パシフィコ横浜にて9月4日~6日にわたって開催の「CEDEC 2019」。ここでは、9月4日に行われたセッション「ワーママ・ワーパパたちの働き方と悩み/御社の悩みは何ですか?他社はどう解決しているの?」の内容をお届けする。
本セッションでは、セガゲームスの茂呂真由美氏と、セガ・インタラクティブのコンテンツ研究開発本部のデザイナーである鈴木こずえ氏が登壇。セッションはラウンドテーブル形式で行われ、テーブルごとにディスカッションを行い、現在ゲーム開発に携わっている面々が自社で育児をしながら働くこと、育児休暇をもらうことなどへの問題点を挙げ、それについて語り合う形で進んだ。
このセッションはCEDECでは2017年から行われており、最初は「悩みの共有」、2018年は「何か新しい行動を起こしてみよう」、そして今年は「変化が起きたことの共有、業界へ働きかけを行う第一歩へ」をテーマに、まずはセガの事例を紹介した。
今回のセッションの中心となった鈴木氏は、2010年に出産し、所属部の女性開発メンバーで初の育休を取得したという。10か月後に復職し、現在は小学3年生の娘のママであり、今年は小学校のPTA役員も務めているそうだ。
そんな鈴木氏の働き方は、2017年6月まで、上長の許可のもと裁量労働制でフルタイム勤務。2017年7月から会社が「フレックスタイム制度」を導入したのと同時に「フレックス勤務(フルタイム)」。現在はプログラマーの夫と分担して18時に退社し子供の迎え、業務状況などで勤務日数を調整しているという。
茂呂氏は、コンシューマーゲーム開発出身の新卒入社ワーママでは最年長で、勤続25年になる。小3と中3の姉妹を持つ母で、2017年6月までは「育児短時間勤務」制度を利用。2017年7月からセガグループの「フレックスタイム制度」導入と同時に「フレックス勤務」に移行した。
セガの場合、グループ全体として「何を行うにもコミュニティが大事」という結論になり、社内共通コミュニケーションツール「Office365 Teams」を活用。現在ではグループ会社10社に「Office365 Teams」導入を拡大した。グループ会社をすべて大崎に集結させたのは記憶に新しいところだろう。
鈴木氏と茂呂氏はグループ会社を含めて、ワーママ・ワーパパコミュニティへの参加を呼びかけ、2018年8月には参加者89名だったところを、2019年8月の1年間で160名にまで増やした。
もちろんただ会員を増やすだけではなく、リアルコミュニケーションとしてランチ交流会を行っていたが、アトラスなどからの要望もあって、そこから更に技術交流会にも発展。グループ会社が全て大崎に集まったことで、技術交流会にもコミュニティに入ってもらい、定期会合を行うまでになったという。
会社でもこういった交流会は企画されているものの、開催時間が夜になることが多いため、ワーママ(以下、WM)・ワーパパ(以下、WP)には参加が難しく、WM・WPのための交流会はランチ時間を使うことで問題を解消しているそうだ。
また、セガ・インタラクティブとしては、部内WMとTeamsWMチャネルとPyxisページを作り、「育休産休ロードマップ」を作成。後輩WMを想定して作成したものの、予想外にWPの育休取得の資料にも繋がったとのこと。
それらは2019年3月にセガゲームスへも公開し、現在は同業他社にもロードマップを共有することが可能になった。
セガサミーグループとしては「働き方改革タスクフォースプランニングチーム」でWMにヒアリングを行い、「開発者にも在宅ワークを」「時短フレックス導入」などの意見を会社に提出したところ、セガ・インタラクティブとセガゲームスは、2018年後半から開発でも在宅勤務の試験運用が開始となった。
そしてCEDECなどでの講演をきっかけに、セガ・インタラクティブの社長・杉野氏から「何か協力できることがあったら言ってほしい」というメールが届き、「ぜひ時短フレックスを導入してほしい」と申し入れたところ、2019年10月から、ついにセガ・インタラクティブ、セガゲームス、セガホールティングスに時短フレックスが導入されることとなったのだ。しかも杉野氏のメールから、たった半年ほどで導入に至ったというから驚きだ。
