10月28日、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主宰するおなじみのトークイベント「黒川塾(四十壱)」が、デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて開催された。

今回のテーマは「バーチャルリアリティの未来へ4~あれから2年」。タイトルの通り、黒川塾が初めてバーチャルリアリティ(以下「VR」)を題材に取り上げたのは2年前に開催された「黒川塾(二十壱)」で、「PlayStation VR」(当時は「Project Morpheus」)をはじめとするヘッドマウントディスプレイがE3や東京ゲームショウなどで話題となり、SCE(現SIE)のプレスカンファレンスで発表された「サマーレッスン」も大きな反響を呼ぶなどVRが本格的に注目され始めた時期だった。

今回はこの2年前のイベントにゲストとして参加した、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏、「サマーレッスン」のプロデューサーであるバンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏、「GOROman」の名でも知られる株式会社エクシヴィの近藤義仁氏が再び集結。さらに、人気VR体験施設「VR ZONE Project i Can」の仕掛け人の1人である「コヤ所長」ことバンダイナムコエンターテインメントの小山順一朗氏を加え、VRデバイスやコンテンツの現状や今後の可能性などについてトークが展開された。

左から黒川文雄氏、吉田修平氏、原田勝弘氏、小山順一朗氏、近藤義仁氏

順調なスタートを切ったPS VRと大成功を収めた「VR ZONE Project i Can」

まずは、10月13日に発売された「PlayStation VR」について。吉田氏は「新しいハードを出すときはいつもそうですが、どんなことが起きるか分からないじゃないですか。特に今回はVRという新しいデバイスなので、何かあるかもしれないと全社挙げて待機していました」と、発売日はかなりナーバスになっていたことを告白。ただ、心配していたような大きな問題はなかったそうで、いいスタートが切れたと安堵の表情を見せた。

続いて、小山氏による「VR ZONE Project i Can」(以下「VR ZONE」)で得られた知見や考察の発表が行われた。完全予約制ながら6カ月間連日満員で計画比250%に達したという「VR ZONE」。もっとも高い割合を占めた年齢層は「20~29歳」で、小山氏いわく「リア充」に大受け。1回のプレイ料金が700~1000円とやや高めの値付けがされていたにも関わらず、1人当たりの使用金額が約3000円前後を記録するなど大成功を収めた。

「アーガイルシフト」がちょうどいいところで「to be continued」が表示されて終了となるのは、
「開発費がなくなったから」(原田氏)という意外な事実が暴露される一幕も。

このような値段設定をしたのはアーケードの「1ゲーム100円」という概念を崩すためだ。ゲームの開発費も運営コストも上がっているのに、プレイ料金だけはインベーダーの時代からずっと据え置かれたままだったため、アミューズメント施設では「運営側と開発側がお金の領域を取り合う状態になっていた」と小山氏は語る。

つまり、アーケードの問題点はすべて「ゲームは1プレイ100円である」という皆の意識に起因していると考え、まずはそこを断ち切って新たな価値観を生み出すべきと判断。従来のゲーム的なものをすべて「VR」という言葉で取り払い、同時に「VRの価値を高める」ため1回700~1000円という強気の値付けをしたと小山氏は説明した。

小山氏が定義した「バーチャル・ガッカリ世代」とは?

アニメ「装甲騎兵ボトムズ」に登場するロボット、「AT」に搭乗できる「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」の稼働後、客層に占める40~49歳の割合が大幅にアップしたという事例も紹介された。実は、小山氏は現在の40代の人たちを、黎明期からVRを体験し、いろいろ失望してきた「バーチャル・ガッカリ世代」、「VR呪いの世代」だと定義していて、その一例として1992年に小山氏自身が担当したゲーム「バーチャリティ2000」を紹介した。

これはVRゴーグルを装着してVTOLタイプのハリアーを操縦するというイギリスのゲームで、マシンを直接輸入して大阪の千日前などでロケテストを行ったのだという。ところが、機体の動きはカクカクしていて遅く、下に見える景色も市松模様みたいなもので内容に乏しかったため、ほとんどプレイしてもらえず、中には「なんだ、これは!」と言って怒り出す人もいたそうだ。

このようにVRでいろいろ失望してきて、「バーチャルなんてこんなもんでしょ?」と思ってしまっていたのが40歳代の「バーチャル・ガッカリ世代」で、そうした人たちは「VR ZONE」にもなかなか足を運んでくれなかったという。しかし、「装甲騎兵ボトムズ」という熱狂的なファンを持つ作品がフックとなり、この世代の人たちが多数来場。いったん来てくれたら昔のものとの違いに驚き、その分喜んでくれたと小山氏は語った。

