2019年3月30日、東京・オーチャードホールにて行われた「逆転裁判 オーケストラコンサート2019」昼公演の模様をお届けする。
逆転裁判の演奏を聴くだけではない、トークコーナーも充実の前半戦!
「逆転裁判 オーケストラコンサート2019」は、ゲストに成歩堂龍一役の近藤孝行さん、御剣怜侍役の竹本英史さん、成歩堂龍ノ介役の下野紘さん、シリーズの作曲家である岩垂徳行氏、カプコンのプロデューサーである江城元秀氏、シリーズ監督の巧舟氏、シリーズ企画の児玉真佑氏、「大逆転裁判」の作曲を務めた北川保昌氏らが集う、豪華な内容となっている。
開始前の諸注意アナウンスは、近藤さんと竹本さんとで和気あいあい(?)としたムードで行われた。もちろん、この2人が顔をあわせて和やかなムードだけで済むはずはないので、そこについてはぜひ日頃の2人の様子から想像を張り巡らせてほしい。
まず一曲目は「逆転裁判1~3 法廷組曲」。「尋問」や「追求」など、主に法廷で流れる曲を集めたメドレーだ。証人を証言台に立たせ、尋問をし、そして矛盾を追い詰めていくという様が、一曲にまとめられている。”法廷”という「逆転裁判」の世界を象徴する場所へ誘うメドレーに酔いしれた後は、司会の近藤さんと竹本さんがステージに登壇した。
竹本さんは自身の役柄である御剣にそっくりな真っ赤なスーツで現れた。「こんな素敵な仕事着で来てしまってすみません、つい先程まで地方裁判所で戦っておりました。今日は5分ほどで勝ってきました」と役どころを交えたジョークで会場を笑わせる竹本さんに、近藤さんが「普通のスーツで来てしまった己を恥じるばかりです…」としょんぼりする場面も。
竹本さんは現在「逆転裁判3」をプレイしなおしている最中で、近藤さんに向かって「ちょうど貴方が(葉桜院で)谷に落ちたところです」と告げると、近藤さんは再び「すみません…」としょんぼり。まさにリアルな御剣と成歩堂といったやり取りに、会場からはしばしば笑い声が上がった。
二曲目は「逆転検事 推理と追及の組曲」。こちらは「逆転検事」のオーケストラアルバムとはまた違った新アレンジでのメドレーとなっており、オーケストラでありつつもどこかジャズのような雰囲気が感じられるアレンジが多く見受けられた。
三曲目は「王泥喜法介 ~新章開廷!~」。こちらは2006年に発売された「逆転裁判オーケストラアルバム~GYAKUTEN MEETS ORCHESTRA~」に収録されているバージョンとほぼ同様のアレンジ。王泥喜らしいアグレッシブさがあるテーマを、情感たっぷりに仕上げている。
ステージには再び近藤さんと竹本さんが登場。竹本さんが、「王泥喜法介の曲が流れている間、『逆転裁判4』の映像が流れていましたが…貴方歳とりました?」と突っ込むと、近藤さんが「その件については忘れてほしいです。ついでにピアノも弾けません」と会場のファンを笑わせた。
ここでゲストの巧氏と岩垂氏が登場。巧氏は「前回のコンサートから一年、またこうしてオーケストラで『逆転裁判』の音楽が聴けて嬉しいです。これもファンの皆さんの応援のおかげです」と感謝の意を述べた。
岩垂氏も「毎回どんどんバージョンアップしていって、盛り上がって、とても嬉しいです。今回は『逆転検事』を新アレンジでやらせていただきましたが、僕のセレクトで曲を選んだら17分のメドレーになってしまい、さすがに長すぎですと言われて12分にまで削ったのですが、それでも長いと言われて、なんとか先程演奏した曲の長さ(約9分ほど)にまで削りました」と、新アレンジにまつわる秘話を語った。そこまで尺に悩んでも「狼士龍 ~狼子、曰く!」を削らなかったのは岩垂氏のこだわりだったようだ。
