パシフィコ横浜にて8月22日~24日にわたって開催の「CEDEC 2018」。ここでは、8月23日に行われたセッション「ディライトワークス、FGO PROJECTをプロデュースする。~ Fate/Grand Order 成長の軌跡 2015-2018 ~」の内容をお届けする。
「Fate/Grand Order」とは
まずは「Fate/Grand Order(以下、FGO)」PROJECTクリエイティブプロデューサーの塩川洋介氏から、「FGO」というゲームについて簡単な紹介がされた。
「FGO」は、2015年7月に配信が開始されて以降、2018年8月現在、1,300万DLを突破しており、GooglePlay及びAppStoreにてセールスランキング最高1位、その他海外展開も多数行っており合計で3,000万DLを突破、海外でもセールスランキング最高1位を獲得している、スマートフォン向けのゲームだ。
2018年7月には、セガ・インタラクティブと共同開発した「Fate/Grand Order Arcade」も展開。名前の通り、ゲームセンターなどで遊べるアーケード型の「FGO」だ。3Dで描かれたキャラクターを操作して戦う英霊召喚チームバトルが楽しめ、ゲームセンターによっては整理券が配布されるほどの人気となっている。
そして、2018年4月1日にリリースされた、「Fate/Grand Order Gutentag Omen Adios」は、「Fate」シリーズ新作RPG。配信からたった数時間で50万DLを突破し、無料ランキングでは終日1位を獲得。惜しまれながらも、配信から24時間でサービスを終了した。
さて、本日のセッションだが、「FGOロンチ前(2015年)」、「FGOロンチ後(2016~2017年)」、「FGOの現在(2018年~)」の、大きく3つに分けて、3つのプロデュースエピソードについて紹介していく。
「それは、自らを知る物語」
自身のセッションをそう名付けたのは、ディライトワークス株式会社 代表取締役社長の庄司顕仁氏だ。
そもそも庄司氏が「FGO」に関わるきっかけになったのは、2013年10月頃、TYPE-MOONの武内崇氏と共通の知人を通じて、「スマホゲームに詳しい人を紹介してほしい」と言われたことだった。庄司氏はちょうどその時以前に居た会社を辞めることが決まっていて時間もあったことから、自身がTYPE-MOONに向かうこととなり、そしてその年の12月、企画書を見せてもらったという。
残念ながらその企画書は他社が作成したものなので公開は不可能とのことだが、その内容は現在の「FGO」とはまったく異なるもので、TYPE-MOONの奈須きのこ氏が多忙なためシナリオ的な要素はなかったとのこと。ただし当時のソーシャルゲームのトレンドはしっかりと押さえられた企画で、特にこれといった穴はなく、従って人気IPとの掛け算であれば恐らくそれなりの数字はでるだろうと、当時の庄司氏は答えたという。
しかし、その答えに集まったメンバーの反応はあまり良くなかったこと、そして庄司氏も「Fate」シリーズのことをまだあまり知らなかったこともあり、庄司氏は「Fate」シリーズのことをもっと勉強してくるので、改めて話し合いたいと提案。そのあと、2~3週間、ひたすら「Fate」について勉強したのだそう。まずは「Fate」シリーズの歴史について調べ、そして「Fate」シリーズのゲームの販売実績を調べ、もちろん実際にゲームをプレイした。
そして庄司氏は、このときにとても違和感をおぼえたのだという。それを庄司氏はスライドで、このように表現した。
改めて作品と向き合うと、「Fate」シリーズの持っているコンテンツのパワーは素晴らしい。なのにそれにくらべて販売実績は10~20万本。ゲーム業界では充分にひとつの目標としていい数字の売上本数ではあるが、庄司氏は「もっと売れていい」と感じたそうだ。
よって庄司氏は、実際にその想いをTYPE-MOONにぶつけてみることにした。そうするとTYPE-MOONの自己認識があまりに低く、「『Fate』は超ニッチでコア向けだから、狭い層に深く刺さる深淵のタイトルで、コアなファンは恐らく10万人程度」というものだったそうだ。
なお、企画が立ち上がった時期は2013年で、話し合いが行われたのはその年の12月。「Fate」シリーズの大きな転機となったテレビアニメ「Fate/Zero」は既に放送を終えていた時期だが、TYPE-MOONの自己認識は恐らくTYPE-MOONのファンが考える像と、そうズレてはいないだろうと思われる。
