーで話し合ったことや出てきた意見をすぐに吸収して反映させるスタイルが取れたとのこと。企画やデザイナーでも、このツールを使って作業を進められるので、効率アップにも役立ったようだ。
最適化については、エフェクトでは負荷が掛かるところを視認できるプロファイルビューが、シーンについては「Razor」と呼ばれるツールが使われている。こうしたツールが非常に役立ったようだが、シーンの最適化ではどこで問題が起きているかエンジニアが全て見ながら作業を進めたこともあり、岸氏は「プロファイリング担当者が常に一人いる状態が、ゲームのパフォーマンスを最大限に引き出す要因だと思います」とまとめた。
各パートについての話が進められてきたが、本作にはリブロムと呼ばれる本が重要な役目を担っている。この本を作る上でもこだわりを持っており、ページをめくる際、タッチする指の動きに追従するようになっている。このように、本に見せるためにはめくれる必要があるため、各ページの内容をテクスチャ化したり、めくっている最中は3Dで、開き終わったら2Dへ切り替えるなどの工夫がされている。
この作業を支えたのも内製ツールで、イベントパートを作る際にも同じものを使用したという。比較的軽いツールながら広範囲をカバーできるため、今後も改良を加えていく予定だという。内製ツールはチーム全体のリソース管理をするためのものも用意されており、リソース管理用の専用サーバーと合わせ、素材のやり取りの効率化や、ゴミデータを紛れ込ませないなどの対策が取られている。
岸氏は最後に「こうしたチーム体制にしたりツールを利用したことで、とにかく意見を言うチームができました。全員がゲーム作りに関われたことでモチベーションアップにもつながり、従来では考えられないパフォーマンスが発揮でき、クオリティに関してもいろんな要素が反映できたと思います」とまとめた。