パシフィコ横浜にて8月22日~24日にわたって開催の「CEDEC 2018」。ここでは、8月22日に行われたセッション「『ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター』におけるクエスト制作術 ~500以上のクエストを作るには~」の内容をお届けする。
目次
「FFXIV」とは?
まずは「ファイナルファンタジーXIV」(以下、「FFXIV」)プランナーの織田万里氏より、「FFXIV」というゲームの概要が説明された。
「FFXIV」はMMORPGで、リローンチから運営が6年目に突入、2013年8月に「新生エオルゼア」(以下、「新生編」)、2015年6月に拡張パッケージ第一弾となる「蒼天のイシュガルド」(以下、「蒼天編」)、2017年6月に拡張パッケージ第二弾「紅蓮のリベレーター」(以下、「紅蓮編」)をリリースしている。
そんな「FFXIV」の特徴は、MMORPGでありながらストーリー主導型であること。レベルを上げればどこまでも行けてしまうゲームではなく、メインクエストと呼ばれる各種クエストをこなしていくことでフィールドが広がっていくゲームとなっている。よって「FFXIV」には、大量のクエストが必要になっていくのだ。
では実際に、これまでいくつほどのクエストが作られてきたのかを振り返ってみよう。
「新生編」の中でも「リローンチ」という大きな使命を抱えた2.0では、922個ものクエストが実装された。それ以降も、2.1で152個、2.2で127個、2.3で113個、2.4で85個、2.5で62個…「新生編」だけで1,461ものクエストが実装されていた。
その後の「蒼天編」ではシリーズで累計812個、未だ完結を迎えていない「紅蓮編」では2018年8月現在で538個ものクエストが実装されている。
ここで、実際の「紅蓮編」の開発スケジュールを見てみよう。
織田氏によれば、「紅蓮編」の開発は2015年秋頃から開始され、リリースは2017年6月。つまり作業期間は約1年半ほどあったことになる。しかし実際にはその裏で「蒼天編」のパッチが動いており、開発のスケジュールを図にしてみると、1年半「紅蓮編」だけに没頭していられたわけではないのがわかる。
実際、「紅蓮編」に着手していたスタッフは開発初期時はほんの数名といったところで、あくまで作業フローの見直しや新規仕様の作成といった準備を進めており、全てのスタッフが「紅蓮編」に投入されたのは、リリース前のたった半年未満だったという。
「紅蓮編」でのクエスト関連スタッフは、主にシナリオの執筆とクエストデザインを担当する「シナリオプランナー」が約10名。そして主にクエストの設計と実装を担当する「イベントプランナー」が15名ほどだそうだ(あくまでおおよその数字で、変動しているとのこと)。
あれだけの大きなゲームにしては少ない、と感じるユーザーもいれば、意外と多いと感じるユーザーもいるだろうが、「蒼天編」と並行して作成されていることを考えればやはりそのスタッフ数は思ったよりも少ない、と言っていいだろう。
「FFXIV」式クエストの作り方を、秘蔵資料と共に大公開!
