メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主宰するトークイベント「黒川塾 二十壱」が、11月12日に東京・御茶ノ水デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて開催された。

目次
  1. VRの時代がきたことを実感!
  2. VRを「一般化」することが必要
  3. 「部活でやれ!」と言われた「サマーレッスン」
  4. VRの未来への期待

ゲーム、映画、ネットなど、すべてのエンタテインメントの原点を見つめなおし、未来のエンタテインメントのあるべき姿をポジティブに考えるという主旨のもと、各界の著名人を招いて多彩なトークを繰り広げるおなじみの「黒川塾」。

今回は「バーチャルリアリティの未来へ」をテーマに、ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)のVRヘッドセット「Project Morpheus」の開発メンバーであるSCEのSCEワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏、話題のバーチャルリアリティ・コンテンツ「サマーレッスン」をプロデュースしたバンダナムコゲームスの第1事業本部 ゲームディレクター/チーフプロデューサー 原田勝弘氏、「Oculus Rift」の日本でのエバンジェリストとして活躍中で、GOROmanの名でも知られるエクシヴィ 代表取締役社長 近藤義仁氏がゲストとして参加。バーチャルリアリティ・デバイスの発展によるコンテンツの未来と可能性について、さまざまなトークが展開された。

会場には「Project Morpheus」と「Oculus Rift」の体験コーナーも設置。エピック・ゲームズ、ポケット・クエリーズ、桜花一門が制作したOculusのデモや今年のゲームショウにも出展されたMorpheusの「The Deep」と「The Castle」を試遊できるとあって、多くの来場者たちが行列を作っていた。

VRの時代がきたことを実感!

メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏
メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏

バーチャルリアリティ(以下「VR」)の現状について、SCEの吉田氏は20年前にリアルタイム3Dの時代が来ると感じたときと同じような感覚があるそうで、「これから20年はコレ(VR)で楽しませてもらえます」と熱くコメント。Oculus Riftを使ってVR空間で初音ミクと握手できる「Miku Miku Akushu」を考案した近藤氏も「ここ半年で見ても技術の進歩がすごい」と語り、昔はVRをやるにはさまざまな専門知識が必要とされたが、現在はUnityやUnrealといったゲームエンジンが安価になり、個人レベルでの開発ができるようになるなど、環境面での大きな変化がVRの広がりを促進していると分析した。

実際、お台場の日本科学未来館で開催された「オキュフェス」の開発者会議には約200人もの人が参加したとのことで、黒川氏もこのイベントでVRの注目度の高さや環境面での発展を実感したそうだ。吉田氏も環境面については「(VRに)すべてがパーフェクトに集まってきている」と力説。その理由として、PCやPS4など個人が買えるシステムでハイエンドなものが実現可能になり、安価な開発者用ツールも揃ってきたことを挙げ、個人や少数で制作してデジタルで全世界に流通・販売するというビジネスが成り立つようになったことから、VRが世に出ていくこれ以上ないベストのタイミングではないかと大きな期待を寄せた。

さらに、吉田氏は「Oculusのやってくれていることは非常にありがたい」と重ねて強調。VRは体験しないと分かってもらえない部分が大きいのだが、SCEのような巨大企業は物事を進めていくのに時間がかかるため、なかなか単独では体験の機会を作れないという。だが、Oculusがあることで体験機会が広まり、同時に開発者もVRの新しいノウハウの習得が加速されることから、互いに切磋琢磨しながらVRを盛り上げていきたいと語っていた。

吉田修平氏 近藤義仁氏

VRを「一般化」することが必要

原田氏も「以前からヘッドマウントディスプレイで何かやってみたかった」と述べつつ、ムーブメントを起こすには一般の人たちに向けたアプローチ「一般化」が必要と問題を提起。例えば、前述の「Miku Miku Akushu」は「日本のVRシーンを変えた」と称賛するなど、その先進性を高く評価しているものの、一方であまりにも先を行きすぎていて「一般の人には理解されにくいのでは」と危惧していたそうだ。

