アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第16回は2020年10月より放送中、MAPPAによるオリジナルTVアニメ「体操ザムライ」を取り上げます。

目次
  1. こんなゲームファンにオススメ!
  2. 第16回「体操ザムライ」
  3. 藤津亮太(ふじつ・りょうた)

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

今回は、「ユーリ!!! on ICE」、「ゾンビランドサガ」を手掛けたMAPPAが制作するオリジナルTVアニメーション「体操ザムライ」を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!

第16回「体操ザムライ」

アニメというのはおもしろいメディアだ。本来ならリアリティの水準が違うはずのものを、ふわっと包括し、ひとまとまりのものとして表現することができてしまう。

どうしてそんなことが可能になるかといえば、全てが絵として表現されているからだ。絵として描かれることで、それぞれのリアリティの水準が曖昧になり、アニメとして平準化された空間のしかるべきポジションに、それぞれの要素を収めることが可能になる。

「体操ザムライ」は、ピークを過ぎた体操選手・荒垣城太郎の再起という比較的現実的な題材を取りげた作品だ。放送開始前のティザービジュアルは、演技中の城太郎の姿を切り取ったシリアスなものだった。ところが放送が始まってみると、実際の作品は、本筋の再起の物語を真面目に語りつつも、その周囲にはもっとアニメでなければ、再起の物語と共存できないような要素が配置された賑やかな内容だったのだ。

「体操ザムライ」で視聴者が一番驚かされるポイントはレオナルドという“ニンジャ”の存在だろう。

レオナルドは、日光江戸村で城太郎たちと出会い、そのまま家に居候することになった外国人の少年だだ。体操器具の置かれた体育館でパルクールのような華麗なアクションを見せ、人並みならぬ身体能力を持っていることはわかっているが、素性などは一切不明。画面の中のレオナルドは、いつも忍者装束で語尾に「~ゴザル」とつけて喋るあやしい外国人でしかない。

レオナルドのリアリティの水準は、どう考えても、城太郎の再起のストーリーとは距離がある。リアリティの水準が厳密な実写でやれば、絶対にわけがわからなくなってしまうはずだ。だが「体操ザムライ」は、「そういうものだから」といった感じで、レオナルドという存在をギャグとともに許せるムードへと持ち込んでしまう。

レオナルドの存在は単にコメディーリリーフとして投入されたわけではないだろう。妻をなくした城太郎は、小学生の娘・玲がいる。そこにレオナルドが同居したことで荒垣家には玲と同じ視線で会話できる相手が初めて加わることになったのだ。レオナルドと玲ののやりとりは作中で「クスッと笑って一息つける瞬間」になって、作品にメリハリを与えている。玲とレオナルドの関係性があることで、城太郎の軸だけではない、サイドのドラマの幅も広がる気配をみせているのである。

なお荒垣家にはペットの鳥、ビッグバード(BB)がいるが、この鳥はどう考えても日本語を解しており、こちらもリアリティ水準としてはかなりアヤシイ。こちらははっきりとコメディリリーフに徹している。

外国人のニンジャと人語を解する鳥。そういったものを、アニメというメディアの懐の深さを使って作中に取り込んでしまったのが「体操ザムライ」の個性的なところだ。そのほかのキャラクターもこの一人と一羽ほどではないが、かなり味付けの濃いキャラクターが並んでいる。でもこうして一見ミスマッチに見えるぐらい遠そうに見えるのものをあえて取り入れるからこそ、“アニメらしい”華やかな活気が生まれているのだ。

この活気の中で、サブキャラクターたちが城太郎の再起のストーリーにどのように絡んでいくのか。そこが今後の注目点といえる。

TVアニメ「体操ザムライ」公式サイト
https://taiso-samurai.com/

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

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