全長18mのガンダムでは大きすぎてミニチュアの街の中にいるような感覚になってしまうため、
4mのATが選ばれたのだと小山氏は説明。
20歳代のVR世代と40歳代のバーチャル世代の間には一線があると小山氏は感じているそうだ。

近藤氏による「Oculus Connect 3」のレポートも行われた。年1回開催されているOculusの開発者会議で、近藤氏が特に注目したのがOculus Rift専用コントローラー「Oculus Touch」を使ったデモだ。Oculusの親会社であるFacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏が別の場所にいる相手と仮想空間でコミュニケーションを取るというもので、背景の映像を海底にしたり火星にしたりと、さまざまな場所でのやり取りを楽しむ様子が動画で紹介。このシステムを使えば「田舎のおばあちゃんがVRを介して孫の運動会を見に行くといったことがカジュアルにできるようになるのでは」と近藤氏は語った。

もうひとつの注目要素として近藤氏が挙げたのが「Oculus medium」だ。「Oculus Touch」を使って空間を操作し、さまざまな造形を楽しむことができるVRモデリングアプリで、近藤氏いわく3Dモデリングが簡単かつ直観的に行える上、3Dプリンターでプリントすることも可能になっているという。非常に画期的で、コンピューターのユーザーインターフェイスはMS-DOS時代のコマンドを使った操作(CUI)から、マウスやウィンドウシステムなどを使った操作(GUI)へと変わってきたが、「その次にくるシステムはこういうものではないか」と近藤氏は予測していた。

「Oculus Connect 3」の模様はYouTubeのOculusのチャンネルで見ることができる。

VRは既存の概念で評価してはいけないコンテンツ

大好評を得ている「サマーレッスン」もテーマに。プロデューサーである原田氏によるとユーザーの反応は3つに別れるそうで、ひとつめのタイプは「とにかくVRの凄さにただただ感動、興奮するという人」。ふたつめは「雑誌や体験会などで前情報を集めていて、それらを改めて確認して喜んだり感動したりする人」。そして、3つめが「VRの凄みは感じるもののゲームとして評価する人」である。

ここで原田氏は「既存のゲームとして評価したら、いい結果が出るわけがない」と断言。そもそも「サマーレッスン」にせよカプコンの「Kitchen」にせよ、ゲームの要素を交えてはいるが、もっとも重視されているのはあくまでVRならではの体験であり、ゲーム部分だけでレビューしてしまうと「映像体験としてはいい、でもゲームとしては……」となってしまうのは当然だという。実際、そのようなニュアンスで「サマーレッスン」を酷評したレビュー記事もあったそうで「面白い現象でしたね」と原田氏は語り、同時に「(VRは)そもそもやらないと面白さが伝わらないもので、既存の概念で評価してはダメなコンテンツだ」と持論を述べた。

「サマーレッスン」の評判で意外な発見だったのは「実況プレイ向きだ」と言われることで、
確かに実況動画を見てみたら「面白い」と思ったとのこと。

この「ゲームとして認識される」ことの弊害は小山氏も意識していて、だから「VR ZONE」ではコンテンツのことを「VRアクティビティ」と呼ぶことにしたのだという。それはコンテンツの中身も同じで、「これまで培ってきた高度なゲーム性」をあえて削ったと小山氏は解説。例えば、ゲーム中はBGMが流れるのが当たり前だが、実験としてVRアクティビティのBGMを消してみたところ没入感がさらに増して、ものすごく興奮できるようになったという。

システムもかなり乱暴に作っていて、基本ゲームはボタンを押すと自動的に始まるが、そうした部分をすべて切って運営スタッフのプレゼンスにすべて任せることにしたと小山氏は語る。例えば、SF世界が舞台の「アーガイルシフト」では、プレイ開始前にスタッフがディズニーランドのアトラクションのように世界観などをアナウンスするようにしていたそうで、これにより没入感が断然上がってユーザーの反応も良くなったという。家庭用ゲーム機ではなかなかできないこうした施設ならではの効果で、この点について原田氏も大いに感心していた。

VRの場合はネタバレしていたほうが、体験時の効果が高い場合もあるという。例えば、事前情報をまったく持っていない人に目隠しをして連れていき、いきなり「高所恐怖SHOW」やらせてみたのだが大して驚かなかったそうだ。逆に、設定や内容などをすべて教えた状態で始めた人のほうがリアクションや驚きが大きく、同様のことは「ガンダムVR ダイバ強襲」でも起きたと小山氏は語った。

