CEDEC 2014の最終日となる9月4日、クリプトン・フューチャー・メディアでモバイルコンテンツチーム マネージャーを務める熊谷友介氏の講演「地方から世界に発信する初音ミクのコンテンツと未来」が行われた。クリプトンの過去の実績や、同社が描く未来のビジョンまで、実にさまざまなことが語られた本講演をレポートする。
講演は、熊谷氏の自己紹介、クリプトン・フューチャー・メディア(以下、クリプトン)の概要や社風、手がけてきた事業の紹介からスタートした。
現在は「初音ミク」を含むVOCALOIDの製造販売を行っている会社というイメージが強いクリプトンだが、過去には、携帯電話向け効果音サイト「ポケット効果音」、クラブ系着信音専門サイト「North Sound」などのサービスを展開。さらに、SONYやSHARP等の携帯電話のプリセットコンテンツなども担当した。
さらに、YAMAHAから新型チップの開発や、デモ音源制作の依頼が来たりなど、徐々に活動の幅を広げ、新しいマーケットを開拓することに成功するクリプトン。そういった経験からシステム開発のノウハウが少しずつ蓄積されていき、最終的にクリプトンは、ゲーム制作まで行えるようになる。
それが、9月下旬リリース予定のスマホ向けアプリ「初音ミクぐらふぃコレクション なぞの音楽すい星」だ。ここでは、本作の特徴がかいつまんで紹介された。
美麗なイラストと、シンプルなゲーム性がウリの本作。音楽RPGを謳っていることもあり、バトル要素ももちろん存在する。さらにイラストにも力を入れており、ゲーム中のイラスト総数は1000枚以上にもなるとのこと。
しかし、もともと「音」を専門にビジネスを展開していたクリプトンがゲームを作る理由はどこにあるのだろう。クリプトンは、クリエイターのためのサービスをクリエイトするすることが理念であるが、それはゲームコンテンツにも当てはまると熊谷氏は言う。
そして、クリエイター、消費者、クリプトンの三者が上手く循環することによって市場を活性化させ、「クリエイターの為のエコシステム」を作っていきたいと熊谷氏は続けた。
また熊谷氏いわくクリプトンでは、安易に外注を使わないようにしているという。その理由は、外注ばかりに頼ってばかりいると、会社のノウハウが溜まらず、応用が出来なくなってしまうから。現在、エンターテインメントの市場は物凄いスピードで進化している。そのスピードに対応していくためには外注に頼ることも必要だと思われるが、クリプトンでは、あえて何事も自社で解決していくようにしているとのこと。そうしていくことによって、ノウハウの蓄積や応用など、自社の成長に繋がると熊谷氏は説明した。
クリプトンは北海道に本社を構えている。あらゆるコストを考えれば、都心を拠点にしたほうが効率的だと思われる。しかし熊谷氏は言った。インターネットを使えばほとんどコストはかからないし、仕事自体はどこでもできる。加えて、食べ物も美味しいし家賃も安い。いまや、地方にもビジネスのチャンスは広がってきていると。
北海道にお客さんがいなくて不自由することもあるとのことだが、不自由だからこそ新しい考え方や発想が生まれてくるため、それこそが地方の強みであると熊谷氏。インターネットや携帯電話のビジネス、アプリ開発など、世界中の人に届けられるビジネスは、何も都心にしかできないことではないのだ。
ここで熊谷氏は、一つのプロジェクトを紹介する。北海道でオープン予定の「MIRAI.ST Cafe」だ。これは「北海道ならではのコンテンツを使って、未来へ繋がる創作の場を作る」ことをコンセプトとしているカフェ。コンテンツを作っている人達が、新しいコンテンツを創造・提供できる場所としてにぎわってくれたら嬉しいと話していた。
熊谷氏は、クリプトンのモットーは「自分たちで出来そうなことはとりあえずやってみる」であると言う。熊谷氏はその一例として、初音ミクの新しい3DCGシステムや、ロックバンド「BUMP OF CHICKEN」とのコラボレーションMVを紹介した。
また、海外公演も積極的に行っており、今後はロサンゼルスとニューヨークでの公演も予定していると言う。ただ、5月に行われたインドネシア公演では海外ならではのトラブルもあったらしく、苦労も経験したとのこと。しかしそこはクリプトン。自分たちで試行錯誤しながら公演を成功させることができたと、同社らしいエピソードを振り返っていた。
また国内向けの施策では、9月20日に東京で大型イベント「マジカルミライ 2014」が開催される(大阪公演は8月30日に実施)。なお大坂では初めてとなる初音ミクの大規模イベントだったがそうだが、こちらも大盛況のまま終えられたとのこと。会場には展示スペースや飲食コーナーも完備されているほか、3DCGもイベント用にブラッシュアップされている。熊谷氏は今後もこのようなイベントを積極的に行っていき、初音ミクを盛り上げていきたいと展望を語っていた。
初音ミクはクリプトンの著作物であるため、当然、管理を行っている。しかし過剰な規制をかけてしまうと、せっかく生まれた創作文化の芽が広がっていかない。そう考えたクリプトンは、2009年に「ピアプロキャラクターライセンス」を制定した。
これは、規約の範囲内であれば、「初音ミク」、「鏡音リン・ レン」、「巡音ルカ」、「MEIKO」、「KAITO」といったキャラクターを非営利的な目的において合法的に二次利用できるという制定だ。二次創作コンテンツは作者に知らされぬまま使用されるケースも多いため、トラブルの元になることもしばしば。「ピアプロキャラクターライセンス」はそういったトラブルをなくし、誰もが安心して創作・閲覧できるようにするためのライセンスであるという。クリプトンは今後もそういった取り組みも積極的に行い、クリエイティブの世界をより拡大、豊かなものにしようとしているのだ。
ここで熊谷氏は、「共感を生むコンテンツ」というテーマを提示。ユーザーが楽曲制作を行うことから始まった初音ミクだが、その楽曲に共感した第三者が徐々に増えていき、最終的には、歌ったり踊ったりゲームを作ったりと、大きなムーブメントを起こしているのはご存知の通りだろう。
それを踏まえた熊谷氏は、これからの時代は「共感」できるストーリーをコンテンツとして発信していくことによって、新しい道筋が作れるのではないかと語る。そして、今後もクリプトンでは、創作の輪が広がっていくための土台作りを積極的に行っていきたいと述べ、講演を締めくくった。