9月15日より幕張メッセにて開催されている「東京ゲームショウ2016」。本稿ではTwitchの共同創設者の1人でCOOのケビン・リン氏の基調講演とプロゲーマー梅原大吾氏のギネス世界記録の認定授与式をレポートする。
Twitchは世界最大のゲームライブストリーミングプラットフォームだ。毎月170万アカウントが配信を行い1億人が閲覧。現在のゲームシーンに不可欠の存在となっているのは、ご存知のとおりだ。今年はついに東京ゲームショウにブースを単独で出展。連日さまざまなステージイベントやライブ配信などを行い、来場者の注目を集めている。
今回の基調講演では、まずTwitchの前身であるJustin.tvの立ち上げから今日までの歩みが紹介された。Justin.tvは2007年にジャスティン・カン(Justin Kan)氏の年中無休24時間週7日、誰でもインターネットで生放送ができるプラットフォームを作るというアイディアをもとに設立。6000万ものユーザーに利用される巨大なプラットフォームになったが、おもにユーザーたちの実生活を映すだけのもので、さほど面白いものではなかったという。社員たちも積極的に利用しておらず、自分たちがここで何をすればいいのか分からない状態だったそうだ。
とはいえ、ただ手をこまねいていたわけではない。結婚式の生中継を行うなどユーザーが何に興味を持つのかいろいろ探り、その中でたどり着いた結論がビデオゲームだったとリン氏は語る。特に、当時は「StarCraft II」のβ版が出た頃で、社員たちの多くがこのタイトルの生配信をしているという実態があったという。
ところが、社員たちはゲームを配信しながら、別のプラットフォームで配信されているゲーム実況を見ていた。ゲームユーザーたちはゲームの生配信にJustin.tvを選ばなかったのである。そこで、ゲームユーザーたちが「何が欲しいのか」、「何をしたら楽しいのか」など調査。こうした経験を経て、ソーシャル要素を持つプラットフォーム「Twitch」をローンチするにいたったとリン氏は振り返った。
ここで現れたのがゲームをしながらファンとの経験を共有する生放送をする人たちだ。必然的に重要になったのがチャット機能で、リン氏らはチャットが生配信をしている人と視聴者がインタラクションするための機能というだけではなく、チャット自体がコンテンツのひとつであると考えるようになったという。そうした現象のひとつがイモータコン(スタンプのこと)の流行で、やがてこれらのスタンプは単なる記号としてだけではなく、一種のスラングとして機能するようになっていった。
さらに、リン氏は「年に1度くらい不思議な現象が起こる」と述べ、そのひとつとして120万人が参加したという2014年に起きた生配信イベント「Twitch Plays Pokemon」を紹介。これは1人用RPGの「ポケットモンスター」をチャット越しにみんなでプレイしてクリアを目指すというもの。さすがにクリアはできないだろうと、リン氏らは思っていたそうだが、実際にはわずか16日でクリアしてしまったそうだ。
このことからリン氏は「コミュニティは自分たちだけでコンテンツを形成することができる」、「視聴者はプレイヤーとともにゲームをプレイしたいと思っている」ことが分かったとコメント。アメリカ人が寝るとヨーロッパ人がプレイ、ヨーロッパ人が寝るとアジア人がプレイするというように世界中の人たちを巻き込み、そこからさまざまな神話や伝説、スラングが生まれたと語るなど、このイベントの反響がいかに大きかったかを強調した。
現在のTwitchは世界最大のソーシャル要素を持つ生配信プラットフォームであり、ユニークユーザーは1日1000万、月間で1億。1人のユーザーの1日平均視聴時間は2時間で、60%のユーザーが週20時間以上視聴し、平均年齢は25歳くらいとのことだ。日本ではサービス開始からまだ1年だが、すでにユニークユーザーは700万。1日の平均視聴時間は4時間と世界平均の倍を記録していて、チャットの送信量は10万を超えるという。
このように、日本でも認知が進んでいるTwitchだが、「まだまだすべきことがある」とリン氏は語る。プロ格闘ゲーマーの梅原大吾氏をグローバルアンバサダーに任命したのもそのひとつで、梅原氏のおかげで日本のマーケットをより理解することができ、日本の文化を世界に発信することにも役立ってくれたとリン氏は感謝の念を述べた。
もちろん、日本の格闘ゲームのコミュニティにも注目していて、 その一環として2014年にカプコンと連携したカプコンプロツアーを発表。世界の格闘ゲームコミュニティをひとつのサーキット、年間ツアーとするのを見越したもので、これにより「ストリートファイター」のアクティブユーザーは4倍以上に増え、大会参加者もさらに増大しているという。さまざまな大会の日本語の実況にも取り組んでいて、世界のゲームの情熱を日本にももたらしたいとリン氏は力を込めて語った。
今回の東京ゲームショウ2016では17日にスクウェア・エニックスの橋本氏を招いて「ファイナルファンタジーXV」に関する新たに発表を実施。10月に開催されるイベント「TwitchCon」でもさまざまなことを発表する予定なので、こちらもぜひチェックしてほしいとのことだ。また、9月15日からTwitch のキャラクターを作る「Twitchキャラクターデザインコンテスト」を開催していて、ぜひ日本のイラストレーターたちにも参加してほしいと呼びかけていた。
今後も日本に向けたさまざまなサービスを行っていくとのことで、まず2017年初頭までにサイトを完全に日本語化。同時に検索機能も改善し、もっと動画を見つけやすいものにしたいとのことだ。そして、日本のゲーム会社の世界に向けたコンテンツの提供にも協力したいとコメント。そのためのディスカッションもすでに始めていて、今後もよりよいツール・サービスの提供に取り組んでいくと語り、講演のまとめとした。
この基調講演のあとプロゲーマーでTwitchのグローバルアンバサダーに就任した梅原大吾氏へのギネス認定授与式が行なわれた。今回新たに認定された記録はふたつで、ひとつめは「ウルトラストリートファイターIV」での最高ランキング。もうひとつは、EVO2004でのジャスティン・ウォン氏との試合で、これが「もっとも視聴されたビデオゲームの試合」として認定されることとなった。
梅原氏は子供の頃、学校の図書室でよくギネスブックを読んでいたそうで、「まさか自分が載るとは思っていなかったので純粋に嬉しいです」とコメント。最後に、司会者からファンの子供たちへのメッセージを促され「自分ってこんなものと思わず努力すること。周りが何を言ってもやり切る意志が大事」と語った。