6月20日に最新拡張パッケージ「ファイナルファンタジー:紅蓮のリベレーター」が発売され、累計プレイヤー数も1,000万人を突破した「ファイナルファンタジーXIV」。今回は作品の中核を担う二人、祖堅正慶氏と石川夏子氏へのインタビューを実施した。

ラールガーズリーチの曲で起こってしまった大失敗とは!?

――次はフィールドやイベントの音楽についてお伺いします。まず今回の旅で最初に足を踏み入れる大地はギラバニア辺境地帯でしたが、哀愁漂う雰囲気でしたね。

石川氏:最初に足を踏み入れたとき、ここは戦争中ですよね。見渡す限り戦場の大地という荒涼としたイメージです。ただ、4.0の物語が終わった後も皆さんが来る場所なので、単純に寂しいだけではなく、そこにいて不愉快ではない、居心地が良いというのは、発注する上でも気をつけました。

祖堅氏:大体どのフィールドやバトルでもそうですが、「プレイヤーの感情はどうなっているの?」とよく質問しますね。「悲しい」でも、色んな悲しいがあるじゃないですか。戦争に負けて悲しいのか、大事な親友が死んで悲しいのか。プロット段階だと細かいところまではわからないことが多いので、「これをプレイしているときはどうなっているの?」「どれくらいそこにいるの?」とは結構聞きます。

――滞在時間を聞くのは、長い間いると曲を長く聴くことになるからですか?

祖堅氏:そうです。足りているかとか、長すぎないかとか。

――ラールガーズリーチはアラミゴ解放軍の拠点ということで、ちょっと軍歌っぽい感じの曲だと感じましたが、そこは意識されましたか?

祖堅氏:はい。描写的に色々想像してもらうところではあるんですけれども、元々あの土地に根付いていたメロディがあって、それがあるときは帝国の歌になって、ある時はアラミゴの民衆の歌になります。それは僕から提案しました。

――曲の変化がラールガーズリーチと同期するんですね。

祖堅氏:こういう描写がほしい、ってカット班や石川に頼みにいきました。

――ラールガーズリーチは物語中で何度も状況が変わりますからね。

祖堅氏:最初は帝国バージョンから始まりますしね。曲単体で考えたらそれが一番カッコよかったかな。自分で「カッコよすぎね!?」って言っていました(笑)。

石川氏:言っていましたね、「これは帝国万歳になるわ」って。

――最終バージョン以外はどれもあまり長くは聴けないんですよね。

祖堅氏:スタッフロールで帝国バージョンが全尺聴けますよ。あと、民衆バージョンというのがあるんですが、それが最初はちょっと“民衆民衆”させすぎてしまったんですよね。

――“民衆民衆”とはどんな感じなんですか?

祖堅氏:帝国バージョンは50~60人くらいいる男性聖歌隊が歌い上げる国歌、軍歌という感じで、プロにお願いして録ったんですよ。バックの演奏も全部生演奏で。それに対して民衆バージョンは「ここが俺たちのアラミゴだ!」という雰囲気を出すために、わざと上手くない人に歌ってもらったんですよ。

石川氏:みんなで横一列になって、肩組んで歌っているような感じですね。

祖堅氏:それが何万人といるイメージだったんですが、上手い人に頼むと帝国バージョンとの差別化ができなくなるので、コージに「歌があまり上手くない選りすぐりの人たちを集めてくれ」とお願いしたところ、下手すぎてやばいことになっちゃって。なんていうか、“大人幼稚園”みたいな……。

――それは上手くない方たちが歌ったのを全部重ねたらそうなっちゃったんですか?

祖堅氏:そうですね。スタジオに入れる人数は限られているので、何回も録って重ねたんですが、なにせみんな下手すぎてリズムの拍すら取れないんですよ。コージが歌う前にメロディと譜割り(筆者注:メロディに対する歌詞の乗せ方)の例を見せると、向こうは「オッケー!」と言うので、「よし、じゃあやろう!」といざ歌ってみるとガッタガタなのね(笑)。コージが一生懸命「1、2、3、4!」って全身で指揮を大きく振るんですけど、それでもガッタガタで。

そのレコーディングが半日くらい続いて、コージがヘトヘトになっているところを吉田に目撃されたりしてましたね。本当は手で拍子を打って皆でタイミングをとればいいんだけど、そうすると音が入っちゃうので、指揮を振るしかないんですよ。

――そこまでやってできたのが、大人幼稚園だったと(笑)。

祖堅氏:大人幼稚園ですね。「やばい」ってなりましたね。

石川氏:各所からリテイクの嵐でしたね。

――結局使えなかったんですか?

