「魔界戦記ディスガイア」や「魔女と百騎兵」シリーズ等の作曲を手がけ、自身もロックバンドを率いて積極的にライブ活動を行っている作曲家の佐藤天平氏。そんな天平氏初のソロライブが、9月16日、都内のshibuya gee-ge.で開催された。
「ソロ」と銘打っていることからも分かるように、この日のライブはバンド編成ではなく、ステージに登場するのは天平氏のみという、普段とは異なる趣の催しだ。筆者が会場に到着した開演10分前の時点では、フードやドリンクを堪能しながら和気あいあいと談笑するファンの姿がそこにはあった。
とはいえ、やはりそこはライブの場。会場が暗転し、宴の始まりを告げるBGMが会場を包み込むと、一瞬にしてその場の全員がライブモードへ。
お馴染みの楽曲「Live Arrival」が炸裂した瞬間、まるで壁が一瞬にして取り払われたかのように、心地よき一体感が生まれる。MCで天平氏は「初めてのソロライブということで、何が起こるか分からないドキドキ感があります」と、緊張感と高揚感の伴った、まるで初期衝動すら感じさせるコメントを残していた。
その後「罪な薔薇」と続き、三曲目の「絶望カタルシス」披露前には、天平氏が「皆さんの協力が必要です」とファンに呼びかける。というのも、この曲には「泣かない、泣かない」という印象的なサビの一節があり、ライブでは、ファンがその部分に合いの手を入れることが通例となっているのだ。
筆者は過去にも「絶望カタルシス」が生み出す極上の熱気を目撃しているが、この日の同曲も、バンド演奏の時に負けず劣らずの高まりを見せていた。
続く「戦友よ」でも熱が冷めることはない。天平氏が、全員で歌ってほしいと再びファンに呼びかけると、その声に呼応するように大合唱が巻き起こる。まだまだ序盤のはずなのに、筆者には、まるでラストスパートかのような光景にも思えた。
休憩をはさみつつ、続いては、先程までのホットな展開から一転して、ほっこりと胸が暖かくなる「ありがとう」へ。サイリウムも赤から青へと色を変え、ゆらりゆらりと穏やかに流れていた。
この日の催しはライブだけではない。ファンからの質問に天平氏自らが答える質問コーナーも用意されていた。ここでは、何点かピックアップして紹介しよう。
まずは「普段、どのようにして曲を作っているのですか?」という質問。天平氏は音を打ち込む際、データをこれでもかというほど入れ込むのだという。その結果、感情表現力の豊かな音になり、唯一無二の楽曲が生まれるのだ。普通の作りかただと、どうしても、どこかで聴いたことのあるような音楽になってしまうため、こういった作曲方法を実践しているのだそうだ。
続いての質問は、「一番影響を受けた音楽はなんですか?」という内容。氏はこの問いにイギリスのロックバンド「クイーン (Queen) 」の名を挙げた。クラシック、ポップス、ロックなど、バラエティ豊かな楽曲を数多く持つクイーンだが、コーラスを目一杯入れる特徴もあり、先述のデータや、ぶ厚いコーラスのハーモニーを大量に入れ込む天平氏の作曲やサウンドメイキングのルーツでもあるという。
最後の質問は「ライブで歌う際、大事にしていることは?」。昔からバンドを組み、ライブハウスに出演していた天平氏は、「かつては、自分のために歌っていた」とコメント。しかしプロとして、作曲家の活動を開始していく過程で、「皆(ファン)の喜ぶ顔が見たいから」という心境へ変化していったと、天平氏は語る。リップサービスでも何でもなく、嘘偽りのない正直な気持ちであるとし、改めてファンへ向けて感謝の意を述べた
ライブもいよいよ終盤戦へ。ここからは一挙に4曲が解き放たれた。特にラストの「White Tiger」の威力は凄まじく、歌詞の通り、その場の全員の血が本当にたぎっているかのような錯覚すら覚えるほどだった。最後は全員での大合唱へと繋がり、歓声の鳴り止まぬまま本編終了。
アンコールは「Lieze Rock」(ロングバージョン)と「A Song For You」の二曲で締められた。もちろん最後は、「A Song For You」の一節である「Thank you for your sing a song!」「Thank you for your smile everyday!」を皆と共有して歌うことも忘れない。最後の最後まで笑顔の耐えることない素晴らしいライブは、こうして幕を閉じた。
ライブ終了後は、天平氏が、一人ひとりとしっかり時間を取ってお話するコーナーも設けられ、ライブと合わせると、イベントは約5時間半にも及んだ。ファンに取ってはかけがえのない一時となったに違いない。今後もこういった試みは、ぜひとも応援していきたいと感じた次第だ。
セットリスト
Live Arrival
罪な薔薇
絶望カタルシス
戦友よ
ありがとう
キラリ星になる
Q&Aコーナー
Kill Real
裸のレクイエム
ラストエンゲージ
White Tiger
(アンコール)
Lieze Rock
A Song For You