だが、そこで庄司氏は「本当にそうなのか?」と考えたのだという。きっかけさえあれば、「Fate」が生涯の一本になる人は世の中にはもっといるのではないか。もっとたくさんの人に、「Fate」と出会える機会を提供するべきではないだろうか。ならばそのために何をすればよいのか、真剣に考えて取り組むべきではないのか。「Fate」という作品を、新たなステージへ進める時ではないのか。
こういった庄司氏の強い想いにより、「Fate」スマホゲームプロジェクトは、改めて検討されることになった。
まずは先程の企画書を全て白紙化し、ゼロベースからプロジェクトを再設計。「Fate」とは、いったいどのような作品なのか。「Fate」ファンとは、どのような人たちなのか。みんながぼんやりと持っていたイメージを数時間議論して形にしていき、どんな人たちに向けてどのようなものを作るのかという、プロジェクトの骨子、目指すゴールを決定した。
そして、「最も新しく、最も身近で手に取りやすく、しかしながら最も「Fate」らしい100万人に届く新たな「Fate」を創る」という内容で決定されたのだという。
だが、ここで再びプロジェクトは壁に当たってしまう。「Fate」らしさとは、いったいどんなものなのだろうか。試しに英霊をカードにしてただ並べてみたりもしたが、絵は武内氏のものなのに「Fate」らしくない、と感じたそうだ。しかし、「Fate」シリーズの原点であるノベルゲームの「Fate/stay night」と、アクションゲームである「Fate/Extra CCC」を実際にプレイしてみると、どちらも「Fate」らしいと感じる。つまり、見た目や設定を超えた何かが、「Fate」の根幹にあるわけだ。
改めて、「Fate」らしさとは、なんだろうか。そうして、そこでついに庄司氏は気が付いた。「Fate」らしさとは…
「奈須きのこ」氏であると。
「Fate」という作品をいくつものパーツに分解し、それらと繋ぎ合わせることは奈須きのこ氏にしか出来ない、ということを、奈須氏本人を含めてその場の全員が再認識し、これが「FGO」の大きなターニングポイントになったのだと、庄司氏は当時を振り返った。
そのうえで、「FGO」は「TYPE-MOONが贈る、『Fate』新作RPG」として制作されることとなった。
庄司氏は、プロデュースワークとは何なのか、という点を改めて強調した。もちろんプロジェクトの全体統括という重要な役割があるが、それよりも大事なのは、クリエイターの想いや才能をビジネスとして成立させること、クリエイターの生み出す作品を全ての潜在ファンに届けること。そうして庄司氏は「知人者智、自知者明」という言葉を出した。
「人を知る者は智なり、自らを知る者は明なり」
「Fate」ファンとはどういう人たちなのか、届けたいユーザーのことを知ることが凄く大事で、そして自分自身を改めて理解するのは何かを作ることにおいて重要なのだということに、気づいたという。
それは、自らを取り戻す物語
次に登壇したのは、塩川洋介氏。塩川氏は「FGO」のロンチ後にディライトワークスに入社し、2018年3月まで開発責任者を担当していた。ロンチ当初の「FGO」はどんな状態だったのか、塩川氏は当時を振り返った。
プレイ可能時間は、ほぼないに等しい。伝説の18分、奇跡の2分は、「FGO」のサービスインを心待ちにしていた「Fate」シリーズのファンならば、今でも昨日のことのように思い出せるだろう。
携わる誰もが道を見失い、それでも必死にもがいていた状況だったという。TYPE-MOONの奈須氏、武内氏を始め、ディライトワークスも、アニプレックスも、外部ライターも、イラストレーターも、全員が全力で取り組んで、そしてロンチしたのに、自分たちの思い描いでいたことが実現できなかったこと、そして実現したけれどユーザーに受け入れられなかったこと、実現したかどうか以前にゲームが遊べなかったり、様々な問題を抱えて、2013年から必死にやってきたことが非常に大変な状況であり、それをどうにかしたい、何が問題かはわかっていてもどうしたらいいのかわからない、という、まさにそんな状況だったと、塩川氏は語った。
そんな状況の中で塩川氏はプロジェクトに関わって最初に行ったことは、「FGOとは?」ということを再定義することだったという。もちろんそれは、前述の庄司氏が述べた通り、「Fate」らしいゲームである。だが、実際に稼働してみたら、それは上手くいなかった。実現できなかったこと、ユーザーに理解されなかったものがある中で、「FGO」とはどういうゲームだったかということが見失われかけていた。そういった中で、起きている問題をひとつひとつ潰していっても、その問題を消した時に何をしたいのかが解らなくなる。だからこそ塩川氏は、「FGOとは?」と、改めて再定義することにしたのだ。
