アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第14回はP.A.WORKSによるオリジナルアニメ「天晴爛漫!」を取り上げます。

目次
  1. こんなゲームファンにオススメ!
  2. 第14回「天晴爛漫!」
  3. 藤津亮太(ふじつ・りょうた)

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

今回は、劇場版「SHIROBAKO」のヒットも記憶に新しい、アニメーション制作会社P.A.WORKSによるオリジナルアニメ「天晴爛漫!」を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!

  • WRC8」「V-RALLY 4」などのラリーレーシングゲーム
  • Desperados III」などの西部開拓時代を舞台としたゲーム

第14回「天晴爛漫!」

「天晴爛漫!」は、「19世紀が終わり、20世紀の幕が上がろうとしている時代」を舞台に、アメリカ大陸横断自動車レースを描いている。レ-スにエントリーするのはアメリカ先住民の少年のほか、中華系の少女、ヨーロッパからやってきた大企業の御曹司に、伝説のアウトローたちなどなど多士済々。その中に、漂流中に救助されロサンゼルスに上陸した、発明が得意な空乃天晴と士族の一色小雨という日本人コンビもいた。

天晴と小雨の2人はレースに優勝して、日本に帰る旅費を得ようというのだ。スタートラインに並ぶそれぞれのキャラクターの個性を反映したユニークな形状の自動車。そして賞金100万ドルをかけた大レースが開幕する。

「アメリカ大陸横断自動車レース」は実際にアメリカで行われており、その代表的存在が「キャノンボール」として知られる「Cannonball Baker Sea-to-Shining-Sea Memorial Trophy Dash」である。1970年代に4回開催された、この非合法レースは、一般車両を使い東海岸から西海岸まで誰が一番早く走り抜けられるかを競うもの。1981年には、このレースをモチーフにした映画「キャノンボール」が公開されているので、こちらで「キャノンボール」の名前を覚えた人も多いだろう。本作はバート・レイノルズやジャッキー・チェンなどオールスター出演のアクションコメディで、日本でも大ヒットしている。

「天晴爛漫!」の登場キャラクターは、衣装や小道具などでかなりカリカチュアされて描かれている。例えば、明治も半ばを過ぎた時代のはずだが小雨は二本差しだし、先住民族のホトトはトマホークを使い、中華系の景夏蓮(ジン・シャーレン)は拳法の達人だ。ヨーロッパからやってきた御曹司アル・リオンはフェンシングが得意という設定だ。このマンガ的に多彩な登場人物は、ニセ救急隊員やニセ神父、日本人チームに王族といったメンバーが登場した「キャノンボール」の登場人物の遠い子孫というった感じもある。

これぐらい漫画っぽいキャラクターが登場する一方で、意外にリアルなのが1900年前後という舞台設定。サムライmeetsアメリカを狙うなら、1860年代~1870年代ぐらいでもいいのだが、ベンツがガソリンエンジンの特許をとったのが1886年という史実を踏まえたからなのか、少し後ろの時代になっている。

ただこの設定は単にリアリティを追求しただけ、でもないような気がする。というのも20世紀は間違いなく(ガソリン)自動車の世紀だったからだ。

自分で運転する自動車というのは、バイクとともに「自由」を象徴する存在だ。実用としても用いられる自動車だが、スポーツカーが代表する自動車文化そのものはこの「自由」に立脚して発展してきた。そして、社会的な名誉とも縁遠い非合法の「キャノンボール」に血道をあげるのもまた「自由」を求める精神の発露だ。つまり「大陸横断レース」の背後には「自由」という大きな看板がぶら下がっているのである。

「天晴爛漫!」もまた「自由」が主題なのではないだろうか。ただし本作の場合は「キャノンボール」のような「自由の謳歌」ではなく、「自由」を求める物語という形ではあるのだけれど。そう考えると、世に馴染めない発明家、時代遅れのサムライ、先住民に女性といった、当時の社会の主流でない登場人物が多い意味も見えてくる。彼らは少なくともレースで走っている時は「自由」なのである。

この読みが当たっているのか、はずれているか。そこを楽しみにラストシーンを待とうと思う。

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

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