アメリカ・ロサンゼルスで現地時間6月14日より開催中のE3 2016において、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏への合同インタビューを行った。
今回のインタビューは、いよいよ発売日が決まったPS VRを中心に、先日行われたばかりのE3 2016 PlayStation プレスカンファレンスや、PS VRの周辺機器まで話題が及んだ。
3年目を迎え、アグレッシブな作品が揃ってきたPS4
――今回のE3 2016 PlayStation プレスカンファレンスは、ソフトウェアのラインナップに終始していましたね。
吉田氏:今回はゲームコンテンツが充実していたので、そこに絞りました。デベロッパーが登壇してのトークも極力控えて、ゲームの内容だけを見ていただきました。
――PS4の発売から3年目を迎えて、収穫は感じていますか?
吉田氏:最初の頃は手堅い作りの作品が多かったですし、他社さんの作品でもPS3とPS4の両方で展開するものが多々ありましたが、3年目になってPS4だけを意識してコンセプトが考えられた作品が増えました。これまでやっていないことをやろうというアグレッシブな作品が揃ってきたように感じます。
――「God of War」もPS4でなければ表現できないものになっていましたね。
吉田氏:かなり変わりましたね。舞台を北の世界に移して、操作性やゲームシステムも変更し、より戦略的なコンバットを意識した深みのあるバトルシステムになっています。また親と子の関係から、クレイトスという存在のキャラクター性を一から見直しました。
――ナンバリングではなくなったのもその影響ですか?
吉田氏:はい、まったく新しいチャプターの一作目としています。
――いつごろから開発していたのですか?
吉田氏:2013年からなので、かなり長いですね。
――日本のユーザーは「人喰いの大鷲トリコ」がいつ体験できるか気になっていると思います。
吉田氏:「人喰いの大鷲トリコ」はストーリーものなので、あまり見せたくないというのが正直なところです。発売までにプレイアブル展示がされるかはわかりません。
――吉田氏の一押しのタイトルはありますか?
吉田氏:新しく発表したタイトルですね。「God of War」「Days Gone」「スパイダーマン」、PS VRタイトルなら「Farpoint」です。個人的には「人喰いの大鷲トリコ」「Horizon Zero Dawn」が早くプレイしたいですね。
PS VRのこれまでとこれから
――E3やGDCで、PS VRのさまざまなタイトルがデモ展示されていましたが、これらはすべて日本でもプレイできますか?
吉田氏:日本のプレス発表で出たタイトルリストは、これまで発表しているタイトルを網羅していません。これはPS VRを推進するいちメンバーとして残念に思います。
あのリストに載っていない海外のタイトルにも良いものがあります。ただVRのタイトルはインディーのものが多いので、ローカライズが進んでいなかったり、パブリッシャーが見つかっていなかったり、日本で発売するまでに及んでいないケースがあります。
とはいえ日本では発売されないということではなく、準備が整えば発売されると思っています。またVRタイトルはローカライズがほとんど必要ないものが多いので、英語版でも十分楽しめます。まだまだ続報があると期待していますね。
――他社のVRヘッドマウントディスプレイより発売を遅らせたのは、量産してからユーザーに届けることを重視していたと聞きました。現在の生産状況はいかがですか?
吉田氏:初回生産台数は答えられないのですが、海外での予約数は順調に伸びています。
日本でも、我々が想定しているより需要が多くなってきている印象ですので、ほしいと思っている方はぜひ早めに予約していただきたいと思います。
――PS3用のPlayStation Move(以下、PS Move)は使えますか?
吉田氏:使えます。今回はパッケージを変えて、充電のためのミニUSBケーブルを同梱して再発売します。PS3用PS Moveを持っている方は、そのまま使っていただければと思います。
――「PS Move」にさらなるアタッチメントをつけて展開させることは可能なのでしょうか?
吉田氏:技術的には可能です。今回発表した「PS VR エイムコントローラー」(以下、エイムコントローラー)は、単体でPS VRのコントローラーになっています。ただエイムコントローラーはPS Moveを組み合わせたものではありません。
――エイムコントローラーはSIEの公式プロダクトとして発売されるのでしょうか?
吉田氏:「Farpoint」と同時に発売されます。ただ「Farpoint」に限ったコントローラーではなく、どのパブリッシャーでもデベロッパーでも、これに対応したゲームを作っていただくことができます。
このコントローラーはすごい体験ができるプロダクトですよ。持った時にテンションが上がりませんでしたか? 実際はプラスチック製なのですが、自分が(VR内で)見ているのは立派な銃なんですよ。
――ライフル型にしたのは吉田氏のアイデアですか?
吉田氏:私のアイデアではないです。気がついたらああなっていました(笑)。小さい銃ならPS Moveでも臨場感を味わえますが、そうじゃないものを作りたかったのではないかと思います。
――日本でも発売されますか?
吉田氏:未定です。ただ本当にすばらしい体験ができるので、ぜひSIEJAに発売を呼びかけていただきたいです。
――「KILLZONE 3」とセットで発売された「Move sharp shooter」は使用できますか?