これは杉野氏はもちろんのこと、人事部との連携や、経営層との合意形成など、様々な人たちの尽力があって成し遂げられたという。
こういったセガでの事例を参考に、各テーブルでは「育児+仕事がしやすくできないか相談をしてみよう」とディスカッションが行われた。テーブルによって参加している人の状況も様々だったが、やはり多かったのは開発に携わる人たちからの「特殊な機材が必要だったり、開発機やパソコンを自宅に持ち帰ることができないため、どうしても在宅勤務ができない」という悩みだった。
また、自社内のコミュニティがしっかりできている会社とそうでない会社での温度差も浮かび上がった。現在結婚・出産を経験していない人たちでも意識を共有しようとしている職場の雰囲気づくりが出来ているところもある一方で、コミュニケーション不足から育休が取りにくい職場もまだまだ多く、そもそも若い会社では育休の文化すらないというところもあるようだ。
そして女性ばかりのコミュニティではなく、男性も参加できるコミュニティ作りをしていかないと、意識改革はなかなか難しい。また、女性の立場からだと会社の中ではまだまだ動きにくいという点も挙げられ、男性側からも育休や育児のための時短勤務について積極的に動いてほしいという意見も挙がった。
他にはコミュニケーションの問題なども挙がり、リーダーや重要な人が時短勤務になってしまうと、部下がそれに振り回され、仕事が回らなくなってしまうという状態もあるようだ。なので、できるだけリーダーの負担を減らし、リーダーが不在の時でも円滑に仕事が出来るように、他の人が随時フォローに回れる体制作りが必要である、という意見もみられた。
現代のゲーム開発ならではの事情としては、ソーシャルゲームの存在も挙がった。ソーシャルゲームは24時間対応が求められるため、そもそも育休を取ることができないのだという。
こういった様々な問題が浮かび上がる一方で、本社移転後も元の本社の近くにサテライトを置き、WM・WPらにも働きやすいよう配慮した会社もあった。
特にWM・WPに限らず、来年は東京オリンピックが開催されるということもあり、出来るだけ出社しなくても仕事ができるようにしようと試みている会社もあるようだ。
また、社内にインナー保育があるものの、子供が熱を出すと迎えに行かなければならないというのは例えインナー保育でも変わらなく、看護師や医者を常駐させてほしいといった意見もあった。たまたまこのセッションに来ていた医師の参加者からは、医師の立場からするとそもそもそういったニーズがあるということ自体が医師たちに伝わっておらず、実際に医師に働きかければ手を挙げてくれる医師はいるのではないか、と提案をする場面もあった。
WM・WPが働きやすい環境を作るには、やはりセガのように社長が乗り出してくれることが一番理想的であるものの、会社が大きくなればなるほど、そもそも社長に会う機会すらない、というのが一般社員の抱える働き方改革の問題のようだ。
実際に育児休暇を取っている人、取れない人、様々な状況の人がいたが、ゲーム開発者の在宅勤務を実現させるには、第一にセキュリティの問題があり、その仕組みを構築している会社の実例がほしい、という意見があった。実例をもとにノウハウを業界全体に伝えていければ、開発だから在宅勤務ができない、時短勤務ができない、といった状況も少しずつ改善に向かうのではないだろうか。
そういった様々なテーブルから挙げられたディスカッションの内容に、鈴木氏と茂呂氏は「今日の経験をぜひ会社に持ち帰って共有してほしい」とまとめた。そして困った人はぜひ連絡をしてほしい、とセッション参加者に語り掛けた。実際に鈴木氏と茂呂氏は、複数の企業から相談を受けているという。
なお、Facebookに鈴木氏と茂呂氏が主宰するコミュニティがあるとのこと。ゲーム開発者の場合、自分の担当部署によってどのような理由で時短勤務がしにくいのか、在宅勤務がしにくいのか、その理由や事情もまるで違うということが、このセッションを通してよくわかった。それらを乗り越えて、開発者の育休や時短勤務の導入をしたセガに倣いたい、というゲーム開発者は、ぜひ鈴木氏と茂呂氏の主催するコミュニティに参加してみてほしい。