アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第7回は2020年1月より放送中のTVアニメ「映像研には手を出すな!」を取り上げます。

目次
  1. こんなゲームファンにオススメ!
  2. 第7回「映像研には手を出すな!」
  3. 藤津亮太(ふじつ・りょうた)

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

第7回は、本連載の第1回で紹介した「きみと、波にのれたら」も手掛けている、湯浅政明監督によるTVアニメ「映像研には手を出すな!」(2020年1月より放送中)を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!

  • Minecraft」などのサンドボックスゲーム
  • 「RPGツクール」シリーズに代表されるゲーム制作を楽しめるタイトル

第7回「映像研には手を出すな!」

「映像研には手を出すな!」の劇中に登場するアニメーションを見て、こんな詩の一節を思い出した。

すべてのいろとかたちとうごき
せかいがある
「黄色い鳥のいる風景」谷川俊太郎

一本の線から世界を作り出すこと。それがアニメーションの魅力だ。「映像研には手を出すな!」には、その「アニメーションによって世界を生み出す喜び」が溢れている。原作は大童澄瞳による同名漫画。アニメは「夜明け告げるルーのうた」の湯浅政明が監督を手掛けている。

浅草みどりは、子供の頃TVアニメ「のこされ島のコナン」(実質的に「未来少年コナン」である)を見たことがきっかけで、アニメ制作に興味を持つ。高校生になった浅草は、同級生のカリスマ読者モデル、水崎ツバメと知り合い、彼女もアニメーターを志望であることを知る。ここに金儲けが大好きでプロデューサー気質の旧友、金森さやかが加わり、3人は「映像研」を発足させることになる。そして予算獲得のため、プレゼンテーション用短編の制作が始まる。

浅草は部室を修理するにも「宇宙船の船外活動」を妄想するほどのイマジネーションの持ち主。だから描く絵も作品の舞台設定とメカが得意。一方、水﨑は「アニメーターは俳優」が持論で、人間の動作を丁寧に描き出す作画が理想。これはアニメにリアリティをもたらす2つの要素が、2人に振り分けられているというふうに考えられる(そして作品を完成させるために必要な「予算」と「〆切」を担うのが金森なのだ)。

界を支える「一本の線」を引くには、描く人間の中に根拠が必要になる。その根拠は「観察」と「妄想」と「鍛錬」から生まれてくる。現実にあるものを丁寧に見ること。自分の中のイマジネーションで発想を飛躍させること。そしてそれらをちゃんと絵としてアウトプットできるための技術。それが揃っていなければ、浅草が望む「最強の世界」を描き出すことはできない。

このアニメーションという表現の根源に触れる部分を、3人のキャラクターのやりとりと描き出される世界を通じて、実際に見せてくれるのが本作の特徴だ。そしてアニメはその主題を正面から引き受けて、アニメーションの魅力を伝えつつ、かつ魅力的なアニメーションであることに成功している。

「アニメを作るアニメ」も「部活もの」も様々にあるが、このように本作は「業界もの」や「青春もの」ではなく、一種のアニメーション論というべき作品なのである。そして映像研は、とても広くて魅力的なアニメーションの世界への案内人なのである。

「映像研には手を出すな!」公式サイト
http://eizouken-anime.com/

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

告知

朝日カルチャーセンター新宿教室「アニメを読む」講座
2月29日『妖怪人間ベム』
1960年代末からの世相も交えつつ「怪奇アニメ」の表現を考えられれば。
予約:https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/8cf26f8a-4dcf-194a-2169-5da4365c025f
3月21日『うる星やつら』
時代の空気と作品が残した足跡を考えます。
予約:https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/6fef0481-08ee-9376-8840-5da437f265de

SBS学苑パルシェ校(静岡」「アニメ映画を読む」講座
3月29日映画『若おかみは小学生!』
予約:https://www.sbsgakuen.com/Detail?gakuno=2&kikanno=199188

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