原田勝弘氏
原田勝弘氏

では、一般への普及には何が重要かというと「ニュースや話題を作ること」で、原田氏としては「サマーレッスン」はコアな人に引っかかって、かつ社会的にも話題になるところを狙ったものなのだという。実際、若いクリエイターたちはアニメ絵でやりたがったそうだが、原田氏は「女子高生と一緒の部屋にいられる」など、自分の父親にも理解してもらえるレベルを想定し、そういう人たちをアッと言わせることを意識したと説明した。

この点については吉田氏も同意していて、例えばMorpheusのデモのひとつである「The Deep」には意識的にゲーム性を持たせていないのだという。それは、いろいろなゲームが作られる前に、まずはVR技術の可能性や広がりを見せたいという考えがあってのことで、そのためには誰でも同じ体験をできることが重要なのだと述べた。

一般化を考えた場合、ファーストパーティーの役割も重要だという。原田氏はかつてハイエンドPCゲーマーで、コンソールの存在の意味があまり分からず、「PCがあればいいじゃん!」と思っていたそうだ。しかし、一般の人たちにとってコンソールは使いやすく、環境の差も少ないので誰でもほぼ同じ体験ができる。対して、PCは最先端の技術でできることを見せられるのは強みだが、一定以上のスペックが要求される場合があるなど、環境によって体験に差が生じやすい。そのため、VRもコンソールのようなもののほうが一般化しやすいのではないかと語った。

吉田氏もコンソールはユーザーの環境によって体験が変わることがほとんどないので、開発時にユーザー体験を突き詰めるなどチューニングに時間をかけられるのが良さだとコメント。MorpheusでのVRへのアプローチも同じで、「技術に詳しくない方でも買ってきて繋げれば遊べるようにと、扱いやすさや酔わないといったことにはものすごく注意して作っている」と語った。

さらに吉田氏は、一般化を考えた場合にモバイルもカギになると述べ、近藤氏も関わっているOculusとサムソンが共同で開発したスマートフォン連携型ヘッドマウントディスプレイ「GearVR」を紹介。「GALAXY Note4」の専用デバイスとなっているのだが、「GALAXY Note4」の日本での発売は未定となっており、吉田氏は「サムソン・ジャパンさん、日本のVRのためにぜひ!」と発売を懇願していた。

また、吉田氏は近年の欧米のゲーム制作はハリウッド的で、日本よりも人やお金をかけて作られるが、VRはそんなに開発に人数をかける必要はないとハードルの低さを強調。しかも、ひとつの体験の密度が非常に濃いので、アイディア次第では誰にでもチャンスがあると日本の開発者の奮起をうながしていた。

話題のVRがテーマということもあって数多くの参加者が集まった。

「部活でやれ!」と言われた「サマーレッスン」

ゲームショウ前のSCEカンファレンスで発表され、大きな話題を集めた「サマーレッスン」。原田氏によると、本作は大したコストはかかっていないにも関わらず、社内ではなかなか認めてもらえなかったという。また、その際によく聞かれたのが、「ハードはどのくらい普及しそうなのか」で、副社長の鵜之澤氏からは「部活でやれ!」とも言われたそうだ。こういった経緯から、原田氏は日本の大手ゲーム会社にとって、先陣を切るというのは「リスク」とイコールになっていると不満げに語った。

結局、上を説得できず、ほとんどお金をかけずに制作された「サマーレッスン」だが、カンファレンスでの発表後に大きな反響を呼んだのはご存じの通り。結果、社内では「ものすごい手の平返し」が起きたそうで、他のゲーム会社はもちろん、ゲーム業界以外からもさまざまなアプローチがあったそうだ。また、今年の東京ゲームショウに出展が予定されていながら、あまりの反響の多さから直前でとりやめになったことも大きな話題となった。これは原田氏も計算外だったとのことで、3日間で150人くらいしか体験できないことが分かったため、苦情がくるのは目に見えていることから、改めて一般に向けた体験イベントを行うことになったそうだ。

