2015年8月26日~28日の3日間にわたり、パシフィコ横浜にてゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2015」が開催。ここでは、岡本等氏、今岡広氏による講演「プレイヤーの記憶に残る印象的なキャラクターを作る5つのトピック」の内容をお届けする。
キャラクターの見た目が印象的であるのとは裏腹に、なぜかあまり覚えていない…といった経験はないだろうか?逆に、登場頻度が少なかったのにも関わらず、なぜかいつまでも覚えている強烈なキャラクターを見たことは?
本講演では、ゲーム制作でもキーとなる部分の「キャラクター制作」にフォーカス。苦労して作り上げたキャラクターをユーザーの記憶に残しておいてもらうための5つのトピックを、Xbox One/PC用ゲーム「D4:Dark Dreams Don't Die」の実例をもとに解説した。
「D4:Dark Dreams Don't Die」とは
「D4:Dark Dreams Don't Die(以下D4)」は、2014年9月に発売したXbox One Kinect対応の感覚再現ミステリーアドベンチャーだ。誰でも簡単に遊べるシンプルな操作感や、独自開発のアニメ調グラフィックが特徴。2015年6月にはPC版もリリースしている。
ストーリーは、妻を殺害された主人公が過去に飛べる特殊な能力を駆使して事件の真相を解き明かし、その事件の発生を未然に防ごうとするというもの。
【1】キャラクター設定
キャラクター制作の要は「設定」
キャラクター制作において、最も重要なのはこの「設定」の段階だ。岡本氏によると、この後紹介するトピックのほとんどが、この「設定」から派生するものといっても過言ではないという。
名前、性別、年齢、身長、体重、性格、趣味…など、キャラクターの人となりを表す要素は数えきれないほどある。だが、このひとつひとつを綿密に練り上げていくことで、キャラクターに「個性」が生まれ、魅力的なキャラクターが出来上がっていくのだ。
例えば、「D4」の主人公「ディビット・ヤング」を見てみよう。以下の図を見てもわかるように、ディビットというキャラクターをこれでもかと言うくらい細かく設定している。
設定の段階でのポイントは全部で3つある。
- できるだけ詳細に
- でも、あえて全てを決めない
- 一般的には好ましくない部分を残す
まず、できるだけ詳細に設定を決めることで、そのキャラクターを誰もがイメージしやすくなる。ここで、キャラクターのブレやスタッフ間のイメージの行き違いを防ぐことができる。
だが、キャラクターについては全てを決める必要はないという。例えば、D4で言うと主人公ディビットの幼少期はほとんど語られていない。これは、ストーリーを進めていくうちにディビットの幼少期について新事実が発覚するためだ。このように、後々の展開をふくらませる余地を残しておくのだ。
また、「一般的には好ましくない部分」とはどういうものかというと、キャラクターの「欠点」や「悪い癖」のことだ。例えどんなにカッコいいキャラクターでも、完璧すぎると「人間味」に欠けてしまう。そのため、D4では噛んでいたチューインガムをどこにでも捨てたり壁に貼り付けたりするというディビットの「悪い癖」をあえて残している。
【2】見た目(造形/体型)
マズいかな?と思うようなことも、思い切ってやってみよう
キャラクターの設定が決まったら、次はキャラクターの造形や体型などの「見た目」を考える。D4には豊富なキャラクターが登場するが、キャラクターの造形は極力リアルに制作することを心がけたという。
実例として「フォレスト・ケイスン」というキャラクターについて語られた。フォレストは主人公ディビットの刑事時代の相棒だ。肥満体型で頭髪が薄くなりつつあり、強面の見た目とは裏腹に家事が得意というギャップを持つなど、細部にいたるまで設定されている。
ここで注目して欲しいのはフォレストの左足の障害についてだ。昔、足に怪我を負ったフォレストは、歩行障害を補助するための器具を身につけている。
「これはマズいのでは?」という印象が強い設定だが、この設定を残すことでキャラクターの人間味はより深みを増している。「映画や小説、もちろん現実世界でも、障害を持った人が活躍されている話はたくさんあります。ならば、ゲームの世界でも思い切ってやってみようと思いました」と岡本氏。