祖堅氏:ほぼ使えなかったです。一応うっすらと混ぜてはいるんですけどね。結局、もうちょっと歌える人たちで後日録り直しました(笑)。

スクエニ社員さんの間でも「余輩」は「余輩」だった…アジムステップやクガネなど特に印象的なフィールド曲たちの制作秘話!

――次はレストエリアについてお聞きします。「蒼天のイシュガルド」でもレストエリアで曲が変わりましたが、エリア内に切り替えなしで入れるレストエリアが増えたことで、曲が目立つようになりましたね。

石川氏:今回はレストエリアの曲がかなり主張するので、流れているなと強く感じるようになっていますね。

――「蒼天のイシュガルド」のときは、エリアの最初や終点に拠点がありましたが、今回はエリアの中にたくさんレストエリアがあるので、フィールド曲からレストエリアの曲に切り替わるのが新鮮に感じました。

石川氏:特に東方側のエーテライトがある場所では結構主張してきますよね。

祖堅氏:今回のエーテライトは開けているところにドーンとあることが多いので、印象の問題ですかね。「蒼天のイシュガルド」とは、やっていることもエリアの広さもほとんど変わっていないんですが、印象的にはなっていると思います。

――クガネで特に印象的な旋律を刻んでいるのは尺八ですか?

祖堅氏:そうです、尺八です。

――クガネなどでは特に、これまで「FFXIV」ではあまり使ってこなかった楽器をたくさん使われているように思えます。これまで使われてきた音色と和楽器の融合がすばらしかったですが、琴なども使われていますか?

祖堅氏:大正琴を使っていますね。夜のクガネでも使っていますよ。クガネは打ち込みでできるものとは別に、生でやらないと表現できないことがたくさんあったので、尺八に限ってはプロの方を呼んで生収録しています。

――今回は聞いてもすぐに解らない音色の楽器が多く使われているように感じました。

祖堅氏:胡弓とかですかね。僕ら作曲家からすると「東方といえばこれ」というメジャーなものばかり使っているんですけど、今まで「FFXIV」ではこういう音は入れてこなかったので、変わっているように感じられるかもしれません。

スサノオの打楽器は、祭囃子を表現するための楽器がソフトウェアで出ていなかったので色々やりました。あと、アジムステップのNPCが弾いている馬頭琴の音は、僕が胡弓を弾いてピッチを下げて入れています。

――アジムステップは「紅蓮のリベレーター」の中でも清涼剤のような役割を果たしているエリアだと思いました。音楽のイメージはモンゴルなど中央アジアのあたりでしょうか?

石川氏:そうですね。ただ、中央アジアの曲と言われても想像しにくいと思うんですよ。なので、草原の雄大さや力強さ、大地を表現した上で、先ほど出てきた馬頭琴や胡弓などのアジアらしい楽器でアクセントをつける、というのを祖堅さんがうまくやってくれました。

祖堅氏:「コーラスとオカリナ」という音色が発注書から想像できたので、その浮かんだイメージ通りに作りました。直感的に感じましたね。

リズムがあるのかないのか、メインメロディの音色が胡弓なのか笛なのかオカリナなのかは、本当に微妙なところなんですよ。そんなに変わりはないはずなんですが、そこを変えることで各フィールドに独特の土着感を出しています。絵も合わさって、まったく違う地域の音楽に聴こえるように工夫していますね。アジムステップは、フィールド曲にコーラスを乗せること、オカリナを鳴らすことで色付けしました。

――アジムステップの雰囲気と曲の相性があまりにすばらしかったので、レストエリアで曲が変わってしまうのがもったいないな、と感じるくらいでした。

祖堅氏:よし、張り直すか!

――(笑)。

石川氏:でも、アジムステップっぽいレストエリアの曲を出してくださいという意見はよく見かけるんですよね。

祖堅氏:つまりは余輩のところを、レストエリアの曲じゃなくてアジムステップの曲にしてくれってことでしょ?

