8月27日にPS4/Nintendo Switch/Xbox One版がリリースされた3Dアドベンチャーゲーム「ジラフとアンニカ」のレビューをお届けしよう。
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「ジラフとアンニカ」はatelier miminaが開発、PLAYISMが販売を行う国産のインディーゲームだ。PC版は今年2月18日にSteamにてリリース、そしてPS4/Nintendo Switch/Xbox One版が、8月27日にリリースされた。
目覚めると不思議な島“スピカ島”にいたネコ耳少女・アンニカ。プレイヤーは彼女を操作して、この島を探索。少年・ジラフの頼みを聞いて、島に3つあるという“星のかけら”を集めていくことになる。
筆者はPS4版をリリースに先駆けてプレイしたのだが、操作性は良好。また、テキストには大きめの読みやすい文字フォントが使用されているので、Nintendo Switch版の携帯モードでも可読性は問題なさそうだと感じた。
細部までこだわり抜かれたキャラクターと、物語の舞台“スピカ島”
ビジュアル面での特徴は、かわいらしく、温かみのあるグラフィック表現だろう。登場キャラクター、特に主人公のアンニカと、お邪魔キャラの魔女・リリィの3Dモデルは、表情やモーションに至るまで、”かわいい”への強いこだわりが感じられる。
重要なイベントシーンは絵本を読んでいるような演出で展開され、こちらも作風に完璧にマッチしている。キャラクターたちの魅力を一層高めているし、ゲーム部分の進展についてプレイヤーに分かりやすく伝えることにも繋がっている点に好感が持てた。
冒険の舞台となるスピカ島は3Dの箱庭になっており、時間経過の概念がある。昼のまばゆい日差しからは暖かさ、夜の月明かりに照らされた世界からは涼しさが伝わってくるよう。住人たちが暮らす住居などのアートは、ファンシーでありながら生活感もあり、この世界を見て回る楽しさのひとつになっている。
島の風景、そこで暮らすキャラクターたち。駆け回る世界の表層が魅力的であることは、探索主体のゲームにとって非常に大事なことだと思う。まずこの点が本作は細部にわたってよく出来ている。
島の探索、住人との交流、ダンジョン攻略……リズムゲームでは、リリィに見惚れないように注意!
スピカ島の各地にはダンジョンが点在しているのだが、最初のダンジョン以外は、辿り着くために島の住人の協力が不可欠。彼らの相談事を解決することで力になってくれる局面も多く、そのために島中を駆け回ってアイテムを見つけたり、謎を解いたりしていくことになる。ダンジョンをクリアすれば前述の“星のかけら”が手に入り、これの力によってアンニカが使えるアクションが増える。
新たなアクションを駆使すれば、島の探索できる範囲が広がり、最終的には見渡す限りほとんどの場所に行くことが可能だ。なおダンジョンは全部で5つあるのに対して“星のかけら”は3つしかないのだが、後半の展開についてはぜひその目で確かめてほしい。
高いところから落ちる、水の中を泳ぐ、敵キャラクターの“オバケ”に当たるなどするとHPが減ってしまう。回復するには、いたるところに配置された“ブルークリスタル”に触れるか、りんごやかぼちゃといった食べ物を食べよう。食べ物は拾ったその場で食べるほか、カバンに入れて持ち運ぶこともできる。住人の相談事に使うこともあるので、常にいくつか常備しておくのがおすすめだ。
本作には基本的に攻撃という概念がない。ダンジョンにいる“オバケ”はアンニカを見つけると追いかけてくるが、倒すことはできず、ひたすら避けて進んでいくことになる。それでも、ジャンプで飛び越えなければいけない足場や、ちょっと頭を使う必要があるギミックなどの配置によって、適度な緊張感と爽快感を得ることができるだろう。
“敵を倒す”という選択肢がないのは、本作の優しい世界観に合っているし、そのほかの要素の取り入れ方が上手ければ決して必須ではないというのが、本作をプレイするとよく分かる。
ダンジョンのラストにはリリィが待ち受けており、リズムゲームで勝負することになる。難易度はEASY、NORMAL、HARDから選べるので、この手のゲームが苦手な方も安心してほしい。いくつかのボス戦では音楽にあわせてノリノリで踊るリリィが大変に可愛らしく、彼女に見惚れてミスしないように注意することのほうが大事かもしれない。
無駄のない美しいゲームプレイと、作り込みが光るキャラクター描写