吉田氏:「PlayStation Move sharp shooter」は「Farpoint」では使えません。
――エイムコントローラーにはスティックが付いていますが、各作品での移動方法の違いが興味深く、VRのゲームデザインが発展途上である中で、さまざまなやり方が出てくるのだなと感じました。
吉田氏:特に「Bound」は意識していますね。「RIGS」もそうですが、VR技術を使ってクリエイターのやりたいことを実現すると同時に、できることを増やし、可能な限り多くの人が快適に楽しめるようにするために日々努力しています。
――「Bound」はとてもおもしろかったですね。
吉田氏:ベクターグラフィックスパワーはすごいと感じました。VRになってもまったく解像度が落ちた感じがせず、そのまま世界が広がったようでとても綺麗ですね。
――Oculusのストアでは“快適度”のような表示がありますが、PS VRでも同じ類のものは掲出しますか?
吉田氏:いろいろと検討はしたのですが、主観的なものになってしまうため、自社だけで判断するのは難しいです。業界全体での取り組みを期待しています。
――PlayStation Network(以下、PSN)のユーザーフィードバックのような形式はいかがですか?
吉田氏:ユーザーがAmazonのようにコメントを付けられると参考になると思いますね。
――PS Move、エイムコントローラーの話題が続きましたが、DUALSHOCK 4とPS VRの相性はどう見ていらっしゃいますか?
吉田氏:DUALSHOCK 4はPS4ユーザーの皆さんが持っており、トラッキングもできますので、他のゲームパッドと違ってVRに向いています。両手でやる制約はありますが、DUALSHOCK 4はかなり使い道がありますね。
ただ、VR内で手を使う体験はDUALSHOCK 4では味わえないですし、その楽しさにより多くのクリエイターが気づいています。DUALSHOCK 4でも遊べるものは多いのですが、PS Moveを使うともっと楽しい作品や、「Farpoint」のように専用のプロダクトを作る作品は今後も出てくると思います。
――PS VRタイトルには、DUALSHOCK 4には必ず対応していなければならないなどの基準はあるのでしょうか?
吉田氏:DUALSHOCK 4への対応は大前提ではありませんが、逆にPS Moveが必要なものが出てくる可能性はあります。DUALSHOCK 4もトラッキングできますが、そこは最終的にはクリエイティブの判断だと私は思っています。
――PSNのカタログで、タイトルごとにPS Moveの要不要や、DUALSHOCK 4でプレイ可能かどうかがひと目でわかるようになりますか?
吉田氏:専用のものが必要になるならば、それは必ず購入される前にわかるようにしておかなければいけないと考えています。
――先日発表されたPS VRに対応する50タイトルの中で、PS Move専用タイトルはどれくらいありますか?
吉田氏:PS Move専用のタイトルがどれくらいあるのかはわからないのですが、PS Moveにも対応している作品は増えています。SIE作品でも「The London Heist」を始めとして「Until Dawn: Rush of Blood」もそうです。
今回発表した「つみきBLOQ VR」もですが、これはとても楽しいんですよ。もともとPS Move向けタイトルとして作ったのですが、VR化して初めて「これはVRタイトルだったんだな」とわかりました。
また他社作品では「ファイナルファンタジーXV」「バットマン:アーカムVR」がPS Moveに対応しています。HTC Viveや今後出てくるOculus Touch向けのタイトルがPS VRに来るときは、PS Move対応が基本だと思っています。今後も増えていくと私は見ています。
――PCからの横展開も多くなりそうですね。
吉田氏:今年はVR元年で一代目から普及していく年なので、独立系デベロッパーのタイトルが幅広く販売されるのはすごく大事だと思っています。個人的には「VR BUGET CUTS」をぜひPS VRで出してほしいです。本当におもしろいです。
OculusやHTC Vive向けタイトルで良作ができたら、PS VRにパブリッシュするのは全然難しくありません。特にUnityやUNREALが使われていれば、PS VRに持ってくるのはかなり簡単です。
――Unite JapanでのセッションではVR作品のコンテストを実施すると発表されましたが、日本のインディーデベロッパーにももっとVRコンテンツを作ってもらいたいという気持ちはありますか?
吉田氏:その気持ちはとても強いです。普通のコンソールゲーム開発は膨大なコストがかかりますし、インディーのコンソールゲーム開発もうまく露出させることが難しくなってきています。その中でVRコンテンツは、アイデアひとつでインディーデベロッパーが活躍できる大チャンスです。特にアジアのデベロッパーはとても盛り上がっていますので、日本の人たちにも、VR向けインディー作品で世界に飛び出せることに気づいてほしいです。
――長きに渡るプロジェクトとなったPS VRがいよいよ発売されることへの心境と、今後の課題を聞かせてください。
吉田氏:開発を始めたころは好きな人がクラブ活動のように業務時間外で進めていたものが、ここへ来て自分たちが想像していたよりも良い商品となったことを大変うれしく思います。その中で、同時多発的にOculusさんやHTCさんがすばらしいシステムを提案されて、開発環境として早く提供していただいたのは我々にとってもラッキーだったと思っています。
これだけ期待感が増している中で、PS VRで初めてVRに触れるユーザーさんは多くなると考えています。その中で、これはすばらしい、人にすすめたいと思ってもらえるような体験を作っていかなければいけません。それはシステムだけではなくコンテンツの作り方によっても変わってきますので、責任を重く感じています。
課題はどうすれば良いコンテンツ、良い体験を作れるか研究し続け、ノウハウをシェアしていくこと、そして体験する機会をどんどん増やしていくことです。体験しなければVRの良さはわからないので、一人でも多くの人に良い体験をしていただいて、それを他の人に伝えていただきたい。日本全国、できるだけ多くの地域で体験する機会を作るのは、我々がやらなければいけないことだと思っています。