アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第11回は4Kリマスターセットが2020年4月24日に発売された「AKIRA」を取り上げます。
ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は、4Kリマスターセットが2020年4月24日に発売されるなど、作品の舞台となった年に改めて盛り上がりを見せる「AKIRA」を取り上げます。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「サイバーパンク2077」や「VA-11 Hall-A」などに代表される、「AKIRA」と同様のサイバーパンクな世界観を舞台にした作品
第11回「AKIRA」
2020年の東京オリンピック開催を“的中”させてしまった「AKIRA」だが、少し前には原作(第3巻巻末の予告)にWHOへの言及があることが“発見”され改めて「AKIRA」に注目が集まっている。
1988年に公開された「AKIRA」がすごいアニメ映画であることは言を俟たない。プレスコでリップシンクロ、さらにスクウォッシュとストレッチのある作画という、日本のアニメでは前面に取り入られていなかった様式に挑戦したことに加え、腕に覚えのある若手アニメーターたちが腕をふるってアクションやエフェクトを描いているのである。しかもそこに重なる音楽は芸能山城組。そこには確かに「みたこともないような映像世界」が存在していた。世界中で熱狂的なファンがいるのもよくわかる。
とはいえ公開当時の記憶を紐解くと「よくわからないところ」も多かった。
ひとつはデモが道路を埋め尽くし、反政府ゲリラが暗躍する様子。これらの要素は1982年から始まった原作にも共通する。1980年代はそんな社会運動からもっとも遠い時代だったし、作中でもそこに主題はなくひいた描き方だったから、どうしてそこを描こうとしたのかにわかにわかりかねたのだ。
もうひとつは作中に出てくる超能力について語るくだり。アキラは「絶対のエネルギー」だと語られたあと、「(プランクトンとかアメーバとか原始的な)そんな生物の中にも凄いエネルギーがあるってことでしょう。そのもっと前の水や空気にも遺伝子はあるのかしら。宇宙の塵だってそうでしょう。もしあるとしたらどんな記憶を秘めているのかしら」というセリフが続くのだ。水や空気の遺伝子? 宇宙の塵の記憶? SFとしてとらえるには論理がジャンプしているし、詩的表現としてとらえるには言葉がありきたりだ。この部分をどうおもしろがればいいのか。
そんな「すごい」と「わからない」が共存していた「AKIRA」だが、久々に見直してみて腑に落ちるところが多々あった。
「AKIRA」は「中心を欠いた増殖」を描いた作品だった。本作の重要な舞台である“東京”。超能力を得て暴走していく鉄雄。どちらも「中心を欠いた増殖」なのだ。デモも反政府も、増殖に対する反発なのだが、なにしろ中心がないのだから、彼らの行動も本質的にはなりえない。そして鉄雄たちの超能力が何の意味を持っているからも「中心を欠いている」からこそ、意味のある説明はなしえない。
“アキラ”というのは、この“欠けた中心”を埋めてくれる“何か”に名付けられた名前なのだ。だがそれは映画の中で誰も得ることはできない(その点で原作と映画は主題が異なる)。映画は空虚な暗闇として描かれた爆心地のアップから始まる。そして作中の台詞にあるように「それでも“何かはある”」というかのように、爆心地の暗闇にも似た瞳孔のアップの向こうに、宇宙をイメージさせて終わるのだ。
「AKIRA」4Kリマスター公式サイト
https://v-storage.bnarts.jp/sp-site/akira/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
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