千葉・幕張メッセにて9月17日より開催中の「東京ゲームショウ2015」。本稿ではレベルファイブ代表取締役/CEOの日野晃博氏も登壇した17日の基調講演・第1部の模様をレポートする。

CESA会長の岡村秀樹氏
CESA会長の岡村秀樹氏

まず、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の新たな会長に就任した岡村秀樹氏が登壇。「日本のゲーム産業の現状と新生CESA」をテーマに講演を行った。岡村氏は今年の4月に旧来のCESAとソーシャルゲームメーカーを中心とした団体のJASPAが合併し、「新生CESA」となったことを説明。コンソールとソーシャルゲームが融合し、あるべき姿を体現したものになったと語った。

近年の東京ゲームショウの傾向の説明も行われた。岡村氏によると、近年はスマートフォンデバイスの出展タイトル数が年々増えており、今年は全体の約40%を占めるまでになったという。ただ、家庭用ゲーム機の出展数も決して減っているわけではなく、多少の上下はあるものの、毎年200を上回るコンテンツが出展されていると指摘。かつては家庭用ゲームの色合いが強かったが、現在はさまざまなプラットフォームのゲームコンテンツを楽しめるイベントになってきていると語り、これを「変貌」ではなく「成長」「進化」であるとした。

近年のもうひとつの傾向が海外メーカーの出展の増加で、ついに今年は国内の出展社数を上回ったという。しかも、その約7割にあたる176社がアジアのメーカーで、岡村氏はCESAが東京ゲームショウをアジアナンバーワンのイベントとすべく、さまざまな中・長期計画な取り組みを行ってきた結果であると自賛。「2015年はゲームショウが大きく変化した年と言われるようになるかもしれない」と語った。

こうした状況を生んだ日本市場の特性について、岡村氏は「ゲームを評価してコンテンツにしっかり対価を支払う良質なユーザー」と「新しいゲームを生み出してきた、さまざま技術やサービス」の存在を強調。このふたつと優れたコンテンツが合わさり、魅力度の高いゲーム市場を醸成してきたのだと述べた。とはいえ、近年は日本のゲームの影響力が落ちてきていることも事実で、2005年は北米の売上上位50本のうち25本が日本製タイトルだったが、2014年は50位以内に入ったのは10タイトルだったという。

これは海外メーカーに有為なタレントが集まり、世界での競争がし烈になっているからだが、一方で日本発のコンテンツも着実に世界で広がっており、「ルパン三世」のイタリアでの放映開始や映画「STAND BY ME ドラえもん」の中国での大ヒット、初音ミクの世界ツアー開催などをその一例として紹介。日本のコンテンツはまだまだ世界で戦っていける十分なポテンシャルを秘めていると語った。

その上で、今後は音楽、漫画、アニメ、映画などとのマルチ展開をさらに推し進め、「ALL JAPAN」で世界に発信していくことが重要になってくると強調。新生CESAもその後押しとなる活動を今後も続けていきたいと講演のまとめとした。s

経営者とクリエイターのふたつの顔を持つ日野氏ならではの成功の秘訣

レベルファイブの日野晃博氏。
レベルファイブの日野晃博氏。

続いて、レベルファイブ 代表取締役社長/CEOの日野晃博氏が登壇。「クリエイター兼経営者だからこそできた ヒットコンテンツ創出」というテーマで講演を行った。

さまざまなヒットコンテンツを生み出してきた日野氏だが、その理由は自身が「純粋な経営者ではなく、クリエイター兼経営者だったから」と定義。通常は「経営者の判断とクリエイターの感性は相反することが多く、両者の信頼関係を築くのは容易ではないが、レベルファイブの場合は「経営陣とクリエイティブ陣の視点がまったく同じ」であることが強みだと語った。

実際、日野氏はプログラマー、プランナー、ディレクターなど、ゲーム開発のほぼすべての職種を経験していて、絵もそれなりに描けるという。それゆえに強引な判断が可能で、これを「帝王判断」と名付けた。日野氏はひとりの人間がいろいろなことを決めるのは「決していいことではない」としつつ、その判断の中に大ヒットを生み出すヒントがあったそうで、今回の講演では過去のヒットタイトルにおけるそうした「帝王判断」の実例が紹介された。

「レイトン教授」シリーズの場合

「レイトン教授」の開発が開始されたのは「脳トレ」ブームの時期で、日野氏は次にヒットするものは「脳トレにプラス1しただけのものでよい」と考えていた。しかし、クリエイターの多くは据え置き機でハイクオリティなゲームを作りたいと希望していて、こうした企画の発足にかなり抵抗を感じていたという。日野氏もそれを十分承知していたが、「帝王判断」でプロジェクトを発足させたという。開発コストも製作費1.5億、宣伝費2.3億とかなり低めに抑えられていたが、会社としては最重要プロジェクトと位置付けていたそうで、これも「帝王判断」の一環だったそうだ。

