アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第2回は劇場版「ポケットモンスター」の第22作にあたる「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」を取り上げます。
ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
第2回は、7月12日より全国で公開中、劇場版「ポケットモンスター」の最新作となる「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「ポケットモンスター」シリーズのファン(家庭用ゲーム最新作「ポケットモンスター ソード・シールド」やスマートフォンゲーム「ポケモンマスターズ」がリリース予定)
- 人工的に作られた生命のアイデンティティが題材に含まれたゲーム(「Detroit: Become Human」など)
第2回「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」
現在公開中の「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」は劇場版「ポケットモンスター」の第22作。本作は1998年に公開された劇場版「ポケットモンスター」第1作「ミュウツーの逆襲」の3DCGによるリメイクだ。
脚本に第1作の(そして初期TVシリーズのシリーズ構成でもあった)故・首藤剛志がそのままクレジットされていることからもわかるように、本作は、再映画化のためのアレンジは最小限にとどめ、オリジナルの「ミュウツーの逆襲」を3DCGで“完コピした作品”として作られている。ミューツーの声に第1作と同じ市村正親を配するだけでなく、ゲストキャラクターのボイジャーにまで当時と同じく小林幸子を再度呼んできていることからも、その姿勢は明確だ。
どうして今、「ミュウツーの逆襲」なのか。そもそも劇場版「ポケモン」は、2年前の第20作「キミにきめた!」から、それまでの劇場版と路線を大きく変えている。
それまでの劇場版「ポケモン」は、新ポケモンを軸に、スペクタクルなビジュアルで見せ場を作っていく方向を長く続けていた。それに対し「キミにきめた!」は、放送中のTVシリーズとは切り離して、改めてサトシがピカチュウの出会い、そして旅の始まりを描くという内容を映画化した。これは、小学校低学年あたりを中心とするアニメ「ポケモン」の観客に、改めて物語の発端を知ってもらおうということと、20年前に「ポケモン」に熱中した(そして卒業した)大人のファンにも戻ってきてもらおう、という狙いがあったと考えられる。そのため「キミにきめた!」には「ポケモンと人間の関係とは」という大きなテーマが設定され、従来の劇場版「ポケモン」よりドラマチックな内容になっていた。
このテーマは第21作「みんなの物語」にも受け継がれており、それを受けて昨年、僕はこんな原稿を書いた。
「まず(引用者注:第20作で)サトシとピカチュウを通じて、ポケモンと人間が友達であることの素晴らしさを描く。そしてそれはサトシだけのことではなく、さまざまな人、ひいては街という『社会』にとってもそうであることを(引用者注:第21作で)示す。そして、そうして積み上げてきた『人間とポケモン』の関係を、次作でミュウツーが問い直すのではないか。」(https://realsound.jp/movie/2018/07/post-223237_2.html)
「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」を見ると、この予想は一部は当たり、一部でははずれていた。確かに、テーマ的には“3部作”の締めにふさわしい映画であったのは間違いない。だが、第1作の脚本がほぼそのまま使われたことと、3DCG作品になったことで、第20作、第21作との連続性は薄く感じられてしまったのだ。
ともあれ「ミュウツーの逆襲」は「ポケモン」の究極のテーマを扱った1作であることは間違いなく、リメイクされたことで、本作が今も変わらずアニメ「ポケモン」にとってクリティカルな1作であることも確認することはできた。
だから、問題は来年の劇場版だ。従来のスペクタクル路線に戻るのか。懐かしさも取り込んだドラマチックな映画を目指すのか。それともまったく新たな路線を切り開くのか。いずれにせよ「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」は、劇場版「ポケモン」の歩みの中で、大きな句読点を打つ作品になったとはいえるだろう。
「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」公式サイト
https://www.pokemon-movie.jp/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
告知
9月21日18時 朝日カルチャーセンター新宿教室 講座「アニメを読む」『∀ガンダム』。
https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/3aba4309-d429-462f-1b5d-5cb6e1469c5b
8月24日発売『ぼくらがアニメを見る理由 2010年代アニメ時評』(フィルムアート社)
http://filmart.co.jp/books/manga_anime/bokuani_fujitu/
出版記念でトークも実施します
「刊行記念 “『ほしのこえ』から『天気の子』まで新海誠監督作品を語ろう”」
9月6日18時30分、大盛堂書店にて。
http://www.taiseido.co.jp/event20190906.html
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(C)Pokémon (C)2019 ピカチュウプロジェクト
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