では、どうやってこれほどの数のクエストを「蒼天編」と掛け持ちしながら「紅蓮編」に投入できたのか。ここからはプランナーの工藤貴志氏が壇上に立ち、「FFXIV」のクエスト制作手順について明かされた。
1番目は「企画」。ここでコンセプトを考え、ラフプロットを作成し、そのプロットを世界観担当でチェックをし、世界観に沿ったものに調整を繰り返していくという。
物語を主として楽しませるクエストの場合、シナリオプランナーが主導で制作が始まることが多く、特定の遊びを軸にしたものはイベントプランナーが企画を立案してそれに対してラフプロットを進めていくクエストもあるそうだ。
また、他にもさまざまなセクションがあるので、各プランナーセクションが企画を進めていくこともあり、それらもこの段階で考えるという。
「紅蓮編」のラフプロットを見てみると、ざっくりと開始レベルや開始エリア、あらすじと、主要同行NPC、シナリオメモ、キャラクターの配置などが書かれており、これ以降イダのディスプレイネームはリセになることや、一人称と三人称は変わらないものの別人と考えること、ユウギリとゴウセツは東方へ帰還させることなどが書かれている。
2番目は「初期設計」。シナリオ担当は詳細プロットを作成して、より細かいクエストの作成をしていく。この段階で想定している登場人物やクエストの各シークエンスの目的などが具体的になっていくそうだ。
クエストはアーティストが作成するカットシーンと、イベントプランナー側で作るシーンがあるが、どこにどういうシーンがあるかもこの段階で決められるという。
資料の左端をよく見てみると人の顔が音声を発しているようなアイコンがあるが、これはボイスありのシーンという意味。この段階から、必要なキャラクター、装備、BGなど、各種リソースを割り出して発注が開始されていくが、まだ詳細な演出までは詰め切れていない段階なので、これ以降の工程でもずっと発注は続いていき、そしてこれらと同時に実装担当でもラフプロットから読み取れる情報を元に必要な資料やデータなどを集めていく。
3番目は「詳細設計」。シナリオ担当が作ったプロットを、実装担当が分解してクエストデザインで詰めていく段階だ。いよいよ2Dのマップ上に、NPCの位置などが具体的に決定されていき、どのような形で話が進んでいくのかがわかりやすくなってきている。
プロットの段階で配置を想定していた場所でも、実際にキャラを置いてみると他のクエストと重なっていることもあるため、そういった場合は他の場所を探すことになる。
また、配置しているキャラクターがあまりに多いとメモリ面などの問題も出てくるため、そういった面も考慮して作られていくとのこと。クエストデザインの改善なども、実装担当からのフィードバックと共にこの段階ですり合わせていくことになる。
4番目は「仮実装」。クエストの受諾からコンプリートまでの一連の流れを、実装担当が各種専用ツールやエクセルなどで作成し、プレイ可能な状態にまで持っていく。
そしてここで、シナリオ班は各キャラクターのセリフなどのテキストも細かく作成される。この段階ではセリフやモーションなどは一切実装されておらず、キャラクターの容姿も確定していない状態なので、あちこちに同じような顔のNPCがいたり、いかにも開発中の画面だというような状態になるそうだ。
この状況下で通しでプレイをして、流れや導線、配置など、検討事項に洗い出しをし、必要であれば3番目の詳細設計に戻ることもあるという。
5番目は「本実装」。仮実装の段階で作られていたシナリオ班のセリフやモーションを、実装担当がゲームに実装する。UI表示なども含め、クエストの細かい部分が本決定され、NPCの容姿などもここで確定するとのこと。余談だが、NPCの容姿はイベントプランナーが決めているそうだ。
6番目は「調整&QA」。本実装されたクエストのクオリティアップやバグ修正などといったブラッシュアップを繰り返していく。
最後は「PDチェック」。このチェックが通れば、無事に完成となる。
実際にクエストを作成していくには?
こういった一連の流れを理解したところで、いよいよ実際のクエスト制作だ。壇上には、再び織田氏が立った。
「紅蓮編」のクエストを制作するにあたり、何をどれだけ作るのかという方針を決めなければならない。
「FFXIV」では、吉田直樹氏がプロデューサーとディレクターを兼任していて指揮系統が一本化されているため、何か困ったことがあれば基本的に全て吉田氏に相談することになっている。
シナリオ班としては、「蒼天編」のシナリオがとても辛かったということで、織田氏はなんとかして吉田氏に「これくらいスリムにしたほうがユーザーさんに喜ばれるのではないか」と説得に向かったそうだが、吉田氏にあっさり却下されたという。むしろ「さらにプレイ体験を向上させてほしい」と言われ、織田氏は当時のことを「絶望しました」と力ない声で振り返った。