そして、ステージは巧氏から岩垂氏への質問コーナーへ。「一番苦労した曲は?」という問いに、岩垂氏は「尋問」と返答。どのシリーズの「尋問」でも無機質な感じを出してほしいと頼まれるそうで、その無機質な感じを出すのがとても難しいのだそう。できるだけ感情を出さないような曲にすることで、頼まれている曲のイメージを保っているそうだ。
「一番自信のある曲は?」という問いには、「自信というか、一番早くOKが出たのはゴドーのテーマ」と岩垂氏。その当時のことを振り返って巧氏も「ゴドーのテーマは、一回聴いて、これだ、と思いました。せっかくなので近藤くんに歌ってほしいですね」と近藤さんに突然振ると、近藤さんが「………まるほどう~♪」とゴドーのテーマのメロディで歌い出し、会場のファンをほっこり和ませた。
実は2018年のオーケストラコンサートでも、同じようなくだりから近藤さんが「まるほどう~♪」と即興で歌詞をつけて歌ったシーンがあったのだが、一年を経てその再現となったわけだ。
次の「これはクソだと思った注文は?」という質問には、会場からも大きな笑い声が。さすがの岩垂氏も一瞬答えに詰まるものの、とある曲で1テンポだけ変えてくださいという注文が3回ほど来て、その曲のためだけに2週間くらいかかったことがあったという苦労話を披露した。
「楽曲を作る時のアイデアはどこで浮かぶことが多いか」と尋ねられると、「車の運転中とかは危ないので曲のことは考えませんね」とジョークを交えて答えつつ、実際には岩垂氏の地元の長野県松本市の田んぼの中とかを散歩している時に思い浮かぶことが多いとのこと。浮かんだメロディを携帯に録音すれば楽だが、音痴なので録音するという手段が使えない、と笑う岩垂氏。結局、ひたすら歌いながら家まで帰り、あとは自分の部屋で譜面を書いたりして形にするという。
「スランプはある?」と問われると、締め切りはなるべく守るが、昔は締め切りが延びていくことが多かったのに最近は締め切りが早まることが多くなった、と最近のゲーム制作の現場事情を明かした。
ここでMCコーナーは一度終わり、四曲目は「逆転裁判1~6 麗しの組曲」。これは、真宵のテーマやみぬきのテーマ、春美のテーマ、ちなみのテーマ、レイファのテーマ、心音のテーマなど、「逆転裁判」に登場する数々のヒロインたちのテーマ曲をメドレーにしたもの。曲と同時にスクリーンに今演奏されている曲のヒロインのゲームシーンが流れ、すぐに思い出が蘇るのが有り難い。
続けて演奏された五曲目は「悪漢組曲 2019」。こちらはいわゆる成歩堂の敵となるキャラクターたちのテーマ曲のメドレーで、今回は新アレンジでの演奏となった。巌徒のテーマや、虎狼死家のテーマ、怪人☆仮面マスクのテーマ、星威岳哀牙のテーマ、虎ノ助のテーマなどで構成されたメドレーで、基本的に「悪漢」たちのテーマだけあり、迫力満点のメドレーといった風。
一番最初に演奏された虎ノ助のテーマで会場から笑い声があがったのは、やはりその場にいたからこそ出た笑い、会場ならではの独特の空気感が大きいだろう。かくいう筆者も笑ってしまったひとりだ。
第二幕からはサプライズも!?