石川氏:余輩の砦っぽい曲ですよ。

――皆さんも通称は余輩なんですね。

石川氏:マグナイって言っても伝わらないから、もう余輩でいいかなって(笑)。

祖堅氏:余輩、大人気だもんね。

――余輩は最高ですよ!

祖堅氏:俺のよく遊んでるフレンドが、完全に頭から先まで余輩になってるんですよね。完全再現。

石川氏:じゃあ誰かとエターナルバンドをしてもらわないと(笑)。

祖堅氏:これがいるのよ。シリナちゃんを完全再現している子といちゃいちゃしているの。

石川氏:それは祝福された余輩ですね。

――ナーマがちゃんといる余輩なんて余輩じゃない(笑)。

祖堅氏:IDに一緒に行くと「あ!余輩だ!」って言われるんだよね。「余輩さん、こんなところに何か用ですか?」「余輩さん、随分遠くまできましたね」とか話しかけられて、それに「うむ」とか答えるから、またおもしろくて。

石川氏:余輩の持っている武器ってタイタン斧に似ていますけど、実はタイタン斧じゃないんですよ。一応。アジムステップのオリジナルの斧なんですけれど、タイタン斧を持つと大体それっぽくなりますね。

祖堅氏:そのフレもタイタン斧を持ってるね(笑)。ヒーラーでついていくときは、「余輩だから戦士か! よし、ラクシュミ行こうぜ」みたいな。戦士だからヒールを厚めにしておかないとな、とか思いながらやっていますよ。

――余輩のお話で当分続いてしまいそうなので、無理やり話題転換します(笑)。今回水中で音が変わりますよね。あれはエフェクトをかけているんですか?

祖堅氏:あれは水中用のフィルターを新しくプログラムで用意しました。そのために1個専用のシンセサイザーを作ったということになります。

本来水中でああいう音はしませんけれど、”人間が想像する水中の音はこういう音、という専用フィルター”を作って、それを実装しています。技術的には簡単じゃないことをやっていますね。

ただ、「あの音が聞こえない」「この音が聞こえない」って声がぽつぽつと来ているので、ひとつずつ対応中です(笑)。

9月開催のオーケストラコンサートは、これまでの旅を振り返るようなものになる?

――9月のオーケストラコンサートについても聞かせてください。セットリストなどはもちろん明かせないとは思うんですが、おおよその構想を教えていただけますか?

祖堅氏:交響組曲と言っている手前、交響組曲の構成になりますね。

――新生からこれまでの冒険を振り返っていく、という感じですか。

祖堅氏:そうですね。そんな感じに捉えていただければいいかと。

――2日間で4公演行われますが、セットリストは共通ですか?

祖堅氏:共通です。違うから全部行かなきゃ、というのはやめたかったんで。都合の良い日時の公演に来てください。ただ、オケなんで同じ譜面であっても毎回同じになるとは限らないですね。

――オケコンは初演から最終公演までの数回の演奏で、演奏者の方たちがこなれてくる感じもありますからね。

祖堅氏:それもありますし、4公演の間に色々変わるでしょうね。やたらと主張する楽器があったりとか(笑)。

――オケコンへの意気込みを聞かせてください。

祖堅氏:この間、オペラシティで東京フィルハーモニー交響楽団さんとオーケストラアレンジアルバムの録音をしてきたんですけど、前途多難という感じではあります。

――ええっ、そうなんですか?

祖堅氏:やらなきゃいけない課題が浮き彫りになってしまって。録音は録り直しができるんでまだいいんですが、公演は一発勝負なので、「ここをこうしないと」というところがたくさんありますね。

音源にはないことを色々やろうとしていますし、もちろん僕がやるからにはきっと他にも何かあるんでしょう!(笑)

――ちょうど2年前に「蒼天のイシュガルド」のインタビューでお伺いした際に、「国際フォーラムでオケコンやりたいですね」とおっしゃっていたのが、もうすぐ叶いますね。

祖堅氏:本当にやっとなので、上手くいくといいなぁと思いますね。演奏はもちろん、他のことも。

あと、ひとつ言っておきたいことがあるんですよ。石川はこないだのレコーディング、見学に来たんだよね? オペラシティのやつ。

石川氏:行きましたよ。

祖堅氏:僕、コントロールルームで録っている音をモニターしながら指示を出さなきゃいけなかったんです。生音を直接この耳でまだ聴いていないんですよ、一回も。今度のオケコンでも僕は裏で色々仕事があるんで、たぶん一回も聴けないんですよ。生音。つまり、僕は一回も自分の曲を正面から生音で聴けないんですよ! これ、どうにかならないんですかね!(笑)

