アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第5回は2019年10月より放送中のオリジナルTVアニメ「歌舞伎町シャーロック」を取り上げます。
ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
第5回は、2019年10月より放送中、Production I.GによるオリジナルTVアニメ「歌舞伎町シャーロック」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
・ミステリーアドベンチャーゲーム(「東京クロノス」や「シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~」、「殺人探偵ジャック・ザ・リッパー」など)
・新宿を舞台とした「龍が如く」シリーズ(最新作「龍が如く7 光と闇の行方」が2020年1月16日発売予定)や「JUDGE EYES:死神の遺言」など)
第5回「歌舞伎町シャーロック」
『歌舞伎町シャーロック』はずいぶんと濃い。これはこの作品が“足し算=情報の重ね合わせ”でできているからだ。
例えば舞台は、現実の新宿とは似て非なる新宿區イーストサイドの歌舞伎町。新宿區は、ちょうど現実の新宿駅西口側と東口側に対応する形で「ウェストサイド」と「イーストサイド」に分けられている。ウェストサイドがまっとうな人間の住む街であるのに対して、イーストサイドは雑多な人間の吹き溜まりという設定だ。
ひとつの街を色合いの異なる「イースト」と「ウェスト」に分けるというアイデアは、ロンドンの下町側が「イーストエンド」、行政施設・文化施設が集まる地区を「ウェストエンド」と呼ぶことに通じている。つまりここでは新宿とロンドンが重ね合わせられ、それが独自の世界観を作り上げているのだ。
そしてもうひとつ重ね合わされているのが「ミステリー」と「落語」だ。どうしてこの2つの取り合わせが選ばれたのかはわからないが、このインパクトある組み合わせが、本作を過去に例のない作品にしているのは間違いない。
「ミステリー」要素でいうと、これまでにもいくつかのエピソードがコナン・ドイルの小説から本歌取りがなされている。例えば第2話「泣きぼくろ見つめ隊はいかが」は「赤毛連盟」が下敷きだし、第7話「ワイフ、未来を見つめる」は「ボヘミアの醜聞」と「ブルースパーティントン設計書」を組み合わせたような内容だ。詳しい人が見ればもっと元ネタが発見できるのではないだろうか。そして、そんな並びの中に突然、第5話「立合いはフライングぎみッ」のように、落語「文七元結」をネタにしたミステリーが登場するのである。このあたりが本作を見る時に気の抜けないところだ。
そこに加えられる「落語」要素として一番重要なのは、ホームズが自らの推理を開陳する時に「落語」として語るという設定だ。どうしても長ゼリフになって単調になりがちなところを、「話芸」という形で見せてしまおうという大胆な発想だ。そして「推理落語」を始めると、輪郭線は赤くなり、背景も通常の背景ではなくなってしまう。つまりアニメーション的には、「推理落語」のシーンはある種の変身シーン、必殺技シーンのような雰囲気を念頭において演出されているのである。
かくして「ミステリー」と「落語」も実にうまい具合に重ね合わされて、情報量の多い“濃い”アニメが出来上がっているのだ。
先日、瀧川鯉八の高座を見ていたところ「落語の三大理論」というものを紹介していた。それによると「三大理論」とは、「業の肯定」(立川談志)、「緊張と緩和」(桂枝雀)、「会話の妙」(桂歌丸)だそうだ。これを無理やり『歌舞伎町シャーロック』に当てはめてみると、現時点で「緊張と緩和」「会話の妙」は十分たくさん盛り込まれていることがわかる。。すると残るは(?)、「業の肯定」。この観点が、シリーズを牽引する「切り裂きジャック」の真相と絡めてどれぐらい描かれるのか描かれないのか。そんなふうに考えながらシリーズを追いかけていくのも楽しそうだ。
「歌舞伎町シャーロック」公式サイト
http://pipecat-kabukicho.jp/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
(C)歌舞伎町シャーロック製作委員会
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