休憩を挟んで、そのままMCコーナーからスタートした第二幕。この流れも、「逆転裁判」オーケストラコンサートに毎回通っている人にはお馴染みだろう。「まだ休憩時間中なので、トイレとかにいってもいいですよ」と言われるものの、貴重なトークコーナーを素通りしてトイレにいくファンも滅多に見かけない。むしろ毎回約15分ほども行われるこのトークコーナーが楽しみ、というファンも多いだろう。
今回ステージに登壇したのは竹本さん、下野さんと、児玉氏と北川氏という「大逆転裁判」チーム。児玉氏は、グッズやイベントの企画などを担当しており、この日の物販で販売されているグッズも児玉氏の企画によるもの。児玉氏が「うちの会社で一番絵が上手い、塗(※塗和也氏)に頼んで、新しいグッズの絵を描いてもらったので、ぜひ皆さんグッズを買ってください」と会場のファンに宣伝をすると、竹本さんが「僕は朝、物販に並んでいるファンの皆さんの横を通り過ぎてきたのですが、誰一人気づいていただけませんでした」と述べ、笑いを誘った。
今日はオーケストラコンサートということもあり、北川氏に「大逆転裁判」の楽曲制作について尋ねると、北川氏が「特に秘話というほどでもないけれど、最初に作った曲は『共同推理』でした」と語ると、下野さんが「僕(龍ノ介)の曲ではないのですか」と、すかさず突っ込みを入れる場面も。
北川氏いわく、「共同推理」は「大逆転裁判」ならではの新要素で重要な部分なので、ここで世界観をしっかり固めてから、龍ノ介のテーマなどに取り掛かったそうだ。児玉氏によれば、毎日出社するたびに北川氏の楽曲のフォルダがすごい量で増えていて、「共同推理」に至っては数十パターン、龍ノ介のテーマに至っては400近いバージョンがあったという。いつかそのフォルダを公開したいと、児玉氏。
「共同推理」が出来上がったことで生まれたホームズのテーマは、実は7分の8拍子という非常に変わった拍数で作られており、ホームズの前のめり感を出すためにそういった変拍子の曲にしたのだという。
ここで、「共同推理」の没バージョンを大阪から持ってきたということで、会場には数十パターン存在する「共同推理」のうちのひとつが流れた。下野さんの「アコーディオンは最初から使われていたわけじゃないんですね」という感想に、北川氏は「まだ音色すら固まっていなく、バスドラムやシンセサイザーの音を使っている時期で、色んな可能性を探っていた」と答えた。
話は変わって、「大逆転裁判2」のボイスの収録の時の話に。当時、下野さんがグレグソン警部に起こった出来事にショックを受けている様子で、その姿を見て児玉氏は下野さんが「大逆転裁判」をきちんとプレイしてくれているんだと感じ、とても感動したのだという。「大逆転裁判2」の収録はもう数年前の出来事のため、下野さんは「どうしてもっと早く言ってくれないんですか!」と照れたように笑っていた。
なお下野さんはゲームが大好きなため、自分でやってみたいと感じたゲームは積極的にプレイしているそうだ。元々「逆転裁判」シリーズもプレイしていたため、「大逆転裁判」もプレイしたという。プレイするゲームのジャンルは様々で、今は「バイオハザード RE:2」をプレイしているとのこと。相当やりこんでいるようで、ステージ上でも「バイオハザード RE:2」について熱弁を振るう下野さんの姿を見ることが出来た。
そんな下野さんだが、「大逆転裁判」を推しているからこそ、とある企画を持ってきたという。その企画とは、なんと下野さんの生アテレコ。オーケストラをバックに、とあるシーンにて下野さんが生アテレコを披露してくれるという。(下野さん以外の登場キャラクターは録音)
「休憩時間」のはずの長いMCコーナーが終わったあとは、いよいよ後半の演奏がスタート。六曲目は「続・大逆転裁判組曲 2019」。「大逆転裁判2」から「-成歩堂龍ノ介の覺悟-」が追加された新構成のメドレーで、主に亜双義のテーマやホームズのテーマ、アイリスのテーマなど、各キャラクターのテーマ曲を中心に構成されている。