スピカ島は“広大なフィールド”と言うにはコンパクトで、中盤で“ダッシュ”のアクションが使えるようになると、なおさら小さく感じるだろう。しかし個人的にこれは本作の美点のひとつであるように思った。
本作でアンニカがこなすことになる相談事の解決や謎解きには、同じ行為の“反復”がほとんどない。「何かを見つける」という目的で探索するにしても、新たなアイテムやアクションが手に入ることで、序盤の探索、中盤の探索、終盤の探索では要求されるアクションや思考が異なってくるし、ギミックの起動に必要な条件も、「アイテムを特定の組み合わせで配置する」だったり「特定の時間に行う」だったりと、対象によって異なっている。
スピカ島のデザインは、これらの行為を常に新鮮な気持ちで楽しむための絶妙な“必要十分”であるように感じた。コンパクトさは島全体を探索する終盤においても煩わしさをほとんど感じない塩梅。エンディングまでのゲームプレイに水増し感は一切なく、それでいて島のあらゆるロケーションが無駄なく利用されているあたりは、ひとつの作品として美しく、好感を覚えた。
島のデザインに無駄がないのとは対照的に、キャラクターまわりの描写はゲームクリアに関係のない部分も丁寧に作り込まれており、こちらは作品世界への愛着に繋がっている。
様々なものに対してアンニカの素朴なリアクションが用意されているし、このときテキストウィンドウに表示される彼女のグラフィックもまたかわいらしい。ものによっては太鼓を叩く、歌うといったアクションも楽しめる。
ほかのキャラクターも、「これには特別な反応をしてくれるかな?」と気になったポイントにはちゃんと専用の台詞が用意されていたりする。とあるキャラクターは話しかけるとき、ストーリーを進展させるための「写真を見せる」という選択肢が選べるのだが、ここでストーリーの進展と無関係な“その人の想い人が写った写真”を見せたところ、しっかりとこれに合った反応を見せてくれた。
こういったリアクションがあるのとないのとでは、キャラクターの印象はかなり変わってくるだろう。本作は公式サイトで“ハートフルアドベンチャー”と銘打たれているが、この“ハートフル”を感じるための作り込みも実に素晴らしい。
この世界の人々を愛おしく感じ、ゲームが終わっても温かな余韻が残るのは、この部分に力を注いでくれているのが要因として大きいだろう。
かわいさとやさしさに惹かれたのなら、きっと思い出に残る良作
そのほかの注目ポイントもいくつかご紹介しておこう。
本作には収集要素として“ねこ絵”というものがある。島やダンジョン内に点在する宝箱を開けると入手できるこれらのイラストは、すべて別々の作家が描いており、絵のテイストもねこというモチーフの活かし方も多種多様。発見したときのアンニカのリアクションも絵によって異なるものが用意されていて、発見の喜びもひとしおだ。
ねこ絵は“オバケ画廊”に持っていけば、入手した絵の枚数に応じてスタンプが押してもらえ、一定数を超えるたびにご褒美としてアンニカのコスチュームが手に入る。アンニカのいつもとはひと味違うかわいさが堪能できるとあれば、ねこ絵集めのモチベーションはさらに高まるはずだ。
ここまで主に本作の魅力ばかりを伝えてきたが、実際のところ、本作に欠点というほどのものはほとんどない。強いて挙げるなら、5時間前後でクリアできるボリュームは短いように感じる人もいるかもしれない点、終盤のダンジョンはジャンプのタイミングでミスが発生しやすいステージ構成かつ、リトライ時のロードが若干長めな点は気になった。
しかし、前者は先に書いた通り水増し感のない密度の濃い体験を重視する人にとってはむしろ美点だろうし、後者もそこまで大きくアクションの難易度が上がるわけではない。
総合すると本作は、あまりゲームをしない人も含めて、老若男女、多くの人が楽しめる作品に仕上がっていると思う。PC版をプレイできる環境にない人たちが本作をプレイする機会を得られる今回のPS4/Nintendo Switch/Xbox One版のリリースは、大変喜ばしいことだ。
魅力的なキャラクターたちによって紡がれるストーリーも、温かな気持ちになれるものとなっている。個人的にエンディングは、いくつかのジブリ作品を思い起こすような余韻を感じた。
ゲーム画面から感じられる“かわいさ”と“やさしさ”に惹かれたのなら、きっと本作はあなたのことを裏切らない。無駄のないゲームデザインと作り込まれたキャラクターたちの魅力によって、思い出深い作品になるはずだ。
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