「障害」というデリケートな題材は、扱うのが非常に難しい。だが、チャレンジしないとその先は見えてこないので、初期の段階では思い切ってやりましょうと岡本氏は語った。
【3】見た目(外見/ファッション)
第一印象を決めるのは「ファッション」
岡本氏いわく、キャラクターの第一印象を決定付ける要因はほぼ「ファッション」だという。そして、ファッションを決める段階では、とにかく案をひとつでも多く出すことが重要だ。事実、D4でもファッションについては紙をびっしり埋め尽くすほど数多くのデザイン案が出ている。
また、作り込みの段階ではなるべく多くの詳細資料を用意し、現実のファッションに忠実に制作することを心がけた。ここで適当に作ってしまうと途端に嘘くさくなってしまうので」と岡本氏。
例えば、主人公ディビットはサスペンダーを着用しているが、この「サスペンダー」ひとつを取っても、膨大な量の資料を元に制作されている。
「どうしても野暮ったくなる」という課題もあったサスペンダー案だが、右袖を折り込んでいるのに対し左袖は無造作にまくっているだけという左右非対称なファッションにすることで現実感を出し、サスペンダーの違和感を軽減させたという。こういった細かい工夫がキャラクターの印象を大きく決定付ける。
さらにキャラクターの身体的な特徴もファッションのひとつになる。どんなにクールな服装を身にまとっていても、髪型やヒゲがマッチしていなければ台無しになってしまうのだ。
そのため、D4ではディビットのヒゲひとつをとっても数多くのパターンを用意したという。
岡本氏は見た目(外見/ファッション)のまとめとして、以下の3点を挙げた。
- とにかく案を出す
- 細かいデザインは本物を参考に
- 特徴を入れよう
さらに岡本氏は、「身体的な特徴を入れることで印象には残りやすくなるが、やりすぎには注意」と付け加えた。
【4】ポーズ、しぐさ
印象的なポーズを考えて、散りばめよう!
D4では、主人公ディビットが過去の世界に飛ぶ際に取るポーズがある。そしてXbox One Kinectではプレイヤーが同じポーズを取ることで、ストーリーが進行する設定となっている。このように、プレイヤーに実際に体験させることで、より鮮明にキャラクターについての記憶を定着させることができるという。
また、ディビットは考え事をしている時によく頭に手を当てるが、こういった印象的なポーズをゲーム内に散りばめることで、よりキャラクターの印象が記憶に残りやすくなる。
たしかに、ゲームをプレイし終わってかなり時間が経ったとしても、印象的なポーズが記憶に残っていれば、それに応じてキャラクターそのものについての記憶も引き出すことができる。
【5】セリフ、口調
特徴的なセリフや独特な口調でキャラクターを印象づけろ!
「有名な決め台詞」と聞いて何が思い浮かぶだろうか?「I'll be Back」「じっちゃんの名にかけて!」「飛ばねぇ豚はただの豚だ」など、一度は聞いたことがある印象的なセリフは数多く存在する。そのような印象的なセリフは、それを聞いただけで言ったのはどんなキャラクターかがすぐに連想できるほど、大きなインパクトを与える。
そして、D4の主人公ディビットにも事件の解決の際に必ず言う決め台詞がある。「パズルのピースが全て揃った」「この過去はもう解決済みだ!」というものだ。こういった特定の台詞を毎回使うことで、プレイヤーにキャラクターを印象づける効果をもたらす。
また、印象的な台詞が存在しなくても、口調でキャラクターの特徴を出すこともできる。例えば、特に変わったことを話していなくても、そのキャラクターに「妙にゆっくり話す」という特徴を加えることで、キャラクターの印象をユーザーにインプットすることができるのだ。
まとめ
最後に岡本氏はこれまでの5つのトピックを以下のようにまとめた。
1.キャラクター設定
無駄なようでも細かく設定を決め、関係者としっかり情報共有しよう。
2.見た目:造形/体型
まずは思い切ってやってみる。はじめから置きにいって(安全策に走って)はいけない。
3.見た目:ファッション
第一印象の決め手はファッション。数多くの案を出し、キャラクターにフィットするものをチョイス。
4.ポーズ、しぐさ
ついついマネしたくなるポージングで、ユーザー心理に訴えよう。
5.セリフ、口調
ポーズ、しぐさと共にここ一番の決め台詞を考えよう。口調だけでも個性は出せる。