以下は開発資料からの抜粋だが、
- 「FGO」とは、”脱・予定調和”な体験を提供し続けるゲームである。
- 「FGO」とは、スマホソシャゲの皮を被った、昔ながらのゲームである。
- 「FGO」とは、なによりも「Fate」らしくあることを優先するゲームである。
- 「FGO」とは、自分自身との戦いを楽しむゲームである。
- 「FGO」とは、「FGO」ユーザーのためのゲームである。
これらは2018年3月まで実際にTYPE-MOONを交えて行ってきたことで、実際にどのようなことを行ってきたのか、いくつかの事例を挙げてくれた。
まず、”脱・予定調和”。
「FGO」は、常に事件を巻き起こすことを意識しているという。この情報を誰がどういうタイミングで発表したら世の中が盛り上がるか、というのは、基本的に計算して実行しているとのこと。「FGO」はどうやって事件性のあることをするか、ということを考えながら運営しているそうだ。
では、2つ目の「スマホソシャゲの皮を被った、昔ながらのゲームである。」という部分についてはどうだろう。塩川氏は、「ソシャゲの当たり前を見直す」と語った。例えば開発初期のころは、「画面を何クリックしたらバトルに入らないといけない」、「シナリオはこれくらいの長さでなければならない」など、そういった仕様に基づいてシナリオの分量やゲームのバランスが組まれていたが、あるタイミングから「他のソーシャルゲームはそうかもしれないが、FGOではそれを気にしなくていい。何KB(キロバイト)になってもいいからシナリオを書いてほしい」と、方針を転換した。もちろんこの例に限ったことではなく、様々な面で「他のソシャゲがこうだから」という理由の仕様はなくしていったという。
3つ目の「Fateらしくあることを優先するゲーム」は、「英霊は全員が主役」であるということ。ある時までは、レアリティに応じて掛けるリソースが決められていたり、或いはキャラクターのアクションを共通のもので実装しよう、というようなこともあったが、途中からレアリティに関係なく、全員同じようにコストをかけるという方針に変えた。
4つ目の、「自分自身との戦いを楽しむゲーム」。実は開発当初は様々な対人要素や協力要素などが計画されていたが、それも「FGO」は自分との闘いを楽しむゲームなので必要ないと、全て切り落とすことを決断したそうだ。
5つ目の、「ユーザーのためのゲーム」。それを強く打ち出すため、コラボも「FGO」ユーザーのためにやっているのだと、塩川氏。なので、他のタイトルを遊んでいるユーザーが喜ぶものではなく、あくまで「FGO」ユーザーが喜ぶタイトルとコラボすることを意識しているのだという。
こういった様々な「FGO」らしさを再定義し、開発・運営を行っていった結果を、塩川氏はグラフで提示した。
正確な数字は非公開だが、このデータ自体、初出だという貴重な資料だ。サービスインの2015年は、恐らく本来の「Fate」ファンでほぼ占められていた時期だろう。そのあと口コミなどで徐々に広がりを見せ、2016年には2015年の約2.2倍、そして2017年には2015年の約5.3倍にまで成長した。
恐らく「FGO」を遊んでいる人もそうでない人も、ちょうどこのころから「どこを見まわしてもFGOユーザーばかりだな」と感じ始めたのではないだろうか。また、2018年第1四半期では、世界一位の収益を達成。平均MAU(月間アクティブユーザー数)は2.3倍に、平均売上は5.3倍、そして四半期収益世界1位というゲームにまで成長したのだ。そこで塩川氏は、この秘訣を「捨てる、プロデュース」と表現した。
「捨てる、プロデュース」とは、「自分らしさの再定義」と、「自分らしさ以外を切り捨てる優先度づけ」、そして、「とてつもない勇気」。
捨てるというのはとても勇気が必要で、しかも捨てた後に起こるであろうことには何の確証もない。でも、自分たちがやりたいことに基づいて捨てる、ということを続けた結果が、今につながっているのではないかと、塩川氏は述べた。
では、実際に何をしてきたのかを改めて、塩川氏はまとめた。
- 「FGO」とは、”脱・予定調和”な体験を提供し続けるゲームである。
- 予測可能でありきたりな企画・運営を、捨てる。
- 「FGO」とは、スマホソシャゲの皮を被った、昔ながらのゲームである。
- 他のスマホソシャゲがやっていることは、捨てる。
- 「FGO」とは、なによりも「Fate」らしくあることを優先するゲームである。
- 「Fate」らしくないことは、捨てる。
- 「FGO」とは、自分自身との戦いを楽しむゲームである。
- 他のユーザーとの戦いを楽しむ要素は、捨てる。