20数名のシナリオ班を鼓舞させるためにも、なぜ「蒼天編」の時と同じボリュームのクエストを作らなければならないのか、その目的を再定義することにしたという。これは織田氏自身も、自分を納得させるために必要な工程だったと、再び「紅蓮編」開発当初の頃を振り返った。
まずは、物語の提供。当然ながら追加パッケージには、追加される物語が必要になる。次は、経験値の提供。拡張パッケージでプレイヤーのレベルの上限があがるため、経験値をユーザーにあげなければならない。
そして、ユーザーに楽しんでもらうためのプレイ体験及び時間も必要。クエストはコンテンツ解放の導線も兼ねており、新規スキルや新規アイテムをクエストの報酬として配布するということも必要になる。
これらはすべて大事なものだが、クエストの種類によってどこに重きを置くかは変わってくると、織田氏は語った。
では「FFXIV」を構成する、主なクエストの種類を見てみよう。
まずは、全プレイヤーが対象となるゲームの主導線である「メインクエスト」。メインクエスト以外のクエストである「サブクエスト」。最後は自身のクラス・ジョブ向けの物語となる「クラス・ジョブクエスト」の3つで、「紅蓮編」ではメインが122個、サブが259個、クラス・ジョブが144個というクエスト配分になっている。
それぞれのクエストの主な目的が違うため、作る際の力の入れどころが違っており、それぞれに最適化した作り方ができれば効率が良くなるという。
メインクエストはどう作られているのか
メインクエストの要素では、シナリオの満足度を高く、そしてプレイ時間も長く確保しなければならない。メインクエストではシナリオの満足度が最重要項目であり、プレイ時間にこだわりすぎてだらだらと長く続けるよりは、短くても面白かったと思ってもらえる内容にしたい、と織田氏は語った。
そこで面白いシナリオを作るために試したのが、シナリオ合宿。メインシナリオを担当するライターと吉田氏とで、都内某所に三日間こもってラフプロットを考えたという。何故わざわざ合宿という形を取ったかというと、吉田氏があまりに多忙でなかなかまとまった時間を確保できないため、ならば三日間缶詰にしてしまおうというところから始めたとのことだ。
メインシナリオは最重要工程で、これが決まらないとその後の工程が詰まってくるので、ここの決定を早めにすませる必要があると、織田氏は判断。この合宿で、物語のざっくりとした流れとざっくりとしたオチ、さらにどのフィールドをどういったルートで巡っていくのかというプレイ導線、ボスバトルのコンセプトなどを一気に決めていったという。
ここで大枠を決めてしまえばあとは現場で細かい作業に入れるが、逆に言えばここで決めたことはそう簡単にはひっくり返すこともできなくなる。方針は早く決め、決めたら動かさないというのも重要な項目となる。
このシナリオ合宿が終わったあとは、詳細プロットの作成をしつつ、ボイスのあるカットシーンを決めてボイス収録台本の執筆をまず優先させていく。「FFXIV」は日本語以外にも、英語、ドイツ語、フランス語と合計四ヶ国語で同時に提供されるため、海外言語への翻訳と収録を考えると、まずボイスのあるシーンの台本を仕上げなければならないのだという。
なお、世の中のゲームの主流がフルボイスになっていることは織田氏も理解はしているものの、そうするとシナリオの総ボリュームを抑えなえればならなくなり、リリース間隔も延ばすしかなくなる、といったデメリットがあるという。定期的に一定のアップデートをかけていくのは長期運営しているゲームには重要項目であり、フルボイスにこだわるあまりそこがおろそかになってしまうのは、織田氏としては不本意とのこと。
ボイス収録台本以外の部分は、前述の工藤氏の説明通りのフローになり、シナリオチームはボイスなしの部分も台本を制作し、カット班制作チームはカットシーンを制作。ボスバトルやダンジョンはこれと前後して、担当チームに企画を先行してもらっているという。
つまりシナリオが完全に決まる前に、他のチームで既にコンテンツの制作は進んでいることになる。合宿で決まったことを変更できないのは、この並行作業において重要となるそうだ。
サブクエストに大事なのはクエストの設計
サブクエストの要素については、工藤氏が解説に立った。
興味がなければやらなくてもいいというのがサブクエストの基本で、経験値やアイテムの配布が主目的になり、世界観を知ることや、フィールドのにぎやかし要素でもある。
そのため実装数は多め、プレイ時間は短く、それでいてシナリオ満足度もクエストによっては高めに設定しなければならなく、これらを満たすためには250個くらいのクエストは必要になるという。