まったく説明を受けずに「ガンダムVR ダイバ強襲」をプレイした人と、
すべての説明を受けた上でプレイした人のリアクションの違いが動画でも紹介された。

こうした没入感を高める工夫は非常に重要で、近藤氏もVRの世界に入る前に心の準備をさせてあげたり、物語を始める前にその世界に慣れるための時間を設けたりする必要があると説明。原田氏によると「サマーレッスン」でもサウンド担当がそのことに気づいて、デモ版では部屋に入るときにエアコンや外を走る車の音といった効果音を3秒間ほど聞かせるようにしたという。

人間の聴覚は意外と敏感で、こうした音を聞くだけで「ここは室内」で「どんな場所か」ということを瞬時に認識するため、ひかりの部屋に入ったときの没入感がさらに上がったそうだ。このようなちょっとしたことでVRの体感度は大きく変わってくるので、タイトル画面やイントロ部分などでも、まだまだいろいろ工夫できるのではないかと原田氏は期待を述べた。

「部活でやれ」と言われたが、本当にVR部が設立

順風満帆に見えるVRだが、小山氏や原田氏がVRに取り組み始めた当初は、社内ではなかなか認められず、当時の副社長である鵜ノ澤伸氏から「こういうことは部活でやるんだよ」と言われたというのは2年前のトークでも話されていたとおり。とはいえ、出来上がったものへの反応は大変良く、やがて評判が広がっていったわけだが、そのときの鵜ノ澤氏のセリフは「な、部活でやってよかっただろ?」、「こういうのは部活でやったほうがいいモノになるんだよ」で、さすがに原田氏も「ホントかよ!?」とあきれたそうだ。

今では会社内の空気も驚くほど変わり、なんとVR専門の部署まで設置。「本当に“VR部”ができたよ」と社内でも評判になったそうで、「ボクからすると痛快なこと」とうれしそうに原田氏は笑った。

「サマーレッスン」の今後についてだが、今もなおビジュアル、サウンド、企画部分などでさまざまな新発見があるそうで、「それらをできるだけ発信したい」と原田氏はコメント。現在の「サマーレッスン」はあくまで基本パックで、そうした新たな発見を導入するプラットフォームとするためにも「できるだけ長くやるつもりでいます」と今後の展開に意欲を見せた。

また、人工知能(AI)の分野にも注目していて、「まだまだゲームで実用化するには難しい部分がある」としつつ「エンターテインメントを一変させるくらいのものがあると信じています」と強調。対戦格闘やMMORPGなどで、やがて人工知能とパーティーを組んだり対戦したりするほうが豊かなゲーム体験が得られるようになるだろうと予想した。

さらに、原田氏は「いくところまでいくと人間の不完全さまで体得していくでしょう。その瞬間、彼らは「生命」になったと言えます」とコメント。「これを『サマーレッスン』に当てはめてみて下さい。ひかりはただのAIではなく、本当に恋愛できる存在になります。そのときエンターテインメントは一気に変わりますよ」と熱弁を振るった。

近藤氏はパソコンも初期はオモチャ的なものだったが、それらを使ってゲームの大手メーカーが生まれていったと語り、同じように「VRもアイディア次第でさらに新しい大きな流れができるのではないか」と予測。「今がチャンスなので、ぜひ多くの人にチャレンジしてほしい」と来場者に呼びかけた。

また、VRは体験の部分がもっとも面白いとしつつ、「1回でだいたい飽きてしまう」と欠点を指摘。今のままではビジネスになりづらいため、「何度も体験したくなるようなもの。ドラッグ的なものができないか」と考えており、個人的にもプロジェクトを進めているとのことだ。

小山氏は「『マリオカート』のレインボーロードを本当に走ったら死ねますよね(笑)。カメハメ波を撃ったら周囲のものが全部消えます。VRではそういうことができるんです」と語るなど日本のコンテンツのVRでの利用を推奨。「これらの日本の知的財産を活かすべきだし、その部分でVRは本当に使えると思いますね」と持論を述べた。

最後に原田氏から吉田氏に「PS VRについてどんな反応、フィードバックがありましたか」という質問が出された。吉田氏は「社内はビックリするほど静かです。真っ直ぐ向いていたのがちょっと左にズレるとかそういうのはありましたが、とにかく評判がいいということにつきますね」と回答。タイトルによっては酔うというものもあるが、それも想定内で「今のところビックリするほどいい感じ」とのことだ。

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