- 「FGO」とは、「FGO」ユーザーのためのゲームである。
- 今「FGO」を楽しんでいないユーザーのことは、捨てる。
こうして並べてみると、実に大胆としか言いようがないが、結果としてこれが「FGO」らしさを取り戻し、そして「FGO」らしくあり続けた、「愛と勇気の物語」と、塩川氏は締めくくった。
それは、自らを届ける物語
次に登壇したのは、ディライトワークス株式会社 執行役員 マーケティング部長の石倉正啓氏。石倉氏は、「FGO」を「人を動かす魔法使いの日常」と述べ、「魔法」とは「マーケティング方法(略してマ法)」と称した。
石倉氏は、これまでどのようなマーケティングを行ってきたのか。先程の塩川氏のデータで見たように、「FGO」が大きく飛躍した2017年7月頃から現在までの、主な魔法をスライドで振り返った。
2017年7月の2周年Fes.を皮切りに、主だったものだけで半年間で9つものイベントを展開。そうして2018年6月の上半期までの間で、既に2017年に迫る数のイベントが行われている。中でも目を引くのは、2018年5月に行われたリアル脱出ゲームと、そして6月の「CBC AP」。「CBC AP」とは、「カルデアボーイズコレクションアフターパーティ」の略で、男性サーヴァントだらけの女性向けコラボカフェ。「Fate」シリーズが元々男性向けのPCゲームだったことを思うと、このようなイベントが開催されることは実に感慨深い。さて、では石倉氏が唱える「人を動かす魔法(マーケティング方法)」とは、どのようなものなのだろうか。
最初の魔法は「マメニ」。「FGO」では様々な情報の発信場所として、ツイッターを活用している。様々な情報は、ツイッターで「マメニ」発信していくのだ。ツイッターから情報を拡散できるようにした結果、昨年はツイッター社からトレンド大賞をもらうこととなった。
また、前述の通り、毎月様々な施策を「マメニ」実施。首都圏だけでなく、地方でのトークイベントなども積極的に行っている。
第二の魔法は、「マサカ」。新たな驚きを提供することで、ユーザーに「マサカ」という気持ちを呼び起こさせる。通称「マシュVR」と呼ばれている「FGO VR」や、エイプリルフールのみのアプリの配信、フェスでは幕張メッセの壁に非常に大きなプロジェクションマッピングを映してファンを喜ばせた。
第三の魔法は「マヂカ」。石倉氏が、様々なイベントに「バスター石倉」として登場してファンと交流しており、石倉氏と直接交流できたファンは、石倉氏から「バスターシール」がもらえる。「FGO」ユーザーならば喉から手が出るほど欲しい一枚のシールをもらうという体験が、ユーザーにとって価値を与えるわけだ。
この「バスターシール」を配布し始めてまだ1年未満だというが、これまでの配布枚数は約7,000枚。手渡しでしかもらえないため、石倉氏はこの1年で7,000人のファンと直接触れ合い、このシールを通じて交流をしてきた。
そして、人を動かす大魔法、「マツリ」。ついひと月前の2018年7月に幕張メッセで行われた、「FGO Fes 2018」の時の模様だ。
このフェスで、「FGO」というコンテンツは素晴らしい業績を次々と成し遂げた。過去最高のイベント動員数を記録し、二日間の開催で総動員数は、なんと34,972名に及び、ツイッターでは全てのトレンドが「FGO」用語で埋まるという、トレンドジャックを起こした。
フェスの模様を配信していた番組の視聴数は、340万を突破(ニコ生、ペリスコープ、Youtube Live合計)。このフェスの模様をレポートした記事の合計は、1,785件(転載含む)。そして、この二日間で、過去最高DAU(1日にサービスを利用したユーザー数のこと)を記録。残念ながらDAUの数値は非公開ということだが、フェスの盛り上がりがフェス参加者はもちろんのこと、会場に行けなかったファンや、それまで「FGO」に触れたことのなかった人まで巻き込んでいることがよくわかる。
これらの人を動かす魔法(マーケティング方法)を、石倉氏は「”マメニ”情報発信し日常化させること」、「”マサカ”と驚く話題の提供」、「”マヂカ”に感じられる縁を作りだすこと」、「”マツリ”で大きな山を作ること」と、まとめた。
サービスインから3年が経過したが、それでもなお記録を更新し続けるには、ゲームの内容も重要だが、”ゲーム以外”を多彩な魔法でプロデュースすることも必要だという。「FGO」のイベントは全て代理店が入っておらず、イベントは自分たちで企画して、ツイッターで伝えて、自らお客様に会いにいくというマーケティングをしている。それは、まさにセッションのテーマである「自ら届ける物語」であるのだと、石倉氏は締めくくった。