「大逆転裁判」の音楽のアイデンティティを突き詰めた結果…というアコーディオンの旋律が印象的なメドレー。亜双義のテーマは何度聞いても心臓が苦しくなり、そうしてアイリスやホームズのテーマでポップな音色に癒される。
そして七曲目は、「大逆転裁判2」から「復活の相棒」。この楽曲は映像とのシンクロ演奏で、そして下野さんの生アテレコが行われた。アテレコに使用されたシーンは、「大逆転裁判2」の、あのシーン。(重大なネタバレのため、曲名から察してほしい)「大逆転裁判2」をまだプレイしていない人は、流れたシーンは観なかったことにしよう。この生アテレコについて深く語ると結局重大なネタバレになってしまうので苦しいところだが、「大逆転裁判」シリーズが好きな人ならばきっと誰もが感涙する場面だったであろうことはお伝えしたい。
八曲目は「逆転裁判 革命と継承の組曲」。こちらは主に「逆転裁判5」と「逆転裁判6」の楽曲を中心に構成されており、王泥喜やドゥルク、ナユタのテーマなどが、豊かな音色で奏でられた。「革命と継承」というタイトルが意味する通り、王泥喜の運命を描いたようなメドレーだ。むしろ王泥喜の半生を描いたメドレーとも言えるだろう。王泥喜ファンならば絶対に一度は聞いてほしいアレンジとなっている。
再びのMCコーナーでは、竹本さん、近藤さん、下野さん、岩垂氏が登場。生アテレコを終えた下野さんは、「リハーサルと本番とで空気が違うのは解っていたんですが、それでも空気感が違いすぎて、とても緊張しました」と語った。そして「寿沙都さんの名前がちゃんと言えてよかったです。実際今の寿沙都さんは、噛んでしまってちゃんと言えなかったです」と述べ、会場を笑わせた。
セリフを際立たせるシーンではオーケストラの演奏が止むため、心細くなったという下野さん。竹本さんや近藤さんも機会があったらぜひ生アテレコに挑戦してみたい、と語っていたので、次のオーケストラコンサートではこの2人による生アテレコにぜひ期待をしたい。
ここでステージに「逆転裁判」シリーズプロデューサーの江城氏が登場し、去年の7月に行った「逆転裁判LIVE OBJECTION!」を今年も行うことが告知された。2019年7月開催で、先行抽選は2019年4月1日から「逆転通信」会員限定で開始されるということだ。
この日最後の演奏になったのは「逆転裁判3 終幕」。演奏に合わせてスクリーンには「逆転裁判1~3」までの全ての事件のタイトルが流れ、その事件の関係者が一言ずつ述べていく、という演出には、思わず涙が零れた。
鳴りやまない拍手に応えたアンコールでは、「大いなる復活~御剣怜侍」が演奏された。「逆転裁判」シリーズの中でも最も荘厳な曲と言っていいこの曲は、実にオーケストラでの演奏が合う。金管楽器の分厚い音がたまらない曲だ。
アンコールの二曲目は「大江戸戦士トノサマン」。指揮の栗田さんが、ここで指揮棒を日の丸の扇子に持ち替え、扇子で指揮を振って客席を盛り上げた。会場からは自然と手拍子が沸き起こり、そして最後には栗田さんが会場のファンを巻き込んで更に手拍子を煽り、大きな歓声と拍手の中、本日の演奏は全て終了。
そしてステージのラストは、近藤さん、下野さん、巧氏という”3人の成歩堂”と会場のファン全員による「異議あり!」で幕を下ろした。
公演概要
公演名:逆転裁判 オーケストラコンサート2019
日時
2019年3月30日(土)
【昼】12:45開場/13:30開演
【夜】17:15開場/18:00開演
場所
Bunkamura オーチャードホール
http://www.bunkamura.co.jp/access/
出演
指揮:栗田博文
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
ゲスト
近藤孝行(成歩堂 龍一役)
竹本英史(御剣 怜侍役)
下野紘(成歩堂 龍ノ介役)
岩垂徳行(作編曲家)
江城元秀(「逆転」シリーズプロデューサー)
巧舟(「逆転裁判」の生みの親「大逆転裁判」シリーズ 監督)
児玉真佑(「大逆転裁判」シリーズ企画)
北川保昌(「大逆転裁判」シリーズ作曲)
主催・企画・制作
プロマックス/ハーモニクス・インターナショナル