また、現在では携帯ゲームでもキャラクターにボイスが付くことが当たり前になっているが、当時の携帯ゲームは電車の中などで音を消してプレイされることが多かったため、サウンド面の演出はおざなりなものがほとんどだった。しかし、日野氏は本作でキャラクターに声優を起用。かなりコストがかかったが、これも「帝王判断」で、純粋なユーザー視点でおもしろいものになると感じたから採用したと日野氏は語った。

さらに、当初は「脳トレにプラス1するもの」に人気書籍「頭の体操」を想定していたが、タイトルの商標権のクリアに時間がかかることが分かったそうだ。そこで、日野氏は即断即決で路線を大幅に変更。「頭の体操」の1モードと考えていた、「ストーリーを楽しみながらパズルを解いていく」という要素をメインにしたのだという。このように日野氏の要所での「帝王判断」が「レイトン教授」成功の大きな力になったわけだ。

「イナズマイレブン」の場合

当時はゲームをアニメ化する場合、アニメのクリエイターの感性で作られるというのが一般的だったが、「イナズマイレブン」ではアニメ制作側を徹底的にコントロール。ゲームの都合でアニメにも新キャラクターを出したり、逆にアニメからキャラクターを削ったりといったことをしたという。当然、さまざまな反発がアニメのスタッフ側からあったようだが、出資者にして原作者であるというふたつの強みがあったので、押し切ることができたそうだ。

「こうした強引な手法が良かったのかどうは分からない」とも日野氏は言うが、結果としてアニメのスタッフと理解が深まり、一体感が生まれていったという。これにより、クリエイターとしっかり話すことができるようになり、さらに自身が経営者の顔を持っていることから、他社の経営者とクリエイターをつなぐ役割も果たせる結果になったそうだ。こうしてクロスメディアにおいて他社と強力な連携が組めるようになったことが、レベルファイブの今日の成功につながる形になったと日野氏は述べた。

「二ノ国」の場合

「二ノ国」で組んだスタジオジブリは言わずと知れたビッグネームで、ゲーム業界にとってアンタッチャブルな存在だった。そこで、日野氏はすべてをその場で決めてしまうようにするため、あらかじめさまざまなパターンの回答を用意。会話の最中でも相手側の空気を読んで、どんどん方針を変更していったそうだ。こうしたことができたのは、社長という立場で交渉ができたからだろうと日野氏は述懐した。

もっとも、このような過程を踏んだためにコストの管理はかなりずさんで、途中段階ではなかなか利益につながらないということもあったそうだ。それでも成功できたのは、予算と期間に明確な答えがないままでもプロジェクトを強引に進行させたからであり、普通の大手では難しいだろうと日野氏は語った。

「妖怪ウォッチ」の場合

「妖怪ウォッチ」における日野氏の立場は、クロスメディアにおける「会社を超えた総合プロデューサー」というものだ。過去の実績のおかげで関連各社も自分たちの意見をしっかり聞いてくれるそうで、遊びのコンセプトがまったくぶれることなく、アニメ、ゲーム、映画におけるユーザーにアプローチできているそうだ。

そんな「妖怪ウォッチ」での「帝王判断」が「アニメフォーマットへの介入」だ。本作では「子ども向けのバラエティ番組」というコンセプトのもと、番組スタッフの選定、オムニバス形式の採用、おなじみのエンディングでのCGダンスの導入、家族に見られるちょっと過激な内容を盛り込むなど、さまざまな仕掛けをレベルファイブ主導で打ちだしていったそうだ。ちょっと内容が過激すぎて親御さんから苦情が殺到し、テレビ局から大目玉をくらったこともあったというが、こうしたいろいろなチャレンジが「何が起きるか分からないアニメ」として、子供はもちろん大人も楽しめるものになっているのではと日野氏は分析した。

最後にまとめとして、日野氏は「帝王判断とは経営者の権限を持ち、クリエイティブを深いところで理解した上で、その両案件に対して全責任を持って行える判断」と定義。もっともこうしたトップダウン方式の「帝王判断」だけでこれからもやっていけるとは、日野氏も考えていないそうで、経営者とクリエイターの相互理解の重要性も説いていた。その上で、経営者には「クリエイターを過保護にするな」、クリエイターには「理解してもらう努力を怠るな」とアドバイス。経営者、クリエイターとも「なかよくしなさい!」と呼びかけて講演を締めくくった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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