しかし250個全てのクエストでシナリオ満足度まで満たすのはさすがに不可能なため、サブクエストでは「ハイローミックス戦略」を使っているそうだ。
ローは、クオリティはほどほどだが、制作コストが低く、とにかく数を用意するクエストに。ハイは、クオリティは高いけど、制作コストも高い、練った物語と凝った遊びのクエストに。この二つを織り交ぜることによって、サブクエストのバランスを保つという。
ローコスト版で大事なのは、物語に必ずしも面白さを求めないということ。しかしそれは面白さを否定するのではなく、考える時間をかけすぎないことであり、この世界に生きる人々の暮らしを垣間見ることで世界観の補足をすることや、遊びの種類を増やすなど、クエストの設計が重要だという。
逆にハイコスト版は、サブクエスト全体の味気無さを消すためのクエストで、印象に残る物語や連続性のあるクエスト群、それなりのプレイボリュームを意識することが大事だという。目指すところはきちんと起承転結がある物語で、シナリオもプロット作成を先行させる。ただし、このゲームの世界に生きる人々の暮らしというコンセプトは変わらず、基本的にバッドエンドにはしないという。
このように分けることで、サブクエスト担当者たちは、初期段階からシナリオ担当はハイコスト版を、実装担当はローコスト版を先行作業し、途中で作業が逆転して、実装担当がシナリオ担当のテキストを元にハイコスト版の作成を、そしてシナリオ担当がローコスト版のシナリオを作成して、お互いに作業の待ち時間を減らすことが可能になる。
クラス・ジョブクエストでは、該当クラス・ジョブらしい体験を
クラス・ジョブクエストでは、再び織田氏が登壇。クラス・ジョブクエストで重要なのは、シナリオ満足度はもちろんのこと、該当クラス・ジョブらしい体験が最も重要となる。
織田氏はMMORPGにおいて、自身のジョブの誇りというのは大事だと考えているという。キャラクター育成には時間がかかり、数年単位で付き合っていくこともある。
仮に自分のジョブが弱かった場合、別のジョブに乗り換えようにも、レベル上げや装備に投資が必要で簡単にはいかない。ジョブの強さはバトルバランスの部分になるのでクエスト班ではどうしようもないが、せめて専用のクエストでは「このジョブをやっていてよかった」と思うような体験をしてもらいたい、という思いが込められているそうだ。
つまり物語が重要であるということで、メインクエスト同様、シナリオ班を先行させる。カットシーンもメインクエスト級までといかないまでも、それなりにコストを割く。
だが、クラスやジョブは数が多いため、社内でプロットコンペを開催。実装を担当するプランナーにも募ってラフプロットを書いてもらい、200文字程度のあらすじと、それに見どころとなるポイントを箇条書きに加えたプロットを自由に好きなだけ提出してもらい、それを一覧で並べて、メインシナリオライターと、ディレクターでチェックして、採用作品を決定。そうして決まったシナリオを、各シナリオプランナーに挙手制で担当を募った。
こうした制作方法を取ったのには、「蒼天編」の時に先にシナリオ担当者に希望ジョブを聞いて、担当を割り振ったは良いものの、それぞれのシナリオプランナーが別にプロットを考案するためにネタ被りが多発。特に「蒼天編」はダークファンタジーをコンセプトに掲げていたため、次々と復讐をテーマとする話が上がってきてしまったという反省があるという。
なお、自分のプロットが採用されたとしても、作業分量の観点から、考案者が必ずしもそのシナリオを書けるとも限らない。とはいえ、最終的に残ったプロットからどれを書きたいかを挙手制で決めたため、シナリオプランナーのモチベーションが下がるという現象は起こらなかったそうだ。
クエスト制作は全て並行作業だからこそ起こる弊害とは
ここまでのクエスト制作作業は、全て同時に行われている。そのほかにも、F.A.T.E.など、シナリオ班以外のチームが設計しているコンテンツも同時に進行しているため、そこには新たな問題が待ち受けているという。
とある村に光の戦士が訪れた時、メインクエストではシリアス展開、サブクエストではノリノリなギャグ展開、クラス・ジョブクエストでは凄惨な殺人現場、F.A.T.E.ではお花畑なホンワカ展開、などという、めちゃくちゃな状態になってしまうことも。
こういった状況を避けるために効果が高いのが、アナログ管理。大きなマップに、そこで発生するイベントを各担当者が付箋ではっていく。
この付箋には担当者の印鑑が押してあり、場所の被りが発生した場合には、すぐに責任者を見つけることが可能で、地図を前にして話し合うことで、どちらかが場所を変更することになれば、その場ですぐに付箋を動かすという。スタッフの数が多ければ多いほど有効な作業方法だと、織田氏は述べた。
そしてセッションの最後を織田氏は、スライドでこうまとめた。
「MMORPGを、作ろうぜ!」