色んな人に「聴けるチャンスないのかなぁ」って言っているんですけど、音楽出版部のスタッフも苦笑いしながら「いやぁ、多分ないっすねぇ」とか言うのね。みんな冷たいです。

――正面から聴きたいですよね。

祖堅氏:一応、俺の曲なんだけどなぁ(笑)。

――でも作曲者さんは裏で控えていることが多いので、大体正面で聴けないということが多いですよね。

祖堅氏:そうなんですよね、悲しいですよ。一度は聴きたいなぁ。

――中国でのローンチのときにやっていたミニオケコンも正面からは聴けなかったんですか?

祖堅氏:あれは正面から聴けましたけど、修正前の譜面だったので、自分の満足いく状態ではなかったんですよね。今回のが聴きたいです。

――今回の指揮は栗田博文さんですよね。ゲーム音楽コンサートの指揮といえば栗田さんになりつつありますが、以前からご親交はあったんですか?

祖堅氏:あまりないですね。お願いできればぜひ、という方だったので、引き受けていただけて良かったです。ゲーム音楽を理解していただける指揮者さんって、まだあまりいらっしゃらないんですよね。なおかつできる方となると、やはり栗田さんですね。

――オーケストラと祖堅さんのバンドのコラボとかはありえますか?

祖堅氏:オーケストラの良さと、THE PRIMALSの良さは僕の中では相容れないと思っているので、ないんじゃないですかね。同じタイムスケジュールに並んでいたとしても、一緒にはやらないんじゃないかと思います。あれをバックに演奏するのは無理だって言っているんですが(笑)。

――なるほど、それで察しました(笑)。さて、それでは気が早いですけれどもパッチ4.0のサントラの発売予定などはありますか?

祖堅氏:これはずっとやっていることなので、作っていないということはありません。いつ出るかは現時点では何とも言えないです。早く出したいとは思っていますが、今はパッチ4.1やオーケストラコンサート、ミニアルバムもありますし、順番にやっていきます。

――これは大人の事情を抜きにしてお伺いしたいんですが、GLAYのTERUさんが最近すごく「FFXIV」にハマっていますよね。THE PRIMALSでコラボしてみたい、という気持ちはありますか?

祖堅氏:やるのであれば全力でやりたいですよね。でもそうなると軽々しく「やりたいな」とは言えません。「FFXIV」は全部そういう感じでやってきているので、自然とやるときがきたら全力でやるようになるんじゃないでしょうか。

――ではそろそろ〆に入らせてください。

祖堅氏:今日も上手くしゃべれなかったなぁ、自分の曲を解説するの、すっごい苦手なんですよ。色々ありすぎてわからない。

石川氏:時系列もめちゃくちゃですしね。

祖堅氏:後半はあまり覚えていないんだよな(笑)。

石川氏:もうグダッとしていたあたりですからね。

祖堅氏:心配だったでしょ、本当に終わるのかって。

石川氏:最終的にはあがると信じてましたよ! ラールガーズリーチの、一回寂しくなっちゃったときの曲が、最初は汎用の曲を使い回していたんですけど、祖堅さんから「これ、新しくつけたほうがいい」って提案してもらえて、そのテンションを見るに「大丈夫、祖堅さん全部いける!」って思っていました。でも周りがそわそわしてくるので、「大丈夫です! でもちょっと待ってて、ごめんなさい!」と言っていましたね(笑)。

――なんとなく末期状態が想像できますね……(笑)。

祖堅氏:周りもそわそわしてただろうね。いつになったらあがってくるんだよ、って不安になっていたと思いますよ。モックアップっていう、聴かせたとしても作曲者以外は理解できない状態のものを渡してもしょうがないので待ってもらっているんですが、急かしてくるんですよ、特にカット班が(笑)。

石川氏:カット班はその後に音楽に合わせてカットを調整しなきゃいけないんで、ヤキモキしていましたね。「大丈夫、できてはいる! 違う曲が!」となってました(笑)。

――なかなか〆にならないのですが(笑)。それでは「紅蓮のリベレーター」よろしくね、ということで。

祖堅氏:はい(笑)。

石川氏:ありがとうございました。

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