アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第3回は伊藤智彦監督によるアニメーション映画「HELLO WORLD」を取り上げます。

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

第3回は、9月20日より全国で公開中、「ソードアート・オンライン」などで知られる伊藤智彦監督によるアニメーション映画「HELLO WORLD」を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!
第3回「HELLO WORLD」

『トイ・ストーリー』の制作に着手したものの、ジョン・ラセター以下のストーリー・チームは自分たちが長編の脚本を書く経験が圧倒的に不足していることを感じていたという。そこで、ラセターとピート・ドクターは、ロバート・マッキーの脚本講座に3日間通い、そこで長編の脚本を書く上で、自分たちに何が足りていないかを学習した。「マッキーの教えはピクサーの国法になった」(『メイキング・オブ・ピクサー 創造力をつくった人々』デイヴィッド・A・プライス)。

こうしたエピソードを引くと、なにか「おもしろい物語」を書くためのノウハウがあり、そのノウハウを身につければ、公式を解くようにして物語が書けるのではないか、と誤解をする人がいるかもしれない。当然のことだが、創作はそう簡単なことではない。

ロバート・マッキーは、その著書『ストーリー』の冒頭で「本書で論じるのは永遠に変わらない普遍的な形であって、公式ではない」「本書で論じるのは元型であって、紋切り型ではない」と記して、ノウハウを求めて同書を手にした人に対して釘を指している。

マッキーの考えにしても、三幕構成を理論化したシド・フィールドの考えにしても、0を1にすることはできないし、1のアイデアを10にすることはできない。これらの教えがもっとも役に立つのは、「自分たちはなにを書こうとしているのか」「書こうとしているものに何が足りないか」を明確にするときだ。

そんなことを考えたのは『HELLO WORLD』がおもしろかったからだ。しかも『HELLO WORLD』のおもしろさは「自分たちは何を描こうとしているのか」ということの明確な自覚の上に組み立てられているのだ。。

『HELLO WORLD』の主人公は2027年の京都に住む高校生・堅書直実。彼のもとに2037年から大人になったカタガキナオミが現れる。ナオミは、この2027年の京都が、量子記憶装置<アルタラ>の中にあるデータ世界だと説明し、彼はある目的のためにそこへとダイブしてきたのだという。

SF青春ラブストーリーとして宣伝されている本作だが、実はドラマの縦軸は恋愛ではない。本作のドラマの縦軸は、高校生・直実と大人・ナオミの関係性にある。その証拠に、同作が三幕構成に従って展開する中で、2人の関係は“師匠と弟子”となり、やがて大人・ナオミの“裏切り”による敵対関係へ……と大きく変わっていく。物語の転換点ごとに大きく関係を変化させることで、物語はドラマチックに盛り上がっていくことになる。

そして、この男同士(自分同士)の物語に動機を与える、一種のマクガフィンとして存在するのがヒロインの一行瑠璃だ。マクガフィン(物語を牽引するアイテム)というと、瑠璃がモノ扱いされているようにも聞こえるかもしれないが、決してそんなことはない。瑠璃はこの映画の扇子の要ともいえるキャラクターだからこそ、直実(&ナオミ)が好きになるに足る人間として、端的に魅力を描き出さなくてはならない。そのため瑠璃は、個性的な表情や仕草だけでなく、「やってやりましょう」という彼女を特徴づけるセリフを何回か意味合いを変えて繰り返すなど、さまざまな工夫が凝らされている。

このように、この映画の「元型」は「一人のヒロインを挟んだ2人の男(自分)の関係の変化」にあるのだ。この主題は様々な過去の様々な映画や小説などで変奏されてきた。そんな「元型」をおもしろく2019年のエンターテインメントとして見せるために(そして3DCGアニメとしておもしろく見せられるように)、京都という舞台であり、<アルタラの中の2027年>という設定であり、仮想現実ならではの爽快感のあるアクションだったりといった、さまざまなアイデアが上乗せされているのだ。映画の幹を明確にすることと、その上におもしろそうな枝葉を茂らせることが、ここでははっきり区別された上で、それぞれに力が注がれている。

そういう意味で本作は、どこをどうコントロールすれば「間口の広いエンターテインメント」を自覚的に量産できるのか、という問題意識のもとに制作されており、その点において本作は「実験作」ということができる。さらに、ドルビーアトモスでの上映館の多さも補助線にして考えれば、この「実験」とは、ハリウッド映画のような「世界商品」としてのアニメをどうやって作ることができるかという目標にあるのではないかと考えることができる。つまり本作はゴールではなく、最初の一歩なのである。

「HELLO WORLD」公式サイト
https://hello-world-movie.com

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

告知

朝日カルチャーセンター新宿教室「アニメ映画を読む」
10月19日『ペンギン・ハイウェイ』
11月30日『未来のミライ』
12月21日『魔法少女まどか☆マギカ』
予約:https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/87c96aa6-7fed-65a2-c94a-5d2587908934

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