ちなみに、「サマーレッスン」はほかの人との距離感を感じさせることを主眼としたもので、そのためのモチーフにもっとも適していたのが女性だったのだと原田氏は語る。実際「鉄拳」のカズヤの映像でも試してみたそうだが、プレイした人の反応は「……で?」というもので、誰も喜んでくれなかったと笑いながら振り返った。その点、女性の豊かな表情を見ていると、相手が自分を認識していることがよく分かるそうで、それによって「すごく緊張する」のだと原田氏は言う。そういった緊張感を楽しめるのが「サマーレッスン」の魅力で、ゲーム時のMorpheusの装着時間は15~20分くらいを想定しているとのことだ。

原田氏は「鉄拳」でもVRを試してみたそうだが、「目の前で格闘家が暴れているのを見ているのは耐え難かった」
と会場の笑いを誘っていた。

VRの未来への期待

3D酔いや装着時間の問題についての言及もなされた。吉田氏によると、古いタイプのMorpheusはちょっとプレイするとすぐ酔ってしまったそうだが、現在はだいぶ緩和されたという。もちろん、今でもコンテンツや環境次第で酔ってしまうことはあるが、技術が進めばいずれは解消されるだろうと考えていて、それによって長時間のプレイも可能になるだろうと予測していた。

Morpheusの発売時期だが、開発機としては十分なところまできたとしつつ、さらに技術的に高めたいため、もう少し時間がかかるとのこと。ちなみに「サマーレッスン」が発表されるまで、サードパーティーの食いつきはあまりよくなかったそうで、「業界に火をつけようとしたら世間のほうが先に火がついた(笑)」と原田氏は自嘲気味にコメント。近藤氏も今年のゲームショウの前後でVRに対する反応が大きく変わったことを認めていた。

VRの医療での利用にも言及され、吉田氏はいくつか事例を紹介。子どものころから片方の目が弱視で、映像を立体で見ることができない人にOculus DK1を使い、左右の目に与える映像の明るさなどを変えて、見えないほうの目に強い映像を見せたところ、通常時にも映像が立体に見えるようになったそうで、以降も同じような効果が数多く報告されたという。また、戦争による心的障害をVRによって治療するといった研究も行われているとのことだ。

最後にゲストの3氏がこれからのVRの展望について語ってくれた。以下にそれぞれのコメントを紹介し、本稿のまとめとする。

近藤氏:今回、ついに本物のVRの波がきたという直感があります。パソコンの黎明期と同じようにVRは非常に高くて個人では絶対に買えないものでしたが、やがてアップルIIなどが登場したようにVRもパーソナル化していくと思います。東京オリンピックが開催される頃には一家に1台あって、サングラスやウォークマンのようにカジュアルに持ち運びできるようになっているかもしれません。非常に楽しみです。

原田氏:気軽に装着してカメラとかで自分の動きをリンクさせて、集まって話をしたり、麻雀したりといったインターネット的な使い方ができるようになったらと思います。技術が高まれば自分個人だけでなく、いろいろな人とリンクできるようになると思うので、それで一緒の体験ができるようになったらすごいんじゃないか、そんな未来を思い描いています。ただ、ちょっとしたブームで終わってしまうのではと危うく思っている部分もあるので、任天堂さんのような会社にも参加してもらえたら個人的にはうれしいですね。

吉田氏:今、みんながスマホを使っているように、いずれは誰でも当たり前に(VRを)使うようになると思っています。もちろん、そこに至るには普及の道筋を考える必要があるわけですが、PCやモバイルが中心のOculusさんとコンソールでやっている我々という、ふたつの会社が揃っていることは話題作りの面でも、すそ野を広げるという意味でも非常にいい状況だと思っていますね。

基本的な技術は3DもVRも同じなので、すでにハードルを越えている人が業界にはいっぱいいるわけです。その人たちにVRで新しいことができることを実感していただいきたい。近年はゲームで新しいジャンルというのはなかなか生まれませんが、VRを使えばたくさん出てくると思います。ですから私は楽観的ですね。「DOOM」「リッジレーサー」「マリオ64」といった先駆者になるチャンスだと思いますので、クリエイターの方々の決断を期待しています。

※画面は開発中のものです。

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